kiriの【R18】BL小説置き場:彼らの日常 9
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「●洋平と明良☆番外編」
彼らの日常

彼らの日常 9

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「行ってらっしゃい」

二人で伴って、園まで子供たちを送る。
元気に園に入って行く子供たちを見送り、二人で車に向かった。

「おはようございます」

声をかけられて振り返ると、ちぃちゃんのお父さんの羽山さんが車から顔を出していた。
わざわざ車から降りて、羽山さんが頭をペコリと下げた。

「おはようございます。彩良がお誕生日会、楽しみにしてます」
「子供にとっては、年に一度の大イベントですからね」

ニコニコとした羽山は祖父の代からこの幼稚園の理事長をしていて、いつも朝に子供を送ってはこうして周りに声をかける。

「お招き、ありがとうございます」

オープンして間もない頃に来店してくれてから、何度も訪れてくれた羽山に洋平もニコニコしてそういった。
完全予約制になっても、きちんと予約してくれる。

「篠原さんのお店で食べた鶏肉の骨付き、何だったかな……」
「カチャトーラ?」
「あ!! それです、それ! あれホント旨くて忘れられません」
「光栄です」
「次は何が出てくるか、三か月後が楽しみで楽しみで」

本当に嬉しそうな顔に、洋平も明良も嬉しくなる。

羽山はこの地域では、何世代にも渡って根付いてきた有力者ともいえる人だ。
明良の父と羽山の父が懇意にしていて、その繋がりもあって声をかけてくれたのが始まり。
日陰の存在ではあったが、知る人は知っていたのだと今になって知った。

羽山が入園式の挨拶で、最初に言った言葉が印象的だった。

――言葉の毒。

「子供に、毒を飲ませるのも、鼓膜に響かせて耳から心に届けるのも私たち大人の責任です」

園の理念のようで、先生方も子供たちの言葉には気を配っている様子だ。

言葉の毒……か。
自分が思春期の頃、一番浴びせた相手が今も傍にいてくれている。

酷いこと言ったよな、俺。
遠い記憶にチクりとしながらも、毒を浴びた本人はそれでもめげずに追いかけてきていたのも思い出す。
もしかして毒を浴びすぎて、耐性ついたのか?

あの頃は本気で鬱陶しいと思ったこともあったが、今じゃそういう部分も好き……なんだよな。
そう思いながら、羽山と話しをしている洋平を横目で見た。

「美味しい物を食べるのは、人生の最大の幸せですね」

五分ほど立ち話をして、羽山は最後にそう言って帰って行った。

「さ、朝デート行こう」
「うん」

*

二人でモーニングを食べてから、リカーショップへと足を運ぶ。

「懐かしいな~」

洋平が嬉しそうに、店の看板を見上げる。
それに反して、明良は当時の切なさが胸を過った。

あの当時は、ずっと洋平と一緒にいるなんて思っていなかったし、終わることばかり考えていた。
流されるように付き合い始めたのに、洋平と一緒にいる温度が凄く心地良かった分、怖かったんだよな。

「明良さん?」

当時と同じように邪気なく顔を見てくる洋平に何だか可笑しくて、フッと笑う。

「お前って、何も変わらないな」
「え?」

プィッと前を向き、さっさと店に向かう自分の後を追いかけてくる足音に、また可笑しくなった。

二人とも未熟だったあの頃を、切なさと一緒に愛しくも思えるような自分がいた。

*

店内を見ながら、洋平は立ち止まってはじっくりと生産地なやら何やらを見る。

「お前、店の仕込みあるだろ」
「うん」

生返事をしながらボトルを翳して真剣に見てる。

店のワインや酒類は発注して仕入れているのに、仕事柄なんだろう。

「今日、明良さんも久しぶりに店で食べるしね」
「あぁ」

今日は明良も一緒に予約をしている。
もちろん、ちゃんと自分の分のお金も支払う。

「明良さん、これ一緒に飲もう」
「いいよ」

気になるのをカートにどんどん入れていく。

そしてまたブラブラと店内を見て、ガラスケースの前で止まった。

「あの頃は、ここの酒は高くて手が出なかったな」
「あぁ」
「やっと、手が出る」

ニッと笑って、店員を呼んだ。

*

洋平が家に帰ってワインセラーの棚に買ったのを並べ、ガラスケースから買ったワインと洋酒をじっくりと眺めてボトルを大事に布で拭く。

「これ、クリスマスに飲もう」
「桔平がはしゃいで割れないとこに置いとかないと」

小さな子供がいると、色んなことに気を回す。
テーブルの角や、割れやすい物を置かないことなど、危険なことを最優先で考える。

「あいつモンスターだからな」

洋平が笑いながら、キッチンの下の棚の中にしまった。

明良が掃除機を取り出し、掃除を始める。
洋平は昼ご飯の下ごしらえ。

家事も、ずっと二人で分担してきたことだ。

*

「いらっしゃいませ」

予約の一番最後のターンに、時間差で客が入ってくる。

「篠原さん! お久しぶりです」

「お待ちしておりました」
「こんばんは」

二人連れでカウンター超しに、厨房の洋平と挨拶を交わす。

「水埜様、多治見様。ようこそご来店下さいました。こちらへどうぞ」

挨拶をして、岸本がテーブルへと案内した。


戻ってきた岸本は内線で明良を呼ぶ。

「明良さん。来店されました」
「ありがとう。すぐ行く」

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