奇妙な世界の片隅で 江戸川乱歩、没後50周年のことなど
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江戸川乱歩、没後50周年のことなど
 今年は、江戸川乱歩の没後50周年だそうです。没後50年でこれだけ話題になる作家がどれだけいるかと考えると、乱歩の人気はいまだに衰えていないようですね。何より、ほぼ全作品が、今でも書店で普通に手に入るというのは、すごいことだと思います。
 没後50周年に伴い、関連図書の出版や企画などが相次いでいます。ここ数ヶ月で刊行された乱歩関連書から、いくつか、ご紹介していきたいと思います。



4791702921ユリイカ 2015年8月号 特集=江戸川乱歩
北村薫 辻村深月 丸尾末広 岸誠二 上坂すみれ 高原英理 樺山三英 倉数茂
青土社 2015-07-27

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『ユリイカ 2015年8月号 特集=江戸川乱歩』(青土社)
 乱歩に関するエッセイ・論考が掲載されています。乱歩をテーマにした漫画作品が3篇、小説が4篇と、創作が多く掲載されています。
 漫画3篇がどれもショート・ショートといっていい短さながら、面白く読めます。『押絵と旅する男』をテーマにした玉川重機作品と『屋根裏の散歩者』をテーマにした駕籠真太郎作品が出色の出来です。
 論考に関しては、わりとアカデミックなものが多く、ミステリや怪奇小説など、エンタテインメント作品としてのアプローチがほとんどないのが気になります。



B00XYX3ZOSミステリマガジン 2015年 09 月号 [雑誌]
早川書房 2015-07-25

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『ミステリマガジン 2015年9月号 幻想と怪奇 乱歩輪舞ふたたび』(早川書房)
 前年度に引き続き、乱歩をテーマにした<幻想と怪奇>特集です。今回のテーマは『人間豹』。コッパードの『銀色のサーカス』『人間豹』の歌舞伎脚本などが掲載されています。
 切り口は非常に面白いと思うのですが、どうも特集の密度が薄い感じがします。さらに言えば、翻訳作品の紹介誌であるはずの『ミステリマガジン』で、こうも翻訳作品が少ないのはどうかと思う次第です。翻訳権の問題で、近年の作品が掲載できないにしても、怪奇小説の古典ならもっと載せられると思うのですが。
 乱歩には、特集のテーマにできそうな怪奇幻想小説が他にもたくさんあります。例えば『鏡地獄』をテーマにして、鏡やレンズを扱った作品を集めたりとか、『人でなしの恋』をテーマにして、人形を扱った作品を集めたりとか。
  ずばり怪奇小説について書かれたエッセイ『怪談入門』をコンセプトにした『乱歩の選んだベスト・ホラー』(森英俊、野村宏平編 ちくま文庫)みたいな例もあるので、せっかくの<幻想と怪奇>特集、もう少し頑張ってほしかった、というのが正直な気持ちですね。



4785955805江戸川乱歩妖美劇画館 1巻 (『パノラマ島奇談』『地獄風景』) (SGコミックス)
原作・江戸川乱歩 作画・上村一夫 作画・桑田次郎
少年画報社 2015-07-24

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4785955813江戸川乱歩妖美劇画館 2巻 (『白昼夢』『人間椅子』『芋虫』『お勢地獄』『巡礼萬華鏡』『お勢登場』) (SGコミックス)
原作・江戸川乱歩 作画・石川球太 作画・真崎・守 作画・池上遼一
少年画報社 2015-07-24

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『江戸川乱歩妖美劇画館1・2巻』(上村一夫、石川球太ほか 少年画報社)
 江戸川乱歩作品の漫画(劇画)化作品のアンソロジーです。主に乱歩の怪奇幻想小説の漫画化になっています。『パノラマ島奇談』『白昼夢』『人間椅子』『芋虫』など、エログロ風味も強い作品が多いですね。
 収録作品のほとんどが1970年代に描かれたものなので、現代の読者には絵柄的に受付けにくいものも多いかもしれません。



4800306116乱歩ワールド大全
野村 宏平
洋泉社 2015-03-19

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野村宏平『乱歩ワールド大全』(洋泉社)
 乱歩の小説作品を読み込み、分類・分析した労作です。キャラクターやキーワード、トリック集成、シチュエーションなど、とにかく分類が細かいのが特徴です。乱歩自身に、ミステリのトリックを分類した『類別トリック集成』がありますが、それを乱歩作品に適用したかのような作りになっています。
 1990年代の終わりに、雑誌『太陽』の特集をもとにした『江戸川乱歩』(平凡社コロナ・ブックス)というムックが出ていました。これは乱歩作品を象徴するキーワードを抜き出して、それぞれ執筆者がそのキーワードについて語るというものです。切り口は魅力的ながら、どうも物足りないと思っていたのですが、この『乱歩ワールド大全』はその物足りない部分を語りつくしてくれた、という印象です。
 乱歩作品に登場する怪人の一覧表なんて、初めて見ました。レファレンスとしても使える、乱歩ファン必携の本だと言えます。
 


