アメリカの作家R・L・スタインによる、年少読者向けのホラー小説のシリーズ<グースバンプス>。本国では絶大な人気を誇り、映像化もされています。 「グースバンプス」(goose bumps)とは、いわゆる「鳥肌」のこと。怖がらせることを目的としたホラー小説のシリーズ名としてはピッタリなところでしょうか。 原著は1992年から60巻以上を数える人気シリーズですが、日本では1990年代にソニー・マガジンズ、2000年代に岩崎書店から、それぞれ全10巻のシリーズとして刊行されました。 ソニー・マガジンズ版と岩崎書店版で、収録内容に異動があるのですが、ソニー・マガジンズ版は全て絶版であるのに対して、岩崎書店版は今でも新刊として入手可能です。今回はこちらの岩崎書店版を紹介していきたいと思います。 シリーズとはいっても、それぞれ独立したお話なので、単体でどこからでも読めるようになっています。幽霊、怪物、呪いのアイテム、異世界、時間など、どの巻もテーマやその見せ方に工夫されています。作品が短めなこと、ストーリーがシンプルで、メインのテーマにお話が特化していることもあり、読み出したらあっという間に読めます。
グースバンプス (1) 恐怖の館へようこそ (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2006/6/22 R・L・スタイン『恐怖の館へようこそ』(津森優子訳 岩崎書店)
父の大おじが亡くなり、相続することになった家に引っ越してきたアマンダとジョシュの姉弟。ジョシュは家を見るなり、嫌悪感を感じ元の家に帰りたいと言い出します。アマンダは家の中で見知らぬ少年を目撃するものの、両親からは見間違いだと取り合ってもらえません。 知り合った少年レイが家の中で目撃した少年にそっくりなことに気づくアマンダでしたが、かってアマンダたちの家に住んでいたというレイの言葉にも驚かされます。やがて美しい少女カレンとも仲良くなったアマンダは、彼女からも、かってアマンダたちの家に住んでいたという言葉が出るのを聞き耳を疑いますが…。
引越し先の不穏な家、家に現れる幽霊のような少年、不振な行動をする愛犬、奇妙な言動を繰り返す地元の子供たち…。雰囲気たっぷりに展開されるホラー作品です。家ばかりでなく、町全体が奇妙な空気に支配されており、主人公たちの家族はそれに翻弄されていきます。 日常生活における微妙な違和感が積み重ねられていき、結末にはそれが爆発する…という、モダンホラーの定型的な構成ではありますが、クライマックスで、日常と非日常がひっくり返される部分には迫力がありますね。 物語が子供の視点から描かれることもあり、シンプルな恐怖に特化した作品になっています。クライマックスで顕現する「異界」のシーンはかなり怖いです。
グースバンプス (2) 呪われたカメラ (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2006/6/22 R・L・スタイン『呪われたカメラ』(津森優子訳 岩崎書店)
グレッグ、シャーリ、バード、マイケル、四人の仲良しの子どもたちは、幽霊屋敷と噂される空き家コフマン・ハウスを探検しようと、家に入り込みます。このところ町をうろついている、スパイダーと渾名された初老のホームレスの男もその屋敷に住み着いているのでは、という噂もありました。 地下室を調べていたグレッグは、ふとしたことから秘密の棚を見つけ、そこに隠されていたカメラを発見します。そのポラロイドカメラでマイケルを写した直後、マイケルは転倒し怪我をしてしまいます。後で写真を確認したところ、そこには時間的に写るはずのない、マイケルの転倒場面が写っていたのです。 帰宅したグレッグは、父が購入したばかりだという新車のワゴンをカメラで撮影してみますが、そこに写っていたのは、完全に大破した車でした…。
呪いのカメラを手に入れてしまった少年少女を描く作品です。幽霊屋敷の噂もある家で見つけた得体の知れないカメラ、それで写すと、実際とは異なった光景が撮れるのです。 最初はふざけ半分で写真を撮っていた子どもたちも、それが自分たちや家族の不幸、ひいては人間の命までをも左右するのではないかということに思い至ることになります。それが未来の予知なのか、写すことによって不幸が引き寄せられる呪われた道具なのか、まったく詳細が分からずに進む展開はサスペンスフルですね。 物語後半で、カメラの履歴について説明はされるのですが、それまでは全く詳細が分からないため、カメラの影響によって何が起こるか分からず、その不気味さは強烈です。 父の車が大破している写真を見た直後に、家族でドライブに誘われる少年の心理を描写したシーンは、非常に怖いですね。 決着が着いたと思わせて、実は悪夢は終わっていなかった…というブラックな結末も、ホラー味たっぷりで楽しいです。
グースバンプス (3) 人喰いグルール (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2006/8/25 R・L・スタイン『人喰いグルール』(津森優子訳 岩崎書店)
新しく大きな家に引っ越してきた、キャットとダニエルの姉弟とその両親。愛犬のキラーが流し台の下から見つけてきたのは、小さなスポンジのような物体でした。しかしそのスポンジには目があり、触ると暖かく、まるで生物のようでした。 それから家族に不幸が起こるたびに、そのスポンジは興奮してのどを鳴らすようになります。ダニエルが図書室から持ち出してきた「怪物百科事典」によれば、そのスポンジ状のものは、伝説上の生き物グルールだといいます。 グルールは人の不幸を糧として育ち、その持ち主には不幸が降りかかるというのです。しかもグルールはどんな方法でも殺すことができず、手放そうとすると、持ち主は一日以内に死んでしまうというのです…。
