『ミニオンズ』 名前には意味がある
【ネタバレ注意】
観客をバカにするな、と思うことがある。いい加減なストーリーだったり、辻褄が合わない映画を観るとそんな風に思うのだ。
だが、正直に告白しよう。観客はバカなのだ。面白ければ辻褄が合わなくても、いい加減でも構わないのだ。少なくとも私は。
アメリカ映画『ミニオンズ』はバカバカしさを極めている。
『怪盗グルーの月泥棒 3D』や『怪盗グルーのミニオン危機一発』の中でグルーの周りをウロウロし、事態を混乱させてばかりいたミニオン(「手下」という意味)たちを主人公に格上げした本作は、『怪盗グルー』シリーズ以上にバカバカしくて、ナンセンスな笑いに満ちている。
脇役の頃はコメディリリーフでも、人気が出て主人公になるといいヤツとして描かれることがある。しかしミニオンたちは主役になっても非常識で、狂っている。『怪盗グルー』シリーズにあった感動も人情味も本作にはゼロだ。ウルウルすることなんかないし、絶対にほっこりしない。
素晴らしい!
アクション大作『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』までもが「愛を知る―― 全人類に捧ぐ。」なんて惹句で宣伝され、愛と感動の氾濫にウンザリしていた観客には、寸分たりとも愛や感動の入り込む余地のない『ミニオンズ』が清々しいだろう。
なにしろ本作の惹句は「オンナ?バナナ?」だ。シリーズ初の大悪女スカーレット・オーバーキルの登場と、ミニオンたちがバナナ好きなことと、「そんな、バカな」という驚嘆の言葉を掛け合わせた駄洒落だが、実質なんの意味もない。近年稀に見るイカれた、もといイカした惹句だ。宣伝に愛や感動を入れたがる日本でも、今度ばかりは無理だったのだろう。それどころか、米国のポスターに添えられた言葉「UH OH.(うう、ああ)」に比べても、日本のほうがバカバカしい。日本の宣伝担当者に感心した。
そもそもミニオンたちの設定がいい加減極まりない。
シリーズ第一作『怪盗グルーの月泥棒 3D』では、悪の天才グルーと仲間のマッドサイエンティスト・ネファリオ博士がバナナを原料にミニオンを創造したと云っていたはずだ。
ところが本作のミニオンは地球での生命誕生とともに存在し、生物の進化に合わせて自分たちを進化させながら、常に最強の生物に付き従って生き延びてきたという。人類よりはるかに長い歴史を持つ彼らは、南極に独自の文明を築くに至っている。
シリーズ全作の監督を務めるピエール・コフィンによれば、ミニオンはみずから繁殖したり分裂したりはできないという。「二つの説が考えられるね。」とコフィン監督は語る。「一つはユニバーサル・スタジオ・テーマパークのミニオンズライドみたいに人間がミニオナイザーでミニオン化したという説。もう一つは短編アニメで示されたように、一本鎖のDNAから作られたクローンであるという説だ。」
なんていい加減な説明なんだ。
監督自身が複数の異なる説を提唱したら収拾がつかない。その上、どちらの説も本作の説明と全然合わない!
