ききわけのいい猫 | 2013年04月
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夜の影

俺は寝つきがよくて、一度眠りに落ちると途中で目が覚めることはない。
地震があっても、雷が鳴っても、起きるまでは気が付かないことが多い。
不眠症で悩んでいる人が世間には大勢いる訳だから、ぐっすり眠れることは
とても幸せなことだが、こんなことでは災害が起こった時一体どうなるんだろう、
と他人事のように思ってしまう。


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                   【 いびきもかかず、死んだように眠ってるよ 】


不思議なことに、人は年を取るとあまり長く眠れなくなってしまう。 
年を取るとそうなるということは知識としては知っていたが、実際に自分の身に
起こるようになると、この不思議な感覚には戸惑ってしまう。 
若いころは休日は朝11時ごろまで寝ていて、それでもまだ眠かったが、
今はどんなに頑張っても7時間以上は眠れない。 何時に寝ても7時間経つと目が覚めて、
それ以上目を閉じて横になっているのが逆に苦痛になる。


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                 【 目が覚めたらごそごそし出すので、すぐわかるよ 】


ところが、ある日の夜中に、なぜか、ふと、目が覚めた。 
部屋の中は真っ暗で、窓の外だけが街灯の明かりでぼんやりと明るく、四角い光源となっている。
と、すぐそばに、窓の明かりを背にして、何かがこちらを見ていた。
それは、レオだった。 


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                        【 びっくりした? 】


俺の肩あたりの横のベッドの上にレオが座っていて、静かに俺を見ていた。
逆光と俺の近視のせいで顔は見えず、真っ黒な影のように見えた。 
2つの尖った耳、小さな顔の輪郭、なめらかでなだらかな身体のライン、
そういう輪郭が空間の一部を切り取ってできた、真っ暗な真空の穴のように見えた。
その黒い影は微動だにしなかった。 鳴くこともなく、じっとこちらを見ていた。
外の薄明かりの光の中に浮かぶその黒いシルエットを見ていると、それは猫の影ではなく、
自分の影のように思えた。 


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                        【 なんか、怖いかも 】


レオは俺が寝ている時はベッドには来ない、そう思っていたけれど、本当は夜の深い時間に
なるとベッドに上がってきて、俺の眠っている顔をいつもこうして見ているのかもしれない。
どんな気持ちで見ているのだろう。


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                     【 何してんのかなあ~、って思ってる 】


子供の頃、母親が台所で夕飯の後片付けをしている時の音を聴くのが好きだった。
水道から勢いよく流れる水の音、食器が触れ合ってたてるカチャカチャという音、
水屋箪笥に食器を仕舞いに行く時に鳴る床が軋む音、ごみをビニール袋に入れて
口を縛る時のカサカサという音。

居間でテレビを観ながら、自分の部屋で宿題をやりながら聴くその音は、
母親という存在そのものだった。


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                     【 僕はお母さんをあまり憶えてない 】


夕食を食べ終え、今は俺が台所で洗い物をしている。 
水が勢いよく流れ、食器が触れ合ってカチャカチャと音をたてている。 
その間、レオはリビングの床に腹ばいになっておとなしく待っている。 
その音がやんで、煙草を吸い終わったら、俺と遊べるからだ。
レオは、その音をどんな気持ちで聴いているのだろう。
  
俺が母親の存在を感じたように、レオも俺の存在を感じてくれているのだろうか。



キスと抱擁

いい年をしたおっさんが猫とベタベタ馴れ合っているのは、想像するまでもなく
いささか気持ち悪いものがある。 当事者としては、そんなことないよ、と、ここは
力を込めて否定しておきたいところだが、残念ながらこればかりは否定しようがない。
猫カフェだって、本当は行きたいのに、行けない。
行けばいいじゃん、とあなたは言うかもしれないけど。

だから、一歩外に出ると、クールで無愛想で不機嫌そうな態度を装い、
猫? 猫カフェ? 何ですか、それは、という感じで普段はやっている。


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                    【 世間体なんか気にする訳? 】


でも、朝早い時間に道端で猫を見かけたりすると、周りに人がいないことを確かめてから、
小さい声で、おはよう、と言って、にっこり笑って、うんうん、と頷いてみせる。 
猫好きのおっさんも、なかなか大変なのだ。


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                          【 バカみたい。 】


仕事から帰って来る時は、いつもカバンとスーパーのレジ袋で両手が塞がっている。
玄関の扉を開けると、レオは必ず迎えに出てくれて、身体を俺の脚にぶつけてくる。
でも両手が塞がっているし、手が汚れていてはいけないから、と思って、
ただいまー、と声を掛けるだけだ。

キッチンへ行き、レジ袋から品物を出し、手を念入りに洗う。
でも、レオはそうしている間にもかまって欲しいからシンク台の上に飛び上がり、
俺の腕に身体を擦りつけてくる。

