2011年09月 :映画のブログ

『モテキ』 ガッポリ儲ける方法

 思わず唸った。上手い!
 映画『モテキ』の上映中、終始ニヤニヤし通しだった私は、大根仁監督の上手さに舌を巻いた。

 この映画は、あたかもモテない男のルサンチマンが爆発しているかのように見せている。主人公の鬱屈した思いや、いわゆるサブカルチャーにどっぷりはまっている様子に、全国の童貞・セカンド童貞の多くが共感するであろうことは間違いない。
 しかし、その実この映画はけっこうオシャレなんである。森山未來さん演じる主人公はポップス等に造詣が深く、natalie(ナタリー)のライターとして野外フェスの取材も難なくこなしてしまう。また、長澤まさみさんが演じるのは、ファッションやカルチャーを扱うEYESCREAM誌の編集者で、もちろんみずからもファッショナブルだ。そして彼らは、若者文化の発信地たる下北沢界隈で飲み歩いている。

 ここでもう、2次元界が友だちのアニメオタクは差が付けられている。女性と同席できるのが後楽園のヒーローショーだけの特撮オタクや、アバター越しにしか会話しないゲームオタクも同様である。
 本作は、モテない男の共感を呼んで独身者を集客しつつ、滑稽さの中にオシャレ感をかもし出す恋愛劇としてデートムービーにも打ってつけなのだ。


 その目指すところは明白だ。指摘される前に白状しようということか、公式サイトには次のように書かれている。
 「本作のミュージカルシーンは09年公開の恋愛映画『(500)日のサマー』をパクっ……もといオマージュである。」
 『(500)日のサマー』の日本公開は2010年なんだけど、制作の2009年と混同してしまうほど前のめりだ。
 たしかに、さえない男がキレイで奔放な女性を好きになり、振り回されながらもひたむきに想い続ける姿は、まさしく『(500)日のサマー』そのものである。ちょっとマニアックな音楽の趣味が二人の会話のきっかけになり、全編をイカした選曲の音楽が彩るところも同様だ。
 しかし、私は『(500)日のサマー』が苦手だった。とても素敵な映画で面白いのだけれど、さえない男を演じるのはハンサムなジョセフ・ゴードン=レヴィットだし、あまりにキレイにまとまって別世界のようだった。ひらたく云えば、私なんぞにはオシャレ過ぎてむず痒かったのだ。
 その点『モテキ』はオシャレな感じを漂わせながらも、私のような本物のさえない男を置いてきぼりにはしない。
 さえない観客は主人公に感情移入し、イカした観客は主人公のダメっぷりに笑いを漏らし、どちらにしても楽しめるのだ。

 ここは大事なところである。
 さえない男の物語としては、本作よりも『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の方が一枚も二枚も上手だ。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』を観たさえない男たちは、並々ならぬ感情移入をすることだろう。
 しかしそのために、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は客層を狭めてしまう。特に女性を邪悪な存在として描いているため、女性客の支持を得るのは難しいだろう。
 ところが『モテキ』はヒロインたちの悩みや苦労も描くことで、翻弄される主人公ばかりが被害者ではないことを明らかにする。
 こうしてバランスを取りながら、オシャレな『(500)日のサマー』よりも、鈍臭い『ボーイズ・オン・ザ・ラン』よりも、幅広い観客にアピールするのだ。うーん、上手い。


 そしてまた、お馬鹿ムービーとしても抱腹絶倒である。
 冒頭からかましてくれる女神輿!グラビアアイドルやポールダンサーたちが男一人のためにあられもない姿で神輿を担いでくれるなんてバカバカしいにもほどがある。
 しかし、大根仁監督はこの神輿をバカバカしさで白ける寸前ギリギリのところで踏みとどまり、ポップで愉快な映像に仕上げている。

 さらに人間の生理として大事なもの、ちょっとHな要素も欠かさない。それこそ観客の目を引き付けるストレートなテクニックである。
 これまた、度が過ぎるとデートムービーらしさをぶち壊してしまうわけだが、本作はきわどいところで品を失わず、艶笑譚としてまとめている。

 さらに更に、人間にとって向上するのは大事なことなのか、現状にとどまっていたらダメなのかと、人生への問いかけらしきものも持ち出して、深掘りしたい観客が考察できるようにもしてある。

