台詞は変化球であって欲しい。 - 匂いのいい花束。
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Category: 天井桟敷の人々。

台詞は変化球であって欲しい。 

2020/11/26 Thu.

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世間を騒がせた事件や歴史的な大事件……。
それらを題材にした作品は枚挙にいとまがありません。
第二次世界大戦やベトナム戦争など。映画、演劇にとって、
時間が経てば格好の題材になります。
その点、アメリカが凄いですよね。ベトナム戦争を扱った映画は早い時期から作られ、
「帰郷」「ディアハンター」「プラトーン」「地獄の黙示録」……傑作も数限りなくあります。
アポロ計画の失敗も、アメリカ映画にかかると、
最後は、矢張りアメリカは偉大だ……そこに強引に持って行くところも凄い(笑)
9.11の同時多発テロは、早々に小説や映画になったし……。
それら、大事件は作家に物凄いインスピレーションを与えるのだと思います。
 
 
去年のこと……。
高畑淳子、若村麻由美、鶴見辰吾の3人芝居「THE CHILDREN」を観ました。
この作品は原子力発電所事故の後の3人の科学者のことを描いた作品です。
聞くところによると、先だっての東日本大震災からヒントを得ているとか。
戯曲はルーシー・カークウッドの手によるもの。
その時は思いました、どうして外国の作家が描いているのに、
日本ではこうした作品が出来ないのか?ところが……。
昨年観た、所謂、福島三部作。谷  賢一の「1961年:夜に昇る太陽」、
「1986年:メビウスの輪」「2011年:語られたがる言葉たち」がありました。
重厚な作りに長時間観賞の疲れも吹き飛ぶほどの感動。
さらに、この春には映画「Fukushima 50」もありましたっけ。
 
次の世代に繋いで行かなければならないこと、
語り継がなければならないこと……作家にとっての命題なのでしょう。
それは形を変えてもどこか普遍のテーマを内包していたりもします。
歴史は時代が作ります。時の政権が作ると言ってもいいかな。
時間が経つことで一定の評価が定着しますが、
作家としては、矢張り、早い時期に発表したいのは人情です。
 
 
さて先日、「演劇ユニットぽこぽこクラブ」の「SHELTER」を観て来ました。
ストーリをかいつまんで書くと、時代はまさに今、
このコロナ禍での家族のあり方を描いた作品です。
新型コロナウイルスが蔓延し、離ればなれになっていた一家が集まって来ます。
就職の内定が取り消された末娘、お笑いの男と出来ちゃた婚をなかなか報告出来ずにいる長女、
離婚の危機にある弟、役者と言ってもほぼニートな兄、
そして、一番しっかり者だと思われていた長男の自殺未遂……。
一見、何事もない普通に見える家族が内包する問題の数々、
そこに突如、降り掛かるコロナ禍で秘密は秘密でなくなり、
一家の隠された感情やお互いへの不信感があらわにされて行きます。
 
僕は映画、演劇を見る前は真っ新な状態で観ますから、
このコロナ禍真っ只中の今、舞台上でそれを見ることに少し驚き、そして大きく困惑。
台詞も時事性のあるものがオブラートに包まれないでそのまま出て来ます。
今、放映中の「共演N/G」の中で鈴木京香が言います。
  
 「大丈夫じゃない人に『大丈夫?』って聞く?」
 
今、平静を装いつつも神経がピリピリしている時に、
生々しい台詞を聞く余裕はなかったかな……。
 
 「コロナに負けるな!」
 
 「コロナが憎い!」
 
この2つの台詞は特に厳しかったです。
これらの台詞はこの芝居のテーマですから、
それを直球で聞かせるのは少し能がないと思うのです。
同じコロナ禍を描くにあたっても、もう少し変化球であって欲しかった。
時を経て、少し客観的にコロナ問題を見られるようになってから、
もう少し台詞を洗練させてから発表した方が良かったのでは?
 
ジェーン・フォンダ、ブルース・ダーン共演のハル・アシュビー作品、
「帰郷」のラストで主人公が入水自殺するシーンがあります。
ジェーン・フォンダがベラベラベラベラとテーマを台詞で喋る以上に多くを物語りますが、
どんな台詞の山よりも多くのことを語っている名シーンです。
「ディアハンター」も3時間近い長尺の中で、
前半はハンティングや結婚式を通して友情や故郷への愛を描き、
後半のベトナム戦争のシーンでは凄絶な戦闘シーン、混沌としたサイゴンの様子、
その中に男同士の友情の深さが見えて来て、故郷への郷愁、
大きな喪失感の中に明日への希望みたいな……一筋の明るい光が見えます。
台詞にはなくとも、ベトナム戦争に対する強烈な批判になっていました。
そこには声高に「戦争反対!」とか「ベトナムが憎い」とかの生の台詞は出て来ません。
大きく周りからエピソードを描きながら問題の核心を伝える辺りは、
手慣れた作家の手法でもあるしセンスだと思うのです。
 
 
写真は「SHELTER」の舞台セット。
どんどん写真を取って拡散してくださいって……。
世の中変われば変わるものですね(苦笑)
 
 
 「SHELTER」……★★★……30点。
 

2020年11月26日
 
 
ブノワ。
 
 
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