日中は暑い日が続く夏場など、じっとしているだけでも汗をかいてしまうような標高の低い山には足が遠のいてしまいがち。「春までのように気軽に近所の山に登りたいけど、暑さがどうしても・・・」という方も多いはず。それならば逆手にとって、「近所にある、普段から行きなれた山」に行くために、気温も湿度もさがり夜風も心地よい時間帯である「夜」に登るのは如何でしょうか?
今回は近場のイイ山が揃っている「好日山荘100名山」で、「ナイトハイキング」を楽しみませんか?というご提案のコラムです。
「慣れた山とはいえ、夜に歩くのは不安が・・・」という方に向けて、段階を踏む楽しみ方を「ナイトハイク三都物語」スタイルでお届けします。
ステップ①:まずは明るい時間から歩き始めてみる
通い慣れた、歩きなれた登山道でも、暗くなると印象はガラッと変わってきます。緊張が走り、心拍数が上がるようでは山歩きは楽しめません。
最初は「日没時間から逆算して、日没時間から30分以内で目的地に着く」で出発時間を決める方法で登ります。
今回この「ステップ①」を実践する山は、大阪の生駒山(好日山荘100名山・お客様選出)です。
登山当日の日没時刻は18:28、「標準コースタイム+α」で計算し19時に山頂に着くように逆算して登山口を出発します。出発時の気温は29℃、湿度は80%を超える状況。スタートの直前まで雨が降っていた事もあり、歩き出しは汗が滝のように流れましたが、徐々に風も出てきてヒグラシの声が山中のいたる所で響きわたり、時間の経過と共に涼しさが増していきます。
西日が差す登山道はまだ明るく、余裕を持って歩けます。木々に覆われた登山道は暗さを感じるもののヘッドランプを使うほどではありません。
山頂手前、最後のひと登りぐらいで周囲は薄暗くなり、ここでようやく「ナイトハイキング感」が。
生駒山の上には遊園地があり、夏場は曜日限定でナイトタイム営業をしているのですが、営業日であったこの日は山頂での遊園地の照明と楽しむお客さんの声にホッと一息。日中だと暑いであろうこの遊園地から、夕涼みをしながら大阪平野の夜景を楽しみました。
下山は遊園地の営業時間に合わせて運行する生駒ケーブルの最終便で下山です。初歩のナイトハイキングでは公共交通機関で下山できる山を選ぶ事もポイントです。
ステップ②:日没時間から歩き出す
”ステップ①”では、山の中腹まで西日が差しこむまだ明るい中を歩いたナイトハイクでしたが、”ステップ②”では日没後からスタートです。登るのは六甲山(好日山荘100名山:センタープラザ神戸本店選出)系の摩耶山。”百万ドルの夜景”がゴールです。
夏場は街中だと日没時刻が過ぎてもしばらくは明るい事が多いですが、木々の中を歩く登山ではやはり薄暗いです。”ステップ①”の時はすぐ取り出せるポケットにヘッドランプを入れていましたが、この”ステップ②”ではすぐ点灯できるように頭に装着して歩き出します。
自分の周りが暗くなる時は一気に暗くなります。慌てないためにも、ヘッドランプは装着したままスタートしましょう。
この日は日中が真夏日となり湿度も80%超え。涼しい夜の登山とはいえ汗はかきます。日中の登山と変わらず、1.5リットルの水分を用意。暗い中で沢などの水場を使う事はリスクが高いので「涼しいから」と油断せずに普段通りの水分を携行しましょう。
行き慣れた山とはいえ、単純な分岐から日中でも分かりにくいと感じている箇所まで、しっかり立ち止まって地図やアプリで確認をしましょう。”ステップ①”でも書きましたが暗くなり数メートル先が見づらくなると、印象がかわります。涼しい夜風もあって歩が進みますが、慎重に。
昼間と違って虫に刺される可能性はグッと下がります、これも夏の低山登山としてのナイトハイクをお勧めする理由の一つです。でも、ヘッドランプ点灯中は常に虫は寄ってきます、当然ですが…。
慣れるまでは自分のライトで照らした物の影が異様な物に見えたり、木から落ちてきた葉っぱに驚いたりしますが、五感が研ぎ澄まされて慎重に行動ができて良いかもしれません。
夜の低山は日中の賑わいと違って、人気の山でも人が少なく本当に静かです。時折木々の隙間から見える街の明かりが高い山と違い、近くに見える事でどことなく安心感があります。
真っ暗な登山道を抜けると、摩耶山山頂そばにある夜景スポット「掬星台」に到着です。ここは公共交通機関や車でのアクセスが可能なので、沢山の人が夜景を楽しんでいました。”ステップ①”の生駒山同様、灯りと人の気配があると安心感があります。
夜景を楽しんだら、今回も交通機関で下山です。今回はちょっと離れた場所ですが六甲ケーブルの山上駅まで山道と舗装路を歩き、ケーブルカー利用で下山しました。
ステップ③:真っ暗になってからスタートし、歩いて下山する
”ステップ①・②”では、本格的に暗くなる前、下山は公共交通機関を利用、でナイトハイキングを楽しみましたが、”ステップ③”では本格的にナイトハイキングを敢行です。
”ステップ③”で登るのは京都の大文字山(好日山荘100名山:京都河原町店選出)標高は465mで緩やかな登山道が続く里山。
【取材は「京都五山送り火」が終了し、日没後の登山も差し支えがなくなった8月の下旬です】
