ポケモン的なるブログ

2024年12月 1日 (日)

日本一の4番バッター大山選手がFA権を行使して阪神残留

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昨年、阪神タイガースがリーグ優勝と日本一になった際の4番バッター大山選手がFA権を行使した上で阪神残留を決定したそうです。まず、球団公式サイトからチームニュースを引用すると以下の通りです。

大山悠輔選手について
FA権を行使していた大山悠輔選手が、阪神タイガースに残留することになりましたのでお知らせいたします。 大山選手のコメントは以下の通りです。

大山悠輔選手コメント
この度、FA権を行使させていただいておりましたが、来年からも阪神タイガースでお世話になることに決めました。これまで同様、しっかり覚悟を持って戦っていきたいと思いますし、まずは来シーズン優勝を勝ち取れるように、チームに貢献できればと思います。

スポーツ紙によれば、ジャイアンツが6年総額24億円超の大型契約を提示していた、との報道も見かけましたが、金銭的な条件では、報じられていたのが正しいとすれば、阪神の5年総額20億円がジャイアンツを下回っていたのですが、阪神残留ということでファンは狂喜乱舞、来年以降も大山選手への熱い声援が続くこととなるようです。実にめでたい限りです。

来季はリーグ優勝と日本一奪回を目指して、
がんばれタイガース!

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2024年11月30日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、蓮見雄・高屋定美[編著]『欧州グリーンディールとEU経済の復興』(文眞堂)は、カーボンニュートラルからサーキュラーエコノミーを目指す欧州グリーンディールのファクトをいくつか取りまとめています。森永卓郎『新NISAという名の洗脳』(PHP研究所)は、政府の新NISA=少額投資非課税制度に関する批判とともに、老後のライフスタイルなどを論じています。東野圭吾『架空犯』(幻冬舎)は、『白鳥とコウモリ』に続く五代刑事を主人公とするミステリです。間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)は、100年後の九州の山奥の小さな家に1人で住んでいる主人公が家族史を書くというSF小説です。坂本貴志『ほんとうの日本経済』(講談社現代新書)は、人口減少による日本経済について雇用や職業や仕事の観点から分析しています。ローレンス・ブロック『エイレングラフ弁護士の事件簿』(文春文庫)は、刑事事件専門のエイレングラフ弁護士が依頼人を裁判にかけることなく、破天荒な方法で無罪放免を勝ち取り法外な料金を要求するミステリです。
今年の新刊書読書は1~10月に265冊を読んでレビューし、11月に入って先週までに計28冊をポストし、合わせて293冊、本日の6冊も入れて299冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊を超えるペースであることは明らかです。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、蓮見雄・高屋定美[編著]『欧州グリーンディールとEU経済の復興』(文眞堂)を読みました。著者は、立教大学経済学部教授と関西大学商学部教授であり、各チャプターの執筆者も大学の研究者となっています。タイトルを目指したご執筆のようですが、前半の欧州グリーンディールについてはEU文書を取りまとめている一方で、後半のEU経済の復興には十分には取り組めていない印象です。前半部分も、一応、欧州グリーンディールそのものが日本的なカーボン・ニュートラルで一息つく中途半端なものではなく、サーキュラー・エコノミーまで見通した演題は成長戦略であるわけですから、もう少し違う取りまとめ方があってもよかったのではないかという気がします。でも、それだけに欧州グリーンディールの全体像を適切に示すのは極めてハードな課題であることを認識させられます。欧州経済の専門家とともに環境経済学の見識も大いに問われるところです。ひょっとしたら、こういった全体像をビジュアル化しつつ適切に取りまとめるのは、大学の研究者とともにコンサルなどが向いているような気がしますが、コンサルの方ではビジネスチャンスがそれなりに適切な規模で確保されないと取り上げないでしょうから、そういった場合に大学の研究者が公共財的な情報取りまとめを行うのは適切なことだろうという気がします。ということで、私が注目したのは第4章の産業戦略としての観点からの分析なのですが、自動車産業の事例については、やや物足りない印象です。EU文書から適宜抜き刷っただけの取りまとめでは、学術書としては不十分と考えるべきです。加えて、ファイナンス関係でも、ECB文書を中心とした取りまとめに終止していて、機関投資家によるグラスゴー金融アライアンス(GFANZ)などには注目していないようです。おそらく、量的にも質的にも、公的機関からの資金というよりも、機関投資家による投資の影響力が無視できないと私は考えていますので、繰り返しになりますが、EUなどの公的機関の文書取りまとめだけでは不十分だと考えるべきです。その上、おそらく、こういった研究書はこれからも出版されることと思いますが、本書はほぼほぼdescriptiveな内容に終止していて、私としてはもっとanalyticalに掘り下げた分析も欲しいと考えます。例えば、本書ではファイナンス行動におけるサステイナブル基準という意味でのタクソノミーの動向を重視していて、それはそれでいいのですが、タクソノミーが割合と注目されたGATTウルグアイ・ラウンドの農業補助金の例なんかと比較しつつ、分析的な視点を提供していただきたいと考えます。しかし、他方で、ほとんど経済学的な小難しい分析、特に計量経済学を駆使した数量分析が含まれておらず、記述的な内容に終止しているだけに、学術書ではなく、さまざまな事実関係を情報として把握したいと考えるビジネスパーソンや実務家にはオススメであり、十分な価値がありそうな気もします。

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次に、森永卓郎『新NISAという名の洗脳』(PHP研究所)を読みました。著者は、経済アナリスト・エコノミストです。本書はタイトル通りに、新NISA=少額投資非課税制度に関する批判や警告を主たる中身としていますが、老後生活やライフスタイルに関しても幅広く論じています。私も共感するところが多く、レビューしておきたいと思います。まず、第1章では投資に関する6つの神話を否定しています。その中のひとつについて、私も考えるところがあります。すなわち、分散投資が投資のリスクを回避ないし低下させるかどうか、という論点です。本書では実に的確にも、金融商品2つを持つリスクは単純に2つの金融商品のリスクの積ではなく、さらにその2つの相関係数をかけ合わせた積になる点を強調しています。ですから、相関係数が小さければ、金融商品を2つ持つとリスクが低下するわけです。ただこれには以下のような落とし穴があります。私も授業で取り上げたことがあります。例えば、株価を例に取ると、コカコーラとペプシコーラの株価の相関関係をどう見るか、です。コーラ全体への需要はそう大きな変化なく、コカコーラからペプシコーラに需要がシフトするだけであれば、両社の株価の相関は逆相関となります。ただ、清涼飲料としてのコーラから別の何か、例えば紅茶飲料にシフトするとすれば、両社の株価は順相関で連動します。ではどう考えるか、の問題となります。本書では、多くの株価は一定の条件のもとで連動すると指摘します。すなわち、バブル崩壊の際はそうなります。バブルが崩壊して株式をはじめとする資産価格が下落する際には、すべての資産価格が順相関していっせいに落ちます。そして、深く議論を展開されているわけではありませんが、本書ではバブルは崩壊し、資本主義は終焉を迎えると指摘しています。繰り返しますが、この点について本書では深く議論されていません。資産運用編のレビューを終えて、ライフスタイルや老後生活の部分について考えると、ここでも私の賛同する見方が示されています。特に賛同するのは東京にこだわらない、という論点です。著者は所沢在住で、いわゆる「トカイナカ」に住むことを推奨し、あるいは、トカイナカと東京の2拠点生活を実行しています。私は国家公務員の定年とともに東京から500キロ以上も離れて関西に引越して、トカイナカどころか、関西でも京阪神ではなく、しかも県庁所在市でもない場所で生活しています。ハッキリいって、大きな不便はありませんし、東京に住み続けることが「勝ち組のステータス」あるいはみえでしかない、という本書の主張は納得できます。まあ、ホントのところは東京に未練がないわけでもないのですが、それはさておき、本書でも指摘しているように、老後生活は投資で稼ぐという拡大均衡的な収入増路線よりも、むしろ生活コスト削減でもって豊かな暮らしを目指す、とい方向性に大きく賛成です。定年を迎えて第一線を退いたからには、"Small is Bueautiful." の生活をしたいものだと思います。本書では、いわゆる「最後は金目でしょ」のお話が大きな部分を占めていて、その前段階の健康に関するトピックには深入りしていません。余命宣告された著者ですので、仕方ないかもしれません。最後に、本書で推奨するようなアーティストになるのは、私の場合は少し難しい可能性があることは自覚しています。

