プロジェクトを通じてわかったこと | 栄養改善事業推進プラットフォーム

プロジェクトを通じてわかったこと

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これまで実施してきたプロジェクトを通じて、途上国・新興国には栄養と食習慣に関する多くの課題があることに気づきました。しかし、これらの課題を解決するためには、更なる知識と技術の投入・協力が必要です。これらの課題解決に繋がるビジネスのヒントとなるよう、課題をここに共有します。

プロジェクトを通じてわかったこと

多様な栄養状況

栄養課題・食習慣

  • インドネシアでは、以前多くみられていた栄養欠 乏のグループがいまだ残っています。 一方、 食事メニューの多くをパーム油で炒めたり揚げたりするため、カロリーの摂り過ぎによる過体重、肥満グループの割合が多く、いわゆる栄養不良の二重負荷を招いています。また、野菜をほとんど摂らないのも特徴と言えます。
  • カンボジアでは、妊娠可能な若い女性の基礎調査結果から、葉酸、亜鉛、ビタミン類の欠乏が判明しています。これらの微量栄養素欠乏は、母子の健康に深刻な影響を及ぼすものです。
  • ミャンマーは、世界で有数のお米消費国です。各種栄養素欠乏のデータは未入手ですが、食事メニューを見ると過度の油、塩分、胡椒の濃い味が特徴となっています。その塩っ辛い油の汁を大量のご飯にかけて食べているようです。

食事環境

野菜摂取の少なさも含め食事メニューの多様性に乏しいと言えます。 野菜摂取が少ない理由としては、流通、貯蔵も含めたインフラ整備が未発達のため、収穫され市場に並んだ後、売れ残ったものは廃棄されることになります。結果、野菜の値段は高価なものになり、より手に入りにくくなるという悪循環に陥っています。

明確な成果

栄養改善

栄養改善プロジェクトで見えやすい成果は、足りない栄養素を強化して摂取することと言えます。カンボジアで栄養強化米を使ったプロジェクトでは、葉酸の血中濃度の増加という結果を得ました。 企業にとっては、生産性の向上や欠勤率の改善などの成果が得られるのが理想ですが、一般に栄養改善のプロジェクトでは、直接的な成果が見えにくいのが現実となっています。
そのような状況のもと、インドネシア保健省からは、食事摂取パターンが多様化に向かう「行動変容」を一つの成果として評価する必要がある、との考えを聞 きました。特に野菜摂取に向かう行動変容を評価すべきです。ILSI Japan CHPが進めている食事摂取の多様化を評価するTake10! ® は、 成果評価を目に見える形にしています。

プレゼンティーズム

「出勤しているにも関わらず、心身の健康上の問題が作用して、パフォーマンスが上がらない状態」を「プレゼンティーズム」 と言います。これを測る指標に WHO-HPQ(Health and work Performance Questionnaire / 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙 ※)があります。介入試験の前後に質問に回答してもらうことで、 効果を判定できると考えています。
カンボジアの「栄養強化米を使用した健康増進」パイロットプロジェクトで調査した結果、参加者のプレゼンティーズム抑制が確認されています。

WHO-HPQ
(https://www.hcp.med.harvard.edu/hpq/info.php)

企業ロイヤルティ醸成

会社が従業員に対して、健康を考慮した食事の提供をすることは、 会社へのロイヤルティ向上につながるはずです。しかし、健康につながる栄養の意味を理解していない状態では、その関係は容易に崩れてしまいます。 そのため、 栄養教育、 栄養リテラシー向上が重要な因子となります。
富士通総研がカンボジアで展開している 「ブロックチェーン技術を応用した栄養啓発活動」は、ゲーム性を兼ね備え、最適なインセンティブを提供することで参加者の意欲継続につながり、栄養教育、衛生教育の向上が期待されています。この手法は、インセンティブの設定により世界中どこにでも展開できる手法と考えています。

残された課題

食習慣改善のむずかしさ

●「健康な食」への低いモチベーション

  1. 新しい食事に対し抵抗感を持つことは、 十分考えられます。幼少の頃からの食経験に導かれた食習慣に対抗する形では、栄養バランスのとれた食事を受け入れるのは困難です。
  2. 最初は受け入れられたとしても、 継続性について大きなハードルが見られます。
  3. 実際、貧しさゆえに一日の食の大半を昼食に頼る従業員に対して、制限を加えた食事で満足させることは、かなりの抵抗があります。

上記ポイントを考え、 健康・栄養について、 十分理解してもらう必要があります。

●従来の食習慣への固執 (食文化、宗教など)