B0116RSG7O乱歩奇譚 Game of Laplace 1 (完全生産限定版) [Blu-ray]
アニプレックス 2015-09-30

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『乱歩奇譚 Game of Laplace』(フジテレビ『ノイタミナ』枠にて放映中)
 これは、乱歩のエッセンスを使って、設定を現代に移し変えたオリジナルアニメです。現在6話まで放映されています。
 中性的な少年「コバヤシ」が、探偵の「アケチ」に出会い、友人の「ハシバ」とともに、猟奇的な犯罪を捜査してゆく…。これが、メインのストーリーになります。各話のタイトルは、原作小説の題名が使われていますが、中身は原作のエッセンスや登場人物の名前を借りているだけで、直接的な関係はありません。
 主人公の「コバヤシ」が、日常生活に生きがいを感じられず、猟奇的な犯罪や犯人に共感を抱くという、いささか精神病質の人間として描かれているのが特徴です。それに伴って、主人公が興味を抱いていない人間は、画面上でシルエットとしてしか表示されないという、前衛的な手法も使われています。
 「影男」や「黒蜥蜴」「二十面相」など、怪人も多数登場するので、ファンタジーとしての要素が強いのかと思いきや、各エピソードで起こるのは、現実を思わせる残忍な犯罪なのです。犯罪に対するやりきれなさなど、社会的なテーマも感じさせるのが面白いところですね。それらの犯罪に対し、主人公がどう動いていくのかが、見所になるのでしょうか。
 原作の改変というより、ほぼ別作品なので、原作ファンとしては、受け入れられない人もいるでしょうが、これはこれで、面白い試みだと思います。
この記事に対するコメント

本記事をTBさせていただきました(事後連絡にて失礼しました)。
また、拙ブログへのコメントもありがとうございました。

Kazuouさんのご指摘にもあるように、<幻想と怪奇>で乱歩をとり上げるなら、もっとそちらに振れた作品がいくらでもあると自分も感じます。もしかすると、その辺りは過去にやっているのかもしれませんが……。それとは別に、HMM誌自体の”フツーの小説誌化”もちょっと気になったところではあります。

「ユリイカ」8月号は未読なのですが、むしろこちらの方がずっと読み応えがありそうですね。

乱歩作品の劇画化ですと、丸尾末広氏もいくつか手掛けていましたね。
ってこれも未だ手が出せていないんですが(^^;)
【2015/08/15 22:36】 URL | るね #wlqs5eKs [ 編集]

>るねさん
 『ミステリマガジン』は、過去のバックナンバーを含めてずっと読んできましたが、初期からつい最近まで、驚くほど雑誌のカラーが変わってなかったんですよね。それが最近、変わってきている感じがします。
 日本作家の作品を載せるのはいいとしても、翻訳作品が圧倒的に少なくなってきていて、もう翻訳専門誌とはいえないような…。隔月間なので、新刊評も遅く感じるし。かって光文社の『EQ』が『ジャーロ』になったときのような感じで、最近はあまり読む気がしません。

 特集としては、『ユリイカ』の方がずっと読み応えがありますね。乱歩をテーマにしたマンガ、小説などの創作が面白かったですよ。

 最近、乱歩のマンガ(劇画)化作品の復刊が相次いでいるのですが、やっぱり乱歩のマンガ化作品としては、丸尾末広がいちばんだと思います。特に『パノラマ島綺譚』は素晴らしい出来ですね。
【2015/08/16 08:00】 URL | kazuou #- [ 編集]


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乱歩没後50年とミステリマガジン

 今年は江戸川乱歩没後50年にあたるそうで。 昨年がちょうど生誕120周年にあたっていたこともあり、書籍をはじめ各メディアで乱歩にちなんだ企画が昨年あたりから続いている。 もとより、没後50年も経つ作家の著作が―初期ならば80年以上前に書かれた作品から、長編短編含めて、ほとんどが今もなお新刊で読めるというのは、 単純に凄いことと思う。 毎夏恒例のハヤカワ・ミステリマガジンの「幻想と怪奇」特集... 閑中忙有【2015/08/15 02:28】

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
ブックガイド系同人誌もいろいろ作成しています。



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