似鳥鶏『小説の小説』
2023/05/03 Wed. 07:42:10 edit
似鳥鶏『小説の小説』
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注意:この作品を読むとき、「常識」は捨ててください。
本格ミステリ界にその名を轟かせる似鳥鶏の新境地は、“メタ・フィクション”!
私たちの知る「小説」は、様々な「決まりごと」の上に成り立っている。
無意識下の常識を逆手に取った、ルール無用の超次元小説!
▼各話紹介▼
「立体的な藪」……いつものように殺人に出くわしてしまった名探偵。華麗な活躍で事件が解決したはずだったそのとき、思わぬ“伏兵”が推理を始め――!?
「文化が違う」……異世界転生し、チート能力で無双する。誰もが夢見るシチュエーションで、最大の敵は、言葉の“イメージ”だった!!
「無小説」……「小説」とは何か、「書く」とは何か。創作の限界に挑む、禁断の×××小説!
「曰本最後の小説」……新法が成立し、検閲が合法化された「曰本」。表現の自由が脅かされる中、小説家の渦良は、あらゆる手を尽くして作品を書き続ける。
あまりに凄いのでもう少し内容を紹介させてください。
「立体的な藪」
これは”真相は藪の中”という言い回しの元となった芥川龍之介の「藪の中」の藪だろうか。
事件が起こり、名探偵が謎を解く。しかしその答えが正しいかは作品内の登場人物は判断できないという後期クイーン問題をテーマに凄まじい展開をしていきます。
結局最後に発言したので名探偵の推理は正しい(と判断している)、というルールを「()でくくられ、しかも頭に※がついた地の文」が否定する。「()でくくられ、しかも頭に※がついた地の文」は、神の視点である「()でくくられ、しかも頭に※がついた地の文」こそが正しいと主張するのです。
さらにはルビが本文とは違う内容を独自に語り出し、本文より上位の存在であるルビこそが真実を語れる、と主張します。例えば「筋肉」と書いても「たましい」とルビを振れば、その「筋肉」は「たましい」と読まなければならない等と本文より上位にあるという理屈です。
とここまでルビが主張しだすと今度は「注記」が違うと語り出す。本文と完全に独立した存在であり、ルビを含む本文を訂正する権限を持つ。よって注記による真相こそが絶対に覆されようもない本当の真相である、と。
まさに立体的な藪の中にいるような内容です。
本作品メタ小説ではありますが視覚的効果(ルビの部分)もあり実験小説という呼び名を思い起こさせます。
「文化が違う」
異世界へ飛ばされた男の冒険記。助けてくれた美少女の名がマッスルゴリラ=ウンコナゲル、という事で「文化が違う」
最高級料理(素材?)の名がウンコであり、紛らわしい記述を繰り広げるが、主人公の男が、筒井康隆の小説にこんなのがあったなと思い出すように、これは筒井康隆先生の「最高級有機質肥料」へのオマージュ作品でもあります。
「無小説」
どこかで読んだようなから文章で始まる小説で、文章の区切りに*1と注釈番号があります。ページ末の*1には”夏目漱石『坊ちゃん』より”とあり、以降作品を変え延々とこの引用パターンが続いていきます。ラストはこの小説は楽しようと始めたがむしろ時間がかかるという作者のボヤキになっていますが、このボヤキでさえ単語単位に細分化され何かの作品からの引用となっており、並んだ注釈番号の羅列に圧倒されます。
「曰本最後の小説」
改憲により表現の自由が奪われていく世界での小説家と編集者の抵抗を描きます。
まずは改憲に至る流れの描写がリアルで恐ろしい。
・改憲案の危険性がテレビで報じられたことはほとんどないという現状の中、
・告示から投票までの間どのチャンネルでも20分に一回はCMでネットでは広告バナーに常時「改憲が必要です」が流れ続け、
・改憲に賛成する側は「新しい時代に新しい憲法を」とひたすら抽象的に叫び
・国民的人気のコメディアンが「前に進むために改憲が必要です」と拳をにぎり、
・アイドルグループが「憲法改正で一つ先へ」と声を揃え
・清純派俳優が「権利には義務が伴います」と訴え、
・なぜ必要なのかという具体的な説明は全くなく
・投票期間中テレビは投票についてはほとんど触れなかった。
・そして国民の多数派は、理屈からいえば「今存在する自由が減る」だけで何も得るものがない、損しかしない筈の改憲案に賛成した。皆「よく分からなかった」のである。
作者は改憲反対派側の敗因理由も並べますがこれもリアルです。
・心の底では「よく分からない」と思っている層を馬鹿にしており、
・いかに危険か平易な言葉で噛み砕いた説明をせず、
・馬鹿正直に「必ず検閲が始まるとは限らないが」などと学術的に嘘のない説明に終始した。
この後の流れは非常に恐ろしく、
・溜まった不満は政治家や富裕層に向かず、はけ口として周囲の「反日」に向かい密告という形の弱いものいじめを正当化し狩りに精を出す。
このような世界で小説家と編集者は検閲にひっからないようにいろいろな策をねりますが・・・。
軽い気持ちで読み初め強烈なパンチを浴びせられました。
似鳥鶏さんのようにユーモア小説のテイで重い問題を扱うという手法は有効ですね。
2023年5月3日憲法記念日に記す。
注意:この作品を読むとき、「常識」は捨ててください。
本格ミステリ界にその名を轟かせる似鳥鶏の新境地は、“メタ・フィクション”!