さすがだ、ピエール・コフィン監督。本作のようにバカげた映画を作るには、こういう緩い姿勢が大切なのだろう。
そのくせ第一作、第二作を貫いていた60年代への愛とこだわりはますます強くなっている。
私は第二作の感想に、このシリーズが「1967年版『007/カジノ・ロワイヤル』のファンにとって、この上なく楽しい作品だ」と書いた。本作では遂に舞台を1968年のイギリスに移し、007シリーズがまだイギリス映画だった時代の楽しさを思う存分再現している(007シリーズはイギリスのイオン・プロの製作だが、イオン・プロを設立したプロデューサーの一人ハリー・サルツマンは『007/黄金銃を持つ男』を最後にシリーズから身を引き、1975年に米国の映画会社ユナイテッド・アーティスツに彼の持ち分を売却している)。
当時のヒット曲やテレビ番組(『セイント/天国野郎』や『奥様は魔女』)を劇中に散りばめるのは楽しくて仕方ないだろう。
本作と同じく2015年公開の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』も主要な舞台をロンドンに据えてスパイ映画の本場に敬意を表していたが、本作はイギリス熱においても負けてはいない。
ミニオンたちがグルーと出会う前のこと、ミニオンの中でもリーダーシップに富んだケビンは、スチュアート、ボブとともに南極を出発し、米国のフロリダ州オーランドへたどり着く。ユニバーサル・スタジオ・フロリダのあるオーランドを劇中に出したことで、ユニバーサル作品の作り手は会社への義理を果たしたのだろう、一行はさっさとイギリスに向かう。そこで訪れるのがロンドン塔、バッキンガム宮殿、ウェストミンスター寺院等、ロンドン観光で見逃せない名所の数々だ。まるでロンドンの旅行ガイドのような展開が楽しい。
もちろん、アビイ・ロードの横断歩道も訪れる。そこでは白い靴や裸足の四人組が横断歩道を渡っている。
はたして、『ミニオンズ』を見に来た観客のうち、どれだけの人がビートルズを知っていて、アビー・ロードに面してレコーディングスタジオがあり、横断歩道を歩くビートルズの写真をジャケットに使ったその名も『アビイ・ロード』というアルバムがあることを知っているかは判らない。
でも、観客に判るかどうかは気はせず、面白いと思ったネタは突っ込んでしまう姿勢がこのシリーズらしさだろう。
『アビイ・ロード』の発売以来この横断歩道も観光名所と化しており、横断歩道を何往復もしたり道路の真ん中に立って記念撮影する観光客が後を絶たない。クルマのドライバーにはいい迷惑だろうが、ここは歩行者優先だ。
もっとも、正確にはジャケット写真が撮影されたのは1969年8月8日なので、本作の年とは合わない。しかし、スタジオ近くのポール・マッカートニーの自宅はメンバーのたまり場になっていたから、1968年に四人揃って横断歩道を渡ることがなかったとはいえまい。
観客に判るかどうか気にしない姿勢は、そればかりではない。
作り手のこだわりは楽曲にも見て取れる。本作は時代設定を1968年とするだけあって、次のような曲に彩られている。
『ハッピー・トゥゲザー』 タートルズ 1967年
『19回目の神経衰弱』 ザ・ローリング・ストーンズ 1966年
『アイム・ア・マン』 スペンサー・デイヴィス・グループ 1967年
『パープル・ヘイズ』 ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス 1967年
『ブレイク・オン・スルー』ドアーズ 1967年
『ユー・リアリー・ガット・ミー』 キンクス 1964年
『The Letter』 THE BOX TOPS 1967年
『マイ・ジェネレーション』 ザ・フー 1965年
『ラヴ・ミー・ドゥ』 ザ・ビートルズ 1962年
『ロッキー・ロード・トゥ・ダブリン』 ザ・ダブリナーズ 1964年
『ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ』 ザ・ビートルズ 1966年
『メロー・イエロー』 ドノヴァン 1966年
『レボリューション』 ザ・ビートルズ 1968年
『ヘアー』 1967年から上演されたミュージカルのタイトル曲
『モンキーズのテーマ』 ザ・モンキーズ 1966年開始のテレビドラマの主題歌
このように、ものの見事に1968年に流れておかしくない楽曲を揃えている。中には1952年の映画『雨に唄えば』の劇中歌『Make 'Em Laugh』もあるが、1968年より前に発表された曲であれば問題ない。
