Something For You Eliane Elias sings & plays Bill Evans - 2007.10.24 Wed
[sales data] 2007/10/24 [producer] Eliane Elias Marc Johnson Steve Rodby Hitoshi Namekata [member] Eliane Elias(vo/p) Bill Evans (p/曲17) Marc Johnson(b) Joey Baron(ds) | Something For You |
エヴァンストリオの最後のベーシスト、マーク・ジョンソンの奥さんイリアーヌによる
エヴァンストリビュート物。
トリビュートものを楽しむためにはどんなに有名な演奏人でも所詮トリビュートものという
割り切り方が必要ですが、エヴァンスのトリビュート物でピアノだけではなく
歌も歌っちゃう企画物は少ないのではないでしょうか。
イリアーヌ自身は15歳の頃、一度だけ生エヴァンスに接し、ジャズを志す上で
大きな影響を受けた偉大な存在だったため、今まで安直にエヴァンスのトリビュート企画を
やるのは憚られていたとのこと。
本企画が実現した経緯は夫のマーク・ジョンソンがエヴァンスから死の数週間前に手渡された
テープの中に未発表のオリジナル曲「Here Is Something For You」「Evanesque」2曲が
収録されており、これをいつか世に出したいと考えており、そのテープの楽曲を聴いた
イリアーヌが今回のトリビュート企画をやることを決意したとのこと。
(2曲ともイリアーヌが詩を書いています)
「Here Is Something For You」は2version収録されているのですがTrack17は
エヴァンス本人がクラブ演奏した時のテープ音源から始まり、イリア―ヌの演奏に
引き継ぐという小細工もあります。
本作はピアノ演奏と歌が交互に収録されており、イリアーヌはボサノバ歌手のイメージが強いので、
聴く前は違和感がありましたが、杞憂に過ぎませんでした。
(イリアーヌの「ワルツ・フォー・デビー」は英語versionです)
それともう一つ細かいこだわりとして、マーク・ジョンソンがある楽器店のオーナーが
ラファロが使っていたベースを所有していることを知り、交渉して借りることができ
「My Foolish Heart」と「Re:Person I Knew」の2曲で使用しているとこと。
まぁエヴァンス云々のというよりもイリアーヌさんの作品として十分楽しめると思います。
Portrait Of Bill Evans - 2002.12.26 Thu
[sales data] 2002/12/26 [producer] Michael Colina [member] Bob James(p) Herbie Hancock(p) Eliane Elias(p) Brad Mehldau(p) Dave Grusin(p) Richard Bona(b) Marc Johnson(b) Tom Kenedy(b) Billy Kilson(ds) Jack Dejohnette(ds) Dave Weckl(ds) Rick Braun(tp) Kirk Whalum(tp) David McMurry(sax) | Portrait Of Bill Evans |
突貫作業でしたが主要どころのエヴァンス作品の紹介が一段落したので
エヴァンス関連のコンピ物をご紹介しておきます。
数あるエヴァンストリビュート物の中の1枚で
ハンコック、ボブ・ジェームス、デイブ・グルーシン、イリアーヌ、ブラッド・メルドー
5人のピアニストによるエヴァンスのトリビュート・アルバム。
(エヴァンスに楽曲カバーされたザヴィヌルも参加すれば良かったのに)
各々2曲ずつエヴァンスの愛奏曲やエヴァンスに捧げるオリジナル曲が収録されています。
フュージョンというタイムマシンに乗っていたボブ・ジェームスやデイヴ・グルーシンが
普通にピアノ弾いているのは初めて耳にしたかもしれない(笑)
面白いことに気づいたのですが、エヴァンスは自身のバンドでは黒人ベーシストとの
からみが一切ないのですが、本作ではリチャード・ボナが4曲ほど演奏しており
黒人特有のグルーヴを加えたエヴァンストリオもきっと面白かっただろうなと。
イリアーヌのバックは旦那のマーク・ジョンソン&ジャック・ディジョネットと
エヴァンスのゆかりある人脈なのもオモロです。
ハンコックは色々なエヴァンストリビュートに参加していることもあり?本作は趣向を変えて
2曲ともハンコックのオリジナルで一人だけ大きく羽目を外したエレクトリック・ファンクも