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次に、東野圭吾『架空犯』(幻冬舎)を読みました。著者は、我が国でも有数の売れっ子のミステリ作家です。出版社も売上を期待しているのか、特設サイトを開設したりしています。本書は同じ出版社の『白鳥とコウモリ』の続編であり、したがって、警視庁の刑事である五代努が主人公となって謎解きを繰り広げます。本書冒頭でも、「先の清洲橋事件を解決した」という形容詞を付けられており、本書の中でも上司から五代刑事がしばしばご下問を受け、推理能力が高く評価されていることがうかがえます。ということで、ストーリーは東京の高級住宅街にある一軒家が火事になり、焼け跡から2人の死体が発見されます。住宅は都議会議員の藤堂康幸とその夫人で元女優の恵利子の夫婦が住んでいて、死体はその2人と特定されます。しかし、死因は焼死ではなく、出火前に絞殺されていたことが捜査の結果明らかとなり、要するに、殺人事件としての捜査が早い段階から開始されます。殺された夫婦は、40年近く前に東京都西部にある都立昭島高校で教師と生徒という間柄であった点が明らかになり、捜査は昭島コネクションを中心に進められます。40年近く前の高校生の自殺、恵利子の卒業後から女優デビューの間の謎の空白期間、恵利子が支援していた児童福祉施設、色んな要素が絡まり、しかも、極めて意外な人物が犯行を自供したりして、事実関係だけでもとても複雑な様相を呈しています。その上に、小説の登場人物の心理についても細かな描写が当てられていて、さらにその上に、都議会議員の死亡事件だという点を割り引いても文体そのものが濃厚で、それに輪をかけてストーリー展開も重厚な作品に仕上がっています。途中から、私のような頭の回転の鈍い読者でも、徐々に犯人像がクリアになっていきます。最後の最後に名探偵が関係者を一堂に集めた上で、アッと驚く犯人を指摘するタイプのミステリと違って、お話が進むにつれてひとつひとつ玉ねぎの皮をむくように真相が明らかになるタイプのミステリです。たぶん、シリーズ前作である『白鳥とコウモリ』とともに、何らかの形で映像化されるのではないか、と思いますし、引き続き、五代努がガリレオこと湯川学や五代と同じ警視庁刑事の加賀恭一郎などとともに、新たなシリーズの主人公となるのだろうという気がします。

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次に、間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)を読みました。作者は、もちろん、作家なのですが、この作品が第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞し、デビューしています。ですので、この作品は当然SF小説です。しかも、とてもエモいポストヒューマンSFです。舞台設定はほぼほぼ100年後の九州です。すなわち、主人公は九州の山奥の小さな家に1人で住んでいて、おしゃべりが大好き、という設定です。一応、1997年生まれで人間であったころは女性ということになっています。その主人公が、2123年10月1日、これまでの人生と家族について振り返るため、自己流で家族史を書き始めます。それは約100年前、身体が永遠に老化しなくなる融合手術を受ける時に、時間が余るだろうからと父親から提案されたことでした。主人公は両親の4人目の子どもであり、三女として生を受けましたが、主人公の出生の際に母親は亡くなってしまいます。上の兄姉と年齢が離れていて、成長するに従って亡くなった母親と容貌が似てきたので父親からは溺愛されますが、主人公が物心つくころには離れて住んでいた兄姉からは、母親の死の「責任」の一端めいた感情と父親から受ける扱いに反発して少し疎まれます。一家は裕福で働く必要もありませんでしたが、25歳の時に体調不良から合法化されていた安楽死を希望します。でも、父親に強く反対され、逆に、不老不死のサイボーグのような肉体となる融合手術を受けます。そして、主人公以外の手術を受けない人間のままの家族は、父親から始まって兄や姉は死んで行き、主人公が家族を看取るわけです。もっとも年齢の若い家族はすぐ上の姉の子供であり、主人公から見ると甥に当たる新(あらた)、主人公は「シンちゃん」と呼ぶ赤ん坊であり、彼は融合手術と同じ日に生まれ、2人は近親相姦的とも見えかねない恋人になります。そして、主人公は家族史をシンちゃんにおしゃべりするのですが、そのシンちゃんも死んでしまったため、文章で家族史を綴ってゆくことになるわけです。3章構成となっている本書の第1章はこのようなストーリーで、一応、主人公が紙に手書きで書いたということになっています。そして、第2章の多くの部分は口述の記録、さらに、第3章はこれも口述によるシンちゃんへの呼びかけのような形を取っています。あらすじは第1章までとしますが、この第1章はとてもひらがなが多くなっています。その昔に読んだ『アレジャーノンに花束を』に似た印象ですが、誤字脱字はありません。最後の方では、主人公は長い距離を歩いて旅をし、いかにもSF的な人々、というか、グループに出会います。その時点での日本の状況、例えば、気候変動が進みまくった100年後の日本をはじめとするあたりについては読んでみてのお楽しみ、ということになります。SFなのですが、架空の存在や出来事ばかりを並べるのではなく、Orangestarの「アスノヨゾラ哨戒班」とか、永瀬拓矢が将棋電王戦FINAL第2局でコンピューターソフトのSeleneと対局して勝利したことなど、21世紀初頭の歴史的事実をうまく織り込んで、実に巧みな構成としていると感じました。人間とは、愛情とは、家族とは、いろいろと考えさせられますし、繰り返しになりますが、読み進んでいくうちに何ともいえないキツい感情がこみ上げてきました。エモいです。読者によっては短い小説ながら投げ出してしまう人がいるかもしれません。ある程度の「覚悟」を持って読むべき小説かもしれない、と感じました。

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次に、坂本貴志『ほんとうの日本経済』(講談社現代新書)を読みました。著者は、リクルートワークス研究所の研究者です。本書は3部構成であり、第1部で人口減少経済における10の変化を上げ、第2部で労働現場における機械化と自動化を論じ、第3部で人口が減少する日本経済の方向について未来予測を8点上げています。まず、最初に第1部では、バブル崩壊後のいわゆる「失われた30年」における労働需給の緩みが人口減少とともに大きく減退し、足元から先行きはむしろ人手不足となり、労働時間減少が進むこともあって、急速に労働参加率が高まっても、経済学でいう生産関数のインプットである労働が不十分な状態となる点を強調しています。人手不足なのですから、賃金は最近時点での春闘の賃上げ率を見ても理解できるように、いよいよ上昇し始めているわけです。そして、バブル崩壊後長らく続いた需要不足から供給制約が強まる経済へと進むことを見通しています。もちろん、要素間代替により設備投資が進んで省力化は進むのでしょうが、第2部では、機械化や自動化が進んでもエッセンシャルワークといわれ、人が自ら労働しなければならない部分は、少なくともそれほど早期にはなくならず、人手不足から人件費高騰、そしてインフレが引き起こされる可能性を論じています。第2部ででは、ほかにも、サービス化が進んだ日本経済において、今まで無償で提供されていたサービスが有料化したり、あるいは、提供されなくなったりする可能性を指摘しています。はい、私もそう思います。というのは、サービスにおいては、提供されるサービスの量や質とそのサービス価格が日本では不釣り合いな印象があって、いわば、無償での過剰サービスがしばしば見られる、と私は感じていました。たとえば、ホテルなんかでは適切な料金を取ることなく無償のサービス提供が日本では多くて、海外ではそこまでしない、というか、有料のサービスとなるような気がしていました。ただ、何だかんだで、医療や介護の場においては最後は人手に頼らざるを得ないシーンが多くなります。しかも、医療や介護は典型的に情報の非対称が大きいサービスであり、すべてを市場に委ねることが不適当で公的な規制や政府介入の必要性が高い分野であることから、ご予算制約などから、サービスを提供する雇用者サイドでは賃金が、サービス利用者サイドでは料金が、それぞれ低く抑えられがちであることも事実です。すなわち、提供されるサービスの質と量に見合った価格設定がなされにくい分野であると考えられます。最後の第3部の将来予測については、読んでみてのお楽しみなのですが、人口減少とともに「小さな経済社会」に向かう中で、どのような方向性を探るか、ひとつには人口減少を緩和する意味も含めて、雇用や仕事に重点を置く本書の方向性がよく現れています。本書はあくまでリクルートワークス研究所の研究員が、日本経済を雇用や職業・仕事といった切り口で分析した結果ですので、輸出競争力や何やといった観点はありません。その意味で、タイトルはやや大きく出ている印象です。でも、雇用や仕事やといった身近な日本経済について改めて考えさせられるトピックを扱っています。

