ききわけのいい猫 | 2011年08月
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見つめていたい

猫と暮らしていて一番驚かされることは、こんなにも人間とコミュニケーションを
とりたがるのか、ということだろう。

犬と比べると猫は1人でいることを好み、気が向いた時だけ寄ってきて甘えるが、
飽きるとすぐにどこかへ行ってしまうなどと必ず言われるが、そんなのは大嘘だ。
世間の言うことは全くあてにならない。

「ねこのきもち」や他の飼育書なんかを読むと、猫は餌をくれたりいつも大事にしてくれる
飼い主を親と見做して子供気分がいつまでも残るから、親猫に甘えるように
飼い主にも甘えると書かれているが、この説明もどうもしっくりこない。

猫と一緒に暮らしていてことあるごとに感じるこの感じは、そういうものとは
まったく異質なもので、この感覚は一体なんだろう、といつも問い続けている。

レオはいつも傍に来て、じっと見つめてくる。
何かをしてもらいたいというのでもなく、只々、見つめていたい。 
そんな感じだ。
こんなことをしてくれる存在が、この世に他にあるだろうか。


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ブログを書く理由

レオがうちに来て、数か月が経ったある朝のこと。

いつもは寝室のどこかで眠っていて、俺が起きるとそばにやってきて
おはようの挨拶をしに来るのに、その朝はそれが無かった。

寝起きの悪い俺はしばらくベッドの端にぼんやりと座って、やがてため息を
つきながら台所に行ってコーヒーメーカーのスイッチを入れた。
覚束ない足取りでレオを探しながら書斎に入ると、床がこうなっていた。


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最初は何の事だかよくわからず、ただそれを眺めていただけだったが、
だんだん事態が呑み込めてくると、眠気はすっかりどこかへいってしまった。

水の入った花瓶をレオがテーブルの上から落として、台所から布巾をもって来て
こぼれた水の上に置いたのだ。
この書斎はうちの北側にあって、台所は真反対の南側で距離が少し離れている。
床はもうほとんど乾いていたので、落としてからだいぶ時間が経っているようだった。
つまり、まだ暗い中を台所から自分の身体の半分ほどもある布巾を咥えて
ここに運んできたのだ。
小さな身体で布巾をヨロヨロと運んでる様子を想うと、なぜか涙が出そうになった。

レオは和室の物陰に隠れていて、顔だけ出してこちらを窺うように見ていた。
この子は、悪いことをしてしまって、叱られると思っているのだ。
そして、不安な気持ちを抱えたまま、朝までの長い時間を過ごしたのだ。

俺は傍までゆっくりと歩いていった。
そして小さな頭をそっと撫でながら、「大丈夫だよ。 お前はいい子だ。」と言った。
レオは何か言いたげな顔で俺を見上げた。

俺はこの時、初めて知った。
不安、希望、悲しみ、喜び、そういういろんな感情がこの子にはあるのだ。

俺がテーブルや床にこぼれた水を台所の布巾でいつも拭いていたのを
ずっと見ていて、その意味を理解していたのだ。

そして、善悪の概念もあるのだ。 まだ、1歳にも満たない仔猫なのに。

この日を境に、俺の中から猫を飼っている、という感覚は無くなっていった。
それはもっと違う何かだったが、うまく説明はできない。
だから、こんなブログを書いているのかもしれない。



猫についての内緒の話

猫だって3歳にもなると、人の言ってることがわかるらしい。

うちのレオは、普段は人間の食べ物はまったく口にしない。 
匂いは気になるようで、やって来てくんくん嗅ぐが、口にはしない。
しかし、カレーを作っている時は必ず台所にやってくる。
今日も久しぶりに作った。 チキン・カレーだ。
調理中は俺に遠慮して遠巻きに見ているが、作り終わって俺が台所から出てくると
シンクに飛び乗り、鍋についたルウの飛沫を舐めようとする。

俺は台所に行き、「ダメだよ」と注意する。
現場を押さえられて、レオは首を下げて上目遣いで俺を見る。
それでも舐めようとするので、そばに行って尻をぽんぽんと叩く。
そうすると、台から飛び降りる。

何度かこれを繰り返して、ようやくリビングの床に腹ばいになる。
俺はゆっくり身体を撫でながら説明する。
「あれは舐めちゃダメだ。 塩がたくさん入っているし、玉葱も使っていて身体に悪い。
鍋やコンロはまだ熱いから、やけどするよ。 だから、もうやめてね。」

