奇妙な世界の片隅で 恐怖のサバイバル  山翠夏人『キャンプをしたいだけなのに』
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恐怖のサバイバル  山翠夏人『キャンプをしたいだけなのに』
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 山翠夏人『キャンプをしたいだけなのに』(TO文庫)は、キャンプが趣味の主人公が、様々な恐怖体験をすることになるというサバイバルホラー作品です。

 人間関係が苦手で、一人でいることが気楽なことから、キャンプを趣味とする女性、斉藤ナツ。山奥のキャンプ場でソロキャンプを楽しんでいたところ、顔半分が無い、幽霊らしき女性と遭遇します。彼女には両親に虐待されている妹がいるというのですが、妹のために貯めたお金を届けてほしいというのです…。

 人間関係を煩わしく感じ、極力面倒くさいことを避けようとする女性、斉藤ナツがそれにもかかわらずトラブルに巻き込まれてしまう…という作品です。ナツには霊感があるようで、幽霊が見え、なおかつ話すこともできるのです。
 幽霊から頼みごとをされるものの、しかし生来の性格からその頼みをはっきり断ってしまいます。しかしまた別のトラブル(こちらは現実的な脅威)が発生し、結果的に幽霊と協力することになってしまいます。

 臨機応変に行動し、現実的な適応力は非常に高い一方、人間関係を嫌い、人からの頼みもメリットがなければ全く考慮しない、自ら「冷たい人間」と称するナツのキャラクターがユニークです。
 彼女がトラブルに巻き込まれ行動し、結果的に「人助け」をしてしまうことになる、という流れはシニカルですね。と同時に「冷たい人間」のはずのナツが変わっていく…というヒューマンストーリーとしての魅力もあります。
 幽霊が見えるとはいうものの、ナツを襲うのはそちらの超自然的な方面からではなく、殺人鬼やサイコパスなどの、現実的な人間の脅威。もともと基本的な身体能力・頭脳が高いことに加え、霊感があることからそれを反撃に利用するというあたりも面白いです。

 現実にキャンプが趣味だという著者だけに、キャンプの様子が細密に描かれていくところもリアルで雰囲気がありますね。ホラーとしての興趣はもちろん、サバイバルとアクション要素も豊富で、エンタメとして面白い作品となっています。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
ブックガイド系同人誌もいろいろ作成しています。



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