このマニアックな選曲だけでも観客を置いてけぼりにしてると思うのだが、さらに本作はヴァン・ヘイレンのデビュー・アルバム『炎の導火線』からインストゥルメンタル曲『暗闇の爆撃』を投下する。エレキギターをプレゼントされたスチュアートが豪快に演奏してギターを壊してしまうこの曲の発表年は1978年だ。1968年の時点でスチュアートが知るはずのない曲だから、Internet Movie Database(IMDb)ではこれを本作の間違いとして指摘している。
だが、これほどの選曲をした作り手が、この曲の年代を間違えるはずがない。これは、同じユニバーサル・スタジオの映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で1955年にタイムトラベルした主人公が、その時代にはまだない曲を演奏して周囲を唖然とさせる場面のパロディだろう(本作には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の次元転移装置フラックス・キャパシターにちなんで、フラックス教授というタイムトラベラーも登場する)。映画のデータベースとして名高いIMDbの投稿者さえも置いてけぼりにして、本作はやりたい放題なのだ。
やりたい放題といえば、王室の扱いは不敬ともいえるほどだ。エリザベス女王が実名で登場してパブで飲んだくれてるなんて、天皇が酔っ払う映画を目にしたことのない日本では新鮮だった。
もっとも、エリザベス女王はイギリスのスパイコメディ『ジョニー・イングリッシュ』シリーズでボコボコにされているから、本作はまだ穏やかなほうかもしれない。そんな『ジョニー・イングリッシュ』シリーズもユニバーサル・スタジオが製作に噛んでいた。王冠を手に入れ、王位を簒奪しようとするスカーレット・オーバーキルの陰謀が、『ジョニー・イングリッシュ』の悪党の企みとほとんど同じなのがおかしい。
かようにしっちゃかめっちゃかな本作だが、最後は不思議とまとまっている。
その一因は、本作の三人のミニオンが『怪盗グルー』シリーズの三姉妹に似せて造形されているからだろう。すなわち、リーダーを意味する古代ギリシャ語Kevinosにちなむ名前のケビンはしっかり者の長女マーゴに対応し、弛んだヤツを意味するラテン語Stuartalumniにちなむ名前のスチュアートは困ったちゃんの次女イディスに、(ロバートを)短縮した名前のボブは一番小さな三女アグネスに対応する。神戸のフランス領事だった父とインドネシアの小説家でフェミニストとして知られる母のあいだに生まれ、数ヶ国で暮らしたピエール・コフィン監督は、日本語を含む幾つもの言語が混ざったミニオン語のセリフのすべてを一人で演じた。そんなコフィン監督ならではのネーミングだろう。
嫌な女の手先にされた三人がグルーの許に身を寄せるまでを描いてる点で、本作はシリーズ第一作の相似形だ。悪事を働くグルーが実は身内思いのいいヤツであることを、観客はすでに知っている。ナンセンスな笑いを追求しつつ、人情話の第一作の構成をほぼなぞっているから、本作は気持ちよく観終えることができるのだろう。
『ミニオンズ』 [ま行]
監督/ピエール・コフィン、カイル・バルダ
出演/ピエール・コフィン サンドラ・ブロック ジョン・ハム マイケル・キートン アリソン・ジャネイ スティーヴ・クーガン
日本語吹替/天海祐希 宮野真守 笑福亭鶴瓶 設楽統 日村勇紀 藤田彩華 LiSA
日本公開/2015年7月31日
ジャンル/[ファミリー] [コメディ] [ファンタジー] [アドベンチャー]
観客をバカにするな、と思うことがある。いい加減なストーリーだったり、辻褄が合わない映画を観るとそんな風に思うのだ。
だが、正直に告白しよう。観客はバカなのだ。面白ければ辻褄が合わなくても、いい加減でも構わないのだ。少なくとも私は。
アメリカ映画『ミニオンズ』はバカバカしさを極めている。
『怪盗グルーの月泥棒 3D』や『怪盗グルーのミニオン危機一発』の中でグルーの周りをウロウロし、事態を混乱させてばかりいたミニオン(「手下」という意味)たちを主人公に格上げした本作は、『怪盗グルー』シリーズ以上にバカバカしくて、ナンセンスな笑いに満ちている。
脇役の頃はコメディリリーフでも、人気が出て主人公になるといいヤツとして描かれることがある。しかしミニオンたちは主役になっても非常識で、狂っている。『怪盗グルー』シリーズにあった感動も人情味も本作にはゼロだ。ウルウルすることなんかないし、絶対にほっこりしない。
素晴らしい!
