ノラネコの呑んで観るシネマ ラストマイル・・・・・評価額1700円
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ラストマイル・・・・・評価額1700円
2024年08月27日 (火) | 編集 |
これは、私たちの物語。

人気テレビドラマ「MIU404」「アンナチュラル」の脚本・野木亜希子、監督・塚原あゆ子が、両作と同じ世界線で描くミステリ。
11月のブラックフライデー直前、Amazonぽいというか限りなくAmazonな外資系ECモール、Daily Fast社、通称デリファス から配送された荷物が、次々と爆発する事件が起こる。
巨大なデリファス倉庫の関東センターでは800人の派遣社員が働き、配送を担当する運送会社、さらに個人で配送を請け負う末端の委託ドライバーまで関係する人や組織は膨大。
一体、いつ何処で荷物の中身が爆弾に入れ替わったのか?犯人の目的は何か?
主人公の新任の関東センター長、舟渡エレナを満島ひかり、部下の梨本孔を岡田将生が演じ、運送会社・羊急便の担当者に阿部サダヲ、デリファス日本支社の上司にディーン・フジオカ、羊急便の委託ドライバーに火野正平と宇野祥平。
そして「MIU404」「アンナチュラル」から星野源、綾野剛、石原さとみ、井浦新、窪田正孝、大倉孝二、酒向芳らがドラマと同一キャラクターで登場する。
オールスターキャストが織りなす、豪華な夏休み大作だ。
※核心部分に触れています。

11月、ホリデーシーズンセールの開幕を告げる、“ブラック・フライデー”の前日。
世界規模の巨大ECモール、デリファスから配送された荷物が爆発する事件が起こる。
デリファス商品の関東一円への配送を担う、関東センター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、突然の事態に戸惑いながらも、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に事態収集にあたる。
しかし、デリファスから出荷された荷物が相次いで爆発し、一つの爆弾事件は連続爆破テロへと急展開。
刑事の毛利(大倉孝二)と刈谷(酒向芳)が関東センターにやって来るが、管理体制は厳重で、一体どうやって荷物と爆弾が入れ替わったのか謎のまま。
捜査が難航する中、爆弾の数は12個だと予告するデリファスの偽CMがネット上で見つかる。
五つはすでに爆発し、残る爆弾は七個。
エレナは警察の要求に応じて、出荷する全商品に対するX線検査を受け入れるのだが、出荷の遅れとブラック・フライデーが重なり、物流網は大混乱に陥る。
実はこの事態を招いたのは、5年前に起こったある事件だった・・・・


いやあ面白い、冒頭から一気に引き込まれた。
「マトリックス」を思わせる、0と1で出来た無数の数列が都市の形を描き出し、血管のような光の線が走る。
やがてサイバー空間から現実へと移行すると、カメラは軽トラックに乗った宅配便の委託ドライバーの親子を映し出す。
本作の世界観を象徴するような、秀逸なオープニングだ。
野木亜希子のストーリー、塚原あゆ子のテリング、同世代の二人のクリエイターによる、映画の両輪が絶妙に調和。
巨大な配送センターを中心に網の目のように広がる物流網に、現代日本の問題を凝縮した様な社会派エンタメとなった。

コロナ禍の引きこもりを経験した2020年代の今、一度も宅配を利用したことのない人は日本中見渡しても殆どいないだろう。
クリック一つで自宅まで届けてくれる宅配は、日本人にとって極めて身近なものであり、既になくてはならない生活インフラだ。
それゆえに、届いた荷物が爆弾だったら?という決してあり得なくない設定が恐ろしい。
なるほど、爆弾をばら撒いて無差別テロを起こそうと思ったら、偽名でも使って適当に宅配便で送ればいいのだが、本作の場合はECモールから届けられたというのがポイント。
もし無差別テロだとすると、なぜわざわざワンステップを踏んだ、ECモールからなのか。

ECモールを運営しているのは各国の巨大企業で、本作のデリファスの場合は米国企業の設定。
本社のファーストプライオリティは、売上を伸ばし、株主のために株価を上げること。
そのために展開する各国に置かれた拠点が配送センターで、本作の主人公のエレナはここのセンター長。
彼女に与えられた任務は、わずか9人しかいない正社員を率いて、800人もの非正規派遣社員をコントロールし、常に稼働率を維持し続けること。
言い換えれば、荷物を運ぶベルトコンベアーを絶対に止めないこと

配送センターはいわば全身に血液を送り出す心臓で、ここから出荷された商品は、運送会社の中継センターへと運ばれ、そこから最寄りの営業所に、最終的に宛先の住所に届けられるのだが、この最終段階を指す物流業界の用語が、本作のタイトルのもとにもなっている“last one mile”だ。
この最後の1マイル(1.6キロ)が現在の物流業界でもっとも競争が激しく、問題点が多く現れているところだという。
本作では火野正平と宇野祥平が演じる、委託ドライバーの親子の様に、私たちの家に商品を届けてくれる配達員たちが従事しているところこそ“last one mile”なのだ。
過当な競争、人手不足、増え続ける荷物、安過ぎる報酬。
しかし、指先の毛細血管の声は心臓には届かず、彼らは劣悪な労働環境で働くことを余儀なくされている。

