ききわけのいい猫 | 2013年03月
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寡黙さとかわいさが同居する時

2012年度、結局、一番良かった映画は何だったかなと思い返してみると、やはり、
「裏切りのサーカス」ということになる。

「アルゴ」を観てから今年度No.1を決めようと思ってとても愉しみにしていたのだが、
これがまったくの期待外れだった。 70~80年代の、良きアメリカ映画の独特の
雰囲気を徹底的にこだわって再現したところは素晴らしいが、如何せん、内容の
掘り下げ方が浅くて、どのシーンも描写が不十分だった。 主人公の熱意がこちらには
伝わらないし、イランの混乱した世相の様子もどういう訳か生々しさに欠けた。

「裏切りのサーカス」は英国映画らしく渋い映像と演出と脚本で、近年稀に見る出色の
大人の映画だった。 背景の音楽もジャズを基調とした独特の雰囲気で、思わずサントラ盤
も買ってしまったが、これだけ独立して聴いても十分鑑賞に堪えられるものだった。


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                      【 裏切り者のもぐらは誰だ? 】


ゲイリー・オールドマンの徹底した寡黙ぶりも見事で、こんなにセリフを喋らない主人公も
珍しいが、英国諜報部の中にいる裏切り者を探す退職幹部の静かな熱意が伝わってくる。
若い頃のトリッキーな役どころもすっかり影をひそめて、最近は渋い役ばかりだが、
これがなかなかいい。 こういう歳の取り方なら、老いていくのもそんなに悪くない。


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                      【 ボクは若いままがいい。 】


レオはまだ若いが、なかなか寡黙だ。
喋らないということではなく、1人で静かに佇んでいる姿が似合っているということだ。
人も猫も、1人でいる時間が長いと自然とそうなっていくのかもしれない。


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                          【 寡黙? 】


猫は1歳頃までは全身に生命力が溢れて、跳びまわって走りまわっているが、
そういう時期を過ぎるとだんだん落ち着いてくる。
3歳を過ぎると、大人になったなあと思う瞬間が増えてくる。

でも、内面は大人になっても、かわいい姿は何も変わらない。
レオはかわいいなあ、と言うと、その意味がわかるようで、ちょっと澄ました顔をする。

かわいいというのは、きっと種が生き永らえるために自然がそう進化させたんだろう
と思うけど、なにもここまでかわいくすることはなかったんじゃないだろうか。

見ているだけで時間があっという間に過ぎていき、休日が短く感じられてしかたがない。


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                  【 かわいく作ってくれて、神様ありがとう 】




桜の樹の下には

うちには、俺、レオ、そして1匹の鯉がいる。 野鯉だ。 名前は、ない。

この鯉は、レオがうちにやって来る半年ほど前からいる。
近所の子供たちが川遊びでとってきて道端でワイワイ言ってたところを覗き込んだら、
子供らしい無邪気さで、1匹あげるよ、と言われた。 10cmほどの、小さな野鯉だった。

きっと大きくなるだろうから、と大きな水槽を買い、濾過器や砂利や水草も買い込み、
栄養価の高い赤虫を与えて育てていたらぐんぐん大きくなって、30cmを超えた。

レオと一緒にこの鯉が泳いでいる姿をよく見ていたのだが、ここまで大きくなると
水槽の中にいさせるのがだんだんかわいそうになってきて、もういい加減自然に
戻してやろう、思った。


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どうせ放すのなら、できるだけ大きくて広い所にしてやりたい。 
うちから一番近いそういうところは多摩川なので、カメラを持って出かけた。


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水が温む3~4月になると、鯉は浅瀬に集まってきて、産卵する。 岸部に立つと、
あちこちで鯉たちが水面から跳ね上がって、大きな波紋を作っているのが見える。
今なら、たくさんの仲間に出会えるだろう。