日没時刻まで登山口近くの街中界隈をウロウロし(やはり京都市内は住宅街っぽい所でも、ちょっとした見所が点在しています)、辺りが暗くなるのを待ちます。さらには登山口についても直ぐには登らず、暗さに目を慣らしてから行動開始です。
スタート時点でヘッドランプは頭に装着済み。そしていつもなら腰に装着するヘッドランプを片手に持つ「行燈スタイル」で足元を照らしながら歩きました(なんだか京都っぽい!?)。いわゆる懐中電灯的なライトで道を照らす方が効率的ですしピンポイントで照らせますが、ゆらゆら揺れる灯りは風情があり、これはこれでいいなと悦に入っていました。
大文字山の登山道は色々と分岐が多いですが、最終的にはつながっている箇所も多いです。もしナイトハイク中に迷っても焦らずに現在位置を把握し、むやみに進まず来た道を分かるところまで戻りましょう。”ステップ②”でも書いた通り、「分かっている登山道」と油断せずに常に自分の現在地と進行方向は確認してください。
真っ暗な森の中を抜けると「火床」のある斜面に。大文字山はご存じの通り「京都五山送り火」が行われる山で、薪を組んで火に松葉をくべる場所が「火床」です。その火床のうち「大の字」の中心部である「金尾」がある高台から京都市内を一望できます。やはりこの絶景とアクセスの良さから、この金尾までは数名のハイカーやウォーキングの方がおられました。
ここで夜景を楽しんだあと、大文字山山頂に向かうため火床を後にするのですが、ここから先は完全貸切り。誰とも合わない静かなナイトハイクに。
京都というと「夏暑くて冬寒い」というステレオタイプなイメージがありますが、実際この日も市内はうだるような暑さでした。今回の三座の中ではナイトハイクのメリットを最大限に享受できる場所です。日中の暑さがウソのように涼しく、夜風が気持ちいいハイキングになりました。
山頂からも景色は楽しめますが、火床からの景色の方が個人的にはお勧めです。
貸切りの山頂で暫し休憩したら下山開始です。下りは疲労などから集中力が落ちる状況です。ナイトハイクだと視認できるのがヘッドランプで照らされた範囲だけになりますが、だからといって足元だけに集中せず、ライトで照射できる最も遠い所、数メートル先、足元、を順番に確認しながらゆっくり着実に下っていきます。
夜の滝は全景が捉え辛いので落ちる水の音で大きさを判断するのでした。
登りよりも慎重に歩き、コースタイムから少し足が出るくらいの時間をかけてゆっくり下山。予定より遅くなりましたが、バス停が徒歩圏内でしたので問題なしでした。
ナイトハイクを楽しむ為のポイント
ナイトハイクを楽しむにあたっては、初めての方は今回のコラムのように段階を踏んで近所の交通至便の山からスタートしてみては如何でしょうか。
ナイトハイクで気を付けてほしいポイントを要約しておきます。
一、ヘッドランプの電池の確認と予備を持参する
これは普段の登山と同じこと。とりわけ夜間は電池が切れてしまう事が一番の懸念事項です。慣れるまではヘッドランプの最大出力で使い続ける事が多いと思います。必ず新品の予備電池を。
一、公共交通機関の最新の運行状況と時刻表を直前に確認しておく
ステップ①と②で実践したように、公共交通機関で下山を計画する場合はホームページや電話で最新の状況を確認しましょう。季節や曜日、気象状況で運行状況が変更されている可能性もあります。
一、万が一下山が予定より遅れても帰宅できる範囲内の山を選ぶ
余裕を持った計画が大前提ですが、それでも予定通りいかない事もあるかと思います。イレギュラーな事が発生した時の為にも、土地勘があり登山口まわりの状況を把握できている山「地元の山」から始めましょう
一、野生動物に注意
本来は昼行性の動物が夜間に行動している事も。今回の私の場合、猪と生駒では登山道ではちあわせ、六甲では親子と遭遇、ウリボウは固まってしまいましたが、親猪は穴掘りに夢中でこちらに気づいていませんでした。
私の場合は周囲に自分の存在を知らせる為に、熊鈴をザックに付けて登っていました。
一、その他
・登山道までのアプローチやルート上に民家などがある場合は、仲間同士で大きな声で話したりして迷惑にならないようにしましょう。
・山中のルート上に自動販売機や照明のあるトイレがあれば、より快適に安心して楽しめると思います。
終わりに。
ナイトハイクはその目的によって季節に関係なく楽しめますが、一番オススメの楽しみ方は”暑さで登山が億劫になりがちな夏場の近所の低山”です。
余談ですが暗闇で歩く事に慣れていると、普段の登山でも日没後の行動を強いられた時や、日の出を拝む為に真っ暗な早朝から登山をする時などにその経験値が活かせると思います。
好日山荘100名山や身近な低山で、ナイトハイクを楽しんで下さい。
好日山荘マガジンライター:菰下 了
*取材時は感染症対策をとり、密集・密接を避けて行動をしております。
この記事を書いたのは「好日山荘マガジン 編集部」
登山・クライミング・キャンプのプロ、好日山荘スタッフによる編集部。あなたのアウトドアライフを応援します!
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