演っちゃってます(笑)
ハンコック談
「今回のレコーディングを前にしてビルの書いた「ファンカレラ」を聴いたら
なんだこれ?全然ファンキーなんかじゃないなと。
「ゴッタリズム」はそんな「ファンカレラ」のベースラインをモチーフに
書き上げた曲だ。ショパンをもとにした即興曲(Ghost Story)は生前のビルが絶えず試みようと
しながら果たせないで終わったアプローチなんだ。
彼のそんな思いを胸に、あくまで僕のスタイルを貫いた上でインプロヴァイズしてみた」
尚、本作の姉妹盤として日本のジャズミュージシャンによるトリビュート
「メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス」というものもあります
Consecration the last/Bill Evans Trio - 1980.09.07 Sun
[sales data] 1989 (Rec:1980/8/31-9/7) [producer] no credit [member] Bill Evans Marc Johnson(b) Joe LaBarbera(ds) | Consecration the last |
エヴァンスが亡くなるわずか2週間前にシスコのキーストーン・コーナーで行われた
エヴァンストリオ最後のライヴ音源。
1981年のマーク・ジョンソン談
「ビルは何でも内に秘めるタイプの人間でした。
彼が本当に自分自身とその心を表に出したのは、彼がピアノに座った時だけだと思います。
(中略)
これだけは今も解釈に困るんだけど、死ぬ2週間前の「キーストン・コーナー」は
まさに特別な心に強く染み入る演奏だったと思います。
客席はまるでとりつかれたようにシーンと静まり返っていました。
これこそジャズですね。突発的に起こったものは残せないんです。
テープに残しておけなかったのが残念です。」
ジョンソンがないと残念がっていた音源が実はキーストーンのオーナー、トッド・バルカン氏が
録音していたことが分かり、あの悪名高いアルファレコードの木全信氏が交渉し
店で録音したテープ音源の商品化の権利を獲得。
8月31日から9月7日までの夜の部の録音テープ70曲から15曲(エヴァンスのオリジナルで初出3曲含)を
厳選したのが本作です(この後アルファは8公演分のコンプリートBOXも出しました)
現在は他にも異なったフォーマットで発売されたものもありますが、2002年にMilestoneが総括する形で
・昼8公演「The Last Waltz: The Final Recordings」
・夜8公演「Consecration: The Final Recordings Part 2」
を発売し8日間の全貌が明らかになりましたが、そこまで手の出ない
私のようなにわかファン用という意味ではとても重宝する内容ですし
選曲も流れも悪くありません。
死の直前に診察したエヴァンス担当医師談
「自分がひどい病気であることを彼は知っていた。
良い病院で治療を受ければ、快方に向かうはずだと進言して入院を勧めたが応じなかった。
彼には生きる意思が全くないように思えた」
マーク・ジョンソン談
「僕たちは彼の具合が本当に悪くなって極限に来ていることも判っていた。
だからクラブで顔を合わせるたびに「病院に行ってください」って頼んだんだ。
けれど彼はいつも「いいんだ」と言って手を振るだけだった。
このままでは絶対に死んでしまうと心の中で何度も何度も叫びながら一緒に演奏した。
その時の気持ちがどんなにつらかったか、これは言葉では言えないし、理解してもらえないと思う。
彼の指はもつれ、ほとんど満足にピアノを弾ける状態ではなかった。
結局最後はラバーバラが車を運転して病院に運んだけれど、医者があきれるほどの
手遅れだった。」
兄の死後、病院に行くのを拒み、意図的に死を招くような行動をとっていたこのようなことが
エヴァンスの生涯が時間をかけた自殺だったと言われる所以です。
演奏中、いつ倒れてもおかしくない不安定な状態なのに、快調なエヴァンスの演奏に
そんなことは微塵も感じませんが、エヴァンスの後ろで心配するジョンソンとラバーバラの
おぼつかない心中を察すると胸が痛みますね。
(日ごとにセットリストは変わっていますが、ラストは全日「My Romance」でした)
キーストン・コーナーの公演を終えたエヴァンスは1980年9月9日からニューヨークのライブハウス
「ファッツ・チューズデイ」に出演しますが
(注:識者によるとこのCD音源はファッツ・チューズデイでの音源ではない偽物とのことです)
2日目の9月11日、ついに演奏不可能となり、公演はキャンセル。9月14日に強制的に病院に搬送、
