never too late
「京都寺町三条のホームズ」 望月麻衣 イラストレーション ヤマウチシズ
京都の寺町三条商店街にたたずむ骨董品店『蔵』。高校二年生の真城葵は埼玉県大宮市から京都に引っ越してきて七ヶ月。なんとしても埼玉に帰りたかった彼女は新幹線代を工面するために、死んだ祖父が集めていた掛け軸を二つ、『蔵』に持ち込みます。店主の息子、家頭清貴が白隠慧鶴の禅画、達磨図につけた値段は250万、赤子の絵には値段がつけられないという。
「何か、あったのですか?」
「先月、付き合っている彼に、もう別れようって言われたんです」(p.26)
『今の時代、ネットでもなんでもつながってるから、遠距離なんて問題ねぇよ。俺、絶対京都の大学に行くから』 離れる時は、そう言ってくれたのに。(p.27)
「そうですか、それで、飛んで帰りたくなったと」(p.28)
「葵さん、もし良かったら、ここで働きませんか?」(p.31)
そんなこんなで、家頭清貴と知り合った葵は骨董品『蔵』でアルバイトを始めることになります。
清貴は、物腰が柔らかいが恐ろしく勘が鋭く、『寺町のホームズ』と呼ばれていました。葵は清貴とともに、客から持ち込まれる、骨董品にまつわる様々な依頼を受けます。
序章 『ホームズと白隠禅師』
第一章『願わくば桜の下にて』
第二章『葵の頃に』
第三章『百万遍の願い』
第四章『鞍馬山荘遺品事件簿』
第五章『祭りのあとに』
初めての望月麻衣作品と思い込んで読み始めたのですが、以前に読んだことがありました。前に読んだのがいつだったか全く覚えていませんが、読むのが二度目でも内容を楽しむことができました。読書をしていると、こんなことが何度かあります。
「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ 扉子たちと継がれる道」 三上 延 イラスト 越島はぐ
巻を追って読み進めるほどに、物語の内容に深みが出てきて、感動的な仕上がりになってきました。智恵子、栞子、扉子三世代の物語という強みが、かなり出てきたようです。『ビブリア古書堂の事件手帖』で既に発刊されているのは本巻までのみ。次巻の発売予定日は2026年3月。ますます次巻の発売が待ち遠しくなってきました。
まだ梅雨の始まらない五月の終わり。鎌倉有数の資産家から招待を受けた、よく似た顔立ちだが世代の異なる三人の女性、篠川智恵子、栞子、扉子が一堂に会した。
プロローグ
第一話 令和編『鶉籠』
第二話 昭和編『道草』
第三話 平成編『吾輩ハ猫デアル』
エピローグ
鎌倉の文士たちが立ち上げた貸本屋「鎌倉文庫」。千冊あったといわれる貸出本だが、発見されたのはわずか数冊。夏目漱石の初版本も含まれているという残りの本はどこへ行ったのか。その行方を捜す篠川家三代の女性たち。物語は昭和から始まり、平成、令和のビブリア古書堂の娘たちに受け継がれていく。十七歳の「本の虫」三者三様の古書に纏わる物語。
第一話は扉子の友人・樋口恭一郎の視点で扉子が、第二話は二十歳になる篠川登の視点で智恵子が、第三話は父親となった篠川登の視点で栞子が描かれます。そして大団円、感動的な結末を迎えます。
「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ 扉子と虚ろな夢」 三上 延 イラスト 越島はぐ
春先の小糠雨が音もなく降り注ぐ北鎌倉。古書に纏わる特別な相談を請け負うビブリア古書堂に新たな依頼人が現れた。
ある古書店の跡取り息子・杉尾康明の死により残された約千冊の蔵書。高校生になる少年・樋口恭一郎が相続するはずだった形見の本を、古書店の主でもある彼の祖父・杉尾正臣が、すべて売り払おうとしているという。不可解さを抱えながらも、ビブリア古書堂も出店する即売会場で説得を試みる店主たち。