かつては「死の川」といわれたこの川も、今では鮎や鱒が遡上するくらい綺麗になった。
鳥もたくさん集まっているし、釣り人たちがいつも糸を垂らしている。
鯉は30年くらい生きるし、中には50年以上生きて、大きさが1m以上になるものもいる。

さよなら。 今までうちにいてくれてありがとう。 この先も、ずっと長生きしておくれ。
そう思いながら、泳いでいく後ろ姿を見送った。

川沿いの道には大きな桜の樹があった。 今年の桜の開花は、例年よりも早い。
まだ七分咲きくらいだが、それでも、花は枝々からこぼれんばかりに咲いていた。
それは、まるで早い春に吹雪いてできた雪の花のようだった。


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桜は、どうしてこんなに綺麗なんだろう。
この大きな樹の下で、30分以上も見上げて眺めていた。

桜の樹の下には屍体が埋まっている。 

そうまで言わなければ、この不思議な美しさを表現しきれなかった
その気持ちがよくわかる。


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水槽からクーラーボックスへ移す時、鯉はとても暴れて、廊下も俺もずぶ濡れになった。
レオは驚いて壁の蔭に隠れたが、すぐに心配そうに顔を出してその様子を見ていた。


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                         【 何してるの? 】


5年近く同じ屋根の下で暮らしたのに、悲しくなかった。

鯉のような大型魚を、一般家庭で飼い続けることは難しい。
鯉にとっても、水槽の中は幸せではないだろう。
いずれは自然に返さなければいけないことは、始めからわかっていたからかもしれない。
これでようやく本当の生を生きられるのだと思うと、人間と親密な関係を築けない生き物を
人間が飼うというのは、なんだか罪深いことのように思えた。


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                        【行っちゃったね。】


これで、正真正銘、レオと俺の2人だけの生活になった。
濾過器のモーター音がしない廊下は、静かになった。 交換用フィルターも餌も
まだたくさん残っているけど、しばらくは魚を飼うこともないだろう。


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                    【 じゃあ、僕といっぱい遊んでよ。 】


レオがキューブテントの中に入らなくなった。
寒い冬の間は暖気がこもるテントの中が暖かくて良かったが、もう必要ないらしい。
夜も、寝室の俺のベッドの横に置いてあるレオ用のベッドで眠るようになった。
春はいつもここで眠るのだ。

猫は敏感だから、鯉がいなくなったことはわかっているだろう。
だから、しばらくの間は、いつもよりたくさん遊んでやろうと思う。
レオがこの家に来た時からいたのだ。
この仔の小さな胸のうちにも、きっと何か感じることがあるだろうから。


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                      【 やっぱり、ちょっと寂しいかな? 】




ミシガンの老婦人 (最終章)

猫と4年暮らして、俺にはひとつだけはっきりとわかったことがある。
それは、猫は人から愛されることを心から望んでいる、ということだ。
その切望の強さは、知れば知るほど、言葉を失ってしまうくらいなんだよ。

猫に興味の無い人には、にわかには信じがたい話かもしれない。
でも、猫という生き物のことは、世間一般にあまり正しく認知されていないと俺は思う。

猫にとって一番の幸せは、人から自分の存在を認められ、心を理解され、愛されることだ。
雨風をしのげて、食事を与えられ、トイレを掃除して貰えさえすればそれでいい、
ということでは決してない。
猫が人のそばに座り、人の顔をじっと見つめる眼を見たことがあるか?

猫を愛せる人というのは、どういう人だろう。
人種、宗教、職業、思想、居住形態や地域、年齢、性別、
そんなものが何か関係あると思うか?
東大を出て、20年も医者をしてて、そんなこともわからないのか?