やさしい声でゆっくり話しかける。 こちらを決して見ないが、話をじっと聴いている。
やがて、姿勢を変えて香箱を組む。 そして、目をつむる。
そのあとは、もう鍋のところへは行かなくなる。

猫との暮らしに興味のない人には、このことは内緒だ。
知られると、世の中がパニックに陥る。 それだけはなんとしても避けなければならない。
だから、これはここだけの話にしてもらいたい。



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深夜の3時にネコ缶を買いに行く、ということ。

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深夜3時にフィリップ・マーロウは猫に起こされる。 猫は空腹だった。
台所へ行くと、いつものカレー・ブランドのネコ缶がきれている。
「スペシャルメニューを作ってやるからな」と、冷蔵庫から得体のしれない缶詰と
生卵を取出し、皿に盛って、塩をかけて、猫に出してやる。 
でも、猫は匂いを嗅ぐと、いらない、と皿を台の上から突ついて下へ落とす。

ブツブツ文句を言いながらも、ジャケットを羽織り、ネクタイを締め、車に乗って
いつもの深夜営業のスーパーへ行く。
すると、カレー・ブランドのネコ缶は売り切れだった。
通りかかった店員を捕まえて、訊く。
「カレー・ブランドのネコ缶は?」
「売り切れだから、そっちのでいいだろ。どれでも一緒だ」
「猫を飼ったことないのか?」

家へ戻ったマーロウは、すぐ台所へ入り、扉を閉める。
買ってきた缶詰を開けて、空のカレー・ブランドの缶詰へ中身を移し替えて、
蓋を乗せて、買い物袋の中へ入れる。

扉を開けて出てくると、猫は待っている。
「一服したら、エサをやるからな」と煙草に火をつける。

台所に戻ると、猫は喜んでついて行く。
鼻歌を歌いながら紙袋からカレー・ブランドの缶詰を取出し、缶切りで開けるマネをし、
「さあ、いつものカレー・ブランドだぞ」と皿に盛りつけて出すと、
猫は匂いを嗅いで、そっぽを向く。
「やっぱり、これじゃダメか?」と訊くと、
猫は鳴きながら、お手製の段ボールでできたネコドアをくぐって家から出ていく。



「ロング・グッドバイ」はかなり長い話だし、チャンドラーの小説は意外に難解なのだが、
それにも拘わらず、映画の開始早々、こんなシーンが10分以上も続くのだ。
チャンドラーの原作にはこんなシーンはもちろん出てこないわけだが、
マーロウの自由だが孤独な生活の様子や、事件の闇に否応なくはまっていく原因になる
彼独特の情の深さが、ここに見事に描写される。

深夜の3時にネコ缶を買いに行くのにネクタイを締めて行く、というのがとてもいい。
1度こういうのをやってみたいなと思うけど、俺は深夜の3時にネコ缶を買いに
行ったりしない。
なぜなら、急に1か月間家を空けても全然大丈夫なだけのカリカリと缶詰を
ストックしているからだ。
ハードボイルドにはいくつになっても憧れるけど、我が家の猫も深夜のコンビニで
買ってきた缶詰は食べてくれないだろうし、そうなると俺もその後眠ることなんて
できなくなってしまうに決まってる。



チャンドラーは大の愛猫家で、「タキ」という名前の黒いペルシャを飼っていた。
日本語の「竹」からとった名前だが、人からその意味を聞かれた時に、
これは英語では「Bamboo」の意味で、「タケ」と発音する際はシラブルを2つに
分けなければいけない、といちいち説明するのが面倒になったからだ。
旅行に出て帰ってきたら、怒って2日間も口を聞いてくれなかった、と知人に嘆いている。
大事にされたので、タキは20歳近くまで生きた。

チャンドラーは、村上春樹訳ではどうもしっくりこない。 
やっぱり、この清水俊二訳でなければいけない。


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環境省のパブリックコメント

環境省が募集している「動物取扱業の適正化について」の意見公募に
自分なりの意見を書いて、電子メールで送付した。
14の項目のすべてに対して、意見を書いて送った。

5年に1度の頻度での行われる公募で、前回はパブリシティーの不十分さで
ペット業者の意見ばかりが回収され、一般の人からはほとんど回収されなかったそうだ。
今回は、ネット上のいろんなブログで大きく取り上げられており、少しは一般の人の
意見が多く回収される可能性がありそうだ。

