夜、語る
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「アクロス・ザ・スパイダーバース」

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 公開時に観にいったのだが、寝不足状態で挑んだため、途中何度も寝落ちし、断片的にしかおぼえていなかった本作。今回アマプラにて配信開始ということで、ようやく完全な形で視聴したわけだが。こういう話だったのね。ようやく理解した。なるほど、これは各方面から賞賛されるわけだわ。よくできてる。
 とはいえそれでも正直、前半は少々退屈に感じてしまったんだが、中盤、並行世界にそれぞれ存在するスパイダーマンが無数に集まるスパイダー・ソサエティにて話が展開しだしてからは、本作のテーマが明らかになって、俄然おもしろくなってきた。あとはラストまで一気見。
 大切な人を失うか、それともその人を救う代わりにユニバースを崩壊の危機にさらすか、といった究極の選択をせまれることになる主人公マイルズ。それが避けられない運命であると知り、反抗した結果拘束、運命は自分の力で変えてみせるとばかりに単独逃げ出して、他のスパイダーマンたちにおわれることになるのだった。
 運命論とそれにあらがう人々といった、ありがちな話ではあるものの、そういうのが結局好きな私は結構熱い気持ちになりながら観てしまった。
 そしてあらためてすごいと感嘆してしまったのが、その革新的な映像だ。とくにスパイダーマンとスパイダーマン達による追走シーンはカラフルな色彩、様々なエフェクト、スピーディーな動きと、まさにビジュアルの洪水とでもいったかんじで、押し寄せる圧倒的なイメージの連続は、もはや狂気の域に達している。
 試したことは無論ないが、ドラッグできめていってしまった人が見ているイメージはこんなんじゃないかという感じで、まさにトリップ時の仮想体験を味わせてくれてなかなか刺激的だ。
 思えば私はこうした、あっちにいっちゃった感覚を求めて映画や音楽に接しているところがある。そうした意味でもその願望を満たしてくれた一本であるといっていいだろう。
 その結果、あっちの世界にいっちゃったまんまダークに終わるのもよい。というのも本作は三部作の二作目だからで、オチをつける必要がないからなのだ。次作の完結編も楽しみだけれど、そう考えるとありきたりな映画に落ち着いてしまうのでは、という危惧もある。それというのも現実にもどってこなければならないという都合上、家族愛とか友情とか、ありふれた最後にするしかないだろうから。

「DA・DI・DA」松任谷由実

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 1986年発売のユーミン、16枚目となるアルバム。前作から年末にアルバムを出すのが恒例となり、以降、出すごとにチャートのトップをとるのはもちろん、セールスもミリオンを越え、一躍邦楽ポップスの女王の座に君臨することになるのは、すでにご存知の通り。今作はその序章といっていいだろう。
 しかし私にとっては、手に取ることはなくなり、距離をとるようになるそのきっかけとなるアルバムだった。前作の「ノーサイド」からその兆候はあったのだが、一番の原因はそのサウンドが合わなくなってきたからである。クレジットをみればはっきりとしている。エンジニアとしてバーニー・グランドマンの参加。全てが彼によるものだとは言えない。内部の人間でない私にはわからないが、これ以降のサウンドが一変していることは、一聴すれば多くの人にはわかってもらえるのではないだろうか。
 それは当時英米ポップスではやっていたサウンド・デザインで、単刀直入に言ってしまえばナイル・ロジャースが作っていたような音、ということになる。エコーがきき、ドラムが大きく響いて、金属的で硬質で、そしてゴージャスなサウンド。これが当時の私は苦手で、ユーミンも聞かなくなり、いつしかすっかり疎遠になってしまったのだ。
 しかし味と同様、音の好みも年とともに変わるもので、あれほど嫌っていたそのサウンドがいつしか悪くないかも、となって、今では割と好きになっているのだから不思議なものだ。レコードで所持していた「ノーサイド」も今では好きだし。となるとスルーしてきた今作にも手をつけないわけにはいかない。
 そしてspotifyで一聴。聴き終えて感動している自分がいた。すごい。ユーミン(そして旦那である正隆氏)の底力をみたという感じ。とくに一曲目とラストの曲の印象が強いせいだろう、ロックなアルバムだなと思った。全体に勢い、力強さがあふれているのだ。
 それはユーミン夫妻がこの時点で、迷いをすて、j-ポップの頂点をとってやるという目標にその矛先を向けたからではないだろうか(そして実際その通りになるのだが)。そのために詞、曲、アレンジはいい意味で売れ線な明快なものになり、コンセプトははっきりとターゲットを働く女性、OLにしぼって、彼女らの日常を切り取り描写していくといったものになっている。ある女性は同棲を解消して家を出て、ある女性は素敵な恋愛を夢見つつ都会で働き、ある女性は傷つき後悔し、ある女性は別れから一人立ち上がり、といったさながら女性たちへの応援歌集のようだ。
 そんななかで引っかかったのは「バビロン」という曲だ。はなやかな都会で仕事に遊びに充実している朝帰りの女性を歌った内容なのだが、そうした生活も虚像の、幻のバビロンのように過ぎないと歌っているのだ。来るべきバブルの崩壊をすでに予見しているかのように。