アクション大作『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』までもが「愛を知る―― 全人類に捧ぐ。」なんて惹句で宣伝され、愛と感動の氾濫にウンザリしていた観客には、寸分たりとも愛や感動の入り込む余地のない『ミニオンズ』が清々しいだろう。
なにしろ本作の惹句は「オンナ?バナナ?」だ。シリーズ初の大悪女スカーレット・オーバーキルの登場と、ミニオンたちがバナナ好きなことと、「そんな、バカな」という驚嘆の言葉を掛け合わせた駄洒落だが、実質なんの意味もない。近年稀に見るイカれた、もといイカした惹句だ。宣伝に愛や感動を入れたがる日本でも、今度ばかりは無理だったのだろう。それどころか、米国のポスターに添えられた言葉「UH OH.(うう、ああ)」に比べても、日本のほうがバカバカしい。日本の宣伝担当者に感心した。
そもそもミニオンたちの設定がいい加減極まりない。
シリーズ第一作『怪盗グルーの月泥棒 3D』では、悪の天才グルーと仲間のマッドサイエンティスト・ネファリオ博士がバナナを原料にミニオンを創造したと云っていたはずだ。
ところが本作のミニオンは地球での生命誕生とともに存在し、生物の進化に合わせて自分たちを進化させながら、常に最強の生物に付き従って生き延びてきたという。人類よりはるかに長い歴史を持つ彼らは、南極に独自の文明を築くに至っている。
シリーズ全作の監督を務めるピエール・コフィンによれば、ミニオンはみずから繁殖したり分裂したりはできないという。「二つの説が考えられるね。」とコフィン監督は語る。「一つはユニバーサル・スタジオ・テーマパークのミニオンズライドみたいに人間がミニオナイザーでミニオン化したという説。もう一つは短編アニメで示されたように、一本鎖のDNAから作られたクローンであるという説だ。」
なんていい加減な説明なんだ。
監督自身が複数の異なる説を提唱したら収拾がつかない。その上、どちらの説も本作の説明と全然合わない!
さすがだ、ピエール・コフィン監督。本作のようにバカげた映画を作るには、こういう緩い姿勢が大切なのだろう。
そのくせ第一作、第二作を貫いていた60年代への愛とこだわりはますます強くなっている。
私は第二作の感想に、このシリーズが「1967年版『007/カジノ・ロワイヤル』のファンにとって、この上なく楽しい作品だ」と書いた。本作では遂に舞台を1968年のイギリスに移し、007シリーズがまだイギリス映画だった時代の楽しさを思う存分再現している(007シリーズはイギリスのイオン・プロの製作だが、イオン・プロを設立したプロデューサーの一人ハリー・サルツマンは『007/黄金銃を持つ男』を最後にシリーズから身を引き、1975年に米国の映画会社ユナイテッド・アーティスツに彼の持ち分を売却している)。
当時のヒット曲やテレビ番組(『セイント/天国野郎』や『奥様は魔女』)を劇中に散りばめるのは楽しくて仕方ないだろう。
本作と同じく2015年公開の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』も主要な舞台をロンドンに据えてスパイ映画の本場に敬意を表していたが、本作はイギリス熱においても負けてはいない。
ミニオンたちがグルーと出会う前のこと、ミニオンの中でもリーダーシップに富んだケビンは、スチュアート、ボブとともに南極を出発し、米国のフロリダ州オーランドへたどり着く。ユニバーサル・スタジオ・フロリダのあるオーランドを劇中に出したことで、ユニバーサル作品の作り手は会社への義理を果たしたのだろう、一行はさっさとイギリスに向かう。そこで訪れるのがロンドン塔、バッキンガム宮殿、ウェストミンスター寺院等、ロンドン観光で見逃せない名所の数々だ。まるでロンドンの旅行ガイドのような展開が楽しい。
もちろん、アビイ・ロードの横断歩道も訪れる。そこでは白い靴や裸足の四人組が横断歩道を渡っている。
はたして、『ミニオンズ』を見に来た観客のうち、どれだけの人がビートルズを知っていて、アビー・ロードに面してレコーディングスタジオがあり、横断歩道を歩くビートルズの写真をジャケットに使ったその名も『アビイ・ロード』というアルバムがあることを知っているかは判らない。
