珈琲店タレーランの事件簿 第6巻「コーヒーカップいっぱいの愛」
著:岡崎 琢磨 発行元(出版):宝島社(『このミス』シリーズ)
≪あらすじ≫
狭心症を発症し、突然倒れてしまった珈琲店“タレーラン”のオーナー・藻川又次。すっかり弱気になった彼は、バリスタである又姪の切間美星にとある依頼をする。四年前に亡くなった愛する妻・千恵が、生前一週間も家出するほど激怒した理由を突き止めてほしいと。美星は常連客のアオヤマとともに、大叔父の願いを聞き届けるべく調査を開始したが…。千恵の行動を追い、舞台は天橋立に!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
約三年ぶりとなった新作。すっかり打ち切りになったのだとばかり…。
まず読んでいて引っかかったのは、旅情ミステリっぽくなったところへの強い違和感。この作品にそういった旅情ミステリ的な要素、本当に必要だったかな、と疑問が残った。ハッキリ言ってしまえば間延びしているように感じた。旅情要素というのは、その土地だから起きた犯罪や謎でないと意味がない。しかし、本作で取り上げた浜松・京都両面において実はそこは全く意味がない。ただキャラクターの都合でその場所が選ばれているに過ぎないため、他の文章やストーリーと比較した時にその部分だけが浮いてしまっている。
次に感じたのは、語り部であるアオヤマが語り部として機能していない点。これはアオヤマ単体の問題というよりも、アオヤマを置いて一人で調査してしまう美星にも問題があるのだけれど、ミステリなのに謎を解くシーンというものが実は美星が単独行動している時に解けてしまっている部分が多いため、そもそもミステリとして成立していないのではないか、と思えてしまう。
そして最後の嫌悪は、言うまでもなく美星とアオヤマの浮気の線引き。彼女たちは最後まで愛し合っていたか――つまり、肉体関係が亡くなったオーナーの妻・千恵と、元恋人・影井の間にあったのかどうか、ということに終始していた。もちろん肉体関係の有無は浮気を大きく線引きする要素ではある。
でも、本当にそれだけで良いのか? 結局、美星の論理で言えば「心は許していたけど、身体は許さなかったから浮気じゃない」というものだ。正直、私には首をかしげることしか出来なかった。だってこれ、裏を返せば「身体は許してないけど、心は許してしまった」ということだ。物理的な肉体関係と、精神的な容認。もちろん、どちらに重きを置くかは人それぞれの価値観に左右されるのだろうけれど、パートナーが婚姻関係にある自分よりも心を許した相手がいたと分かった時、それを「浮気」と呼ぶに値しないのかというと、私は正直NOだと思うし、そんな美星や(惚れた弱みとはいえ)無条件に美星のすること全てに対してYESマンになり下がったアオヤマの論理は、幼稚過ぎて吐き気がした。
彼女は、オハラという少女に「真実に目を向けるべき」ということを言った。けれどこれは盛大過ぎるブーメランだ。亡くなった千恵さんに肩入れし過ぎているばかりで、真実に一番目を向けていないのは美星だということは読者には明白であり、あまりにこのセリフも展開も滑稽なのだ。
まぁ、これは十歩譲って私の主観の話だと言っても良い。けれど、客観的に見た時に、もっと決定的な勘違いがある。それは、パートナーの行為を「浮気」と認定するかどうかの裁量は第三者ではなく、その当人――この作品で言えば、旦那である又次ただ一人だ。それを一方的に美星が決めつけていることは腹が立つし、その報告を受けての又次の描写がほとんどないことも「なぜ?」と首をかしげる。言ってしまえば、又次の台詞から彼は妻の浮気を認めているといっていいだろう。「それだけ、アイツ(妻)にとって大切なことだったんだろう」という台詞は、そういうことだ。ただそれを言わせた著者はその意味に気付いていない。
物語的にはこの展開ならここがクライマックスだと言って良いはずだ。又次が依頼人で、又次の長年の謎を解くために、美星たちは行動していたのに、そのクライマックスをすっ飛ばすと言う著者の、そしてそれを容認した編集者の感性を疑う。
っていうかね、美星の意見がコロコロコロコロ変わっていて、そこがそもそも読んでいる側からすれば不快。真実を突き止めて変わるなら良い。けれど、そうじゃない。美星は恩義のある千恵の名誉のためだけにアレコレと事実を捻じ曲げて解釈しているだけだ。そもそも、この作品で真実はネガ一枚しかないというのもどうかしている。結局、どこまで行ってもただの推論でしか話は進んでおらず、客観的証拠が何一つないまま物語は勝手に終わってしまっている。そもそもコーヒーカップを持っていたら愛し合ってない証拠にはならないし、逆に国産みの矛を持っていたからといってそれもまた愛し合っていた証拠にもならない。全部美星が、千恵に都合の良いように空想しただけのものなのに、あたかもそれが真実であるかのように語られていて、それが広義におけるミステリに分類されることに反吐が出る。
はぁ。まぁ、問題点や不満は延々と書けるけど、長文になっても仕方ないのでこの辺で。
評価は、☆(0.5点 / 5点)。読む価値すらない。珈琲要素も、旅情要素も、ミステリ要素も全部が中途半端で、それらが物語の本筋に直結しておらず、語り部も語り部としてまともに機能しないお粗末さ。いっそ執筆辞めたら?
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