切通しの長い石段を登ると、霊気のようなものが漂ってくる。
樹齢数百年以上といわれる、杉や楠、あるいはシダジイなどの大木の、
籠ったような息づきの所為かもしれない。
途中、巨大な楠の洞の向こうの子授観音を覗いたり、
ここを訪れた芭蕉が詠んだ句碑を眺めたりするうち、二天門の前にたどりつく。
二天門の向こうには楼閣のような寺院がある。
これが笠森観音である。 笠森観音、正式には大悲山笠森寺と呼ぶ。
天台宗の古刹として、また坂東三十八箇所の三十一番札所として参詣客は絶えない。
巨大な岩の上に61本の柱で支えられた観音堂は、まさに奇観であり、
日本で唯一の四方懸りという建築様式として、重要文化財に指定されている。
笠森寺の周囲は、うっそうとした森林である。
奈良時代の創建時から保護されてきたことによって、
今に残る暖帯の残存林として、国の天然記念物にもなっている。
さて笠森寺の横に回ってみる。
岩から柱が何本も観音堂を支えているのが判るだろう。
一瞬、この階段を登らなけらばならないのだろうか、とためらう筈だ。
岩の上の観音堂へは75段の木の階段を登らなければならない。
私はこれで五度目だから、慣れているとは言っても、
やはり多少膝が笑うのは臆病のせいもある。
堂の回廊からは眼下に房総の山々が広がり、
特に若葉のころの輝くような緑のグラデーションは、息を呑むようである。
この眺望を愛でるために参詣する人も少なくない、という評判は大いに頷ける。
帰り際、もう一度観音堂を振りかえる。
去るとなると名残り惜しくなる仏閣は、そうそう多くない。
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