翌9月15日、肝硬変に肺炎を併発して死去。
享年51歳。
もしかしたらエヴァンスはステージ上のピアノに座ったまま死にたかったのかなとも思います。
合掌
We Will Meet Again/Bill Evans - 1979.08.09 Thu
[sales data] 1979 (Rec:1979/8/6-9) [producer] Helen Keane [member] Bill Evans(p/el-p) Tom Harrel(tp) Larry Schneider(sax/fl) Marc Johnson(b) Joe LaBarbera(ds) | We Will Meet Again |
エヴァンス最後のスタジオ・アルバム。
ドラムにジョー・ラバーベラが参加し、マーク・ジョンソンとのコンビは
エヴァンストリオの最終形態となります。
エヴァンスの最終トリオのドラマーとなったジョー・ラバーベラは
1979年に「Affinity」に参加したトゥーツのバンドで演奏しているところを
ヘレン・キーンに見初められてオーディションに誘ったのだそうです。
さてこのアルバムにはエヴァンスの心の痛みが収録されています。
このアルバムの録音4か月前にエヴァンスの最大の理解者だった兄が動機不詳の拳銃自殺。
「ビル・エヴァンス ジャズ・ピアニストの肖像」ピーター・ペッティンガー談
「最初はスコット・ラファロ、そしてエレイン、そして今やハリー。悲劇が彼を追い回した。
この最後の一撃が残っていた気力をすべて奪い去り、彼の精神は遂に壊れてしまった。
自分の音楽の奥深くにしか慰めはなかった」
エヴァンスはこれを機に自身のドラッグ治療を受けなくなり、死を早めたと言われます。
ただサウンド的には悲運のエヴァンス物語を象徴するような暗さは表面上はなく
「アフィニティ」から見せ始めたポピュラー音楽との柔軟な対応
クインテット編成、エレピ使用とクリード・テイラーが当初目論んでいたエヴァンスの
クロスオーバー化が始まり、もし存命だったら80年代は今までとは全く違った
ビル・エヴァンスが聴けたと思うと残念ですね。
Affinity Bill Evans - 1978.11.02 Thu
[sales data] 1979/4/11 (Rec:1978/10/30-11/2) [producer] Helen Keane [member] Bill Evans(p/key) Marc Johnson(b) Eliot Zigmund(ds) Larry Schneider(fl/sax) Toots Thielemans(harmonica) | Affinity |
年初から約2か月にわたってお送りしているエヴァンス特集の最終目標
「リベンジ!アフィニティ」に到達しました。
ここまで何の障害もなく、すんなり聴き続けてこれたので、とにかく聴かず嫌いというか、
苦手意識というか、一時の思い込みでなんであんなにエヴァンスを敬遠していたのか?
自分の馬鹿さ加減にほとほと呆れている次第です(苦笑)
私の場合は時間をかけてなんとか和解しましたが、ある音楽との最初の出会いがミスマッチで
疎遠になってしまう不幸はかなり起こりえることなのではないかと思います。
(参考:フランク・ザッパで味わった初対面ミスマッチの恐怖)
本作からベースはマーク・ジョンソンで、ジョンスコつながりで聴き知っていた
マーク・ジョンソンがエヴァンスの血筋を弾いていたことを知り驚きました。
(アコースティックベースなのですが、音がエレべのように聴こえます)
ちなみにジョンソンの奥さん、イリアーヌ・イリアスのエヴァンストリビュート作品がありました。
他にハーモニカのトゥーツ・シールマンス、管楽器のラリー・シュナイダーが参加しており、
エヴァンス名義では珍しいクインテット作品です。
シールマンスはジャズ・ハーモニカのパイオニアで映画「真夜中のカーボーイ」や
テレビ「セサミ・ストリート」のテーマを吹いているのはこの人だそうです。
本作はエヴァンスのオリジナル曲はなく、エヴァンスらしい作品というよりも
シールマンスのハーモニカに合わせたポップス色の強い作品で
ポール・サイモンの「きみの愛のために」映画音楽「酒とバラの日々」などポピュラーな選曲で、
あの時、友人がジャズ素人の私にエヴァンスの入門編として本作を推薦したのも今なら納得です。
今思えばですね、マイケル・シェンカーを神と崇めていた音楽の間口が極端に狭い若造が
今まで聴いたこともないピアノとハーモニカの異色なからみなど聴かされたら
「んっ?」となったのも仕方なかったのかなと(苦笑)
皆さんも初体験で痛い目にあった音楽に再トライしてみてはいかがでしょうか?