「コップ・カー」

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 こちらもアマプラで鑑賞。主演がケビン・ベーコンで悪徳警官を演じているとなれば観ないわけにはいかない。生まれつきというのもあるのだろうが、生理的に嫌悪感をもよおすような役柄を演じるのがほんとにうまい役者だ。今作も絶妙に嫌な感じをかもしだしていて名演である。
 そんなケビン・ベーコンを観れるだけで本作はオッケー終わり。でもいいくらいだが、それではあれなんで。
 話は、家出少年ふたりとのちょっとしたいたずらから起こる悲喜劇、どこに転がりどう決着がつくのか先を予測できない展開で、コーエン兄弟を思わせるようなそんな仕上がり。何気なく見始めたものの、最後まで一気に観てしまった。
 見るからに低予算で、ケビン・ベーコン以外は知らない役者、舞台も非常に狭い範囲内にかぎられている、といった作りだけれども、ひねった脚本、演出力というアイディアの力でもっておもしろいものに仕上げている。ジョン・ワッツ、才能ある監督だ。
 実際このデビュー作は高く評価され、のちにトム・ホランド版のスパイダーマンの監督に抜擢され、成功をおさめることになる。そしてそれをふまえた上で今作を観ると、それらの映画にはみな共通な点があることに気づく。それは大人をなめてかかると大変な目にあう、というものである。
 通過儀礼がテーマといえばいいのか、いたいけな少年が、残酷で非常、不条理な大人の世界の洗礼をあびて大人になるというか。今作もまさにそんな感じで、洗礼というにはあまりに手痛い仕打ちをくらうことになるわけだが、そう考えれば、最後の明日なき暴走というか、ラストのパトカー失踪シーンが青春映画的なのも納得がいく。
 そう、ラストの子供達が運転するパトカー疾走シーンは胸にせまるものがあった。先に何も見えない闇の中を突っ走り、ついに街の灯りが見えてきて。絶望的な状況だけれども、かすかに希望がみえる。そこには監督の心情、本音がこめられているように思えたのだ。

「バーバリアン」

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 2023年公開のホラー・ムービー。ショート・ステイするために借りたレンタル・ハウスに女性主人公がおとずれるところから話は始まる。昨今の風潮らしく、ネット上で契約をすませキー解除のパスコードも教えてもらって、あとはお一人でご自由にどうぞということになっているそこは、行ってみると先に泊まっている男性がいた。どうやら管理会社の手違いがあったらしい。困惑する二人の借り手。しかし話し合いにより、とりあえず共に一泊することに。最初はいかにも怪しげな雰囲気を醸しだしていた男の方もしだいに好青年であることがわかり、一安心する女性主人公だったが、しかし。
 といった調子で、つかみがうまくテンポもいいのですぐに引き込まれてしまった。その後もじわじわと不安をあおるかと思えば、うまい具合にはぐらかして、といった展開で飽きない。そしてついに決定的な事件が起こってしまい、さてどうなるか、と思ったら主人公が替わり、別の視点から新たに話がはじまり、前の話とつながっていく、といった構成も好みだ。
 終わってみれば、割とよくあるタイプのストーリーではあるのだが、何だろう、ここ最近のホラー・ムービーに共通しているフレッシュな感覚というのか、映像もふくめてシャープでスマートな印象があり、よかった。陰惨な話なのに視聴後の印象も妙にいいというか、爽快なのだ。
 といったふうに、ここ最近、アメリカのホラー・ムービー界に新しい世代の波が来ている気がする。それらに共通しているのが先に述べたような、内容やテーマ自体はとくに目新しいものではないのだが、その見せ方だったり、雰囲気がフレッシュな若々しさがあって、作り手側の勢いというか、楽しんで作っているのが伝わってくるところ。それがおもしろさに繋がっている気がする。
 最近観たホラーのなかでは一押しである。

「M3GAN ミーガン」

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 両親を事故で亡くしてしまった少女のところにやってきた保育ロボット、ミーガン。しかし進化しすぎたその学習AIは、保護すべき対象の少女に過度な愛情を持つようになり、次第に暴走を始める。といったどこかで聞いたことのあるお話で、その後も実際予想通りの展開に。
 となれば重要なのは演出だったり、美術だったり、映画のルックになると思うのだが、今作はその点、AIロボットのミーガンの、かわいらしいけれども同時に不気味でもあるという、いわゆる不気味の谷と言われるギリギリの外観や性格づけをふくめた、しっかりとキャラクターを造形することで他と差異化をはかっている。そう、すでにキャラが立っているというか、ジェイソンやレザーフェイス、貞子といったホラーアイコンとして完成されているのだ。
 最初は従順だったミーガンがしだいに知恵をつけ増長し、狡賢くなっていくあたりも、お約束の展開ながらも楽しいし、そしてなんといっても見どころはミーガンによるバイオレンス・シーンだ。主人を守るためという名目のもと、危害をくわえた相手にたいする報復、それがヒートアップしていく様はおもしろい。あげくの果てはどうしてこいつを殺す必要があるのだろう? という相手にまで無駄に残酷な方法で殺戮しだして、ここまでいくともはや笑うしかない。
 というか本作、怖いというよりはブラック・ユーモア、ギャグ映画として、みんなでワイワイとツッコミながら楽しむ映画なのだ。ラスト、完全にミーガンがターミネーター化してしまうあたり、製作者側もそのつもりで作っているとしか思えないし。
 むずかしく考えず、気楽に楽しめる良質なB級映画だった。
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