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次に、ローレンス・ブロック『エイレングラフ弁護士の事件簿』(文春文庫)を読みました。著者は、犯罪小説をメインとするミステリ作家です。私は初読だと思います。本書には『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』に収録された作品を中心に短編12作品が収録されています。すべての短編に「エイレングラフの」がつくのでその部分を省略すると、「弁護」、「推定」、「経験」、「選任」、「反撃」、「義務」、「代案」、「毒薬」、「肯定」、「反転」、「決着」、「悪魔の舞踏」となります。なお、最初の作品は1976年、そして、最後は2014年となっていて、40年間近くに渡って書き続けられているようです。すべての短編作品のあらすじを紹介すると長くなりますので、いくつかのエッセンスを取りまとめておきます。まず、主人公は刑事弁護士なのですが、冒頭の作品で「法廷での丁々発止のやりとりとか、反対尋問の妙技とかは、世のペリー・メイスン諸氏にまかせておけばいい」という主人公の言葉があり、法廷シーンは皆無です。要するに、起訴されることなく依頼者を無罪放免にすることをモットーとしています。そして、その料金はかなり高額で、ご本人が「法外」という表現を使っているケースもあります。どうして依頼人が無罪放免になるかといえば、例えば、最初の短編「エイレングラフの弁護」では、大学生の母親が駆け込んできて、大学生の息子はオックスフォード大学に留学した経験があって、大学のキャドモン会のメンバーになっていたのだが、その息子の恋人、というか、元婚約者がそのオックスフォード大学キャドモン会の独特のネクタイで絞殺された、というシチュエーションです。そんな極めてめずらしいネクタイは周囲数キロに渡って所有している人はいなさそうなのですが、エイレングラフ弁護士が弁護を引き受けた後になって、同様の殺人事件が3件起こって依頼人の息子の大学生は釈放されます。何が起こったのかは読んでみてのお楽しみですが、エイレングラフ弁護士がとんでもないことをやった可能性が示唆されます。お決まりのルーティンとして、エイレングラフ弁護士の出で立ちが詳細に語られます。そして、エイレングラフ弁護士が法外な成功報酬をふっかけます。そして、エイレングラフ弁護士が引き受けると、とんでもないことが起こったり、別の真犯人らしき容疑者が見つかったり、なんてことがあって、依頼人や容疑者は裁判にかけられることなく無罪放免となります。そして、ほぼお決まりのラストは依頼人は法外な料金を支払うことをためらいます。最後に依頼人は支払いに応ずるケースがほとんどですが、ひとつだけ、実際に支払わなかったと思しき事件があり、その依頼人はたいへんな目に遭います。ほぼワンパターンでストーリーは進みますし、多くの事件が殺人事件です。でも、エイレングラフ弁護士の役回りは殺人事件の真犯人を明らかにするのではなく、あくまで依頼人の無罪放免です。そして、ことごとく、そのミッションは成功裏に終わります。繰り返しになりますが、フレッド・ダネイ、すなわち、エラリー・クイーンのうちの1人が編集者として、これらの作品を『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』に収録していますので、型破りなものが多いながら、一応、ミステリなんだと思います。

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2024年11月29日 (金)

2か月連続で増産となった鉱工業生産指数(IIP)と伸びが縮小する商業販売統計と堅調な雇用統計

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも10月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+3.0%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.6%増の13兆8590億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.1%の上昇を記録しています。雇用統計では、失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して2.5%と悪化した一方で、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.25倍と改善しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産10月は前月比3.0%上昇、先行きは2カ月連続マイナスへ
経済産業省が29日公表した10月の鉱工業生産指数速報(2020年=100)は前月比3.0%上昇し、2カ月連続のプラスとなった。半導体・フラットパネル製造装置や自動車生産が指数を押し上げた。
ただ、ロイターが集計した民間予測の前月比3.9%上昇は下回った。生産予測指数は2カ月連続の前月比低下で、経産省幹部は「自動車や半導体製造装置、米中経済など注視が必要」としている。
企業の生産計画から算出する予測指数は11月が前月比2.2%低下、12月は同0.5%低下だった。基調判断は「一進一退」で据え置いた。
10月の生産品目別の前月比は、半導体製造装置が67.2%増、フラットパネル・ディスプレイ製造装置が94.2%増、普通乗用車が9.0%増、橋りょうが2.15倍など。学校用の更新需要でノート型パソコンなどの生産も伸びた。
一方、半導体メモリーは17.8%減だった。スマートフォン向けなどフラッシュメモリー需要が低下した。
小売業販売額10月は前年比1.6%上昇、自動車増・食品減=経産省
経産省が29日公表した10月の商業動態統計速報によると、小売販売額は前年比1.6%上昇だった。自動車やスマートフォンなどが伸びた一方、食品、衣類は減少した。ロイターが集計した民間予測中央値の2.2%上昇を下回った。
業種別の前年比は自動車が7.8%増、機械器具が4.8%増、燃料が3.1%増だった。一方、各種商品が3.9%減、織物・衣服が1.9%減、飲食料品が0.3%減だった。一部自動車メーカーの生産再開や、スマートフォン販売増などがけん引する一方、休日が昨年より1日少なかったことにより、飲食料品の販売数量減などが響いた。
経産省の担当者によると、調査対象企業から「節約志向の高まりで食品の数量が減少した」との声もあったという。
業態別ではドラッグストアが前年比4.3%増加した。マイコプラズマ肺炎の感染が広がったほか、新型コロナの影響もあり調剤が好調。コメ、菓子類販売も伸びた。
コンビニエンスストアも前年比2.0%増。インバウンド(訪日外国人)客向けに菓子の販売が増えたという。
一方、前年比で百貨店は1.3%減と32カ月ぶり、スーパーは0.3%減と33カ月ぶりにマイナスだった。休日数が少なかったほか、高い気温が続き冬物衣料・暖房器具などが不調だった。
失業率10月2.5%、労働市場は拡大 有効求人1.25倍に上昇
政府が29日発表した10月の雇用関連指標は完全失業率が季節調整値で2.5%だった。前月から0.1ポイント上昇したが、「非労働力人口」から就業者や完全失業者にシフトするなど労働市場に拡大の動きもみられ、雇用情勢は悪くないという。有効求人倍率は1.25倍で前月から0.01ポイント上昇した。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.24倍と見込まれていた。
総務省によると15歳以上で労働力人口に入らない「非労働力人口」は17万人減少した一方、就業者数が16万人、完全失業者数が3万人それぞれ増加した。総務省の担当者は、労働供給側からみると「雇用情勢は悪くない」との認識を示している。
伊藤忠総研のチーフエコノミスト、武田淳氏は「労働市場は完全雇用の状況にある」と指摘。日本経済は今後、年収の壁の引き上げや賃上げ機運の一段の高まり、円安の修正によって内需中心の成長軌道に乗るとし、「日銀は来月以降いつでも利上げできる」との見方を示した。
<人手不足が続く>
有効求人倍率は4月(1.26倍)以来6カ月ぶりの高水準。
厚生労働省によると、10月の有効求人数(季節調整値)は前月に比べて0.2%増加した。製造業や建設業などで原材料や人件費などのコスト上昇を背景に求人を手控える動きはあるものの、全体的に人手不足は続いている。
有効求職者数(同)は0.7%減。物価高騰などで家計が苦しくなる中で生活の安定志向が強まり、現在の職からの転職を様子見する動きも一部にみられた。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たり企業から何件の求人があるかを示す。企業の多くは人手不足に対応するため賃金を引き上げて求人しているとみられ、厚労省の担当者は「雇用は決して悪い状況にはない」と述べた。

3つの統計から取りましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は+3.9%の増産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく+3.9%の増産が予想されていましたので、実績の前月比+3.0%の増産はやや下振れた印象です。しかしながら、我が国主要産業である生産用機械工業や自動車工業が牽引した増産ですので、やや市場の事前コンセンサスから上振れた印象とはいえ、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いてしています。
先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の11月は補正なしで▲2.2%の減産であり、上方バイアスを除去した補正後では、さらにマイナス幅が広がって▲3.7%の減産と試算されています。先行き生産は2か月連続の減産を見込んでいるわけです。加えて、12月も▲0.5%の減産との予想となっています。経済産業省の解説サイトによれば、10月統計における生産は、生産用機械工業が前月比で+21.7%の増産で+1.74%の寄与度を示したほか、自動車工業が+6.4%の増産で+0.83%の寄与度、金属製品工業が前月比+8.1%増で+0.34%の寄与度、などとなっています。他方で、生産低下に寄与したのは、電子部品・デバイス工業がが▲8.5%の減産、寄与度▲0.54%、輸送機械(除、自動車工業)が▲13.3%の減産、寄与度▲0.40%、などとなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での寒冷なのですが、伸び率はまだプラスを維持しているものの、プラス幅が落ちてきているのが見て取れます。その上、季節調整済みの系列では先月9月統計で前月比マイナスを記録した後、今月10月統計でも+0.1%の小幅な伸びにとどまっています。引用した記事にある通り、ロイターでは前年同月比で+2.2%の伸びを市場の事前コンセンサスとしていましたので、下振れした印象を持つエコノミストも多かろうと思います。ただ、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断しているところ、本日公表の10月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.3%の減少となりましたので、先月の段階で「上方傾向」から「一進一退」と明確に1ノッチ下方修正した後、今月も「一進一退」で据え置かれています。鉱工業生産と同じ表現となっています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、10月統計ではヘッドライン上昇率が+2.3%、生鮮食品を除くコア上昇率も+2.3%、生鮮食品及びエネルギーを除くコアコアCPI上昇率も+2.3%となっていますので、小売業販売額の10月統計の前年同月比+1.6%の増加は、インフレ率をやや下回っている可能性が高いと考えるべきです。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。引用した記事にもインバウンド消費が言及されています。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。記事にもある通り、ロイターでは失業率に関する事前コンセンサスは前月と同じ2.5%、有効求人倍率も前月から横ばいの1.24倍が見込まれていました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率は前月から横ばいながら、有効求人倍率は10月統計では改善を示し、もちろん、どちらの指標も雇用の底堅さを示す水準が続いています。ただし、グラフからも明らかなように、雇用は堅調ながら、そろそろ改善局面を終えた可能性がある、と私は評価しています。ただ、それでも、今年2024年に入ってから10月統計までに失業者数は季節調整済み系列の累計で▲1万人減少しており、その背景として、同じ期間に就業者が+34万人増、雇用者にいたっては+49万人増と大きな増加を示しています。なお、季節調整していない原系列の統計で失業者数は前年同月比で▲5万人減少しています。もちろん、そろそろ景気回復局面は後半期に入っている可能性が高いと考えるべきですし、その意味で、いっそうの雇用改善は難しいのかもしれません。ただ、あくまで雇用統計は10月統計の失業率と有効求人倍率のように改善と悪化のまだら模様である一方で、人口減少下での人手不足は続くでしょうし、米国がソフトランディングの可能性を高めている限り、それほど急速な雇用や景気の悪化が迫っているようにも見えません。