 これらを印象的なセリフの数々と、切れのいい映像でテンポ良く繋いでいくのだから、本作は多くの観客のストライクゾーンに入ることだろう。


 ……と、ここまでは劇場公開で観る客にとっての話だ。
 日活の林朋宏氏によれば、映画ビジネスで儲けを確保するには2つのパターンがあるという。
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 娯楽映画にはステップごとに違った利用方法がある。劇場公開を1次利用と呼ぶ。2次利用はDVDなどのホームビデオ販売、3次利用はテレビ放映。だが、この流れに2つのビジネスパターンがあると林氏は説明する。

 1つは、劇場での収入に重きを置く場合。もう1つはDVD、テレビなどの2次利用、3次利用が重視されるパターンであり、それは劇場での観客層と、DVDなどのユーザー層が必ずしも一致しないためである。
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 ここまで見てきたように、本作は幅広い観客に受けることは間違いなく、1次利用たる劇場での収入は確実だろう。
 では、2次利用、3次利用についてはどうなのかというと、ここにもまた見事な仕掛けが施されている。
 それが音楽の使い方とカラオケ的映像だ。

 本作は主人公の感情を表現するのに、ポップスを多用している。もう途切れることなく様々なバンドの楽曲が流れ続ける。
 のみならず、ここぞというときには曲のタイトルと作詞者名、作曲者名まで大写しになり、曲にあわせて歌詞まで出てくる。カラオケの映像そのままだ。

 この映像には二重の意味がある。一つには、ルサンチマンが爆発している主人公の感情を面白おかしく表現することで、過剰に深刻な展開になるのを避けているのだ。これは映画館で楽しむ観客を意識しての処置だ。
 そしてもう一つは、ズバリ、カラオケとして楽しめるようにすることだ。こちらはDVDを自宅で鑑賞する人を念頭に置いている。 だってそうだろう。カラオケの話題やカラオケのシーンをさんざん見せられて、その後の感情が盛り上がったところで有名な曲が流れ出し、字幕で歌詞が現れたら、誰でも一緒に歌うだろう。だから曲は断片的な使い方ではなく、カラオケ好きが満足する程度の長さを確保する。映画館で見ているときはいささか冗長に感じるかもしれないが、自宅で酒を飲みながら一人であるいは恋人と一緒に歌っているときは、途中で止められたくないだろう。
 すなわち、これらのシーンはカラオケ用の映像を模しているのではなく、カラオケ用の映像そのものを狙っているのである。

 カラオケ的でない場面でも楽曲が流れ続けるのは、本作が「ながら視聴」やBGMとしても機能するように考えてのことだ。
 はたして映画と音楽との違いは何か?
 違いは多々あるだろうが、大きな点として繰り返し楽しめるかどうかということがある。お気に入りの曲だったら、1日に何度も聴くだろう。毎日毎日聴くかもしれない。しかしいくらお気に入りの映画でも、繰り返し見るには限度がある。
 だから、音楽は金を払ってでも手元に置いておきたいが、映画のDVDを購入するのは余程好きなものだけである。
 その点、本作は普通に映画として鑑賞するだけでなく、ミュージックビデオを見るように楽しむこともできる。映画のDVDの購入は躊躇する人でも、CDやミュージックビデオのDVDを兼ねているなら、購入意欲が高まることだろう。
 なにしろ楽曲が流れるだけではなく、本物のミュージシャンたちが入れ替わり立ち代り登場するのだから。

 とどめは、動画共有サイトのような映像だ。
 まるでYouTubeみたいな画面で歌うところは、映画館で観ていると、動画共有サイトが一般的になった現代をリアルに切り取ったかのように思わせる。それはそれで面白いのだが、もっとストレートな効果として、YouTubeで見たら面白くないということが挙げられる。
 パソコンの画面の一角に動画を配信するYouTubeでこの映像を見ると、動画用の小さな一角の中にさらに小さな一角が設けられて、その中に小さな小さな人が歌っている姿が映し出されることになる。そんなの全然面白くない。
 つまりこの映像は、動画共有サイトにアップロードされた違法コピーを見て済ませようとする不届き者をガッカリさせ、対価を払ってDVDを見るように仕向けるものなのだ。

 かように本作は、DVDの販売による2次利用を促進する仕掛けを凝らしているのである。


 3次利用のテレビ放映については云うまでもないだろう。
 本作はテレビドラマの続編であり、テレビで放映すればドラマを支持した視聴者が見てくれるのは確実だ。
 もちろん、続編といっても、あらかじめテレビドラマを見ておかないと困るわけではない。かくいう私自身がテレビシリーズを見ていないのに、充分に楽しんでいる。

 このように、本作は1次利用で儲け、2次利用でも儲け、3次利用でも受けるように配慮された最強ムービーなのだ!