人は年をとると、多かれ少なかれ、身の回りを整理するものだ。
彼女の家の中が簡素で掃除が行き届いているのも、そのせいだと思う。
数少ない品々も、行き先はもう決まっているんじゃないだろうか。
そういう人が、猫の将来を考えずに引きとりたいと申し出たりするだろうか。

もし、万が一の時の行き先がないのであれば、病院で一時引き取ってやれるよう、
病院に話をつけてやればいいだけのことだ。 何だったら、いくらか金を病院に
預けておけばいい。 半分、俺が持つよ。

医療がどれだけ発達しても、彼女の孤独を救うことはできない。
でも、きっとその猫なら、彼女を救うことができるんじゃないだろうか。
そして、彼女も、その猫を救うことができる。
失ってしまった猫や息子や夫の写真を大事に飾ることができるような人なんだったら。

こう書いて、彼に返信を出した。


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                      【 いささか、上から目線だよね。 】


翌朝、彼からメールが来ていた。 
そこには、俺は3浪だけどな、という前置きに続いてこう書かれていた。


きっと、そう言うだろう、と思ってたよ。 

医者をやっていると、人はいつ死んでも本当におかしくない、ということが
身に染みてわかるものだ。 それは、年齢にはまったく関係ない。 
年寄りだから死に近いなんて、そんな感覚は俺には全然ないよ。

君がそう言うんなら、彼女に預けることにする。
ありがとう。


俺は眠気覚ましのコーヒーを飲みながら、再度メールを打った。

彼女に猫を渡す際、猫のトイレ用具一式と猫砂と猫用のご飯を数回分買って、
一緒に渡してくれ。 そして、トイレの使い方や食事のやり方についても、
ちゃんと教えてあげるように。
奥さんによろしく。


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                       【 いちいち細かいね~ 】


数日後、疲れて家に帰ると、彼からメールが来ていた。

律儀でまじめな彼は、言いつけどおりのことを実行した。
病院から使っていないケージを持ち出し、トイレ用具と猫砂とカリカリと缶詰を
大量に買い込んで、病院のスタッフと一緒に車に乗って彼女の家に行った。

病院の院長に引き取りのことを頼むと、快く引き受けてもらえた。
そして、院長は彼が差し出したお金は受け取らなかった。 
そもそも、今回の脚の処置や避妊手術も、病院側が無償で行ったんだそうだ。

病院のスタッフが飼うにあたっての注意事項やそのほかの細かいことを紙に書いて、
彼女に丁寧に説明した。 そして、友達がケージから猫を出して、老婦人に抱かせて
やった。 すると、彼女は猫に何度も頬ずりして、その仔の顔をじっと見た。
そして、涙を流しながら彼の顔を見て、「ありがとう、本当に」と言った。


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                   【 よかったね。 幸せになって欲しい。 】


猫は、人と暮らすべきだ。 愛してくれる人と。

猫が人の顔をじっと見つめる時、いつもこう言っているような気がする。
「あなたの愛さえあれば、それでいい。」

俺は、そう思う。



ミシガンの老婦人 (その3)

老婦人は、とても優しそうな人だった。
丁寧に彼を迎え入れ、彼のコートについた雪を手ではらって、
暖かいコーヒーを出してくれた。
こじんまりとした小さな家で、飾り気のない部屋は物も少なく質素だったが、
暖かく、掃除も行き届いていた。


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                【 寒い地域の家は、暖房がしっかりしているから。 】


彼は簡単に自己紹介した。 
アメリカに来てもう何度やったかわからない、いつものやつだ。
彼女は微笑みながらそれを聞いていた。
そして、2人は少し世間話をした。

彼女はこの家に1人で暮らしていた。 夫は数年前に病気で亡くなった。
そして、大切な1人息子を「最近の戦争」で亡くした。 
軍人ではなく民間の軍事会社に勤める社員で、物資を届けるために現地に行った際に
銃撃戦に巻き込まれて亡くなった。 窓際に置かれた小さなテーブルの上に、
夫や子供の写真が写真立てに入れられて飾られていた。


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                      【 猫の国に戦争はないけど。 】


彼女は、街のコミュニティー紙で病院にいる猫のことを知った。
そこには、ケージの中でうずくまって眠っている猫の写真が載っていた。
その写真を見て、彼女は驚いた。 子供の頃に飼っていた猫とあまりによく
似ていたからだ。

