奇妙な世界の片隅で ラボチェッタの密かな愉しみ
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ラボチェッタの密かな愉しみ
二十世紀イリュストレ大全〈1〉ロマンティックドリーム―少女まんがのルーツをもとめて ブックス・ビューティフル〈1〉―絵のある本の歴史 (ちくま文庫) 図像探偵―眼で解く推理博覧会 (光文社文庫)
 翻訳家の中村融さんのブログ≪SFスキャナー・ダークリー≫を見ていたら、雑誌『銀河』の1975年11月増大号のことが紹介されていました。
 30年近く探していた、との言葉が見えますが、確かにこの雑誌、古書店でもめったに見かけません。僕も30年とまではいきませんが、20年ぐらいは探していた末に入手しました。
 『銀河』のこの号は、ファンタジーの小説作品とイラストレーションの特集号でした。ブラッドベリ、デイヴィス・グラッブ、ヴォネガット・ジュニアをはじめとして、海外と日本の小説作品が多く載っています。ただ、それよりも特筆したいのは「マリオ・ラボチェッタの世界」として、異色のイラストレーター、マリオ・ラボチェッタのイラスト作品が紹介されている点です。
 マリオ・ラボチェッタは、20世紀はじめに活躍したイタリア生まれの挿絵画家です。荒俣宏さんのお気に入り画家で、1970年代から、いろんな媒体でラボチェッタの魅力を語っておられましたが、当時としては、まとまって彼の作品を見ることができる本はほとんどありませんでした。僕は、ハヤカワFT文庫から出た『五つの壷』の挿画、月刊ペン社刊の≪妖精文庫≫の月報などで、ラボチェッタの作品に触れ、その魅力に囚われました。
 ラボチェッタの魅力は、まず、全体にみなぎる官能性でしょうか。人物はもちろん、画面内に登場する建物までもが、妙に艶かしいのです。そして色彩豊かなカラーリング。ぜひ、まとまった数の作品を見てみたいものだと考えていました。
 『銀河』にラボチェッタ作品の特集があると知り、古書店で探しましたが、全く見つかりません。年が経つうちに、ラボチェッタ作品を紹介した本もちらほら出てきました。荒俣宏『絵のある本の歴史』(平凡社→ちくま文庫)、同じく荒俣宏『図像探偵』(光文社文庫)、ラボチェッタの挿絵入り『ホフマン物語』(松居友訳 立風書房)など。
 結局『銀河』を入手したのは、探し始めて20年後ぐらいでした。現在でも、ラボチェッタ作品に触れられる本は多くはありませんが、入手がいちばん容易なのは、荒俣宏『二十世紀イリュストレ大全』(長崎出版)でしょう。
 今ではインターネットで容易に画像を見られますし、原書の入手自体も価格の面はさておき、随分手軽になりました。ただ、インターネットもなく、アクセスできる資料も少なかった当時、マリオ・ラボチェッタは、間違いなく僕にとって「幻の画家」だったのです。
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テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「銀河」
「銀河」って、そんなにレアだったのですか。私はフツーに新刊で購入しましたので、入手の苦労はありません。言われてみれば、確かに古本では見ないような……。
 長い間、買ったことなど忘れていたんですが、ひょんなことから手に取った途端、おお、素晴らしい! と感嘆しました。
 ふと思って、荒俣宏編『妖精画廊』を手にしました。もちろんラボチェッタ作品もあります。あら、巻末の参考文献(現在入手可能なもの)に「銀河」が……。『妖精画廊』が発行された1980年には、まだ在庫があったのでしょうね。
【2012/08/20 09:44】 URL | 高井 信 #nOdkmSi2 [ 編集]

>高井 信さん
『銀河』は、いまとなっては、すごくレアな本ですね。僕の宝物本のひとつです。
最近の雑誌って、特集といってもほんのちょっとだけで、雑誌まるごとその特集、というのがないので、こういう雑誌を見るとうれしくなります。似たタイプの特集号としては、『牧神2号』の≪不思議な童話の世界≫特集号なんてのも大好きでした。

そういえば『妖精画廊』を忘れていましたね。『妖精画廊』はもちろん、『新編 妖精画廊』も絶版みたいですが。
【2012/08/20 20:57】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
ブックガイド系同人誌もいろいろ作成しています。



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