No.075
文豪風カップ焼きそばの作り方
前回の続きです。
ライトノベルというのも定義の曖昧な言葉ですが、そう呼ばれている小説の中に「ビブリア古書堂の事件手帖」というシリーズがあります。
生まれ育った鎌倉の、大好きな場所である古書店が舞台で、魅力的な女性店主が登場するとあって以前から興味を持っていたのですが、少し前に一気読みしました。
本の虫の心をくすぐる、実在する書物についてのエピソードが満載。これで本好きの人が増えたらいいなあ、と思ったものです。
リレー小説は参加者が5名に増え、ハイペースで話が進んでいっていますが、渡したバトンを思いっきりぶん投げられたり、走るコースもスタイルもバラバラで実に面白い。
江戸川乱歩らが書いていたリレー小説なども、読んでみたくなりました。
完成したら何らかの形で発表できたらと思います。
そういえば一時期Twitterで「文豪風カップ焼きそばの作り方」というのが流行っていたことがあり、これは面白そうと何編か書いてみましたので、ご紹介します。
こういう遊びも、文学作品を身近に感じることが出来て面白いものです。
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<嶽本野ばら風>
ねぇ、僕達が美味しいカップ焼そばを作るには、他に一体どんなやり方があったのでしょうね。あの時君は包装フィルムを慎重に剥がすと、ちいさな袋を取り出し、少し首を傾げて僕の方を見ました。お湯はやかんの中で、静かに湯気を立てていました。
僕は君がかやくの袋を開けるのを手伝い、麺の上に振りかけました。
「ソースはまだいらない。それは湯切り後のものだ」
「何故、別々に入れるのですか?」
嗚呼、君の疑問に僕は答える術を持たなかったのです。
かやくとソースとは、カップ焼そばの中に存在する魂の双子なのです。君の主張を理解できるのは、世界でただ一人、僕だけでした。
僕はソースの袋を破り、君に向かってにっこり微笑むと、中身をすべてかやくの上に開けました。
僕は卑怯でした。君の笑顔が見たいばかりに、ソースの味の洗い流された焼そばを君と一緒に食べるという結果を招いてしまった。君は僕を許してくれますか。世界中が僕を非難しても、君は僕と分けあって食べる焼そばを、美味しいと言ってくれるでしょう。
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<ハワード・フィリップス・ラヴクラフト風>
即席炒麺の味覚
Ⅰ
わたしがこのカップ焼きそばなるものについて、即席炒麺などという些か奇妙な名称をもって書き記すことを、読者諸氏には許してもらいたい。
その名称こそが、この名状し難き食物の特徴を、より一層適切に描き出せるらしく思われるからだ。
即席炒麺については、わたしが精読していた、古代の恐るべき秘密を今に伝える稀覯書の類――ダレット伯爵の『屍食教典儀』、ルードヴィッヒ・プリンの地獄めいた『妖蛆の秘密』、フォン・ユンツトの『無名祭祀書』、邪悪なる『エイボンの書』、それに狂えるアラブ人、アブドゥル・アルハズレッドの忌まわしき『ネクロノミコン』といった書物に記載がないことは、今さら言及するまでもない。
Ⅱ
その四角い容器が、いつからわたしの部屋の一角に置かれていたのかは、定かではない。
突然、恐ろしい笛の音が鳴り響いた。時を超越した想像もおよばぬ無明の房室で、果てしなき魔王、盲目の白痴神アザトースの無聊を慰めるため、心を持たない無形の踊り子の吹き鳴らす呪われたフルートの音色を思わせるその音は、薬罐が湯の沸騰を告げ知らせるものだった。
焦燥に駆られ、わたしは容器の蓋をあけた。二つの袋が目に入った。鋸歯状の縁をもつ六センチメートル四方の袋の一つは透明で、中に少しばかりの乾燥した野菜屑と、得体の知れない茶色の塊が封じられていた。
もう一つの袋は鈍い銀色に輝いており、中の状態はまったく分からなかった。表面には小さな文字が書かれている。そのアルファベットは我々に馴染みのあるものだった。
しかし、何より悍ましいのは、その下に横たわった淡黄色の固まりだった。うねうねとした麺はおよそ人間の食するものとは思えぬほど絡まり、縺れ、干乾びていた。
この麺を目にするやわたしは当惑し、次に何をすべきか考えた。この麺は一体いつから、容器の中で自分を食べてくれる者を待ち続けていたのだろう。
気付くとわたしは体中に冷や汗をかき、部屋の中に佇んでいた。何が起こったのかはぼんやりとしか覚えていない。少なくともあれほどあった飢餓感は、消滅していた。
Ⅲ
食料品店の前を通るたび、わたしは窓の向こうに目を凝らす。積み上げられた四角い容器の中に、あの忌まわしい淡黄色の固まりがひっそりと眠っているのが見える。
いつの日かわたしは再び、あの容器を手にすることになるのかも知れない。
その時こそ、神よ、身の毛もよだつような固まりが美味であるか、わたしに判断することが可能になるだろう。
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<稲垣足穂風>
作りかた
1
箱のフタを開けた 中から プラスティックの袋が出てきた
袋には緑色や黄色のカケラが入っていた
ヌードルの上にパラパラとかけると ポットの湯を注いだ
「あちちち」中から声がした 自分は素早くフタを閉めた
2
3分経ったのでフタを開けた 「ビシュ!」と音がして
屋根の上にほうり投げられた
3
部屋に戻ると 箱の中はからっぽだった
そこへ誰かやってきて
「きみ、忘れものですよ」
とキラキラしたした粉をくれた
舐めてみるとソースの味がした
腹が減っていたので 全部食べてしまった
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