でも、観客に判るかどうかは気はせず、面白いと思ったネタは突っ込んでしまう姿勢がこのシリーズらしさだろう。
『アビイ・ロード』の発売以来この横断歩道も観光名所と化しており、横断歩道を何往復もしたり道路の真ん中に立って記念撮影する観光客が後を絶たない。クルマのドライバーにはいい迷惑だろうが、ここは歩行者優先だ。
もっとも、正確にはジャケット写真が撮影されたのは1969年8月8日なので、本作の年とは合わない。しかし、スタジオ近くのポール・マッカートニーの自宅はメンバーのたまり場になっていたから、1968年に四人揃って横断歩道を渡ることがなかったとはいえまい。
観客に判るかどうか気にしない姿勢は、そればかりではない。
作り手のこだわりは楽曲にも見て取れる。本作は時代設定を1968年とするだけあって、次のような曲に彩られている。
『ハッピー・トゥゲザー』 タートルズ 1967年
『19回目の神経衰弱』 ザ・ローリング・ストーンズ 1966年
『アイム・ア・マン』 スペンサー・デイヴィス・グループ 1967年
『パープル・ヘイズ』 ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス 1967年
『ブレイク・オン・スルー』ドアーズ 1967年
『ユー・リアリー・ガット・ミー』 キンクス 1964年
『The Letter』 THE BOX TOPS 1967年
『マイ・ジェネレーション』 ザ・フー 1965年
『ラヴ・ミー・ドゥ』 ザ・ビートルズ 1962年
『ロッキー・ロード・トゥ・ダブリン』 ザ・ダブリナーズ 1964年
『ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ』 ザ・ビートルズ 1966年
『メロー・イエロー』 ドノヴァン 1966年
『レボリューション』 ザ・ビートルズ 1968年
『ヘアー』 1967年から上演されたミュージカルのタイトル曲
『モンキーズのテーマ』 ザ・モンキーズ 1966年開始のテレビドラマの主題歌
このように、ものの見事に1968年に流れておかしくない楽曲を揃えている。中には1952年の映画『雨に唄えば』の劇中歌『Make 'Em Laugh』もあるが、1968年より前に発表された曲であれば問題ない。
このマニアックな選曲だけでも観客を置いてけぼりにしてると思うのだが、さらに本作はヴァン・ヘイレンのデビュー・アルバム『炎の導火線』からインストゥルメンタル曲『暗闇の爆撃』を投下する。エレキギターをプレゼントされたスチュアートが豪快に演奏してギターを壊してしまうこの曲の発表年は1978年だ。1968年の時点でスチュアートが知るはずのない曲だから、Internet Movie Database(IMDb)ではこれを本作の間違いとして指摘している。
だが、これほどの選曲をした作り手が、この曲の年代を間違えるはずがない。これは、同じユニバーサル・スタジオの映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で1955年にタイムトラベルした主人公が、その時代にはまだない曲を演奏して周囲を唖然とさせる場面のパロディだろう(本作には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の次元転移装置フラックス・キャパシターにちなんで、フラックス教授というタイムトラベラーも登場する)。映画のデータベースとして名高いIMDbの投稿者さえも置いてけぼりにして、本作はやりたい放題なのだ。
やりたい放題といえば、王室の扱いは不敬ともいえるほどだ。エリザベス女王が実名で登場してパブで飲んだくれてるなんて、天皇が酔っ払う映画を目にしたことのない日本では新鮮だった。
もっとも、エリザベス女王はイギリスのスパイコメディ『ジョニー・イングリッシュ』シリーズでボコボコにされているから、本作はまだ穏やかなほうかもしれない。そんな『ジョニー・イングリッシュ』シリーズもユニバーサル・スタジオが製作に噛んでいた。王冠を手に入れ、王位を簒奪しようとするスカーレット・オーバーキルの陰謀が、『ジョニー・イングリッシュ』の悪党の企みとほとんど同じなのがおかしい。