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最後に、本日、内閣府から11月の消費者態度指数が公表されています。11月統計では、前月から+0.2ポイント上昇して36.4を記録しています。グラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。消費者態度指数を構成する指標について前月差で詳しく見ると、「収入の増え方」が+0.8ポイント上昇し40.2、「耐久消費財の買い時判断」が+0.2ポイント上昇し29.9、「暮らし向き」が+0.1ポイント上昇し34.3となった一方で、「雇用環境」は▲0.6ポイント低下し41.0となりました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。6か月連続の据え置きです。また、インフレに伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が10月の47.9%から47.5%に低下する一方、2%以上5%未満物価が上がるとの回答は33.8%から34.1%に増え、物価上昇を見込む割合は93.2%と前月10月統計から変化なくと高止まっています。

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2024年11月28日 (木)

リクルートによる10月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

明日11月29日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる3月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの募集時平均時給の方は、前年同月比で見て、6月+2.0%増とやや上昇幅が縮小していたのですが、7月には+2.6%増の後、直近で利用可能な8月には+2.9%増から少しずつ上昇幅を拡大して、本日の10月統計では+3.0%増となりました。先週11月22日に公表された消費者物価指数(CPI)上昇率が10月統計でヘッドライン、生鮮食品を除くコアともに+2.3%でしたから、アルバイト・パートの賃金上昇は物価上昇をやや上回った、と考えています。募集時平均時給の水準そのものは、2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、今年2024年10月で1,200円に達したわけで、現在、報じられている最低賃金と比較しても、かなり堅調な動きを示しています。他方、派遣スタッフ募集時平均時給の方は、8月+1.5%増、9月+3.1%増に続いて、10月は+1.4%増と、まずまず底堅い動きながら、CPI上昇率には追いついていません。アルバイト・パートの時給の方今年2024年に入ってから横ばいだったのですが、10月からの最低賃金の施行とともに、少し上向く結果となりました。
三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、10月には前年同月より+3.0%、前年同月よりも+35円増加の1,212円を記録しています。職種別では前年同月と比べて伸びの大きい順に、「フード系」(+43円、+3.8%)、「製造・物流・清掃系」(+42円、+3.6%)と「販売・サービス系」(+41円、+3.6%)、まで平均よりも高い伸びを示していて、「事務系」(+20円、+1.6%)、「営業系」(+19円、+1.6%)、「専門職系」(+15円、+1.1%)は伸び率は小さいものの、すべての職種で前年同月比プラスとなっています。また、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、10月には前年同月より+1.4%、+23円増加の1,643円となりました。職種別では、「オフィスワーク系」(+49円、+3.1%)、「医療介護・教育系」(+28円、+1.9%)、「製造・物流・清掃系」(+21円、+1.5%)、の3業種は前年比でプラスの伸びを示しましたが、「営業・販売・サービス系」(▲8円、▲0.5%)と「クリエイティブ系」(▲9円、▲0.5%)、「IT・技術系」(▲77円、▲3.4%)、は減少を示しています。なお、地域別では関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

アルバイト・パートや派遣スタッフなどの非正規雇用は、私なんかは授業では正規雇用に比較して不利な点が3点ある、と指摘しています。すなわち、低賃金労働であるとともに、「雇用の調整弁」のような不安定な役回りを演じてきた上に、正規雇用職員に比べて教育訓練の機会が少なくなっています。リクルートの調査では賃金しか把握できませんが、直近で利用可能な10月統計で見ると、やっぱり、派遣社員の時給引上げ率は消費者物価上昇率に届いていない、という結果です。

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2024年11月27日 (水)

世界各国におけるチャイルドペナルティの大きさやいかに?

Child Penalty=チャイルドペナルティとは、子どもを持つことにより、主として女性が社会的に、主として職業上の不利益を受けることを意味する言葉です。まあ、日本なんかはジェンダーギャップが先進国の中ではとても大きいわけですので、たぶん、チャイルドペナルティも大きいんだろうと私は想像しています。そのチャイルドペナルティについて世界各国の推計を試みた論文が Review of Economic Studies に採択され、近く刊行される予定となっています。そのタイトルはズバリ "The Child Penalty Atlas" です。まず、ジャーナルのサイトからAbstractを引用すると以下の通りです。長くなります。

Abstract
This paper builds a world atlas of child penalties in employment based on micro data from 134 countries. The estimation of child penalties is based on pseudo-event studies of first child birth using cross-sectional data. The pseudo-event studies are validated against true event studies using panel data for a subset of countries. Most countries display clear and sizable child penalties: men and women follow parallel trends before parenthood, but diverge sharply and persistently after parenthood. While this pattern is pervasive, there is enormous variation in the magnitude of the effects across different regions of the world. The fraction of gender inequality explained by child penalties varies systematically with economic development and proxies for structural transformation. At low levels of development, child penalties represent a minuscule fraction of gender inequality. But as economies develop - incomes rise and the labor market transitions from subsistence agriculture to salaried work in industry and services - child penalties take over as the dominant driver of gender inequality. The relationship between child penalties and development is validated using historical data from current high-income countries, back to the 1700s for some countries. Finally, because parenthood is often tied to marriage, we also investigate the existence of marriage penalties in female employment. In general, women experience both marriage and child penalties, but their relative importance depends on the level of development. The development process is associated with a substitution from marriage penalties to child penalties, with the former gradually converging to zero.

続いて、引用情報は以下の通りです。

私は分析手法についてはよく理解できていないのですが、横断的なクロスセクションのパネルデータを用いて第1子出産の疑似イベントスタディ pseudo-event studies という手法を用いて、世界134か国のチャイルドペナルティの世界地図を作成しています。まず、論文から Figure 3: Validation of Pseudo-event Study Approach を引用すると以下の通りです。4枚目のパネルDに日本が示されていて、第1子出産直後に縦軸の Employment Impact が大きな負のショックを受けていることが見て取れます。

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次に、この論文の主たる目的であるチャイルドペナルティの世界地図、ヒートマップを論文の Figure 9: Heatmap of Child Penalties により引用すると以下の通りです。テーブルのランキング表のようなものはないのですが、ヒートマップからすれば、日本の成績はかなり悪いんだろうと私は想像しています。

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最後に、チャイルドペナルティの研究はかなり以前から行われていたのですが、最近時点で大きな画期となって研究がさらに進むきっかけとなった論文があり、その論文は紹介した論文の著者3人のうちの2人が別の研究者と執筆しています。これも引用情報だけ示しておきます。論文は complimentary で以下のリンクからダウンロードすることが出来ます。

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2024年11月26日 (火)

