いろいろのはなし (はじめて出逢う世界のおはなし―ロシア編) 単行本 – 2013/2/1 ロシアの作家グリゴリー・オステル(1947~)の『いろいろのはなし』(毛利公美訳 東宣出版)は、遊園地の園長が木馬たちに語る物語がどんどんと枝分かれしていくという、ナンセンスな童話作品です。
閉園後の遊園地で、メリーゴーランドの七頭の馬たちは、園長からお話をしてもらうのが習わしになっていました。しかし園長によれば、残っているお話は一つだけだというのです。園長は最後のお話を語り始めます。 わがままな少年フェージャは、母親にアイスクリームを買ってもらえなかったことから、癇癪を起します。人々や動物たちを片っ端から罵倒した上、砂の上で指を入れて砂をほじくり出します。ほじくるのをやめるように「地球」からたしなめられますが、言うことを聞かないフェージャは、「地球」から放り出されて、宇宙へ投げ飛ばされてしまいます…。 お話が終わってしまいそうになるころ、馬の一人プロスタクワーシャは合いの手を入れ、お話に脇役として登場したおばあさんと若いおまわりさんについて訊ねます。やがて、そのおまわりさんイワンとおばあさんのマリアについてのお話が始まることになりますが…。
お話が終わりそうになったときに、話の中の別の登場人物についてのお話が始まり、さらにそこから別のお話が生まれていき、といった感じで連鎖的に物語がつながっていくという童話作品です。 お話に登場する人物たちも一回きりの登場ではなく、繰り返し登場します。レギュラー的なキャラクターたちに関しては、同時進行でお話が進行するのも面白いですね。あるキャラがどこかへ出かけている間に、別のキャラが別のお話の主人公になったりするのですが、最終的にはいくつもに別れたお話がちゃんと収束するところにびっくりします。 さらに枠となっている園長と木馬たちのお話も、たびたび挿入され、彼らの掛け合いによってお話の内容が変わっていく、というのも面白い趣向です。
七頭の馬のうち、主に活躍するのは、賢いプロスタクワーシャ、怖がりのサーシャとパーシャの三頭です。 お話が怖い局面になるとサーシャとパーシャが怖がるため、そのたびに違う物語に切り替わったりするのも、メタフィクショナルな感じがあって面白いですね。
それぞれのお話は、動物が人間と同様に動いて話すという擬人化ファンタジーとなっていますが、その展開はナンセンスで楽しいものばかり。いたずら好きのヤギや人助け好きの子猿たち、正義漢のウサギなど、登場する動物たちもエキセントリックで楽しいキャラが多くなっています。 逃げ出したきりお話の中でずっと走り続けている猫のアクシーニャ、盗まれたズボンがちっとも見つからない詩人のパンプーシキンのエピソードなども人を食った味わい。
最終的には、多数の人間や動物たちが同時にお話を進行するという群像劇のようになり、大団円を迎えます。そこに違う層の大枠となる物語が絡み合い、不思議な読み味の物語になっています。子ども向けのファンタジー童話ではありながら、大人が読んでも充実した読後感があります。
テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
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