私たちの知る「小説」は、様々な「決まりごと」の上に成り立っている。
無意識下の常識を逆手に取った、ルール無用の超次元小説!
▼各話紹介▼
「立体的な藪」……いつものように殺人に出くわしてしまった名探偵。華麗な活躍で事件が解決したはずだったそのとき、思わぬ“伏兵”が推理を始め――!?
「文化が違う」……異世界転生し、チート能力で無双する。誰もが夢見るシチュエーションで、最大の敵は、言葉の“イメージ”だった!!
「無小説」……「小説」とは何か、「書く」とは何か。創作の限界に挑む、禁断の×××小説!
「曰本最後の小説」……新法が成立し、検閲が合法化された「曰本」。表現の自由が脅かされる中、小説家の渦良は、あらゆる手を尽くして作品を書き続ける。
あまりに凄いのでもう少し内容を紹介させてください。
「立体的な藪」
これは”真相は藪の中”という言い回しの元となった芥川龍之介の「藪の中」の藪だろうか。
事件が起こり、名探偵が謎を解く。しかしその答えが正しいかは作品内の登場人物は判断できないという後期クイーン問題をテーマに凄まじい展開をしていきます。
結局最後に発言したので名探偵の推理は正しい(と判断している)、というルールを「()でくくられ、しかも頭に※がついた地の文」が否定する。「()でくくられ、しかも頭に※がついた地の文」は、神の視点である「()でくくられ、しかも頭に※がついた地の文」こそが正しいと主張するのです。
さらにはルビが本文とは違う内容を独自に語り出し、本文より上位の存在であるルビこそが真実を語れる、と主張します。例えば「筋肉」と書いても「たましい」とルビを振れば、その「筋肉」は「たましい」と読まなければならない等と本文より上位にあるという理屈です。
とここまでルビが主張しだすと今度は「注記」が違うと語り出す。本文と完全に独立した存在であり、ルビを含む本文を訂正する権限を持つ。よって注記による真相こそが絶対に覆されようもない本当の真相である、と。
まさに立体的な藪の中にいるような内容です。
本作品メタ小説ではありますが視覚的効果(ルビの部分)もあり実験小説という呼び名を思い起こさせます。
「文化が違う」
異世界へ飛ばされた男の冒険記。助けてくれた美少女の名がマッスルゴリラ=ウンコナゲル、という事で「文化が違う」
最高級料理(素材?)の名がウンコであり、紛らわしい記述を繰り広げるが、主人公の男が、筒井康隆の小説にこんなのがあったなと思い出すように、これは筒井康隆先生の「最高級有機質肥料」へのオマージュ作品でもあります。
「無小説」
どこかで読んだようなから文章で始まる小説で、文章の区切りに*1と注釈番号があります。ページ末の*1には”夏目漱石『坊ちゃん』より”とあり、以降作品を変え延々とこの引用パターンが続いていきます。ラストはこの小説は楽しようと始めたがむしろ時間がかかるという作者のボヤキになっていますが、このボヤキでさえ単語単位に細分化され何かの作品からの引用となっており、並んだ注釈番号の羅列に圧倒されます。
「曰本最後の小説」
改憲により表現の自由が奪われていく世界での小説家と編集者の抵抗を描きます。
まずは改憲に至る流れの描写がリアルで恐ろしい。
・改憲案の危険性がテレビで報じられたことはほとんどないという現状の中、
・告示から投票までの間どのチャンネルでも20分に一回はCMでネットでは広告バナーに常時「改憲が必要です」が流れ続け、
・改憲に賛成する側は「新しい時代に新しい憲法を」とひたすら抽象的に叫び
・国民的人気のコメディアンが「前に進むために改憲が必要です」と拳をにぎり、
・アイドルグループが「憲法改正で一つ先へ」と声を揃え
・清純派俳優が「権利には義務が伴います」と訴え、
・なぜ必要なのかという具体的な説明は全くなく
・投票期間中テレビは投票についてはほとんど触れなかった。
・そして国民の多数派は、理屈からいえば「今存在する自由が減る」だけで何も得るものがない、損しかしない筈の改憲案に賛成した。皆「よく分からなかった」のである。
作者は改憲反対派側の敗因理由も並べますがこれもリアルです。
・心の底では「よく分からない」と思っている層を馬鹿にしており、
・いかに危険か平易な言葉で噛み砕いた説明をせず、
・馬鹿正直に「必ず検閲が始まるとは限らないが」などと学術的に嘘のない説明に終始した。
この後の流れは非常に恐ろしく、