それでも、今回も環境省自身の広報活動は不十分のようだ。
原子力安全・保安院を環境省の外局に移すということで今後注目される役所なんだから、
もっと人材と予算を配分して、重要な仕事ができる部門になってもらいたい。

結果的にショップ経由で猫を迎えることになったが、ペット販売の一端に触れた時の
あの何とも言えない違和感のようなものは忘れることはない。
パピーミルやオークションのことを、最近になって知った。

日本は弱者を守る法整備が全般的に遅れているが、それは司法・行政・法曹の
怠慢以外の何者でもない、ということを軸に、書きたいように書いた。
俺はサラリーマンだから、制度や仕掛けの不備は人間のさぼりでしかないといことを
身に染みてよくわかっているからだ。

人間と動物の双方にとって、少しでも事態が改善されることを願いたい。
世の中がどんなに複雑になっても、結局、人と動物は共生していくしかないのだ。


3年前のこと (4)

翌朝目が覚めてベッドの下を覗くと、まだそこにいた。
トイレを見に行くと、綺麗なままだった。

コーヒーを入れて煙草を吸い、夕べと同じやり方で朝食を作った。
2つの皿を寝室へ運んでベッドの傍に置き、自分の遅い朝食を食べた。

寝室へ行くと、皿は空になっていた。
いい加減出ておいでと声をかけると、ごそごそと這い出してきてベッドの上に乗った。
すると、その場でウロウロして両手で砂掘りの真似をし出した。
あれ、もしかして、と思う間もなく、その場でうんちをしだした。

幸いベッドカバーの上で、ほとんど汚れていなかった。
ふと、さっき自分が立っていた場所を見てわかった。 
ちょうど俺が出口をふさぐ格好になっていたのだ。 これじゃ、怒れない。

後始末をして洗濯機を動かして廊下に出ると、猫は家中を走り廻っていた。
足下を通り抜けようとした時に、両手でさっとつかんで胸元にしっかり抱きかかえた。
すると、ゴロゴロといい出して、胸に小さな頭を何度も押し付けて、両手でフミフミを
始めた。 そして、俺にしがみついたまま、そこから降りなくなってしまった。

こうして、俺たちの生活は始まった。


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3年前のこと (3)

家についてキャリーバックを開けたとたん、脱兎のごとく飛び出して、
家の中を何周も走りまくったあげく、キッチンに駆け込み
スチールラックの奥に潜り込んでしまった。
無理に近寄ったりしないほうがいいのはわかっていたので、
そのまま放っておくことにした。

1時間経っても出てこないので、食事を用意することにした。
子猫用のドライフードをお湯でふやかし、子猫用の粉ミルクをその上にかけたもの。
ドライフードはいろいろ調べたあげくに、ヒルズのサイエンスダイエットPROを
選んでおいた。 
あらかじめ煮沸して冷ましておいた水を別の容器に入れ、この子のために、と
決めたリビングの1角に置き、さあ、これで出てくるだろう、と待ち構えた。

ところが、30分経ってもまったく出てこない。
食事を摂らないのは心配なので、ラックの前に置いてリビングに戻ると、
しばらくしてシャクシャクと食べる音がした。

その後3時間しても出てこないので、どうしたんだろうと思い、
ラックの前に座り込み、出ておいで、としばらく話しかけていた。
すると、意を決したように飛び出して、今度は寝室に入ったきり出てこなくなった。
捜してみると、ベッドの下の隙間に潜り込んでいる。
結局、そのまま翌朝まで出てこなかった。

あきらめてベッドに横たわりながら、ショップでのことを思い出していた。
店員が店の奥から抱きかかえて来た時も、こちらにそっと渡した時も、
腕の中に抱いた時も、この子は人から顔を逸らしたまま抵抗もせず、
されるがままだった。
ずいぶんおとなしいな、とその時は思っただけだったが、今考えると怖さと警戒で
身体が動かなかったのだ。
人がたくさんいたし、犬がうるさく鳴いていたし、この子には馴染みのない匂いに
満ちていただろう。 それはどんなに怖かっただろう。
あんな思いは、もう2度とさせたくなかった。
すんなり入ったキャリーバックの中で小さく鳴いたあの声が忘れられなかった。


