夜の影
- 2013/04/21 21:44
- Category: 未分類
俺は寝つきがよくて、一度眠りに落ちると途中で目が覚めることはない。
地震があっても、雷が鳴っても、起きるまでは気が付かないことが多い。
不眠症で悩んでいる人が世間には大勢いる訳だから、ぐっすり眠れることは
とても幸せなことだが、こんなことでは災害が起こった時一体どうなるんだろう、
と他人事のように思ってしまう。
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【 いびきもかかず、死んだように眠ってるよ 】
不思議なことに、人は年を取るとあまり長く眠れなくなってしまう。
年を取るとそうなるということは知識としては知っていたが、実際に自分の身に
起こるようになると、この不思議な感覚には戸惑ってしまう。
若いころは休日は朝11時ごろまで寝ていて、それでもまだ眠かったが、
今はどんなに頑張っても7時間以上は眠れない。 何時に寝ても7時間経つと目が覚めて、
それ以上目を閉じて横になっているのが逆に苦痛になる。
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【 目が覚めたらごそごそし出すので、すぐわかるよ 】
ところが、ある日の夜中に、なぜか、ふと、目が覚めた。
部屋の中は真っ暗で、窓の外だけが街灯の明かりでぼんやりと明るく、四角い光源となっている。
と、すぐそばに、窓の明かりを背にして、何かがこちらを見ていた。
それは、レオだった。
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【 びっくりした? 】
俺の肩あたりの横のベッドの上にレオが座っていて、静かに俺を見ていた。
逆光と俺の近視のせいで顔は見えず、真っ黒な影のように見えた。
2つの尖った耳、小さな顔の輪郭、なめらかでなだらかな身体のライン、
そういう輪郭が空間の一部を切り取ってできた、真っ暗な真空の穴のように見えた。
その黒い影は微動だにしなかった。 鳴くこともなく、じっとこちらを見ていた。
外の薄明かりの光の中に浮かぶその黒いシルエットを見ていると、それは猫の影ではなく、
自分の影のように思えた。
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【 なんか、怖いかも 】
レオは俺が寝ている時はベッドには来ない、そう思っていたけれど、本当は夜の深い時間に
なるとベッドに上がってきて、俺の眠っている顔をいつもこうして見ているのかもしれない。
どんな気持ちで見ているのだろう。
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【 何してんのかなあ~、って思ってる 】
子供の頃、母親が台所で夕飯の後片付けをしている時の音を聴くのが好きだった。
水道から勢いよく流れる水の音、食器が触れ合ってたてるカチャカチャという音、
水屋箪笥に食器を仕舞いに行く時に鳴る床が軋む音、ごみをビニール袋に入れて
口を縛る時のカサカサという音。
居間でテレビを観ながら、自分の部屋で宿題をやりながら聴くその音は、
母親という存在そのものだった。
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【 僕はお母さんをあまり憶えてない 】
夕食を食べ終え、今は俺が台所で洗い物をしている。
水が勢いよく流れ、食器が触れ合ってカチャカチャと音をたてている。
その間、レオはリビングの床に腹ばいになっておとなしく待っている。
その音がやんで、煙草を吸い終わったら、俺と遊べるからだ。
レオは、その音をどんな気持ちで聴いているのだろう。
俺が母親の存在を感じたように、レオも俺の存在を感じてくれているのだろうか。
地震があっても、雷が鳴っても、起きるまでは気が付かないことが多い。
不眠症で悩んでいる人が世間には大勢いる訳だから、ぐっすり眠れることは
とても幸せなことだが、こんなことでは災害が起こった時一体どうなるんだろう、
と他人事のように思ってしまう。
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【 いびきもかかず、死んだように眠ってるよ 】
不思議なことに、人は年を取るとあまり長く眠れなくなってしまう。
年を取るとそうなるということは知識としては知っていたが、実際に自分の身に
起こるようになると、この不思議な感覚には戸惑ってしまう。
若いころは休日は朝11時ごろまで寝ていて、それでもまだ眠かったが、
今はどんなに頑張っても7時間以上は眠れない。 何時に寝ても7時間経つと目が覚めて、
それ以上目を閉じて横になっているのが逆に苦痛になる。
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【 目が覚めたらごそごそし出すので、すぐわかるよ 】
ところが、ある日の夜中に、なぜか、ふと、目が覚めた。
部屋の中は真っ暗で、窓の外だけが街灯の明かりでぼんやりと明るく、四角い光源となっている。
と、すぐそばに、窓の明かりを背にして、何かがこちらを見ていた。
それは、レオだった。
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【 びっくりした? 】
俺の肩あたりの横のベッドの上にレオが座っていて、静かに俺を見ていた。
逆光と俺の近視のせいで顔は見えず、真っ黒な影のように見えた。
2つの尖った耳、小さな顔の輪郭、なめらかでなだらかな身体のライン、
そういう輪郭が空間の一部を切り取ってできた、真っ暗な真空の穴のように見えた。
その黒い影は微動だにしなかった。 鳴くこともなく、じっとこちらを見ていた。
外の薄明かりの光の中に浮かぶその黒いシルエットを見ていると、それは猫の影ではなく、
自分の影のように思えた。
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【 なんか、怖いかも 】
レオは俺が寝ている時はベッドには来ない、そう思っていたけれど、本当は夜の深い時間に
なるとベッドに上がってきて、俺の眠っている顔をいつもこうして見ているのかもしれない。
どんな気持ちで見ているのだろう。
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【 何してんのかなあ~、って思ってる 】
子供の頃、母親が台所で夕飯の後片付けをしている時の音を聴くのが好きだった。
水道から勢いよく流れる水の音、食器が触れ合ってたてるカチャカチャという音、
水屋箪笥に食器を仕舞いに行く時に鳴る床が軋む音、ごみをビニール袋に入れて
口を縛る時のカサカサという音。
居間でテレビを観ながら、自分の部屋で宿題をやりながら聴くその音は、
母親という存在そのものだった。
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【 僕はお母さんをあまり憶えてない 】
夕食を食べ終え、今は俺が台所で洗い物をしている。
水が勢いよく流れ、食器が触れ合ってカチャカチャと音をたてている。
その間、レオはリビングの床に腹ばいになっておとなしく待っている。
その音がやんで、煙草を吸い終わったら、俺と遊べるからだ。
レオは、その音をどんな気持ちで聴いているのだろう。
俺が母親の存在を感じたように、レオも俺の存在を感じてくれているのだろうか。