かようにしっちゃかめっちゃかな本作だが、最後は不思議とまとまっている。
その一因は、本作の三人のミニオンが『怪盗グルー』シリーズの三姉妹に似せて造形されているからだろう。すなわち、リーダーを意味する古代ギリシャ語Kevinosにちなむ名前のケビンはしっかり者の長女マーゴに対応し、弛んだヤツを意味するラテン語Stuartalumniにちなむ名前のスチュアートは困ったちゃんの次女イディスに、(ロバートを)短縮した名前のボブは一番小さな三女アグネスに対応する。神戸のフランス領事だった父とインドネシアの小説家でフェミニストとして知られる母のあいだに生まれ、数ヶ国で暮らしたピエール・コフィン監督は、日本語を含む幾つもの言語が混ざったミニオン語のセリフのすべてを一人で演じた。そんなコフィン監督ならではのネーミングだろう。
嫌な女の手先にされた三人がグルーの許に身を寄せるまでを描いてる点で、本作はシリーズ第一作の相似形だ。悪事を働くグルーが実は身内思いのいいヤツであることを、観客はすでに知っている。ナンセンスな笑いを追求しつつ、人情話の第一作の構成をほぼなぞっているから、本作は気持ちよく観終えることができるのだろう。
『ミニオンズ』 [ま行]
監督/ピエール・コフィン、カイル・バルダ
出演/ピエール・コフィン サンドラ・ブロック ジョン・ハム マイケル・キートン アリソン・ジャネイ スティーヴ・クーガン
日本語吹替/天海祐希 宮野真守 笑福亭鶴瓶 設楽統 日村勇紀 藤田彩華 LiSA
日本公開/2015年7月31日
ジャンル/[ファミリー] [コメディ] [ファンタジー] [アドベンチャー]
tag : ピエール・コフィンカイル・バルダサンドラ・ブロックジョン・ハムマイケル・キートンアリソン・ジャネイスティーヴ・クーガン天海祐希宮野真守笑福亭鶴瓶
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TBどうもです
お久しぶりです。
>観客はバカなのだ。
けだし名言ですね!w
アビーロードは有名ですけど、私は洋楽に詳しくないので、そこらへんで損してますね(^_^;)
ミニオン三兄弟はやっぱりあの三姉妹がモデルだったのかな。
末っ子がぬいぐるみ持ってましたしね。
しかし相変わらず設定がテキトーで、主役に昇格?しても何にも変わってなかったのがすごいですよ、これw
ギャグって本来ナンセンスですもんね。何も考えず見る分には最高だよなあ。
>観客はバカなのだ。
けだし名言ですね!w
アビーロードは有名ですけど、私は洋楽に詳しくないので、そこらへんで損してますね(^_^;)
ミニオン三兄弟はやっぱりあの三姉妹がモデルだったのかな。
末っ子がぬいぐるみ持ってましたしね。
しかし相変わらず設定がテキトーで、主役に昇格?しても何にも変わってなかったのがすごいですよ、これw
ギャグって本来ナンセンスですもんね。何も考えず見る分には最高だよなあ。
Re: TBどうもです
ゴーダイさん、こんにちは。
薄っぺらくバカバカしいキャラクターで長編映画をもたせるのはたいへんですよね。
30分枠のテレビ番組ではナンセンスで破壊的だったMr.ビーンでさえ、長編映画では立派なことを云い出すくらいです。
それなのに、くだらない脇役時代のキャラクターのままミニオンに主人公を全うさせたのですから、本作の作り手はたいしたものです。
ミニオンたちの可愛らしさに助けられてもいるのでしょうけど。
本作のプロデューサー、クリス・メレダンドリは「ディズニーやピクサーがストーリーを最も大切にしているとしたら、僕が最も大切にしているのはキャラクターなんだ。」と語っています。
http://realsound.jp/2015/07/post-4068.html
同時期に公開されたピクサーの『インサイド・ヘッド』と比べても納得ですね。とにかくミニオンがバカなことをやっていればいい:-)
一方で、『怪盗グルーのミニオン危機一発』の『Y.M.C.A.』のように、ここでこの曲を使うのか、と驚くほどの技も披露する。上手いですねぇ。
本作では楽曲の使用に莫大な使用料がかかったそうですが、そういうのは惜しまないところが、大人の観客にも受けるのだと思います。