両手が水で濡れていて撫でてやれないから、「じゃあ、チューは?」と言って
顔を近づけると、レオはおでこを俺の口に当てた。 

これがきっかけで、「レオ、チューは?」と言うと、レオはおでこを俺の口にコツンと
あてるようになった。

これは、かなり嬉しい。


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                   【 ご機嫌とる方の身にもなってくれ~ 】


レオは膝の上に乗ってきて座り込んだりしないし、抱っこもさせてくれない。
本人が嫌がるんだから、こちらも無理にそれを求めることはしないのだが、
猫と暮らしていて、これはちょっとないんじゃないか、と思うこともある。

子供の頃はこうではなかった。
いつも膝や腹の上に乗っかってきて、よくそこで眠っていたし、抱っこしたまま
家の中を歩いても嫌な顔もせず、おとなしくじっとして周りの景色を眺めていた。


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                     【 あの時はあの時、今は今。 】


そこで、隙を見計らって後ろから両脇を抱えて持ち上げて、胸にレオの背中をしっかり
当てて体重をこちらに乗せるようにしてやると、両手を前に伸ばして、両脚をだらりと
下げて、嫌がらずにじっとしている。 
だから、時々そうしてこちらの溜飲を下げている。

レオの頭に顎や頬を当てると、下から俺の顔をじっと見つめている。

お前が小さかったころ、こうやっていつも抱っこしてたんだよ。 憶えてるかなあ。

そう言いながら、小さな頭に頬を当てる。 レオの頭に顎や頬を当てながら話をすると、
よりきちんと伝わるような気がするからだ。

レオは話を聞きながら身体をよじることもなく、じっとこちらを見上げている。 
いつか、また、抱っこさせてくれるようになってくれたらいいのになあ、と思う。


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                  【 宙ぶらりんで怖いのよ、あれ 】




シンプルな生き方

歳をとると、物欲が無くなってくる。
正確に言うと、欲が無くなるのではなく、大抵のことがどんなものなのかが
わかるので、新鮮さがなく、特に欲しいとは思わなくなるのだ。

一時期世間で盛り上がったタブレット端末も、ノートPCとiPhoneを持っていれば
それがどういうものだかは容易に想像がつく訳で、実際に借りて触ってみると、
ものの見事に想像通りの代物で、やっぱりこんなものか、とため息をつくことになる。

新しもの好きの友人に言わせれば、こういうのは物の善し悪しよりも、新しいことを
単純に愉しむことがコツなんだそうだが、そう言われてもなあ、と思う。

今の俺には、よく鳴るオーディオ、性能のいいPC、TVとレコーダーが1セットあれば
あとは何もいらないのだが、家の中を見渡してみると物で溢れている。
どれもそれなりに必要があって置いてあるような気がするが、でも、何年も触っていない
物もたくさんあって、そういうのは結局自分には必要ないものなのだ。


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                    【 ときめかない物は捨てれば? 】


レオと遊んでいて、ふと、部屋の中にある物たちを見て、この仔には何の意味があるのか
きっとわからない物ばかりだなあ、と思った。
ここはレオの家でもあるのに、そういう物に囲まれてこの仔は生きている。 
それがとても不自然なことのように思えた。

宅急便が来て箱を開けるとレオは飛んできて、これは何?、と一生懸命触って
匂いを嗅ぐが、それが何なのか結局わからない。 わからないことがわかると、
そこから離れてどこかへ行って、荷物だけがポツンと床に置かれることになる。
そうなると、その荷物は、もう俺には必要がない物のように思えてくる。

何だかわからないや、とその場を去っていく様子を見るのが、時々切ない。
いや、実はこれはさあ、と言い訳がましく去っていく後ろ姿に向かって言いそうになる。


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                     【 僕にはわからないものばかり。 】


レオは、この家でどんな気持ちで暮らしているのだろうか。

レオは麻や綿の綱を巻いた爪とぎ棒でしか爪とぎをしないので、各部屋に爪とぎ棒を
置いてあるし、ベッドも置いてある。 これらは自分の物だとわかっているようだ。
キャットタワーも2つあるし、中に入って遊べるよう空のダンボール箱もあちこちに
置いてある。 いつでも遊べるよう、おもちゃもあちこち置いてある。

でも、ケバケバボールやネズミのおもちゃの中に、例えばこういう小さいフィギュアを
混ぜておいても、これには触ろうともしない。


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スタンドに立ててあるギターにも触らないから、傷もない。


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意味のわからないものは自分には関係ないものだ、と思っているらしい。
そういう自分に関係のないものがたくさん置いてあるのが、申し訳ない気がする。

猫と暮らしていると、人間は何と贅沢ばかりして生きているのかと思わせられる。
無いものを探しては、それを手に入れることばかり考えている。

レオのように、シンプルに生きていきたいと思う。


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                    【 シーバさえあれば、それでいい。 】



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プロフィール

リアノン

Author:リアノン
独身男の一人暮らし。

猫と暮らしたくて、一人で寂しい思いをしている子を、と思い里親募集に申し込んだら、一方的に断られた。

一人暮らしの男に猫と暮らす資格はあるのか? 

これが、このブログのテーマです。

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