ファイア・サイン 女性消防士・高柳蘭の奮闘
≪あらすじ≫
横浜市消防局湊消防署に勤める任官2年目の消防士・高柳蘭。中区内で2ヶ月間で42件もの火災が発生し、そのうち16件は火災原因も明らかになっていないことから、警察は事件性を疑う。火災原因調査員の木場は、根拠の薄さから「事件」との見方に慎重になるが、ある人物の存在に気づき…。一方、民家の消火に当たった浜方隊は、殉職者を出してしまう。それを機に蘭に異変が起こって…。『このミス』大賞シリーズ。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
このサイトではかつて『行動心理捜査官・楯岡絵麻』のシリーズを掲載したことがある作者・佐藤さんの別シリーズ作。どうやら第一作目があるようだが、そちらは未読で手に取った。
一作目を意識したような描写もあるものの(特に序盤のキャラ紹介)、読んだ感じではそこまで一作目を読んでいなくても疎外感は覚えなかった。むしろ読んでいない方がすっきり読めるかもしれない。
内容としては連続する不審火、それを放火と疑いを強める警察と消防の衝突、その最中に起きる大きな出来事(すでにあらすじで殉職者と書かれてしまっているが)、そして……みたいな感じ。
消防の大変さを描きつつ、彼らが必至にやっている現場が生死をかけた「戦場」であることを示している。消防に関するドキュメンタリーみたいな感じを出しているが、その分だけミステリー色というのは薄い。割と多面的な場面描写が多く、そのせいで読者には割と簡単に犯人や関連人物が見えてしまうことが原因か。そういった描写をカットしていればミステリーとしてそこに辿り着くまでの謎解きも楽しみにはなるが、そうなると消防よりも警察のほうが物語としてはベストになってしまいそうだから判断が難しいところ。
キャラクターとしては殉職者を出しているので、そこでだいぶシリアス度が強まっている感じが全体的にしている。犯人含めて消防関係者以外は「全部俺のせいなのか」「全部俺が悪いのか」みたいなことを誰も彼もが口にしていて、さらに協力関係がなくてはならないはずの消防と警察との間でのいざこざ、特に警察側の傲慢な態度などが観られ、意図的に「善の消防」「悪のその他」みたいな配置をしているのは、個人的にはあまり好みではないかな。犯罪者を「悪」とするのは仕方ないしても、それ以外のキャラまで「悪」とまでは言わないけどつらい現実に直面して腐ってる、みたいな。
現実にそうなのか、あるいは違うのかは分からないが特に相手警察とのやり取りは本当にこんな感じなのか、と思ってしまった。こんなことはフィクションの作り話だからだと信じたい。
その反発の多かった相手警察も最後には、仲間を殉職させた犯人を要救助者として救っている姿に疑問を持っていると主人公たちが「それが仕事だから」と言わせる展開や最後のエピローグなど意図的に読者を感動させようとしている意図があるが、それがハッキリと読者の目に見えてしまっていてはその思惑通りにはならないと思っちゃう。
そういうことを意識しないでもっとそれぞれの立場でちゃんと「それも最も」と読者が思えるような作りの方が良かったんじゃないかと。
評価は、★★☆(2.5点 / 5点)。ミステリーと言うより消防ドラマ、ドキュメンタリー的な感じが強い。エンターテイメントとしても面白いかと言えば、エンタメとして面白味を感じる要素はどこもかしこも強くは感じなかったのは残念。「消防は凄いぞ」ということを示したかったのは伝わるが、「超凄いんだぞ」という感じで歪められている感じが良くはなかったと思う。
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