『怪盗グルー』シリーズの第三弾は2017年に公開するそうです。
『ミニオンズ』もシリーズ化したら楽しいですね。ミニオンには女の子がいない(とコフィン監督は云ってる)のに、どうやって増えたのか。描くことはまだまだありますね。
薄っぺらくバカバカしいキャラクターで長編映画をもたせるのはたいへんですよね。
30分枠のテレビ番組ではナンセンスで破壊的だったMr.ビーンでさえ、長編映画では立派なことを云い出すくらいです。
それなのに、くだらない脇役時代のキャラクターのままミニオンに主人公を全うさせたのですから、本作の作り手はたいしたものです。
ミニオンたちの可愛らしさに助けられてもいるのでしょうけど。
本作のプロデューサー、クリス・メレダンドリは「ディズニーやピクサーがストーリーを最も大切にしているとしたら、僕が最も大切にしているのはキャラクターなんだ。」と語っています。
http://realsound.jp/2015/07/post-4068.html
同時期に公開されたピクサーの『インサイド・ヘッド』と比べても納得ですね。とにかくミニオンがバカなことをやっていればいい:-)
一方で、『怪盗グルーのミニオン危機一発』の『Y.M.C.A.』のように、ここでこの曲を使うのか、と驚くほどの技も披露する。上手いですねぇ。
本作では楽曲の使用に莫大な使用料がかかったそうですが、そういうのは惜しまないところが、大人の観客にも受けるのだと思います。
『怪盗グルー』シリーズの第三弾は2017年に公開するそうです。
『ミニオンズ』もシリーズ化したら楽しいですね。ミニオンには女の子がいない(とコフィン監督は云ってる)のに、どうやって増えたのか。描くことはまだまだありますね。
こんにちは。
はじめまして。
先日、レビューを読ませていただきまして
鳥肌が立ちました。
なんてすごい内容の記事を書かれるのだと・・・!
僕なんかが書く素人記事なんか足元にも
及ばないなあと感じ、コメントさせて貰った次第です。
宜しければレビュー紹介という事で私の【ミニオンズ】記事に
載せさせてもらっても宜しいでしょうか?
宜しくお願い致します。
先日、レビューを読ませていただきまして
鳥肌が立ちました。
なんてすごい内容の記事を書かれるのだと・・・!
僕なんかが書く素人記事なんか足元にも
及ばないなあと感じ、コメントさせて貰った次第です。
宜しければレビュー紹介という事で私の【ミニオンズ】記事に
載せさせてもらっても宜しいでしょうか?
宜しくお願い致します。
Re: こんにちは。
タケヤさん、はじめまして。
といっても、貴ブログはときどき拝見しております。
過分なお言葉をいただき恐縮です。
ご紹介の件、もちろんまったく問題ありません。
たいへんありがとうございます。
この映画のアナーキーな魅力はなかなか言葉にしにくいですが、少しでも広まればいいですね。
今後ともよろしくお願いいたします。
といっても、貴ブログはときどき拝見しております。
過分なお言葉をいただき恐縮です。
ご紹介の件、もちろんまったく問題ありません。
たいへんありがとうございます。
この映画のアナーキーな魅力はなかなか言葉にしにくいですが、少しでも広まればいいですね。
今後ともよろしくお願いいたします。
⇒trackback
トラックバックの反映にはしばらく時間がかかります。ご容赦ください。ミニオンズ/天海祐希
『怪盗グルー』に登場する、バナナが大好きな謎の黄色い生物ミニオンのスピンオフ・ムービー。ミニオンたちが怪盗グルーと出会うまでの知られざる物語を描くアドベンチャー・コメ ...
ミニオンズ
「面白い度☆☆☆ 好き度☆☆☆☆ 冒頭 殿堂入り」
バババ~バ~バババババ~(バンバン)バババ~バ~バババババ~(ハモる)バババ~バ~バ~バ~ババババ~~~~~~~~~
ミニオンズ
評価:★★★☆【3,5点】(11)
不死身のミニオンズだから爆笑ネタは永遠に続くのだろう(笑)
ミニオンズ3D ★★★★
『怪盗グルー』シリーズで登場し人気を博した、謎の生物ミニオンたちが主人公のアニメーション。正体不明の愛くるしいキャラクター、ミニオンたちの秘密や、グルーとの出会いなどが本作で明らかになる。ボイスキャストを務めるのは『ゼロ・グラビティ』などのオスカー女優...
