09/08/18
俺はある機械メーカの技術者なんだけど、うちの機械は世界各国の工場でも使われている。
で、すえ付けや調整、指導なんかで1ヵ月ほどそこに出張というのが年に1、2回あった。
これは最近、近所の大国へ行ったときの話なんだ。
機械を買ってくれた工場は、発展している沿岸部からそう遠くない所にあった。でもすんごい田舎で、大きな工場の周りにはほとんど何もないような所だった。
工場は昔の国有工場で、数年前に台湾の会社との合弁会社になり、設備投資を始めたんだ。
その台湾の会社から、管理職や技術者が数人来ていて、王さんという技術者が日本語ぺらぺらで、俺の通訳や世話をしてくれた。
その王さんから、
「1人で工場の外へは出ないように」
と言われていた。
なぜかと聞くと、
「外へ出ても何もない。田舎だし、外国人に対するマナーもない。言葉も通じないし、迷子になったらタイヘン」
という答えで、まるで監視するかのように朝食から寝るまで、びったり俺に付いていた。
夕食後に散歩に出ようよ、と言っても
「何もないです」
と絶対ウンと言わない。
俺の歓迎会と、週末の食事と買い物に、車で15分くらいの町へ台湾人達と出かけるだけ。お国柄的に、外国人が行ってはいけない秘密施設でもあんのか?と思ったくらい。
確かにゲストハウス用の食堂で3食食べられるし、商品に難があるが売店もあり、外へ出る必要がなかったんだが。
それまでいろんな所へ行ったが、どんな所でも町の様子をぶらぶら見るのは楽しいものだったし、ここでもそうできると思ってたんだ。
2週目の土曜になると、相当退屈になってきた。王さんも俺のお守りに疲れてきたみたいだった。
昼食時、
「今日の午後はたっぷり昼寝するよ。王さんも休んでくれ。夕食時にまたな。」
と言うと王さんはちょっとホッとした感じで、
「わかった。ゆっくり休んでいてください。」
と自室へ帰った。
それで俺は、工場の周りを散歩することにした。退屈しのぎになるかと思ってね。まあ秘密施設があったら怖いが、何か見かけたら戻ればいいし、くらいに考えてた。
門まで来たら、守衛が俺に向かって何か言ったが、当然、全くわからない。守衛の舌打ちを無視して、俺は外へでた。
外出は車ばかりだったし、注意して見てなかったが門の向かいや左右に、工員向けのよろず屋みたいなのと、食堂が数軒。
真ん中だけ舗装されているホコリっぽい道を歩き出した。
畑とポツポツと古い家があるだけで、ほんとに何もない…引き返そうかという時、畑横の1軒の朽ちかけた家の中から、ガサガサッという音が聞こえた。
え?ここに人が住んでるの?屋根も壁もボロボロだし、窓にガラスも入ってない。もしかして野犬?こっちは狂犬病が多いと聞いていたのを思い出し、とたんに怖くなった。
すると
「ぐぅぇぇ…」
という声が家の中から聞こえた。