3年前のこと (2)

いやな気分を引きずったままネットを見るともなく見ていると、
あるペットショップのサイトが目にとまった。

その中に、あの子はいた。

生後3ヶ月を既に過ぎていたため、値段が半分以下になっているようだった。
動画が用意されていて、見ると、その身体には小さすぎるように見えるケージの中で、
他の子とは違い、元気に飛び跳ねていた。

このまま誰にも気に入られなかったら、この子はどうなるんだろう。

そのページをお気に入りに登録して、1週間いろいろと考えて、
俺はこの子と暮らすことにした。

その1週間の間に、いろんな里親募集のサイトを見た。
どのページも、不幸な子を生む社会を糾弾し、かわいそうな子たちの救済を訴えていた。
捨て猫や野良猫がいかに悲惨な生涯を送るのかを、その時に知った。

でも、かわいそうなのは捨て猫や野良猫だけではない、
とブックマークしたあの子のサイトを見ながら、そう思った。
その姿は、とても幸せそうには見えなかった。
保護団体から門前払いされるんだったら、俺はこの子と暮らそう。

11月の下旬、寒い土曜日に迎えに行った。
そこで初めて抱かせてもらった。
「大きすぎますか?」と若い店員は心配そうに言ったが、
「大きいほうがいいんです」と答えると、ホッとした顔をした。

帰りの電車の中で、弱々しい小さな声で初めて鳴いた。
俺は、指先でキャリーバックを小さくトントン、とたたいた。
駅から家までの道の途中で、また小さな声で鳴いた。
俺は、大丈夫だよ、と答えた。


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                    【うちに来て数週間たった頃】

3年前のこと (1)

猫と暮らすのが、小さい頃からの夢だった。

ペットショップに行けば猫がいることはもちろん知っていたが、
どうせなら一人で寂しい思いをしている子を、と思い、
3年前の晩秋、某市の動物愛護センターへ行った。
どことなく薄暗い建物だった。

その日、保護されている猫はたまたまいなかった。
時々、ボランティアの人がやって来て猫を連れて行くということだった。
「里親募集をしているから、ぜひ、連絡してみてください」
と、出入りしている保護団体のリストを渡された。

最初に電話したところは、若い女性が応対してくれた。
俺が一人暮らしであることを知ると、彼女は
申し訳ないですがお譲りすることはできません、と言った。
理由を尋ねたが、そういう規則なので、ということで
それ以上のことは教えてもらえなかった。

次に電話したところは、何度かけても誰も出なかった。

最後に電話をしたところは、世慣れた感じのおばさんが出た。
彼女は、一人暮らしの男が猫をまともに育てられる訳がない、
ということをいろんな理由を挙げて喋りだした。
1日の大半をたった一人で過ごさせるのはかわいそう、
あなたが病気になったら誰が猫の世話をするのか、
掃除が不十分な部屋は猫の健康に悪い、
病気になっても、一人暮らしで仕事をしていれば
すぐに病院にはつれていけないだろう。

俺は、自分のことを説明した。
卒業した大学の名前を言って(こんなことは言いたくなかったけど)、
十分な教育を受けていること、
勤務している会社名と役職を言って(これも言いたくなかったけど)、
勤務時間はいくらでも融通がつけられること、
住んでいる持ち家のこと、掃除だって、そりゃあ平日こそできないけど、
週末には必ずしていること。

でも、説明は一方的に却下された。
他人を信用するのは(しかも短時間で)難しいことだ。
だからこそ、具体的な名前を出したほうがいいだろうと思って、
それでも謙虚な言い回しをしたつもりだったけど、
いくつかの固有名詞が逆にカチンときたようだった。

いい加減イヤになって、こちらから電話を切った。
もう、いい。 
貰ったリストは、破って捨てた。


はじめまして。

  • 2011/08/15 22:49
  • Category: 相棒
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レオです。 獅子座の生まれで、3歳になったばかり。

よろしくお願いします。

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プロフィール

リアノン

Author:リアノン
独身男の一人暮らし。

猫と暮らしたくて、一人で寂しい思いをしている子を、と思い里親募集に申し込んだら、一方的に断られた。

一人暮らしの男に猫と暮らす資格はあるのか? 

これが、このブログのテーマです。

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