塚原あゆ子は、トラック、ベルトコンベアー、そして人が休みなく動き続ける様を描写してゆく。
エレナと孔の会話で、2年前に転職してきた孔は関東センターではすでに古参だが、それでも前の職場よりはマシという会話がある。
長くても数年で、殆どの人が離職する職場が、どんなものなのかは想像がつく。
爆弾事件という予期せぬ事態にあって、企業幹部であるエレナは必ずしも感情移入キャラクターではない
警察への協力は当初は渋り気味だし、ネットで爆弾の数を12個だと予告する偽CMが見つかった際には、あろうことかアメリカの株式市場が開くまで隠蔽しようとする。
でも誰も彼女を責められない。
物流という血液で動かされているこの社会では、誰もが一つの細胞に過ぎず、逆らうことは許されないのである。

爆弾事件を起こした真犯人は、ある意味でこの冷徹なシステムが生み出した、歪みそのものと言えるかも知れない。
愛した恋人は元関東センターの社員で、真面目な性格ゆえに心を病んで自殺未遂を起こし、5年間も植物状態。
だが、彼を死の淵に追いやった巨大なシステムは、全く改善されることなく動き続け、彼女の声に耳を傾ける者はいない。
怒りや後悔に苛まれ、元凶である巨大企業とその心臓である配送センターを止めるため、捨て身の爆弾テロを企てる。
犯人探しのミステリを紐解いてゆくと、見えて来たのは中央を肥え太らせるため、末端に行けば行くほど搾取される資本主義の悲しい現実だった。

まあこう書いてしまうと、まるで陰鬱な映画の様に思えるが、ハードコアなテーマを持ちながら、エンターテイメント性に優れた脚本と、リズミカルでスピーディな演出、そしてややアンバランスな人物像ながら、パワフルな演技でグイグイ引っ張る満島姐さんのおかげで、本作はものすごく面白いのである。
エレナと孔の対照的なキャラクターの探偵コンビが、事件の真相に辿り着くと、エレナは事件が起こるまでの重要な局面に自分がいたことを知る。
そして真犯人の情念を慮った彼女は、ついに物言わぬ細胞でいることをやめる決意をする
本作は登場人物が非常に多いのだが、システムの心臓停止という非常事態の中で、それぞれが新しい経験をすることで、システムを少しだけ変えてゆく。
でも決して大きくは変わらないところが、物語のリアリティ。
物語の構成要素も、過去に報道されたいくつもの実際の案件が盛り込まれており、日本社会で普通に生きている者なら、誰もが「ああ、こういうことあるよね」と思うだろう。
本作は、ECモールと物流という身近だけど普段意識することのない社会インフラをモチーフに、エンタメ性と社会的テーマ性をハイレベルで融合させた力作といえる。
止まらないベルトコンベアーのリズミカルな機械音が、重い問いかけと共に耳に残る。

ウリであるシェアードユニバースの「MIU404」と「アンナチュラル」とのリンクは、大倉孝二と酒向芳の刑事コンビ以外は、一見さんが観たら端役なのにやたら役者が豪華で、細部を妙に引っ張るな?という程度。
それでもそれぞれのポジションから本筋にしっかり食い込んでくるので、バランスとしてはこのくらいでちょうどいいと思う。

今回は、満島姐さんが登場する時のド派手なコートの色から、「オレンジ・ブロッサム」をチョイス。
ビフィーター ・ジン45mlとオレンジ・ジュース適量を、氷を入れたタンブラーに注いで、軽くかき混ぜ、最後にスライスしたオレンジを飾って完成。
名前の通りオレンジ色の華やかなカクテルで、ジンの風味が爽やかだ。
材料が二つだけで、作り方も簡単。
甘すぎず、辛すぎず、本作同様にバランスの良さを感じさせる一杯だ。

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コメント
この記事へのコメント
ふと思ったけど、植物状態の彼が奇跡的に回復したところで、彼女の事件を知ったら「ラストマイル 延長戦」が作れるな。
2024/08/30(金) 04:40:49 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
それは悲惨すぎて、もう映画にならない気がする(ーー;)
満島姐さんも辞めちゃったし、この話の続きはないな。
2024/09/02(月) 21:30:22 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは。
>届いた荷物が爆弾だったら?という決してあり得なくない設定が恐ろしい。
自分が注文した荷物ですからね。ただ現物を見ていないわけですからありえなくもないわけで、ホント怖いです。
>システムを少しだけ変えてゆく。
>でも決して大きくは変わらないところが、物語のリアリティ。
たった20円かされど20円か。でも現実はこういう感じですよね。最低賃金を上げることに胸を張りながら、〇〇〇万の壁とか見直しをしない何処ぞの政府に似ています(苦笑)。
社会の仕組みに問題を投げかけながらミステリーに、そしてエンタメに仕立てた野木亜希子・塚原あゆ子の手腕がお見事です。
2024/09/05(木) 17:56:46 | URL | sannkeneko #0TWQBzwk[ 編集]
こんばんは
sannkeneko
野木亜希子の特徴が、エンタメ性と社会性の絶妙なバランスですね。
本作はこれが良い感じで表現されていました。
20円の値上げってところにリアリティがあるんですよねえ、残念ながら。
2024/09/17(火) 21:50:19 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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