今なら新しい気づき(発見)でその音楽と和解できるかもしれませんよ。
You Must Believe in Spring/Bill Evans - 1977.08.25 Thu
[sales data] 1981/2/2 (Rec:1977/8/23-25) [producer] Helen Keane Tommy LiPuma [member] Bill Evans(p/el-p) Eddie Gómez(b) Eliot Zigmund(ds) | You Must Believe in Spring |
ファンタジーからワーナー移籍第一弾となったこの作品は録音当時(1977年)は発売されず
エヴァンスの死後1年目の1981年に追悼盤として発売されました。
ドラムはモレルからエリオット・ジグモンドに交代しており
ゴメスはこの作品を最後にエヴァンスのもとを去ります。
この作品は悲しい物語のオリジナル曲を収録しています。
それは収録曲「B Minor Waltz(For Ellaine)」の主人公エレインさんの自殺です(1972年)
エレインさんはエヴァンスの最初妻と書かれている記事を散見しますが、
入籍はしておらず、エレインさんもエヴァンス同様の麻薬中毒でいわば麻薬パートナーとして
10年以上同棲していたので内縁関係にあったのですが、ウエイトレスのネネットさんと恋に落ち
結婚するため別れを告げると、衝動的に地下鉄に飛び込み自殺を図り逝ってしまったエレインさんに
どのような気持ちでこの曲を書いたのか陰鬱な旋律の曲だと思っていたのですが、
思いの他明るめできっとエレインさんと一緒だった頃の楽しい思い出を曲にしたのだろうと思います。
そしてもう1曲のオリジナル曲「We Will Meet Again」は兄ハリーに捧げた曲ですが
次の悲運がエヴァンスを襲うことになり、1979年にこの曲をタイトルにしたアルバムを
制作することになるのですが、その件は又後日。
最後に戦争喜劇映画(MASH)のテーマ曲のカバーが収録されているのですが、
もし存命なら晩年のエヴァンスはポピュラリティ―な楽曲を数多く弾くようになっていったかもしれません。
The Tony Bennett/Bill Evans - 1975.06.13 Fri
[sales data] 1975/7 (Rec:1975/6/10-13) [producer] Helen Keane [member] Tony Bennett(vo) Bill Evans(p) | The Tony Bennett/Bill Evans |
「美と真実だけを求め、他は忘れろ」というコピーと共に劇場公開された
「Bill Evans Time Remembered」の中に出てくる言葉は、ベネットに対して
エヴァンスが言った言葉だとベネット自身が語っています。
又ベネットが来日した時の会見で「一番思い出のあるアルバム」とも語っていたそうです。
トニー・ベネットは米を代表するエンターテイナーの1人で90代を迎えて尚精力的に活動した
長寿歌手として知られ、全米アルバム・チャート1位の最年長記録保持者であり、
アルバムをリリースした史上最高齢の人物としてギネス世界記録にも認定されているとのこと。
しかしこのアルバムをリリースした頃のベネットは70年代の大衆音楽リスナー層の
ロックへの大きな傾斜により、スタンダード・ポップやジャズの人気凋落の影響を受け、
人気が低迷しロックを演ったり、自らのレーベルを設立したり、試行錯誤していた時期で
最終的には納税延滞状態になったあげく1979年にはコカインの過剰摂取で
瀕死の目に遭うまで落ちぶれた時期もあったようです。
エヴァンスの色に合わせたしっとりしたバラード物なのかなと思っていたら
ベネットはオペラ唱法に基づく朗々とした発声を得意とする歌手なので、
歌声は力強くそれに合わせエヴァンスの鍵盤を叩く力も強くなります。
又ジャケットからエヴァンスが激太りしていたことが分かります。
このデュオは1977年にセカンドアルバム「TogetherAgain」をベネットの自主レーベルより
リリースしています。
尚、ベネットさんは2023年7月21日に亡くなっています(享年96歳)
合掌
But Beautiful/Stan Getz & Bill Evans - 1974.08.16 Fri
[sales data] 1996/3 (Rec:1974/8/9&16) [producer] Helen Keane [member] Bill Evans(p) Stan Getz(sax) Eddie Gómez(b) Marty Morell(ds) | But Beautiful |
1974年エヴァンストリオが欧州ツアー中、ゲストにスタン・ゲッツを迎えた
オランダ(8/9)とベルギー(8/16)のライヴ録音。
1964年に録音されたもののお蔵入りしていたゲッツとエヴァンス初の共演盤が
1973年に蔵出しされ、ヒットしたことから話題作りに呼び屋が仕込んだ再共演だと思います。
ゲッツは70年代に入りRTFのチック・コリア、スタンリー・クラークなどと
クロスオーバー的な作品(Captain Marvel)をリリースしていましたがパッとせず
