はじめに
〈物語〉シリーズ セカンドシーズンの第23話のOPを見てビックリした。
いきなり80年代のテイストのOP映像と曲だったからである。
今回はこの事について触れてみたい。
80年代のTVアニメの象徴「上條修」というクレジット
まずこのOP映像で驚いたのは、
キャラクターデザインに上條修さんがクレジットされていたことだ。
上條修さんといえば
「宇宙戦士バルディオス」「特装機兵ドルバック」のキャラクターデザインであり
「戦国魔神ゴーショーグン」「ミンキーモモ」「超獣機神ダンクーガ」の作画監督といった
80年代の葦プロダクション(現:プロダクション・リード)制作の
アニメ作品を支えてきた、ミスター葦プロともいえるベテランアニメーター。
その人がなぜ、このOPに。
ただOP映像を見ていると、その意図もわかる。
それは、上條修さんという80年代のアニメ(特に葦プロ作品)に
クレジットされた名前を用いて、80年代の空気感を作りたかったこと。
もう一つは、実際に上条さんに80年代の絵柄を描いて、再現してほしかったこと。
以上の二つが考えられると思う。
絵柄、背景、オブジェからみる80年代
実際に映像をみてみよう。
車の光らせ方、および車の影のつけ方は80年代に流行した金田調。
(葦プロ作品ではよく、こうした影つけや光らせ方は多い)
それ以上にイラストレーターの鈴木英人さん風味。
一方、雲の描き方は、イラストレーターのわたせせいぞうさん風味。
画面の映り方も、80年代のTVのようなフィルムの質感。
歌詞テロップがあるのも80年代のTVアニメのOP。
何より絵柄の差が顕著。
目の下に線を入れる、まつげを太く描く、髪の毛のフサ、
鼻の鼻背をきちんと描く、今と比べて丸っこい腕や手の描き方など。
この二つの絵が、80年代と今(渡辺明夫さんデザイン)の差だろう。
上條修さんの絵柄(左)と、おそらく岡本真由美さんの絵柄(右)
いかにもキリッとしたまゆげと目。
80年代テイストの貝木は角ばったデザインに仕上がっている。
あと、戦場ヶ原さんと貝木のデュエット曲である点も含め
この男女のデュエット曲というフォーマットが
「男と女のラブゲーム」のような曲があった80年代の風物詩。
雲の色味、雲の色分け、雲のフォルム、空の色彩を含めて
これらはやっぱり、わたせせいぞうさんのテイスト。
それだけ、わたせさんが80年代を象徴する人であるともいえる。
(TVアニメの世界だと、この象徴が上條さんという対比も含めて)
あとトロピカルジュースという意匠が80年代としかいいようがない。
新房監督の意図
新房さんはインタビューでよく出崎統さんの話や
昔のアニメの話やアニメーターさんの話をする機会が多い。
出典元は忘れたが、新房さんは
「出崎さんを語り継いでいくのは自分の使命」みたいな事を言っていた点。
また「化物語」などでは杉浦茂や水木しげる風味の絵を使った点においても、
新房さんはかつて自分が見たものを、今の時代に伝えたいという意志が強い方だと思う。
今回でいえば、今のアニメファンに上條修さんという方がいたことを
伝えたかったという想いもあったのだと思う。
そして80年代のTVアニメ風味なOPも、
かつてアニメにはこういう時代があったというメッセージがあるように感じられた。
まとめ
OPディレクター(絵コンテ・演出・作画監督)は高津幸央さん。
上條修さんは原画と作画監督とキャラクターデザイン。
原画には岡本真由美さん。
改めて今回の<物語>シリーズのOPをみるに、
80年代のTVアニメは、上り調子でありつつも初々しい空気感に満ちた時代だと思い返される。
(経済的にも上り調子だったという気分が反映されているかのよう)
本編との絡みでいえば、戦場ヶ原さんと貝木の関係性が
あのOPのように甘く、良き想い出みたいな形で描かれていたのかもしれない。
今回のOPのように、もしくは播磨サクラのPVのように
昔のテイストの映像を今の技術で再現する面白さというのは確実にあると思った。
そしてこうした映像を通して、昔のアニメと今のアニメが繋がりつつ
語られるようになると、より良いのではと感じた。