 前述の林朋宏氏によれば、映画がよく見られるには3つの効果要素があるという。それは、「スター」「ジャンル」「監督」だ。
 本作は、「スター」については申し分ない。単に『(500)日のサマー』のパクっ……オマージュというだけでなく、舞台でも華麗なダンスを披露している森山未來さんにミュージカルシーンを演じさせることで彼の魅力を最大限に引き出し、さらに主役級の女優を4人も配する贅沢さ。大根仁監督は4人にそれぞれ個性的な役を割り当て、彼女たちの魅力も存分に引き出している。
 「ジャンル」としては、恋愛映画という一般的なものでありながら、コアなファンが存在するサブカルチャーが題材だ。
 そして、「監督」。大根仁監督はこれが映画デビュー作となるわけだが、今後とも必見であることは間違いない。


モテキ Blu-ray豪華版(2枚組)モテキ』  [ま行]
監督・脚本/大根仁  原作/久保ミツロウ
出演/森山未來 長澤まさみ 麻生久美子 仲里依紗 真木よう子 リリー・フランキー 金子ノブアキ 新井浩文
日本公開/2011年9月23日
ジャンル/[青春] [ドラマ] [ロマンス] [音楽]
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『グリーン・ランタン』 駐在か現地採用か?

 法的規制は、常に法律破りの後手に回っていた。たとえば自動車の発明直後の古い時代は、州の警察官が州境を越えることはできなかった。1908年、フォード社がT型フォードを大量生産した年に、米司法省はFBI(連邦捜査局)の前身であるBOI(捜査局)を発足させた。
 こうして国家警察が総括的に犯罪捜査を担うようになったが、そのときはすでに国境を越えて犯罪が横行するのをどうすることもできなかった。
 さらにずっと後、惑星間飛行が日常茶飯事となったとき、惑星警察が昔と同様の不便を持った。彼らは、管轄外の世界に対しては、なんの権威も持たなかった。一方、宇宙共通の敵は、なんの障害もなしに惑星間を飛び回っていたのだ。
 ついに、多数の太陽系世界間の交通が可能となるに及んで、犯罪は激しくなり、まったく手がつけられなくなった。
 こんな事情から、三惑星間パトロール隊や銀河パトロール隊ができた。
 ――E・E・スミス著『銀河パトロール隊』の冒頭で、レンズマン候補生学校のフォン・ホーヘンドルフ校長はこのように語る。

 『竹取物語』に見られるように、昔から人間は星の世界を想像し、多くの創作物が作られた。
 しかし、人類史上最初に太陽系外を舞台にした小説は、1928年にE・E・スミス博士が発表した『宇宙のスカイラーク』である。このズバ抜けて面白い不朽の名作に続いて、スミスは次々に傑作を発表し、やがて『銀河パトロール隊』(1937年)にはじまるレンズマンシリーズを生み出すに至る。ここでついに、銀河共同体――すなわち多くの異星種族を糾合した国家・機構というコンセプトが確立され、完成形を見る。
 レンズマンシリーズは、数十億年の歴史を扱う時間的な壮大さと、銀河をまたぐ空間的スケールの大きさ、そして多彩な人物が織りなす物語の豊かさと緻密な描写により、人類の創作物の中でも最高峰であろう。


 そしてレンズマンシリーズ以降も、銀河共同体を扱った小説は続々と生まれることになる。
 マンガでも、たとえば1940年から始まった『グリーン・ランタン』が、1959年の二代目を機に宇宙警察機構グリーンランタン・コーズの一員という設定に衣替えしたし、日本でも手塚治虫が『W3(ワンダースリー)』(1965年)を発表し、地球を訪問した銀河パトロール隊員の活躍を描いている。
 だが、作者のイマジネーションの赴くままに深宇宙を舞台にできる小説に比べると、他のメディアで宇宙を舞台にした作品は少なかったかもしれない。視覚的に説得力のある世界観を構築しにくいとか、遠い星々の物語には受け手が親しみを覚えにくいといった理由があったのだろう。