+2.9%の高い伸びとなった10月の企業向けサービス価格指数(SPPI)は物価と賃金の好循環を示しているのか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からわずかに縮小して+2.9%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについては前月と同じ+2.8%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格10月は2.9%増、指数は95年以来の高水準=日銀
日銀が26日公表した10月の企業向けサービス価格指数は、前年同月比プラス2.9%の108.7と、バブル崩壊後の1995年6月以来の水準まで上昇した。価格改定時期で幅広く値上げが実施されたが、とくに人件費や燃料費などのコスト上昇を背景に郵便料金が改定されたことが主要因と日銀は分析している。高人件費率サービスも3.3%上昇、外航貨物輸送やインターネット広告もプラスに寄与した。
前年比プラスは3年8カ月連続。10月は4月と並び企業の多くが価格改定をするタイミングで、前月比でも0.8%上昇した。
人件費が上昇する局面では消費者物価のサービス指数よりも企業向けサービス価格の方に早く反映される傾向があることから、民間エコノミストの間では注目度が高い。
日銀は金融政策を運営するに当たり、賃金と物価が関連し合いながら伸長していく好循環の実現を注視している。
大和総研エコノミストの中村華奈子氏は、企業間サービスでは、コストの転嫁が進み循環的な物価の上昇が根付きだしていることが改めて確認できたが、日銀がより重視する消費者物価のサービスは、価格転嫁の遅れもあり思ったより強くないとみる。
中村氏は「今日のデータだけで、賃金と物価の好循環が実現していると手放しで喜ぶのは危険だ」と指摘。12月中旬の金融政策決定会合で日銀の追加利上げを予想する市場関係者もいるが、日銀は1-3月まで待つだろうとし、「春闘の見通しをはじめ、あらゆるデータを見るデータディペンダントな姿勢を日銀は崩さないだろう」との見方を示した。
企業向けサービス価格指数は不動産や運輸、金融、広告など企業が提供している各種サービス価格の傾向を示すため日銀が公表している指数で、内閣府の国内総生産(GDP)統計を算出するための基礎統計としても利用されている。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、今年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は10月統計で+3.4%を示しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2023年11月に+2.8%まで加速し、さらに今年2024年6月統計では+3.2%まで加速した後、本日公表された10月統計では+2.9%と高止まりしています。1年超の16か月連続で日銀物価目標である+2%以上の伸びを続けているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なります。しかし、いずれにせよ、+2%超の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があります。ただし、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、物価上昇率が高止まりしていることは事実としても、インフレが+2%を大きく超えて加速する局面ではない、と私は考えています。また、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。引用した記事の通り、10月統計の前年同月比で見て、高人件費率サービス+3.3%、低人件費率サービス+2.8%の上昇となっています。ですので、人件費率に関係なく+2%超の価格上昇が見られる点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて10月統計のヘッドライン上昇率+2.9%への寄与度で見ると、機械修理や宿泊サービスや土木建築サービスなどの諸サービスが+1.66%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分超を占めています。人件費以外の原材料やエネルギーなども含めて、コストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方ではないでしょうか。ただし、諸サービスのうちの宿泊サービスは前年同月比で9月統計では+17.1%の上昇と、引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、10月から郵便料金が値上げされた郵便・信書便、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や旅行サービスなどの運輸・郵便が+0.53%、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.29%、ほかに、景気敏感項目とみなされている広告+0.22%、リース・レンタル+0.15%などとなっています。

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2024年11月25日 (月)

AERA「『専業主婦願望はゼロ』 幼いころうんざりした父親の言動」に見る女子学生の希望する世帯のスタイルやキャリアプラン・ライフプランやいかに?

11月25日付けのAERAの記事「『専業主婦願望はゼロ』 幼いころうんざりした父親の言動」を拝読しました。私の勤務校である立命館大学経済学部には、たぶん、30%から40%近い比率で大学・大学院とも女子が在学しているんではないかと見ています。しかるに、なぜか私のゼミにはほとんど女子が来てくれないのですが、ゼミだけではなく、もっと女子の比率が高いであろう文学部の授業も担当していたりしますので、少し興味を持って見ていました。

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上はAERAのサイトから 女子学生が希望する世帯スタイル と題するグラフを引用しています。2016年卒も2024年卒も共働き世帯を希望する割合がほぼほぼ75%あり、¾の卒業生が共働きを希望していることが読み取れます。実は、今年2024年版の「男女共同参画白書」の冒頭p.5に 共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移 と題するグラフがあり、2023年時点で妻が64歳以下の世帯において、雇用者の共働き世帯が1,206万世帯に上るのに対して、男性雇用者と無業の妻から成る世帯、いわゆる専業主婦のいる世帯は404万世帯に過ぎません。大雑把に¾の世帯が共働きということで、実に整合的な統計となっています。AERAの記事では総務省統計局による労働力調査を引いて、「働き世帯は1278万世帯、専業主婦世帯は517万世帯」としていて、ビミョーに数字が違っているものの、大きな違いはありません。それはともかく、女性の社会進出が進み仕事と家庭を両立しやすくなっているという背景は無視できないとはいえ、男女ともに学生が希望する世帯のスタイルやキャリアプラン・ライフプランが大きく多様化した今となっては、かつての寿退職や専業主婦という存在が現在の学生諸君には希薄なわけで、日本経済を授業で教える際にも十分な配慮が必要か、と考える今日このごろです。

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2024年11月24日 (日)

今年2024年のベスト経済書やいかに?

経済週刊誌から寄せられていたアンケート「2024年ベスト経済書」について、ようやく回答しました。結果は以下の通りです。

  1. 小野浩『人的資本の論理』(日本経済新聞出版)
  2. 原田泰・飯田泰之[編編]『高圧経済とは何か』(金融財政事情研究会)
  3. 脇田成『日本経済の故障箇所』(日本評論社)

『人的資本の論理』と『日本経済の故障箇所』については、アンケートの例示リストに入っていたのですが、『高圧経済とは何か』はノーマークでした。まあ、そうなんだろうと思います。でも、巷間よく話題になる雇用の流動性について、高圧経済の下では雇用者のスキルを活かした雇用条件のいい職に移動できることであるのに対して、景気低迷期やデフレ経済下では使用者サイドに都合のいい首切り合理化でしかない、という点は重要だと考えます。というのも、労働組合を支持母体としたり、そこまで明確でなくても、労働者サイドに近い野党ですら理解が進んでいない印象を私は持っています。ですから、そういった向きは何が何でも「雇用の流動化反対」となるのですが、高圧経済下でこそ雇用の流動化が進められるべきだと私は考えています。

昨年は、週刊『ダイヤモンド』にて、ドンジリ4人目ながら、ブランシャール『21世紀の財政政策』についての私の書評が掲載されました。はたして、今年はどうなることやら?

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2024年11月23日 (土)

今週の読書は賃上げを論じた経済書をはじめ計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、中村二朗・小川誠『賃上げ成長論の落とし穴』(日本経済新聞出版)は、賃上げ成長論についての疑問を明らかにしています。児美川孝一郎『新自由主義教育の40年』(青土社)は、中曽根内閣時の臨教審路線から40年を経た新自由主義的な教育を批判的に分析しています。井上智洋『AI失業』(SB新書)は、人工知能=AIの広範な利用に伴う雇用の喪失だけでなく、新たな産業の形や日本経済へのインパクトなどを幅広く論じています。近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)は、バブル経済の崩壊に伴う就職氷河期世代の職業生活や家族形成、格差の広がりなどについてデータに基づいて議論しています。西山昭彦『立命館がすごい』(PHP新書)は、私の勤務校である立命館大学について、特に誇るべきポイントを整理しています。クリスティン・ペリン『白薔薇殺人事件』(創元推理文庫)は大叔母の子に際しての遺産遺贈を受けるために犯人解明を進めるミステリ作家志望の女性の活躍を描いています。日本文藝家協会[編]『夏のカレー』(文春文庫)は、特に統一的なテーマの設定はないのですが、著名作家による良質な短編を収録したアンソロジーです。
なお、今年の新刊書読書は1~10月に265冊を読んでレビューし、11月に入って先週までに21冊、本日に7冊をポストし、合わせて293冊となります。現時点で1か月余りを残して、文句なしに、年間300冊に達するペースかと思います。今後、Facebookやmixiでシェアする予定です。