ゲッツにしてみればエヴァンスとの共演は再浮上するチャンスだったわけですが、
オランダ公演でゲッツが予定外の曲(Stan's Blues)を勝手に吹き始めたため、
エヴァンスが激怒して途中で演奏を止めてしまう様が収録されており
焦ったゲッツは後半エヴァンスの誕生日を祝ってヨイショしていますが
二人仲良く笑っているジャケットは合成写真らしく、決して和気あいあいという
わけでもなかったようです。
(勿論このライヴ音源もエヴァンスのOKが出るわけがなく世に出たのは1996年でした(苦笑)
エヴァンスはご機嫌斜めだったようですが、この時期エヴァンスがホーンを入れるのは珍しく、
演奏面で言えば、ゲッツは年齢的に円熟期で力技ではない抒情性の籠ったプレイで
エヴァンスの色とは違う音世界を構築してしまうのはさすがです。
The Bill Evans Album - 1971.06.09 Wed
[sales data] 1971/8 (1971/5/11–12&17,19-20 and 6/9) [producer] Helen Keane [member] Bill Evans(piano/Fender Rhodes) Eddie Gómez(b) Marty Morell(ds) | The Bill Evans Album |
CBS移籍後はじめてのアルバムは「From Left to Right」に続きエヴァンスがエレピを使用した作品で
本作はトリオ編成でオケのオーバーダブを行っていません。
全曲、エヴァンスのオリジナル曲ですが、エヴァンスはエレピ特性を引き出して
自分の楽曲に新たな息吹を与えようなどという前向きな姿勢は感じられず
エレピを「弾く」というより「扱う」という感じで普通にピアノを弾く感覚で
とりあえずエレピを弾いてみましたという感じで、選曲も「From Left to Right」と比べて
メリハリがなく「Walts For Debby」など人気曲も収録されていますが、
「エヴァンスはエレピで自分らしさを表現することができませんでした」ということを
証明しただけの内容です。
一番気になるのはエレピの高音がエヴァンスのイメージに全く合わないことで
全体的にワチャワチャしていて今まで聴いてきたエヴァンス作品の中で
一番落ち着きのない作品だと思います(苦笑)
ちなみにエヴァンスがライヴでエレピを演奏している作品はあるのでしょうか?
ありましたらコメント欄より教えていただけると幸いです。
From Left to Right/Bill Evans - 1970.05.20 Wed
[sales data] 1971/1 (Rec:1969/10/14&21&11/13 1970/3/26&28,4/23&29&5/1&20) [producer] Helen Keane [member] Bill Evans(p/Fender-Rhodes/el-p) Eddie Gómez(b) Marty Morell(ds) Sam Brown(g) Michael Leonard(conductor/arranger) many brass, woodwinds and strings | From Left to Right/Bill Evans |
1966年以降のエヴァンスはホールでのトリオ演奏、ジム・ホールとのデュオ、
ピアノの多重録音、ピアノソロ、スタイグとの共演とライヴをのぞくと
ピアノトリオのスタジオ作品はなく、さすがのエヴァンスもピアノトリオでの
新境地の打開策が浮かばなかった時期なのかもしれません。
今回、なんとあのエヴァンスがエレピを弾いているということを小耳にはさみ
とても楽しみにしていた作品です。
「Conversations With Myself」のようなピアノとエレピの多重録音にオケを
オーバーダブした内容です。
(エヴァンスのオリジナル曲は「Children's Play Song」1曲のみです)
一発録りの多いジャズ作品の中では珍しくなんと9回もセッションを繰り返した作品で
エヴァンスがなかなかエレピの良さを引き出せなくて、リテイクを繰り返したのか?
エヴァンスのエレピは弾くというよりはその性能を確かめているといった感じですね。
(verve BOXにはオケをオーバーダブする前の「Why Did I Choose You?」のアウトテイクが12テイク、
「The Dolphin」は9テイクも収録されています(苦笑)
[アルバムversion]
[outtakes]
エレピの難しいところは鍵盤叩きの強弱が音に反映されないことで、
ザ・ビル・エヴァンス的な音を出したいエヴァンスにとっては厄介な代物だったでしょう(笑)
アウトテイクの演奏そのものはジャズテイストなのですが、オケをオーバーダブすると
イージーリスニング調になってしまうので、ピアノとエレピの多重録音だけで
良かったのではないかと思います。
作品としては面白いのですが、エヴァンスをいつも通りに楽しむ内容ではないので
保守的なエヴァンスファンからは相当文句が出たと思いますけど
コルトレーンもそうですけど、もしご健在だったら80年代のシンセ楽器とどのように
渡り合ったのか興味あるところです。
[アルバムversion]
[outtakes]