・溜まった不満は政治家や富裕層に向かず、はけ口として周囲の「反日」に向かい密告という形の弱いものいじめを正当化し狩りに精を出す。
このような世界で小説家と編集者は検閲にひっからないようにいろいろな策をねりますが・・・。
軽い気持ちで読み初め強烈なパンチを浴びせられました。
似鳥鶏さんのようにユーモア小説のテイで重い問題を扱うという手法は有効ですね。
2023年5月3日憲法記念日に記す。
似鳥鶏『推理大戦』
2022/02/20 Sun. 21:12:30 edit
似鳥鶏『推理大戦』
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日本のある富豪が発見したという「聖遺物」。
世界的にも貴重なその「聖遺物」を手に入れるため、世界中のカトリックそして正教会は、威信と誇りをかけ「名探偵」を探し始めた。
いったい、なぜ?
それは、「聖遺物争奪」のために行われる、前代未聞の「推理ゲーム」に勝利するため。
アメリカ、ウクライナ、日本、ブラジル――。選ばれた強者たちは、全員が全員、論理という武器だけでなく「特殊能力」を所有する超人的な名探偵ばかりだった。つまり、全員が最強。しかし勝者は、たったひとりだけ。
つまり、真の名探偵も、たったひとり――。
前半は各探偵の活躍を描く短編で後半に探偵が一堂に会す長編となる。
まず短編では各探偵の超人的な推理法と活躍(いずれも公の機関と良好な関係を気づく)を描くがこれがまず面白い。犯行トリックとしては一発ネタ的なものでかなり雑だがこれはご愛嬌。それぞれの探偵にはワトソン役が配置されていて今後もシリーズ短編が出るのではないか。
無限の情報量と超高速の演算能力「AI探偵」
無限の思考時間と無制限の現場検証能力「クロックアップ探偵」
完全無欠の情報収集能力と犯行状況の再現能力「五感探偵」
嘘を100%見抜く「魔眼」。最初から犯人を特定できる無敵の能力者「霊視探偵」
+α(←実は一番コワい)
といった探偵たちが推理合戦を行う後半は多重解決が楽しめるものの展開も推理法も地味のまま終わった感があるのはちょっと残念。
ミステリでは読者に注意喚起させたい重要なポイントに傍点をつけることがよくあるが
「……コンタクトだ」俺は言った。
(”コンタクト”に傍点がついている)
「傍点つける感じで言ったのに間違いとか、恥ずかしいですね」
という傍点ギャグがあった。
日本のある富豪が発見したという「聖遺物」。
世界的にも貴重なその「聖遺物」を手に入れるため、世界中のカトリックそして正教会は、威信と誇りをかけ「名探偵」を探し始めた。
いったい、なぜ?
それは、「聖遺物争奪」のために行われる、前代未聞の「推理ゲーム」に勝利するため。
アメリカ、ウクライナ、日本、ブラジル――。選ばれた強者たちは、全員が全員、論理という武器だけでなく「特殊能力」を所有する超人的な名探偵ばかりだった。つまり、全員が最強。しかし勝者は、たったひとりだけ。
つまり、真の名探偵も、たったひとり――。
前半は各探偵の活躍を描く短編で後半に探偵が一堂に会す長編となる。
まず短編では各探偵の超人的な推理法と活躍(いずれも公の機関と良好な関係を気づく)を描くがこれがまず面白い。犯行トリックとしては一発ネタ的なものでかなり雑だがこれはご愛嬌。それぞれの探偵にはワトソン役が配置されていて今後もシリーズ短編が出るのではないか。
無限の情報量と超高速の演算能力「AI探偵」
無限の思考時間と無制限の現場検証能力「クロックアップ探偵」
完全無欠の情報収集能力と犯行状況の再現能力「五感探偵」
嘘を100%見抜く「魔眼」。最初から犯人を特定できる無敵の能力者「霊視探偵」
+α(←実は一番コワい)
といった探偵たちが推理合戦を行う後半は多重解決が楽しめるものの展開も推理法も地味のまま終わった感があるのはちょっと残念。
ミステリでは読者に注意喚起させたい重要なポイントに傍点をつけることがよくあるが
「……コンタクトだ」俺は言った。
(”コンタクト”に傍点がついている)
「傍点つける感じで言ったのに間違いとか、恥ずかしいですね」
という傍点ギャグがあった。
似鳥鶏『叙述トリック短編集』
2020/08/03 Mon. 22:10:57 edit
似鳥鶏『叙述トリック短編集』
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本格ミステリ界の旗手が仕掛ける前代未聞の読者への挑戦状!