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まず、中村二朗・小川誠『賃上げ成長論の落とし穴』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、日本大学の教授を務めた研究者と厚生労働省の局長経験もある公務員OBです。タイトルからうかがえるように、賃上げ成長論についての疑問を呈しています。本書で着目する疑問は2点あって、日本で賃金が上昇していないという通説に対する反論を試みるとともに、加えて賃上げが必ずしも経済成長につながるわけではない、あるいは、不合理な賃上げの弊害や「持続的賃上げ」がインフレを悪化させるリスクがある点、などを指摘しています。私も授業で日本の賃上げを議論する際に引用するグラフがあって、それは「令和4年版 経済財政白書」(2022) p.101の第2-1-1図 主要先進国の実質GDPの推移 です。3枚のグラフが示されていて、いずれもバブル崩壊の1990年や1991年を100とした指数をプロットしたG5先進5カ国のグラフです。上2枚の実質GDPと1人当たり実質GDPはG5諸国の中で日本がドンジリもいいところで、ほぼほぼゼロ成長なのですが、一番下の労働時間当たり実質GDPは日本の数字は他の先進各国G5諸国と比べても遜色ありません。大雑把に、米英が日本より高成長な一方で、日本は仏独を上回る成長となっています。何を示しているかというと、労働者1人1時間当たりの付加価値額は先進諸国の中で決して小さくないのに、第1に、非正規雇用の比率、特にパートタームの比率が高くて、平均労働時間が短いために労働者1人当たりの付加価値が小さくなっています。そして、第2に、労働分配率が他の先進各国に比較して低くて資本分配率が高くなっている結果であろうと考えるべきですが、労働者が生み出した付加価値のうち労働者に分配される部分の比率が小さくなっています。マルクス主義経済学では搾取率が大きい、というのかもしれません。私はこのあたりは詳しくありません。しかし、本書はこの賃金や1人当たり実質GDPの伸び悩みを否定します。本書p.49の図1-3で、どのような計算をしたのかは明らかではありませんが、バブル崩壊時の1990年ころに、いわゆる内外価格差の議論を持ち出して、日本の賃金がほかの先進各国より高かったと主張し、伸び悩みの議論を賃金水準の議論に置き換えて、2008-09年のリーマン・ショック時くらいまでは日本の賃金は先進各国と比べても大きな差がなく、その後、日本の賃金が先進各国を下回るようになったと主張しています。繰り返しになりますが、賃金の伸び悩みの議論を賃金水準で置き換えて否定しようと試みています。そこに、1990年ころの内外価格差の議論を付加しているわけです。ちょっと、どうかという気がします。エコノミストの間で広範な合意が得られるかどうか疑問です。ただ、長期に渡って日本の賃金が伸び悩んだ原因のひとつが、決して階級闘争的でない、というか、戦闘的ではない労働組合にあり、コア労働者層である中年男性の正規雇用から組織された労働組合が、日本的雇用慣行のひとつである長期雇用を守るために、雇用の質的な面を代表する賃金を犠牲にして雇用の量的な確保を求めた、というのは、おそらく、同意するエコノミストが多そうな気がします。賃上げの弊害についても、同じような疑問があり、弊害としてインフレを考えるとしても、それは日本経済が本格的にデフレを脱却してから、という段取りを考えるエコノミストが多そうな気がしますし、一時的に生産性を上回る賃上げが実現されるとしても、ホントに一時的なのであれば分配率の変化でインフレにつながらないような経済運営は可能です。ここまで企業の利益剰余金が積み上がっているわけですから、生産性を上回る賃上げは短期間であれば十分可能だと私は考えます。ただ、最低賃金の今後の展望とも合わせて、本書ではほとんど議論されていない中小企業への一定の配慮は必要であると考えます。

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次に、児美川孝一郎『新自由主義教育の40年』(青土社)を読みました。著者は、法政大学キャリアデザイン学部教授であり、ご専門はキャリア教育や教育政策だそうです。諸般の事情により、先週の段階で教育、特に新自由主義的な教育に対する批判を展開している2冊の新書、すなわち、髙田一宏『新自由主義と教育改革』(岩波新書)と鈴木大裕『崩壊する日本の公教育』(集英社新書)を読んでレビューしたのですが、どうしても初等・中等教育に限定されていて、私が直接に関わっている大学という高等教育について取り上げられていないため、本書を図書館で借りて読んでみました。基本は、初等・中等教育とともに高等教育においても、新自由主義的な教育政策では「教育の市場化」が進められている、という点に関しては同じです。ただ、私自身は大学の学費問題とともに新自由主義的な教育の問題点を考えたかったので、学費に関する問題意識についてはまったく本書でも取り上げられていませんでした。今年、大学教育という私の所属する業界のもっとも大きな話題のひとつは東大の学費値上げでした。慶應義塾の塾長の主張も大きく報じられていたところです。学費の点に関しては本書と離れて、最後に言及するとして、本書では、1980年前後の英米における新自由主義的経済政策を掲げる政権、すなわち、1979年に成立した英国サッチャー内閣、1981年に就任した米国レーガン大統領の政策に呼応するような形で、日本でも中曽根内閣が発足し、いわゆる臨教審路線が始まったと指摘しています。はい、私はそのころにキャリアの国家公務員として社会人になっていますし、割合と身近にそういった新自由主義的な各種政策を見てきたつもりです。そして、本書では、大学レベルの教育における著者ご専門のキャリア教育こそが大学教育劣化のひとつの原因である可能性を指摘しています。およそ、就職を第1の目標とし経済学部や経営学部の学生でありながら、例えば、経済指標の動向などには大きな関心を示さず、社会とは企業社会であることを前提として、そういった環境に順応する教育がまかり通っていて、経済社会における格差や差別に対する疑問、あるいは、政府の政策への批判的な見方などはまったく影を潜めています。その上で、本書の用語を借りれば、「勝ち組のススメ」と「転落への脅し」を車の両輪として、格差を前提とした上で競争の結果を「自己責任」として受容させ、そして、そうした競争に参加することをもって「社会的包摂」に置き換える教育が進められています。最後は、デジタル機器の教育への導入によるGIGAスクール構想により、教育現場がハードウェアとソフトウェアの企業の売込み先となり、デジタル機器を有効に使える生徒・学生とそうでないグループの格差を固定してしまいかねない危うさがあります。私個人の観点ですが、本書では言及されていない学費の問題に関しては、新自由主義的な教育においては、真逆に見える2つの方向性が考えれます。ひとつは、無償化の方向です。典型的には大阪の維新の会による新自由主義教育の下で高校教育が無償化、というか、正確には私立高校の学費無償化が進められています。これは学校や教師に対する競争を促進・激化するとともに、府立高校のうちの不人気校=定員割れ高校の廃止を目論んでいます。大学=高等教育についても、大阪公立大学では学費無償化が進められ、同様の流れが示されつつあります。これは、違う見方をすれば、「金を出すから、口も出す」という政治の教育への介入を招く恐れもあると私は危惧しています。ただし、新自由主義的な教育政策としては、真逆に、大学については学費を値上げし、応益負担の方向が進められる可能性も十分あります。このあたりは、エコノミストの私は専門外ですので、今後の展望などの勉強を進めたいと思います。

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次に、井上智洋『AI失業』(SB新書)を読みました。著者は、駒澤大学経済学部准教授であり、ご専門はマクロ経済学です。本書では、AIによる雇用の喪失とともに新たな産業革命や日本経済へのインパクト、人間とAIの共存、などなど、タイトル以外にも幅広いテーマを論じています。もちろん、新書という限定されたメディアですので、やや印象論に偏る嫌いはありますが、かなりまっとうな議論が展開されていると私は受け止めています。まず、当然ながら、現在のAI開発状況について概観されていて、ChatGPTをはじめとする文章生成AI、ミッドジャーニーやステーブル・ディフュージョンに代表される画像生成AIなど、各ジャンルで高機能のAI技術が続々と誕生している点については、改めて論じるまでもないことと思います。そのうえで、もう10年以上も昔の論文ながら、英国オックスフォード大学のフレイ-オズボーンによる論文 The Future of Employment も引きつつ、AIが雇用喪失につながるかどうかを議論しています。私は当然に新しい技術が導入されると雇用は失われると考えています。現在までの歴史がそれを実証していますし、本書でも織機の導入による手職工の失業を契機にラッダイト運動が生じた歴史を持ち出しています。AIの幅広い活用も含めて、機械化や自動化により雇用が失われることは明白なのですが、現在までの歴史では失なわれた雇用以上に新たな雇用が生み出されて、そのために技術的失業が必ずしもクローズアップされていないわけです。ただ、ネットで考えるのではなく、グロスで考えれば、AIにより雇用が失われるという事実は否定しようがないと私は考えています。その上で、新たな産業革命かどうか、国家の繁栄にどこまでAIが寄与するか、あるいは、そもそもAIが必要か、などを本書では議論しています。そのあたりは読んでいただくしかありません。そして、本書では最後に、人工知能(AI)と人間が共生可能かどうかを議論しています。この結論も本書を読んでいただくしかないのですが、ヒントはp.253の「脱労働社会」です。これに付け加えて私自身の考えを展開しておくと、現時点で人間と馬が共生しているような関係において共生可能である、としかいいようがありません。ただ、私は将来におけるポジションとして、いわゆるシンギュラリティ、あらゆる局面でAIの能力が人間を超えるとすれば、人間と馬の関係とはいえ、AIが現在の人間の位置を占め、人間が現在の馬の位置を占める可能性を排除できないと考えています。人間は、ひょっとしたら、AIの家畜化する可能性がないとはいえないと考えているわけです。別の視点からいうと、現在の資本主義、あるいは、かなり新自由主義的な色彩の強くなった資本主義では、生産性によって、あるいは、その生産性が何世代かに渡って蓄積された結果としての富によって、人間がランク付けされている部分があります。もちろん、「法の下における平等」は制度的に確保されているとしても、実際には格差や不平等が広がり、上位者に対して下位者、あるいは別の表現をすれば、「上級国民」に対して「一般ピープル」はなすすべがありません。その昔の『ドラゴン桜』に、「おまえら、しっかり勉強しないと東大出に搾取され放題になってしまうぞ」という趣旨の発言があったと記憶していますが、経済的な搾取だけではなく、ほかにもいろいろとやられ放題になる可能性があるわけです。すなわち、シンギュラリティを超えてAIが人間よりも高い、それもちょっとだけではなく大きく高い能力を身につけてしまうと、現在の「上級国民」のポジションをAIが占め、「一般ピープル」のポジションを人間が占める、ということになりかねません。現在は、生産性が低い、あるいは、富を持たない人間はそれほど尊くはない、という現実が広がっていて、しかも、それは自己責任である、という見方が受け入れられているような気がしてなりませんが、AIの技術進歩が進むにしたがって、基本的人権の理念の下に、「人間とは生きているだけで尊い」、という社会を目指す必要を痛感します。