 とりわけ実写作品では、なかなか銀河共同体が描かれることはない。理由は簡単だ。スケールが大きすぎて、技術的にも予算的にも映像化が難しいのだ。
 それでも背景説明として登場することはある。
 『宇宙大作戦(スタートレック)』(1966年)は惑星連邦の航宙艦U.S.S.エンタープライズ号の調査飛行の物語である。また、『好き!すき!!魔女先生』(1971年)は宇宙連合の平和監視員だし、『宇宙刑事ギャバン』(1982年)は銀河連邦警察から派遣されたヒーローだ。
 だが、宇宙連合も銀河連邦も、その全貌が映像で提示されることはなかった。
 銀河帝国が登場する『スター・ウォーズ』だって、一作目は辺境での戦いに終始しており、首都惑星コルサントの映像は長らくおあずけだった。


 それゆえ、『グリーン・ランタン』のはじめての実写映画化において、宇宙警察機構グリーンランタン・コーズを存分に描いているのは嬉しい限りだ。
 そこまでせずに、地球だけを舞台にして、宇宙人から力を授かった地球人ヒーローの活躍に絞ることもできたわけだが、この映画は宇宙で始まり宇宙で終わる。グリーンランタン・コーズの本拠地である惑星オアもしっかり描かれるし、全宇宙からグリーン・ランタンたちが集合するシーンも惜しみなく披露する。
 なにしろ、宇宙的スケールを背景に持つことが、グリーン・ランタンを他のアメコミヒーローから差別化している点なのだから、ここを強調しない手はない。

 映像技術の進歩もあり、私たちは『スター・ウォーズ』(1977年)から22年を経て『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)でようやく首都惑星コルサントを見ることができたし、1966年の『ウルトラマン』から実に43年を経て『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(2009年)で遂に"光の国"とその住人たちをたっぷりと見ることができた。
 そんな中、『グリーン・ランタン』に興奮するのは、最新の映像技術と2億ドルという莫大な予算を注ぎ込み、一作目からいきなり宇宙の最深部を見せてくれるからだ。『マイティ・ソー』が神々の大宮殿ヴァルハラで幕を開けたように、もったいぶらずに見たいものをまず見せるのが、公開を待ち続けたファンへのサービスなのだろう。


 宇宙規模の警察機構といえば、日本ではウルトラシリーズの宇宙警備隊が有名だ。"光の国"の戦士たちは宇宙警備隊員として宇宙の平和のために戦っており、特に地球に駐在する隊員はウルトラ兄弟と呼ばれている。
 一見、グリーン・ランタンと似たような設定に思えるが、そこには主体性に関する大きな違いがある。
 日本のウルトラマンやサンダーマスクらは、自国の正義を敷衍するために強大な力を持って駐在する異邦人であり、あたかも在日米軍のような存在である。私たちは彼らを歓迎し、その力で保たれる平和を享受する。
 一方、『グリーン・ランタン』の主人公ハル・ジョーダンは、地球出身のグリーン・ランタンとして宇宙警察機構に参画する。彼は、未開の星で現地採用された隊員に過ぎないが、宇宙警察機構の中心に赴き、組織のトップであるガーディアンズとわたり合う。

 そのため、強敵と戦うクライマックスは、グリーン・ランタンたちが結集しての総力戦にはならない。
 ウルトラ兄弟の集結を見慣れている私たちには、全グリーン・ランタンが集まる方が豪勢に感じられるけれど、それではハル・ジョーダンの主体性が描けない。物語の最後は、一地球人がみずから困難を克服しなければならないのだ。
 本作は存分に宇宙を描きながらも、あくまで一個人の主体的な行動に焦点を当てているのがたいへん興味深いところである。


 さて、E・E・スミスがレンズマンシリーズを構想するに当たり、とりわけ腐心したものがある。
 一つは、偽造不能の識別章だ。人間であろうと、見知らぬ遠い惑星からやってきた想像を絶する怪物だろうと、いかなる形状の生物でも、それさえ示せば味方だと確信できる身分証明。多様な異星種族からなる銀河パトロール隊には、それが必要不可欠だ。
 そしてもう一つは、異生物とのコミュニケーション手段だ。まったく別の星系で独自の進化を遂げた異質の生物と意思の疎通を図るにはどうしたら良いか。そして銀河パトロール隊の意義を理解させ、協力を求めるにはどうすれば良いのか。