『ミニオンズ』 2015年7月26日 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
『ミニオンズ』 を試写会で鑑賞しました。
このシリーズ(というか怪盗グルーのスピンオフ?)は、初めて見た。
試写会じゃなかったスルーしている映画である。
六本木ヒルズの周辺はテレビ朝日の夏祭りイベントでドラえもんが繁殖中だった。
【ストーリー】
バナナに目がない不思議な黄色い生物ミニオンたちは、人類誕生よりもはるか以前に生息していた。彼らの唯一の目的は、向かうところ敵なしのボスに従う...
ミニオンズ(2D 日本語吹替え版)
監督:ピエール・コフィン、カイル・バルダ 出演:サンドラ・ブロック、ジョン・ハム、マイケル・キートン、アリソン・ジャネイ、スティーヴ・クーガン
【解説】
『怪盗グルー』シリーズで登場し人気を博した、謎の生物ミニオンたちが主人公のアニメーション。正体不明...
かわいいからいいんです。それで満足です。(*^_^*)〜「ミニオンズ」〜
これはミニオンたちが怪盗グルーにたどりつくまでの大冒険。
世界一の大悪党に仕えることが最高の幸せなんてね〜って思いますけども
アクシデントにつぐアクシデントで、理想のボスに巡り合ってはなぜかやっつけてしまうを繰り返すミニオンたち。
・・・実はいちばん強...
『ミニオンズ』
謎の黄色い生物ミニオンが誕生したのは、人類が誕生するよりもずっと前のことだった。ティラノサウルスやドラキュラ、ナポレオンといったその時代その時代の最強のものに仕えてきたミニオンたちだが、毎度失敗して長続きしない。仕えるべきボスがいなくなるとともに生きる...
映画:ミニオンズ Minions 予想外に「音楽映画」として、クソ暑さをスッキリ忘れさせる一本。
怪盗グルーの月泥棒(2010)、怪盗グルーのミニオン危機一発 Despicable Me 2(2013)に続く、第3作。
ただしタイトルの通り、今回は主役がミニオンズ!!!(写真)
実は当ブログ、怪盗グルーのミニオン危機一発 Despicable Me 2 で一言感想は、以下。
<主役を凌駕す...
ミニオンズ
ミニオン達が可愛くて面白い。
『ミニオンズ(吹替)』
□作品オフィシャルサイト 「ミニオンズ」□監督 ピエール・コフィン カイル・バルダ□脚本 ケン・ダウリオシンコ・ポール□キャスト(声の出演) 天海祐希、設楽統、日村勇紀、宮野真守、藤田彩華、LiSA■鑑賞日 8月8日(土)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの...
進撃の小人 ピエール・コフィン&カイル・バルダ 『ミニオンズ』
夏といえば子供向けのアニメ映画がたくさん公開される時期。その乱戦を制したのは細田
『ミニオンズ』を109シネマズ木場1で観て、魅力的なバカ騒ぎだけどそれ以上じゃなくないふじき★★★
五つ星評価で【★★★まあ「魅力的なバカ騒ぎ」がコンセプトだろうから、その命題を完遂していていいんだろうけど……】
怪盗グルー2本は見てない。
予告編の鶴瓶の声があまり ...
ミニオンズ(日本語吹替版) 監督/ピエール・コフィン
【声の出演】
天海 祐希(スカーレット・オーバーキル)
宮野 真守(ハーブ)
真田 広之(ナレーター)
【ストーリー】
バナナに目がない不思議な黄色い生物ミニオンたちは、人類誕生よりもはるか以前に生息していた。彼らの唯一の目的は、向かうところ敵なしのボ...
[映画『ミニオンズ』を観た(寸評)]
☆・・・『怪盗グルー』シリーズは好きだが、その人気キャラ達であるミニオンは、私はあんまし好きではない。 見た目の個性があんまし感じられないからだ(これならば、『モンスターズ・インク』のモンスターたちのほうがバラエティ豊かだ^^)。 だから、このスピンオフ...
「ミニオンズ」:カワイくって、笑えて、英国ロック
映画『ミニオンズ』はフジテレビやTOHOシネマズとのタイアップが印象深いので日本
『ミニオンズ』('15初鑑賞61・劇場)
☆☆☆☆- (10段階評価で 8)
8月12日(水) 109シネマズHAT神戸 シアター10にて 16:30の回を鑑賞。2D・吹替え版。