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次に、近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)を読みました。著者は、東京大学社会科学研究所教授であり、ご専門は労働経済学です。はい、私も役所に勤務していたころに何度かお会いしたことがあります。本書では、1993年から2004年に高校・大学などの学校を卒業した世代を就職氷河期世代として定義し、雇用形態や所得などをデータから明らかにすることを目的としています。ただ、この著者のご専門である労働経済学の小難しい計量経済学的な数量分析は用いられておらず、グラフなどにより直感的に理解できるように工夫されています。ですので、学生やビジネスパーソンなどにも判りやすい内容となっています。そもそも、バブル経済崩壊後の経済停滞がこの世代の人生に与えたインパクトは大きくて、就職から始まる職業生活だけでなく、結婚・出産など家族形成への影響や、男女差、世代内の格差、地域間の移動、、さらに、将来的には高齢化に伴う問題などなど、さまざまな課題が想定されていて、これらについて分析を試みています。詳細は読んでいただくしかありませんが、ザッとテーマだけを取り上げておくと、まず、第1章では労働市場における就職氷河期世代の占めるポジションとして、正規・非正規の雇用形態、そしてそれらに伴う年収などの現状を分析し、第2章では、そういった経済基盤に起因する家族形成について論じています。すなわち、正規・非正規だけではなく所得などの格差から結婚や子育てを考え、通説とは少し異なる結論を提示しています。個人のミクロレベルで見ると、結婚せず、子どもを持たない確率は高いものの、世代を通して考えれば、若年期の雇用状況が悪かった就職氷河期世代ほど未婚率が高いとか、子供の数が少ない、というわけではない、との結論を得ています。同時に、就職氷河期世代から少子化が加速したというエビデンスはない、という分析結果です。女性雇用については、新卒時点では男性よりも女性の方に就職氷河期の影響が大きかったが、それでも就業率や正規雇用率で見た世代間格差は数年で解消していて、この要因としては、晩婚化や既婚女性の就業継続率の上昇により就職氷河期の影響を打ち消している部分がある、と指摘しています。ただ、就職氷河期以降では格差拡大は所得分布における下位層の所得がさらに低下することによってもたらされている点を指摘しています。米国などにおける所得格差拡大は、日本と逆であって、所得分布の上位層の所得がさらに増加することによってもたらされており、いわば、日本国内における国民全体の貧困化が浮き彫りにされた形です。地域間格差については、就職氷河期の影響は地域ごとに一様ではないのはもちろんですが、地域間の賃金格差は就職氷河期とともに拡大ペースが速まった点が強調されています。最後の政策的な対応策はやや物足りないといわざるをえず、一般的なセイフティネットの拡充にとどまっています。まあ、仕方ないのかもしれません。

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次に、西山昭彦『立命館がすごい』(PHP新書)を読みました。著者は、ごく最近まで立命館大学の教員でした。大学生協の書店にいっぱい並んでいたので買ってみました。基本的に、立命館大学関係者以外から見れば、悪くいってタイトル通りの「提灯本」と考えられるかもしれません。本書冒頭に明記しているように、教員については論文や書籍、あるいは、ほかの意見表明機会があるだろうから割愛して、他の大学に関するステークホルダー、すなわち、学生・院生・卒業生、職員、学生の就職先や共同研究などの関係企業、さらに、学生を送り込む高校や塾・予備校などの関係者、といったところへのインタビューをコアな内容としています。副学長へのインタビューもありますが、学長はダメだったんでしょうか。まあ、それはいいとして、そいったインタビューの前置きとして、規模、すなわち、学生数で日大と早大につ次いで3番目とか、国家公務員総合職試験や公認会計士試験の合格者数、科研費採択件数、外部評価などを列挙しています。ということで、ほぼほぼすべてなのですが、まあ、何と申しましょうかで、ネトウヨの「日本スゴイ論」みたいで、どこまで信頼性があるのかは疑問ですが、結果的に立命館大学の宣伝になっている面は決して無視できないと考えます。私が再就職する前の世間一般の評判としては、関西の関関同立の中では同志社がやや抜きん出てトップ大学であり、次いで関学らしくて、やっぱり、東京六大学でいえば早大より慶大、明大や法大よりも立教が人気だという人もいて、関西でも「ミッション系の坊っちゃん嬢ちゃん大学が人気」だと聞かされてきましたが、私は各大学の内実をそれほどよく知っているわけではありません。少しだけ見知っているのは国家公務員への就職です。本書でも指摘されているように、国家公務員総合職試験で立命館大学はかなり上位に食い込んでいます。2024年度春試験に限定すれば、東大と京大についで3番目ということになります。でも、試験合格者がかなり多数に上るのは事実としても、実際に採用されるのは決してここまで多くはありません。実は、私もゼミの学生なんかに総合職の国家公務員、あるいは、公務員全般を勧めることはしていません。ここまで人口減少で人手不足が進めば、立命館大学卒業生はそこそこの就職先に恵まれますし、就職後の職場の働きやすさなんかを考慮すれば、公務員がトッププライオリティというわけでもないだろうと考えています。ただ、実際には学生の中にも公務員志望者は決して少なくなく、私自身が国家公務員試験の試験委員をしていた経験者だということもあって、一定数の公務員志望者が集まることも事実です。ついでながら、経済学部という固有の学部限定なのですが、大学院進学も決して勧めません。もちろん、理工学部とか、別学部であれば別の話ですが、立命館大学に限らず経済学部生が大学院に進む利点は現時点で日本では決して大きくないと考えています。ということながら、立命館大学の教員としては、それでもやっぱり誇らしい気分にさせてくれる記述が少なくなく、大学関係者の裾野も広いことから幅広い売上が期待されるのではないか、という気がします。

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次に、クリスティン・ペリン『白薔薇殺人事件』(創元推理文庫)を読みました。著者は、米国出身で英国在住の作家です。日本ではまだ知名度が低いものの、英国ではそれなりの評価を得ているようです、ただし、本書は大人向けの最初の出版ということです。英語の原題は How to Solve Your Own Murder であり、2024年の出版です。ということで、小説の主人公は25歳のミステリ作家志望の女性であるアニーです。アニーの母親ローラはそれなりに有名な画家であり、個展を開いたりしています。アニーの祖父、すなわち、母親ローラの父親の妹に当たる大叔母フランシスから彼女の住むキャッスルノールに招待されて屋敷に到着すると、大叔母は図書室の床に倒れて死んでいました。大叔母は手から血を流したらしく、その手の近くには白薔薇がありました。邦訳タイトルの由来をなしているものと考えます。アニーがキャッスルノールに呼ばれたのは、大叔母の弁護士によれば最近遺言書を書き換えて、アニーへの遺贈が盛り込まれている可能性が高いからです。大叔母の亡くなったご亭主は貴族であるグレイヴズダウン家の当主で大金持ちでしたから、莫大な遺産が転がり込む可能性があるわけです。他方で、大叔母はそのグレイヴズダウン家に嫁ぐ前のミドルティーンのころ、すなわち、60年ほど前に占い師から、いつか殺されると予言された言葉を信じており、遺言状はグレイヴズダウン一族である医師のサクソンとアニーのどちらか、殺人犯を突き止めることが出来た方、ただし、1週間以内に殺人犯を解明した方に遺産を譲る、という内容でした。もしも、1週間以内に犯人解明が出来なかった場合、弁護士の孫が勤務する開発会社に地所をすべて売り飛ばして売却金は国庫に収納する、ということになります。アニーは、大叔母が占い師の「いつか殺される」という予言を信じて、さまざまな出来事を文書に残していたキャッスルノール・ファイルを読み漁って、60年前に何があったのか、それは現在にどのようにつながって大叔母の殺人という結果を引き起こしたのか、などなどの真実を突き止めようとします。冒頭何章かは1966年のキャッスルノールの出来事をかいたキャッスルノール・ファイルと現在の出来事が交互に記述されています。ある意味で、1966年のキャッスルノール・ファイルはフランシスらの青春物語ともいえます。フランシスとグレイヴズダウン家のフォードとの出会いはロマンス小説さながらです。もちろん、ミステリとしては本格的な whodunnit であり、犯人探しの王道ミステリといえます。ただし、1966年と約60年後の現在を行ったり来たりしますし、当然、若かりしころの人物と老人となった現時点でも生存している人物がいて、同じ人物で同じ名前ですので、それなりの読解力は必要です。繰り返しになりますが、大人向けの作品は初めてという作家ですし、これから先の作品が楽しみです。