 これらの解答としてE・E・スミスが用意したのが、レンズ状の精神感応器である。数十億年の歴史を誇る超文明がもたらしたそれは、ブレスレッドとして主人公の腕で輝き、偽造も複製も不可能なものだ。銀河系の誰もが、それを装着した者は銀河パトロール隊の精鋭レンズマンだと認識する。そしてまたレンズマンは、"レンズ"が媒介するテレパシーにより異生物と会話することができる。
 こうして、銀河をまたにかけた活躍を描く上での懸案事項が解決された。

 その"レンズ"と同じ役割を担うのが、『グリーン・ランタン』のパワーリングである。
 44億年前に超種族ガーディアンズが設立した宇宙警察機構グリーンランタン・コーズ、その要員は様々な星から選ばれた多種多様な生物であり、ただ一つ共通しているのがパワーリングを装着していることである。それを着けた者はグリーンランタン・コーズのメンバーであり、パワーリングが媒介するテレパシーにより、どの星の生物とでも意思の疎通を図れる。
 まさしく、E・E・スミスが考案した銀河パトロール隊と"レンズ"そのものだ。
 この点でも『グリーン・ランタン』は、宇宙SFの真髄を受け継いでいるのである。


※参考文献
 『銀河パトロール隊』 著者:E・E・スミス 翻訳:小西宏 解説:厚木淳
 『銀河パトロール隊』 著者:E・E・スミス 翻訳:小隅黎 解説:野田昌宏


グリーンランタン [DVD]グリーン・ランタン』  [か行]
監督/マーティン・キャンベル
出演/ライアン・レイノルズ ブレイク・ライヴリー ティム・ロビンス マーク・ストロング ピーター・サースガード ジェイ・O・サンダース テムエラ・モリソン タイカ・ワイティティ アンジェラ・バセット
日本公開/2011年9月10日
ジャンル/[SF] [アクション] [アドベンチャー]
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『ゴーストライター』 事実は小説よりも奇なり

ゴーストライター [Blu-ray] 【ネタバレ注意】

 この映画は面白い。
 あなたがまだ『ゴーストライター』を観ていないのなら、それだけ知れば充分だろう。
 これは上質なサスペンスであり、芳醇なワインを味わうように渋みを楽しむ映画だ。
 この作品について知るところが少ないほど、あなたは映画を楽しめることだろう。だから、まだ本作を観ていないなら、ここから先は読まない方がいい。映画を鑑賞した後に再会しよう。

               

 さて、元英国首相の自叙伝執筆に端を発するこの物語は、政治的な要素をちりばめつつも、表舞台に立つ人間の陰に隠れた者たちの悲哀と野心をえぐり出す。
 その意味でこれは普遍的な物語であり、国家や政治の匂いが鼻を突くわけではない。

 とはいえ、この作品を"ロマンチック"にしているのは、人々の夢の源泉である"あの組織"が絡んでいるからだ。映画ファンやエンターテインメント小説の愛好家にとっては、夢と冒険に欠かせない例の組織――CIAことアメリカ中央情報局である。
 CIAは、あるときは恐るべき悪の組織として、またあるときは正義の味方として、幾多の映画や小説に登場する。物語ごとに立場は違えど、謀略・諜報に長けた強大な組織という点では変わりがない。
 この組織がなければ、多くのエンターテインメント作品は成立しなかっただろう。

 しかし現実には、CIAに対する人々の幻想を打ち砕くような事実の数々が報道されている。
 2009年末には、高度なテクニックである二重スパイに、あろうことかCIA自身が引っかかり、多数のCIA要員が殺害されるという大失態を演じている。
 また、ウィキリークスが暴露したところによれば、CIAがアフガニスタンに投入している無人機でのミサイル攻撃では、民間人を巻き添えにする事態や、無人機そのものの故障や事故が後を絶たない。

 近年のことばかりではない。ティム・ワイナーが膨大な公文書とインタビューから著した『CIA秘録』は、資金と権限を巡って国防総省との争いに明け暮れるこの組織の60年の歴史が、あまりにもカッコ悪いことを明らかにしている。
 グアテマラのCIA支局は、大使の寝室で盗聴した愛人との"愛のささやき"をワシントンに報告し、大使を中傷しようとした。しかし議会に報告した後に判ったことだが、録音した"愛のささやき"は大使が愛犬と戯れるものだった。
 日米自動車交渉の際には、CIAは経済データを収集して米国を優位に導こうとしたが、CIAによる分析はお粗末で、公開情報に基づく民間のアナリストらの分析を超えるものではなく、「やつらの情報はほとんどがらくただ」と罵られた。
 ビル・クリントン大統領は、CIAの報告よりもCNNを見て満足していた。

