切手ダシ

GHQの郵便検閲に関する初歩的疑問8(検閲印は"CP"印か"PC"印か-8)

第2次世界大戦中に、日本軍は太平洋南方地域を占領した。

南方占領地フィリピン切手のカバーに押されていた検閲印は、次のような表記である。(下図)

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250327-PC検閲印-憲兵隊検閲印-在フィリピン1943-270x135
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大日本憲兵隊

検閲済

Passed by Censor

Japanese Military Police

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漢字で「検閲済」、それに対応する英語として、"Passed by Censor"が使われているのがわかる。

「検閲」="Censor"、「済」="Pass(ed)"で、「検閲済」="Censor Pass(ed)"

とはなっていない。


(次回に続く)


(25.04.02)


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250402追記

南方占領地フィリピンでは、日本語表記のみの検閲印も存在する。

「比島憲兵隊/ 検閲済」(縦書き2行)

この検閲印は、日本語で書かれた日本本土宛のカバーに見られる。


また、フィリピン各地(各局)の憲兵隊で、それぞれ独自に検閲印を調製したようである。

各局の検閲印は見た目が互いに異なり、これらを集めると面白そうだ。

しかし、マニラ以外のカバーの収集は、非常に大変らしい。

首都マニラには大勢の現地郵趣家や切手商がいたので、戦時中にもかかわらず、フィラテリックカバーが大量に作製されている。


GHQの郵便検閲に関する初歩的疑問7(検閲印は"CP"印か"PC"印か-7)

"Passed by Censor"、これは検閲印の典型的な表記である。

これを省略すると、"PC"だろうか、それとも、"PBC"だろうか?


前置詞"by"が使われていない表記、"Passed Censor"なら、こうした事を考えずに済むだろう。

そこで、"Passed Censor"表記の検閲印がないかと、ネット検索で適当に調べた。

(英語として正しい表記かどうかは、私は知らない。)


検索すると、"Passed Censor"表記の検閲印が色々見つかった。(下図)

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250331各国PC表示検閲印-iMarkup778x812
"Passed Censor"表記の色々な検閲印
(各印の相対的な大きさは実際とは異なる。)
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このように、"Passed Censor"表記の検閲印は、色々存在する。


図の最後に示したように、ズバリ、"P. C."と表記された丸型の検閲印も見つかった。

(この"P. C."が何の略かは、正確には不明である。

だが、"Passed (by) Censor"の略と考えて、まず間違いないだろう。)


一方、"Censor Passed"表記の検閲印、上の表記とは語順が逆のものは、

私のいい加減な検索では、残念ながら、見つける事が出来なかった。

("Censor Pass"も見つからなかった。)


(25.03.31)


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250331追記1

上の図の印は、どれも実際の郵便物に押されていたものである。

図の左上より、

在ジブラルタル1940年、在エジプト1916年、

在シンガポール1915年、

在南アフリカ1916年、在キプロス1940年、在アデン1915年、

最後の"P. C."印は、

在ジブラルタル1914年俘虜郵便

(この分野について素人の私には、いずれも詳細不明。英語表記の検閲印なので、検閲したのは、イギリスか英領、英連邦諸国か、それとも、アメリカなど英語使用の国、これらの国の機関、部隊なのだろう。)


これらの印が検閲機関、検閲部隊の公式な検閲印であるのかどうか、この分野について素人の私は知らない。


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250331追記2

これらの印が本当に本物であるのかどうかも、素人の私にはわからない。

収集家は少しでも変わったもの、他人が持っていないものを欲しがる。

そうした収集家の心理を突いた偽物は、どの分野にも存在する。

ヤフオクにも「検閲済」などの偽造印が出品された事があった。(今後の出品もあるだろう。)


GHQの郵便検閲に関する初歩的疑問6(検閲印は"CP"印か"PC"印か-6)

『裏田本』の「図8」。(p.46)

「図8」の説明には、「日本人検閲官がのこした貴重な資料。コード番号やPCモノグラムの意味を記入してある」と書かれている。


『裏田本』の掲載画像では、画像に書かれた文字が読みにくい。

そこで、画像処理したものを作製した。(下図)

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250326『裏田本』GHQ検閲印説明文-iMarkup751x621
(再掲)『裏田本』の「図8」(p.46)。
(文字判読のために、画像処理したもの。)
ーーーーーーーー


すると、この資料にはいくつか奇妙な点がある事に気付く。


ーーーーーーーー

C.C.D.J-2400

25-8("金魚鉢"の枠内上部に手書き)

検閲印"金魚鉢" 

ーーーーーーーー

この検閲印"金魚鉢"(CCDJ-2400)に対して、次のような説明が書き込まれている。


ーーーーーーーー

1. C.C.D.に対して、"Civil Censor Department"

2. Jに対して、"Japanese"

3. 2400に対して、"検査員個人番号"

4. 25-8(手書き)に対して、"日ヲ先キニ月ヲ後ニ/ 検査日ヲ記入スル"(縦書き)

5. モノグラムに対して、"円内ノ字ハ/ CPノ組合セ /「検閲済」"(縦書き)

  "Censors Passed"

ーーーーーーーー


『裏田本』では、"Censor Passed"と書いてあるが、実際には、"Censors Passed"、Censorの複数形である。

私は、最初、用紙の汚れかと思ったが、他の"s"と同じ書き方で書かれた"s"である。

単語間の空白としても、"s"がある方が、"s"がない場合よりも自然である。


しかし、"Censors Passed"だと、私には意味不明である。

"アポストロフィs"かとも思ったが、"Censor's Passed"でも、私には意味不明である。(最後に"stamp"が省略されていると仮定すれば、もしかしたら意味が通じるのかもしれないが、英語に弱い私にはわからない。)


こんな英語に弱い私でも、明確に奇妙だと指摘できる点がある。

CCDに対して、"Civil Censor Department"と説明している点である。

"Department"は間違いである。

"Detachment"が正しい。


これらの奇妙な点を考慮すると、この説明文は、当時の日本人検閲官が、(その当時に)書き残したものだとしても、完全には信用できないのである。


この資料を残した日本人検閲官に、いつ誰がこれらの事を説明したのかは不明である。

古参の上級日本人検閲官だろうか?