彼女は隣の部屋から1冊の古いアルバムを持ってきて、彼に見せてくれた。
薄く黄ばんだ台紙に貼られたいくつかの写真の中に、猫を抱いて椅子に座っている
小さい頃の彼女の写真があった。

その猫はミッシーという名前の雌猫で、背中の色が淡いブルーだったという。
残念ながら、アルバムの写真はモノクロだったので、その色が本当にブルーだったのか
どうかはわからないが、確かに模様の感じは病院にいる猫と似ていた。

ミッシーは家の中と外を自由に出入りして暮らしていたが、ある日を境に、家に帰って
こなくなり、そのまま行方がわからなくなった。 だから、その写真を見た時、
彼女は一瞬、迷子になって帰ってこれなくなったミッシーが見つかったのだと思った。


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                       【 ミッシーの子孫かもね。 】


あなたが病院にいるあの猫を飼うことになったら、と彼は言った。
しばらくの間、おそらく1ヶ月くらいはケージの中で飼うことになります。 骨折した
後ろ脚(実際は完全に折れているわけではなく、ひびが入っている状態)が完治する
までは安静にしている必要があるからです。 1ヶ月後に1度病院につれてきてもらい、
ケージから出していいかどうかを診ることになるでしょう。 また、脚の処置をした際に、
ついでに避妊手術もしてあるので、子供はもう産めません。 今後は外には出さず、
家の中だけで暮らすようにしてあげるべきです。 それに、飼っていくには何かと
お金がかかることになります。

それを聴いて、彼女はこう言った。
息子が亡くなった時に支給された見舞金が少しあるので、お金の心配はないわ。
それに、ミッシーがいなくなった時のような悲しみを味わうのはもう嫌だから、
外にも出さないようにするわ。 それに、この脚じゃ、いなくなった猫を探しに
行くことはできないものね。

彼は立ち上がって、コーヒーの礼を言い、コートを羽織って家を後にした。
老婦人はポーチに出て、彼のことを見送ってくれた。


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                     【 寒い日のコーヒーはおいしいね。 】


病院に戻り、老婦人のことを院長に相談した。 
院長は一通り話を聞いて、どうするかはあなたに任せるよ、と言った。
そのご婦人に直接会って話をして、家の様子を見たのはあなただけなんだからね。

家に帰って夕食を食べながら、彼は妻に今日あったことを話した。
すると、妻の顔色は少し曇った。
日本では、お年寄りには野良猫を渡さないそうよ、と彼女は言った。

彼女は、彼が最初に勤めていた東京の総合病院でナースをしていた。
その時に、入院患者達がそういう話をしているのを聞いていた。
どうして? と彼が驚いて訊くと、猫よりも早く死ぬと思われているからじゃない?
と彼女は答えた。


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                    【 奥さんに同意して欲しかったのに・・・ 】


食事の後、彼は俺宛てにメールを送ってきた。
ちょっと相談がある、という書き出しの、長い長いメールだった。
そして、この老婦人に猫を譲っていいのかどうか正直よくわからないので、
君はどう思うか率直に教えて欲しい、と締め括られていた。

俺はそのメールを何度も読み返し、次の日の夜、こう返事を書いた。



(最終回に続く)


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                        【 本当に最終回? 】




ミシガンの老婦人 (第2章)

アメリカでは、一般的にボランティア活動が人々の生活の中に根付いている。
人々は、日々の中で当り前のようにその活動に参加している。
特に、中流階級以上や知識階級の間では、そういう社会参加をして初めて一人前として
認知されるということが、暗黙の了解となっているようだ。

デイヴィッド・リンチ監督の「ツイン・ピークス」の中でも、ドラッグとセックスに溺れて、
乱れた生活を送っていたローラ・パーマーが、昼間は病人や老人のために食事を配給する
ボランティア活動をしている様子が描かれている。 彼女は、その時にブラック・ロッジの
住人たちと出会うことになる訳で、彼女にとってそのボランティア活動が運命の結末へと
導かれていく決定的な道筋だった。