その名の通り叙述トリック集でそれぞれの短編にトリックがあり、
またこの作品集自体にもトリックが仕掛けられている。
但し、そんな程度か(すみません)と思うものばかりで、
今まで叙述トリックという概念がなかった、
あるいは聞いたことはあるが読んだことがなかった
といった人しか”叙述トリック的”としては楽しめないかも。
まあライトというか薄口なわけです。
そんな中
「背中合わせの恋人」は恋愛小説としての甘酸っぱさに惹かれました。
「ニッポンを背負うこけし」では意外な一面も。
こんなセリフがありました。
昔の与党はこんなにひどくはなかった。自由闊達に意見をぶつけあい、
汚職に対してもある程度の自浄作用が働いていた。ましてデマを流して
市民団体を潰そうなんて連中を歓迎するような恥知らずはいなかった

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本格ミステリ界の旗手が仕掛ける前代未聞の読者への挑戦状!
その名の通り叙述トリック集でそれぞれの短編にトリックがあり、
またこの作品集自体にもトリックが仕掛けられている。
但し、そんな程度か(すみません)と思うものばかりで、
今まで叙述トリックという概念がなかった、
あるいは聞いたことはあるが読んだことがなかった
といった人しか”叙述トリック的”としては楽しめないかも。
まあライトというか薄口なわけです。
そんな中
「背中合わせの恋人」は恋愛小説としての甘酸っぱさに惹かれました。
「ニッポンを背負うこけし」では意外な一面も。
こんなセリフがありました。
昔の与党はこんなにひどくはなかった。自由闊達に意見をぶつけあい、
汚職に対してもある程度の自浄作用が働いていた。ましてデマを流して
市民団体を潰そうなんて連中を歓迎するような恥知らずはいなかった
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レジまでの推理
2017/01/18 Wed. 12:00:00 edit
『レジまでの推理』
似鳥鶏
レジまでの推理 本屋さんの名探偵

荷ほどき、付録組み、棚作り、ポップ描きにもちろんレジ。お客さまの
目当ての本を探したら、返本作業に会計、バイトのシフト。万引き犯に
目を光らせて、近刊のゲラを読んで、サイン会の手配をして……。
力仕事でアイディア仕事で客商売。書店員は日夜てんてこ舞い。しかも、
この店の店長は、探偵という特殊業務まで楽しげにこなしてしまうので
す。軽快な筆致の一方、本屋さんが抱える問題にも鋭く切り込む、
本格書店ミステリー。
大崎梢のアンソロジー企画「本屋さんのアンソロジー」収録の1話目が
きっかけとなった本屋さん連作短編ミステリー。
ギャグが面白い、本屋さんの仕事や舞台裏がわかるなど
読みどころは多いです。
最終話ではやはり仕掛けをいれておくあたりにくい。
その本屋で働こうとしたきっかけとなるエピソードが良い。
本好きにはこういうのうれしいです。

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創元推理文庫での似鳥作品積読のままです。そろそろ崩そうか。
似鳥鶏
レジまでの推理 本屋さんの名探偵
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荷ほどき、付録組み、棚作り、ポップ描きにもちろんレジ。お客さまの
目当ての本を探したら、返本作業に会計、バイトのシフト。万引き犯に
目を光らせて、近刊のゲラを読んで、サイン会の手配をして……。
力仕事でアイディア仕事で客商売。書店員は日夜てんてこ舞い。しかも、
この店の店長は、探偵という特殊業務まで楽しげにこなしてしまうので
す。軽快な筆致の一方、本屋さんが抱える問題にも鋭く切り込む、
本格書店ミステリー。
大崎梢のアンソロジー企画「本屋さんのアンソロジー」収録の1話目が
きっかけとなった本屋さん連作短編ミステリー。
ギャグが面白い、本屋さんの仕事や舞台裏がわかるなど
読みどころは多いです。
最終話ではやはり仕掛けをいれておくあたりにくい。
その本屋で働こうとしたきっかけとなるエピソードが良い。
本好きにはこういうのうれしいです。
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創元推理文庫での似鳥作品積読のままです。そろそろ崩そうか。
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