偶然、この依頼を耳にした栞子の娘・扉子もまた、謎へと近づいていく。
プロローグ・五日前
初日・映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』
間章一・五日前
二日目・樋口一葉『通俗書簡文』
間章・半年前
最終日・夢野久作『ドグラ・マグラ』
エピローグ・一ヶ月後
物語が大きく動き始めるのは「間章・半年前」(p.172)から。
巻末まで息をもつかせぬ展開。こんな気持ちにさせる小説というのは、まことに読書冥利に尽きます。今回のテーマは、「最終日」の章でいったん締めくくられるものの、本巻の「エピローグ」で描かれるのは篠川智恵子の遠大な計画。第4巻を読むのはこれからですが、第5巻の発売予定日は2026年3月の予定とか。『ビブリア古書堂の事件手帖』はまだまだ続きそうですね。
「狼と香辛料 24 Spring Log Ⅶ」 支倉凍砂 illustration 文倉 十
Spring Log 初めての長編。
どんなことでも二人なら、たとえ寂しくても、つまらなくても、苦しいことでさえも、すべてが今を生きていることの証になるから。(p.45)
ミューリとコルの足取りを追いかけて旅を続ける賢狼ホロと元行商人ロレンス。
ロレンスが自分たちのテーブル脇に人の気配を感じて顔を上げると、薄い帽子を手に握り締めた農夫風の男が笑顔を見せていた。
「クラフト・ロレンス様と、その奥様とお見受けしますが」
ロレンスが阻止した、サロニアでの木材商人たちの関税引き下げ交渉が、予期せぬ波紋を起こしているという。サロニアを通過する木材の関税が下がれば、港町カーランはそれだけ安い木材を仕入れられるはずだったのに、その計画が崩れた結果、彼らはかねてより目をつけていたトーネブルク領の森林を切り開くようにと、領主に詰め寄ってきたという。
農夫風の男は、このままでは「貴重な森が失われる」と危惧を抱いた、トーネブルクに使える森林監督官だった。
トーネブルク領の未来を思い森を切り開く決断をした領主と先祖代々の森を守りたい領民。その両者を気遣うホロを悲しませないために、ロレンスは皆が納得する妙案を練ろうとする。しかしそんな中、木材取引の相手、港町カーランの背後にエーブ・ボランがいることが明らかになる。
ロレンスが辿り着いた結論は、
「毛織物の縮絨」
「羊毛を糸に紡ぎ、布にして、縮絨で仕上げをするのは、水を豊富に抱えている土地だけの特権」(p.254)
本巻の初版発行は2023年1月10日。25巻の発売日は未定ですが、『狼と香辛料』はまだまだ続きそうですね。
「狼と香辛料 23 Spring Log Ⅵ」 支倉凍砂 illustration 文倉 十
人心荒むサロニアに、風変わりな一組の旅の夫婦が現れた。
夫は一介の元行商人だと名乗るが、サロニアに来る前には呪われた山と呼ばれる土地の謎を解明し、デバウ商会に高値で売ってみせたという。その凄腕の元行商人は、この地サロニアで町中の人々が抱えていた借金を、銅貨一枚も使わずに消してしまったのである。(p.13)
年代記に語り継がれるほどの活躍で、借金に悩むサロニアを救ったロレンスとホロ。立て続けに大きな問題を解決したロレンスに持ち込まれたのは、サロニア近郊の土地と領主権を買い取らないか、つまり貴族にならないかという提案でした。
どこかきな臭さを覚えるホロとエルサが調べてみると、それは大蛇の伝説が残る、いわくつきの土地でした。心なしか、大蛇伝説の真偽に勝算を目論むロレンスがエルサとホロ、栗鼠の化身ターニャを荷馬車に乗せて、くだんの土地へ向かいます。
あとがきによると本巻は一年九ヶ月ぶりの『狼と香辛料』とか。本編シリーズの頃と比べると、ロレンスとホロ、お互いに相手を思いやる気持ちの高まりが如実に表現されます。月並な表現ですが、悲しみを共有できることもまた、楽しみの一つなのです。