食習慣は、長年の食文化、宗教に基づいた食経験から導かれるものです。これまで食べてきたものを全て「健康な食」 に変換することは難しい試みであり、少しずつ食材の多様化を考えながらメニュー変更を進める必要があります。その際、現地で入手できない、または食べられない食材の代替として、栄養素レベルで考え、入手できる食材で補う工夫が求められます。

活動の評価指標

●栄養改善

栄養強化と過栄養対策

栄養強化米による栄養改善パイロット試験では、足りない栄養素の血中濃度の上昇を確認することができました。 今後、大規模実証試験に拡大していくことになります。その際、栄養教育も含めた改善結果として、健康診断または医務室使用頻度に反映された結果が望ましいと言えます。
さらに生産性向上まで到達するためには、導入側工場メンバーの理解が不可欠です。参加者が健康的な食事による栄養改善の重要性を理解し、工場主には プロジェクト推進に伴うコストアップの負担を理解してもらう必要があります。 双方の合意があってこそ持続可能なプロジェクトとなります。
過栄養に対するプロジェクトは、食事(カロリー) 制限が伴います。 いかに食事満足度の減少を抑えるかが重要です。鍵となるのは、新たな食材を用いたメニュー設計です。また、 健康状態を「見える化」することにより個々人のモチベーションを上げ、満足度減少を補えるようにしていく必要があります。

●企業活動への貢献

生産性向上と企業ロイヤルティ

現在進行中のプロジェクトは、全てパイロット試験段階であり、生産性向上につながる直接的なエビデンス は見出せていません。栄養状態、健康状態の改善が、いずれ生産性につながる実証データを示すことが重要です。

フードシステムとしてのケータリング事業の健全な育成

●衛生管理

健康に直結するという観点では、衛生管理が重要なポイントになります。衛生状態が悪い場合、どんな栄養教育を施しても健康状態の改善は期待できません。衛生状態を改善する手法を導入する手助けは大きな信頼につながるはずです。

●栄養管理

日本では、数多くの栄養士の存在が、十分な栄養管理を可能にしています。海外では栄養士の資格がない国も多く、栄養管理を委ねることが難しいと言えます。人的派遣によるサポートも、栄養改善として重要な一面になってきます。

より大きな成功のために

改善手法の体系化

直接介入(栄養強化と過剰摂取削減)

栄養強化米プロジェクトの評価手法に非侵襲型機器を導入して、参加者の負担を軽減し、より簡便に成果を「見える化」していきます。 特に野菜摂取推進について、実証試験で用いている測定器の普及につながるような方策をとっていきたいと考えています。

間接介入(主体性育成のためのリテラシー向上とナッジング)

栄養リテラシー向上は、栄養改善の根幹に位置するものです。理解のないまま栄養改善プロジェクトに参加しても継続は望めません。
一定の理解の下で、本人がより主体的に行動するためには、行動経済学(ナッジ※)の理論を活用し、個々人が食事や食材を選択する時に、より具体的な栄養情報を提供すること、そしてよりよい選択をするため の啓発プログラムを導入することが有効です。

NJPPP プロジェクトは、これまでの知見を活かし、現地の基礎調査に始まり、最適な栄養介入手法を定め、パイロット試験による実証、その結果をふまえたより大きな実証試験、そして横展開の手法で拡大を図っていきます。
本方法の正当性を示すために、 明確な実証データ、 エビデンスの取得をめざします。

ナッジ (英語 nudge : 軽く突く) とは、経済的インセンティブではなく、行動科学の知見に基づく工夫や仕組みによって、人々がより望ましい行動を自発的に選択するよう誘導する手法のことです。

評価指標の明確化

行動変容

インドネシアプロジェクトでは、非侵襲型の測定器を導入して、健康状態の「見える化」を進めています。自分の健康状態を可視化することで、主体的にバランスのとれた食を選択するようになります。

プレゼンティーズムの抑制

栄養改善のプロジェクトでは、 直接的な生産性向上のデータ(数値化) につなげるまで、ある程度時間 が必要と言えます。その前段階として、WHO-HPQ によるプレゼンティーズムの数値化は、評価の「見える化」として意義深いと考えられます。

企業ロイヤルティの向上

日本では、「健康経営」と言う考えが推進されています。この考えをNJPPPプロジェクト推進国に普及させることで、栄養改善の試みが、企業価値向上につながるという認識を広めていきたいと考えています。

食習慣改善評価

食習慣改善の第一歩は、「食材の多様化と調理法の改善」と位置づけ、メニューの見直しを進めたいと 思います。 まず多くの食材を食べること、そして色々な調理法を試すことがきっかけとなり、食習慣が改善されることをめざします。