説明した人物の元々の説明自体が正確なものではなかった、という可能性があるだろう。


GHQのアメリカ人や日系2世の上役が説明していたとしても、ネイティブの流暢な発音を、この日本人検閲官が正確に聞き取れなかった可能性もあるだろう。

(説明したのがアメリカ人であったとしても、その説明内容が正確であったとは限らない。)


裏田氏も、上の資料のこうした奇妙な点に気付いていたに違いない。

だから、『裏田本』では、この資料の詳しい説明を避けたのだろう。

そして、この資料に書かれていた"CP"印の呼称を積極的に採用しなかったのだろう。


(次回に続く)


(25.03.28)


GHQの郵便検閲に関する初歩的疑問5(検閲印は"CP"印か"PC"印か-5)

『裏田本』には「図8」として、GHQの検閲印"金魚鉢"を押した紙片の画像が掲載されている。(p.46)

「図8」の説明には、「日本人検閲官がのこした貴重な資料。コード番号やPCモノグラムの意味を記入してある」と書かれている。


そして、本文中には、

「ところが郵便以外にも使用され、しかも検閲官の証言として藤野コレクションにある資料(挿図)に "CENSOR PASSED" 日付記入方法の説明がある(12)。」

改行後、上の文に続いて、

PC印についての日本におけるフィラテリーのニックネームが「金魚鉢」とは言い得て妙ではないか。」(「」は原文のまま。)

と書かれている。(p.46)


当時検閲官だった人が残した資料に"Censor Passed"と書かれている、と裏田氏は述べている。

この資料の記述に従うなら、"CP"印となるだろう。

しかし、裏田氏は、一貫して"PC"印で通している。


『裏田本』では、画像について上の文しか説明がない。

『裏田本』の掲載画像では、画像に書かれた文字が読みにくい。

そこで、画像処理したものを作製した。(下図)


ーーーーーーーー
250326『裏田本』GHQ検閲印説明文-iMarkup751x621
『裏田本』の「図8」(p.46)。
(文字判読のために、画像処理したもの。)
ーーーーーーーー


すると、この資料にはいくつか奇妙な点がある事に気付く。


(次回に続く)


(25.03.26)


GHQの郵便検閲に関する初歩的疑問4(検閲印は"CP"印か"PC"印か-4)

前々回挙げた以外の説明として、


アルファベット"P"は、

1. Postal / PostPosted (「郵便(物)」)

あるいは、

2. Press / Publication / PublishPublished (「出版(物)」)

などという解釈も可能である。


しかし、これらの解釈は、どちらも明らかに間違いである。


なぜなら、郵便検閲にも出版検閲にも、どちらにも、この検閲印"金魚鉢"が使用されているからである。

(どちらの検閲にも、例外的にではなく、常用されている。)


前者の解釈は、『裏田本』p.46で裏田氏が否定している。

後者の解釈は、切手収集家としては"論外"、想像しがたいだろう。

切手収集家は郵便検閲の存在を知っているから。

しかし、後者の解釈を出版検閲に関する記事で見かけた。21世紀に書かれた記事でも見つけた。(あえて例示はしない。)

それらの記事の筆者は、切手収集とは全く無縁の方なのだろう。


検閲印"金魚鉢"の使用状況については、検閲印番号と関連して、後で詳しく検討するつもりである。


(次回に続く)


(25.03.24)


ーーーーーーーー

250324追記1

次のような解釈も一応可能である。

同一形式の検閲印"金魚鉢"を、郵便検閲と出版検閲とで用いた。

しかし、検閲印に刻まれたモノグラムの意味は、各部署で違っていた。

"ダブルミーニング"、"掛詞"であった。


しかし、わざわざそんな複雑な事をGHQがする必要はないだろう。


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250324追記2

『裏田本』p.48には、「図9」として、雑誌「改造」1948年(昭和23年)7月号の表紙が掲載されている。

表紙の左下に検閲印"金魚鉢"(CCDJ-5001)、「7-13-48」と英文の検閲書き込みあり。

表紙の中央右寄りに検閲印"金魚鉢"(CCDJ-5001)、「7-19-48」と英文の検閲書き込みあり。

(検閲印"金魚鉢"の向きは、どちらもほぼ正位。)

(「注13」とあり、元々は、福島鋳(鑄)郎氏の報告らしい。福島鋳(鑄)郎氏は、終戦前後の時期の出版物の有名な収集家、研究家。)


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250325追記

『裏田本』の「注13」(p.121)では、福島鋳郎氏の報告として、

『占領下における検閲資料とその実態』

を挙げている。

掲載雑誌は「思想の科学」とある。

しかし、刊行年、号数やページなど、これ以上詳しい事はなぜか書かれていない。


私が「思想の科学」の実物を確認した。

思想の科学 第98号(1978.11) p.15

この記事のp.26に、「図11」、「ゲラ刷で検閲された『改造』昭和22年7月号」というタイトルで、『裏田本』の「図9」と同一の表紙が掲載されている。

(図のタイトルには「昭和22年」とあるが、これは「昭和23年」の誤記。)


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