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                【 ダイアン、僕は今、ミシガンの話を聞いている。 】


医学の本質は、病気や怪我をした人を治す現場にある。
そして、研究の分野は、そういう現場を支えるためにある。

日本にいた時、彼は週末の健康診断のアルバイトのことを、自分たち夫婦のために
マンションを買い与えてくれた義理の両親への返済のためだよ、と笑って話していた。
でも、本当は、現場から離れた顕微鏡の世界にいると大事なことを忘れてしまうから、
穏やかな臨床の現場への接点を求めたのだろう、と俺は思った。
きっと、無意識のうちに、そうやって自分の中でバランスを保とうとしていたのだ。

そのように休日も休むことなく働くという下地があったせいもあり、アメリカでも
誘われるまま、彼はボランティアをするようになった。
研究室の同僚の紹介で、大学の近くにある動物病院を無償で手伝うようになった。


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               【 それって、ワーカホリックって言うんじゃない? 】


動物病院は予想外に忙しかった。 スタッフはみな昼食をゆっくりとる時間もなく、
誰かが買ってきてくれたファストフードを立ったまま齧りながら、午後の診察の
事前打ち合わせをしていることも珍しくないような感じだった。

彼はもちろん直接診療にたずさわることはできなかったので、代わりにいろんな雑用を
進んで引き受けた。 やることはいくらでもあった。

病院にはいろんな動物がやってくる。 犬や猫はもちろん、鳥や爬虫類、珍しい哺乳類も
やってきた。 動物には元々興味はなかったし、それは今も変わらない。
だから、人々がなぜそんなにいろんな種類の動物を飼うのかさっぱりわからなかったが、
ミシガン州は動物福祉のための法律が他州よりも進んでいて、市民の動物への意識が
高いのかもしれない、と思った。


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                          【 病院は嫌い。 】



1月の中旬に、足を怪我した猫がやってきた。 飼い主のいない、野良猫だった。
左後ろ足を骨折していて、汚れていて、痩せていた。 
どういう経緯で連れてこられたのかわからない。 いつものように空いた時間に
病院に顔を出すと、既に処置が終わって、診療室の片隅のケージに入れられていた。

その猫は、少し変わった毛色をしていた。 四肢と腹は普通に白だが、背中から肩に
かけてが灰色に薄い青色を混ぜたような、白っぱいセルリアンブルーだった。

この病院には時々こうやって身寄りのない動物が保護されることから、地元の
コミュニティー紙が不定期に取材にやってきて、そういう動物たちの情報を紙面に載せる。
そして、その小さな新聞は無料で希望する家庭に配布される。


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                        【 珍しい色の猫だね。 】


ある日、病院に電話がかかってきて、たまたま彼がそれを受けた。
電話の相手は、か細い小さな声の女性だった。

彼の英会話力の向上はあまりはかばかしいとは言えなかったし、アメリカの電話の
通話品質も特に彼の不足を補ってくれるほど上質という訳でもなかった。
どうやら、例の猫の話をしていて譲ってほしいと言っているようだが、なにぶん相手の声が
小さくて細かいところまで話が理解できない。 そこで、直接会ってお話を伺います、と
いうことになった。

ミシガン州は日本の北海道と同じくらいの緯度で、真冬の平均気温は氷点下になる。
寒い雪道を歩いて教えられた住所の家を訪ねると、杖をついた白髪の老婦人が
彼を出迎えてくれた。


(次回に続く)




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プロフィール

リアノン

Author:リアノン
独身男の一人暮らし。

猫と暮らしたくて、一人で寂しい思いをしている子を、と思い里親募集に申し込んだら、一方的に断られた。

一人暮らしの男に猫と暮らす資格はあるのか? 

これが、このブログのテーマです。

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