高山本線は、飛騨川と神通川の谷間に沿って岐阜と富山を結ぶ風光明媚な路線だ。沿線には下呂温泉や高山といった観光地を有し、特急ひだが高頻度で運転されている。この特急ひだで長らく運用されてきたのがキハ85系だった。それまでの国鉄形に比べはるかに眺望性のよいパノラマ型先頭車を備えたキハ85系は、JR東海の”ワイドビュー”特急シリーズの鏑矢でありながら国鉄時代からの列車愛称幕のDNAを継承した絶妙なデザインが施されている。だが、そんなキハ85系も登場後30年を超え、2023年をもって新型HC85系に置き換えられる運びとなった。引退迫る2021年冬から、キハ85系の活躍を追うべく、飛騨路へと通うようになった。
冬の特急ひだの魅力は、豪雪地帯特有の風光明媚さももちろんあるが、需要に応じて1両単位での増結が頻繁に行われ、繁忙期にしばしば最大10両編成という国内気動車特急としては最長の編成を組むことである。増車がかかっている列車がどれかは、JRのネット予約を調べればある程度見当がつくので、撮影前日には必ず増車列車の確認を行ったうえで、どう撮影地を立ち回れば一番効率よく撮影できるかの作戦を練っていた。
初めての冬の飛騨路通いは2021年12月25日。寒気が流れ込むことが予想され、いささかの積雪が期待されたため、友人を誘って赴いた。ところが、あいにくと予報がはずれ、雪化粧とはいかなかった。
この日の名古屋/大阪行のひだ16号/36号は増車がかかった9両編成での運転。不完全燃焼ではあるものの、せっかくならばと飛騨一ノ宮~久々野の踏切でパノラマ車先頭を狙った。あいにくの曇りではあったものの、9両すべてに搭載されたカミンズ製エンジン18基がうなりをあげて宮峠を登っていく様はなんとも勇ましかった。
25日の積雪予報惨敗にいてもたってもいられず、数日後の29日、はたまた別の友人を誘って今度こその積雪に賭け飛騨路へと舞い戻った。今回は予報が的中し、豪雪とまではいかずとも程よく積雪しており、氷点下に冷え切った山間でキハ85を迎え撃った。
まずは名古屋行ひだ2号を久々野~渚の鉄橋で迎え撃った。この運用は前日の高山行最終ひだの折り返しで、前日運用が1両増車の5両であったため、5両で撮影することができた。パノラマ先頭車とは違った貫通扉のついた重厚な面構えはこれまたキハ85系の魅力であると認識させられた。気温がまだ上がらぬ早朝7時とあって、背景の木々の着雪具合もよく、これぞ冬の飛騨路といった空気を感じさせてくれる一枚になった。
ひだ2号を撮影後は高山からさらに北上し、富山から来る6号を飛騨細江にて撮ることとした。雪化粧したモノトーンな景色の中、雪煙を巻き上げながら神通川(宮川)を渡るオレンジ帯の特急というシンプルな構成が想像以上に映えて見えた。
29日最後はまたしてもひだ16号/36号を狙うべく前回と同じく飛騨一ノ宮の踏切へ。ついにこの日は最大増結10両編成での運転。パノラマ車を先頭に10両編成が駆けあがってくる様は、前回の9両編成にも増して勇ましかった。
この2回の撮影で完全にキハ85系ひだの魅力に取りつかれてしまったが故、この後怒濤の飛騨路通いが始まるのであった。
飛騨路IIへと続く。