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次に、日本文藝家協会[編]『夏のカレー』(文春文庫)を読みました。著者は、江國香織をはじめとする11人の著名作家なのですが、特にテーマを設定していないアンソロジーだったりします。時代小説こそ含まれていないものの、シリアスな短編もあれば、コミカルなテイストの作品もあり、まあ、良くも悪くも各作家の特徴が出ているっぽくて、特にまとまりのないバラバラな短編集です。収録順にごく簡単にあらすじを追っておくと、まず、江國香織「下北沢の昼下り」は、中年男性が主人公であり、70歳過ぎの母親と高校生の娘とともに、タイトル通りに、下北沢のヴェトナム料理店で食事中です。妻は3度目の家出中で、いずれの回も主人公の浮気が原因らしいです。三浦しをん「夢見る家族」は、夜音次=ネジという名の少年で、両親と年子の兄である千夜太=チヨの4人家族です。兄弟の名に「夜」が入っているのは、毎朝夢の内容を母親に話す家族の習慣と関係しているのかもしれません。兄のチヨは母親が期待する内容の夢を語るのに対して、それができないネジと兄弟間で待遇が違ってきます。乙一「AI Detective 探偵をインストールしました」では、主人公はタイトル通りにAI探偵であり、妹を殺した犯人を捕まえるという依頼を受けます。人間に近いながらも人間ではないAIが一人称で語るミステリはめずらしいと思いますし、最後の大逆転のどんでん返しもなかなかのものです。澤西祐典「貝殻人間」はSFです。海から貝殻とともに上陸し、生きている人間とソックリで、本人の生活を乗っ取ってしまう貝殻人間が発生し、貝殻人間に人生を奪われた8人の男女が夜の海辺に集まり、それぞれの境遇を語り合うのですが、決して悲劇ばかりでなく、貝殻人間の保護活動の経験者がいたり、また、それまでの人生を捨てることにより、かえってよかったと感じる人もいたりします。山田詠美「ジョン&ジェーン」では、何度も死にたいと訴えるジョンを、バスタブに沈めて溺死させたジェーンが主人公です。ジェーンは良家の生まれなのに歌舞伎町のトー横で過ごすようになるのですが、ホストだったジョンとの出会い、そしてこういった結末に至る男女の刹那的な生き方に、『野菊の墓』などの文芸趣味をからませた語り口が印象的です。小川哲「猪田って誰?」は、高校を卒業して間もない若い男性が主人公で、「猪田の告別式、どうする?」というLINEが届いたのですが、猪田が誰なのかをサッパリ思い出せず、知り合いの間で連絡が回るばかり、という状況が、半ばコミカルに、半ばシリアスに語られます。中島京子「シスターフッドと鼠坂」は、夏休みに郷里である富山に帰省中の若い女性が主人公です。その帰省の機会に、祖母の澄江から母親である珠緒の出生の秘密を漏らされます。すなわち、母親の珠緒の実の母は祖母の澄江ではなく、東京に住む志桜里という女性であり、祖母の澄江と実の祖母である志桜里は学生時代からの親友であった、ということです。肉親、というか、家族の間の細やかな連帯や反目も含めた感情を見事に描き出しています。荻原浩「ああ美しき忖度の村」は、20年前に現在の村名となった忖度村の若手女性村議会議員の黒崎美鈴が主人公です。村名を決めた20年前と違って、悪い印象となったためイメージ向上委員会が構成されてメンバーとなります。ところが、ほかのメンバーが村の有力者の意向をうかがいながらの会議のために一向に進まないようすを、コミカルかつ軽快に風刺しています。タイトル作である原田ひ香「夏のカレー」は、葬儀から帰宅した主人公を待っていた冴子と主人公の半生の恋物語です。20歳で出会って、一度は結婚を約束しながら、また、何度も人生の節目で出会いと別れを繰り返しつつ、結局は結婚に至らなかった男女が60歳になった人生を振り返る切ないラブストーリーです。タイトル作になっているだけあって、収録短編の中でもっとも印象的な作品でした。宮島未奈「ガラケーレクイエム」は、20代後半の女性が主人公です。実家に帰省した折に、解約したつもりだったガラケーの契約がまだ続いていることを知り、充電したら受信メールがあり、その発信者である高校のころの同級生と会うことになります。最後に、武石勝義「煙景の彼方」は、両親が離婚したころに母方の祖父母の家で暮らすようになった小学生のころを回想する男性が主人公です。祖父が喫煙している時に煙草の煙の輪の中に見えるものがある、しかも、実態を伴っているという不思議な現象を主人公が結婚後に家族を持ってから体験します。繰り返しになりますが、統一したテーマのないアンソロジーです。でも、かなり著名な作者が並んでいますし、各短編作品はかなりいい出来です。特に、表題作の「夏のカレー」は読んでおいて損はないと思います。

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2024年11月22日 (金)

やや上昇率が縮小した10月の消費者物価指数(CPI)

本日、総務省統計局から10月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+2.8%から縮小し+2.4%を記録しています。久しぶりの上昇幅縮小です。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から30か月、すなわち、2年半の間続いています。ヘッドライン上昇率も+2.5%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.1%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の消費者物価、2.3%上昇 2カ月連続で伸び率縮小
総務省が22日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が108.8となり、前年同月と比べて2.3%上昇した。政府による電気・ガス代補助の再開でエネルギーの上昇幅が縮んだことなどから、2カ月連続で伸び率が縮小した。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.2%の上昇だった。
エネルギーの上昇幅は2.3%で、9月の6.0%から縮小した。政府が5月使用分までで止めていた電気・ガス代への補助を8月使用分から再開したことで、請求分が反映される9月、10月と2カ月連続でエネルギーの伸び率は鈍化した。
生鮮食品を除く食料は3.8%プラスだった。価格高騰が続くコメ類は58.9%上昇し、比較可能な1971年1月以降、過去最大の伸び率となった。
原材料価格の高騰でチョコレートなどの菓子類が5.0%プラス、オレンジジュースなど飲料が6.1%プラスと多くの品目で上昇した。生鮮果物でも、猛暑の影響で不作だったみかんが12.5%プラスと大幅に上昇した。
このほか、ルームエアコンが売れたことなどから家庭用耐久財が6.0%、地震や災害の増加による保険料改定に伴い火災・地震保険料が7.0%上昇した。下落が大きかったのは通信で、マイナス3.5%だった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.2%ということでしたので、実績の+2.3%はやや上振れた印象はあるものの大きなサプライズはありませんでした。品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、生鮮食品を除く食料の上昇が継続しています。すなわち、先月9月統計では前年同月比+3.1%、寄与度+0.73%であったのが、今月10月統計ではそれぞれ+3.8%、+0.92%と、さらに高い伸びと寄与度を示しています。次に、エネルギー価格については、4月統計から前年同月比で上昇に転じ、本日公表の10月統計では先月からやや上昇率は縮小したものの、+2.3%の高い上昇率となっていて、寄与度も+0.17%を示しています。特に、インフレを押し上げているのは電気代であり、寄与度は+0.13%に達しています。引用した記事で指摘されている通り、政府の「酷暑乗り切り緊急支援」による押し下げ効果が再開されて、先月から上昇率はこれでも縮小しています。なお、統計局のプレスリリースによれば、この緊急支援の寄与度は▲0.54%、うち電気代▲0.45%、都市ガス代▲0.09%、とそれぞれ試算されています。
多くのエコノミストが注目している食料について細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+3.8%、寄与度+0.92%に上ります。その食料の中で、コシヒカリを除くうるち米などの穀類が上昇率+60.3%ととてつもないインフレとなっていて、寄与度も+0.22%あります。さすがに一時の品薄感は解消されつつありますが、少し前までスーパーなどからコメが姿を消していたわけですし、今でも大きく値上げされているのは日常生活でも目にし、広く報道されているところかと思います。コメの値上がりの余波を受けて、外食のすしが上昇率+6.1%、寄与度+0.02%を記録しています。すしも含めた外食のカテゴリーでは、上昇率+2.9%、寄与度も+0.13%に上っています。豚肉などの肉類が上昇率+5.0%、寄与度も+0.13%あり、チョコレートなどの菓子類が上昇率+5.0%、寄与度+0.13%、果実ジュースなどの飲料も上昇率+6.1%、寄与度0.10%、焼豚などの調理食品が上昇率+1.8%、寄与度+0.07%、などなどとなっています。コアCPIの外数ながら、みかんなどの生鮮果物も上昇率+6.6%、寄与度+0.07%の寄与となっています。また、食料からコア財に目を転じると、引用した記事にもあるように、ルームエアコンなどの家庭用耐久財が上昇率+6.0%、寄与度+0.09%、うち、ルームエアコンだけでも上昇率+15.2%、寄与度+0.07%を示しています。サービスでは、外国パック旅行費の上昇率+75.6%、寄与度+0.17%を含めて教養娯楽サービス全体で上昇率+5.5%、寄与度が+0.29%、などとなっています。食料だけでなく、耐久財などのコア財、サービスまで幅広い値上がりが見られます。

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