 残念ながら、CIAといえども映画や小説のように高度な知力・胆力・行動力をもって活躍できるわけではないのだろう。
 ティム・ワイナーは『CIA秘録』の中でこう書いている。
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フィクションとしてのCIA、小説や映画に生きているCIAは万能である。黄金時代の神話は、CIA自身が作り上げたもので、アレン・ダレス(50年代のCIA長官:引用者註)が1950年代にでっち上げた広報や政治宣伝の産物である。
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 そしてCIAの実情について、菅原出氏はウィキリークスに関連して次のように述べる。
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(略)陳腐な陰謀論さえ出ておりますが、CIAにそんな大それた力はありません。そもそも、そのようなとてつもない陰謀を起こす能力があれば、アフガニスタンでもイラクでもこんなに苦労はしていません。実はそんな陰謀論者たちが期待するようなとてつもない陰謀を米政府はやっていないということも、このウィキリークスの機密文書をみていくとよくわかります。

 いずれにしても、当事者意識が欠如しているので、このような他人事のような陰謀論がはびこってしまうのではないでしょうか。
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 私たちは陰謀論が大好きだ。
 自分が非力であることや世の中がままならないことに気づいても、そこに悪意を持った何者かが介在していると考えれば、すべてをそいつのせいにできる。
 芹沢一也氏と荻上チキ氏は、仮想敵を作らずにはいられない私たちの心理を次のように語っている。
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芹沢 今度、雨宮処凛さんと飯田さんの対談本が出るんですけど、その中で飯田さんが、日本の製造業が中国に移転した理由を円高だと説明している場面があるんです。一ドル105円が分岐点らしいのですが、それ以上安くなると、日本の労働者は質がいいので日本に工場をつくるようになると。だけど、問題は為替レートだとなると、雨宮さんは「なにをどうすれば」みたいな雰囲気になる。小泉、ばか野郎とか言えないわけじゃないですか。

――そうか、敵がつくれないと、盛り上がれないですね。

芹沢 そう、新自由主義であれ、構造改革であれ、敵をつくって叩けば、成果はさておきフラストレーションが発散できる。生きがいも得られる。運動のほとんどは「敵づくり」にとどまってますね。冷静にシステムを考えてみようという発想は、ほとんどない。

荻上 「この社会をダメにしている何かがあるから幸せになれないんだ」的な、疎外論的な枠組みは強烈なので、どうしてもそうなりますよね。
---

 私たちは巨大な敵を欲している。
 なぜなら、そんな敵が悪さしていると考えないことには、幸せになれない自分があまりにも惨めだからである。
 自分の矮小さを正当化できるような巨大な陰謀を、国や企業に期待しているのだ。
 中でもとりわけ期待されているのが、CIAに他ならない。その実態はともかく。


 とはいえ、CIAだって失敗ばかりしているわけではない。
 前掲書『CIA秘録』には、まずまずの成功例も載っている。
 それが他国の首相に対する工作である。かつてCIAが有力な政治家に目を付けて金銭を提供すると、政治家はその資金を使ってみずからの権力を固め、首相の座まで上りつめた。そして自国の政策を米国の望むものに変えていった。
 またCIAは他の与党議員にも金銭を提供するとともに、野党の一部にも資金援助して野党勢力を分断し、さらに世論作りにも資金を投入した。
 まるで『ゴーストライター』の元ネタではないかと思えるほど、CIAが支援した首相は長年にわたりCIAとの緊密な関係を維持し続けた。

 ただし、それは「ブッシュのプードル」と揶揄されるほど米国に追従し、ロバート・ハリスに『ゴーストライター』の原作を書かせるに至った英国首相トニー・ブレアのことではない。
 ユーラシア大陸の反対側、極東にある島国での出来事だ。
 その政治家とは岸信介(きし のぶすけ)。1960年、日米安保条約締結時の内閣総理大臣である。


ゴーストライター [Blu-ray]ゴーストライター』  [か行]
監督・制作・脚本/ロマン・ポランスキー  原作・脚本/ロバート・ハリス
出演/ユアン・マクレガー ピアース・ブロスナン キム・キャトラル オリヴィア・ウィリアムズ トム・ウィルキンソン ティモシー・ハットン ジョン・バーンサル デヴィッド・リントール ロバート・パフ ジェームズ・ベルーシ
日本公開/2011年8月27日
ジャンル/[サスペンス] [ミステリー]
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