不幸を呼ぶ怪物グルールに取りつかれてしまった姉弟を描くホラー作品です。この怪物、質が悪く、不幸を呼ぶばかりか、殺そうとしても殺せず、捨てようとしても災難が降りかかるという、非常に厄介な生物なのです。 ヒロインのキャットが、グルールを殺そうと、叩いたり切断しようと試行錯誤を繰り返しますが、そのたびに再生してしまう、というあたり、グロテスクなシーンが印象に残りますね。しかも大人にグルールのことを教えようとしても、大人の前ではただのスポンジのふりをする…という悪質さ。 キャットとダニエルは、グルールを処分し、不幸から逃れることができるのでしょうか? 対抗手段が全く無いと思われたグルールに対して、キャットが考え出した手段には頓知が効いています。 ブラック・ユーモアたっぷりで、非常に楽しい作品になっています。
グースバンプス (4) ぼくの頭はどこだ (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2006/8/25 R・L・スタイン『ぼくの頭はどこだ』(津森優子訳 岩崎書店)
人を怖がらせるのが大好きな少年ドウェインと少女ステファニー。二人は「恐怖の二人組」を名乗り、友人や周囲の子供たちを怖がらせていました。二人は、幽霊屋敷の評判が高い観光名所ヒルハウスのツアーに何度も参加し、その内容を暗唱できるほどでした。 ヒルハウスでは、妻を残して死んだ船長の幽霊により頭をもぎとられた、首なしの少年の幽霊が出ると言われていました。ツアーでは入らない階にこそ幽霊がいるのではないかと考えたステファニーは、ツアーの最中に抜け出して、幽霊を探そうとドウェインを誘いますが…。
怖いことが大好きな少年少女の二人組が、幽霊屋敷で本物の幽霊に出会うというホラー作品です。屋敷には首をもぎとられた少年の幽霊が出るとされていて、その幽霊に会おうと二人は屋敷を探検することになります。 積極的に恐怖体験を求めるステファニーに対し、ドウェインの方は実は意外と臆病で、屋敷でちょっとしたことにもおびえてしまう…というあたり、ユーモアたっぷりで楽しいですね。 前半は、なかなか超自然現象が起こらず、「こけおどし」というか「勘違い」が多いのですが、ようやく登場した幽霊にも不審な点があり、実は…という捻りも用意されています。なかなか幽霊が出てこないとはいえ、子供二人が幽霊屋敷を探検する過程は雰囲気たっぷりで楽しめます。 主人公の少年と少女が、純粋に趣味である「怖いこと」で結びついている仲で、恋愛感情が絡まないところも、からっとしていていいですね。
グースバンプス (5) わらう腹話術人形 (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2006/11/10 R・L・スタイン『わらう腹話術人形』(津森優子訳 岩崎書店)
姿形のそっくりな双子の姉妹リンディとクリス。工事中の隣の家に忍び込んだ二人は、ゴミ捨て場で腹話術人形を見つけます。不気味がるクリスに対して、リンディは人形を気に入りスラッピーと名付けます。 腹話術を練習したリンディは、スラッピーと共に周囲の人たちにその成果を披露しますが、評判になり、方々に呼ばれることになります。姉をうらやむクリスは父親にねだり、質屋から買ってきたという腹話術人形をもらいます。人形にミスター・ウッドと名付けたクリスは練習を重ねますが、リンディほど上手く演じることができません。 しかも人の前で演じるたびに、人形は言うことを聞かなくなり、クリスが思ってもいない罵声の言葉を浴びせるようになっていました…。
互いに腹話術人形を手に入れた双子の姉妹が、人形を通して奇怪な体験をする…というホラー作品です。もともと姉妹二人が、いっしょくたにされて扱われることに不満を持っており、互いに姉妹に対して自分だけのものを持ちたい、という思いを持っているのがポイントです。 リンディは人形のスラッピーを手に入れてそれを手に入れることになるわけですが、それに対してクリスも同じ腹話術人形のミスター・ウッドを手に入れて対抗心を燃やすことになります。 人形をめぐっていろいろ不思議なことが起こるのですが、人形自体に超自然的な力があるのか、それともそれを操る人間側に異常な点があるのか、というのがなかなか判明しないところが面白いですね。 二体の人形は、どちらも怪しい由来のものではあるのですが、登場場面からして妖しいスラッピーではなく、後から登場したミスター・ウッド(とクリス)の方に超自然的な現象が頻発するのが意外といえば意外です。とはいえ、スラッピーの方も序盤で怪しい動きをするシーンなどもあります。リンディとクリス、スラッピーとミスター・ウッドと、二人の人間と二人の人形、誰におかしな出来事の原因があるのかが、なかなか分からないというサスペンスがあります。 オカルト・ホラーなのかサイコ・ホラーなのか、それともその両方なのか、中心テーマが確定しない面白さがあるともいえるでしょうか。 人形が起こす事件は地味なものが多いのですが、クライマックス、大観衆の前でクリスと共に登場したミスター・ウッドが引き起こす事件は、グロテスクかつ強烈なインパクトがあります。人形ホラーの秀作といっていい作品だと思います。
グースバンプス (6) 鏡のむこう側 (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2006/11/10 R・L・スタイン『鏡のむこう側』(津森優子訳 岩崎書店)
祖父母が住んでいた家に住む少年マックスと弟のレフティは、友人たちと屋根裏部屋で遊んでいたところ、ふと隠し扉を見つけ、そこにしまわれていた大きな長方形の木枠のついた鏡を発見します。 マックスが鏡のてっぺんにあるランプを鎖を引っ張ってつけてみたところ、明るい光がつくと同時にマックスの姿が消えてしまいます。もう一度鎖を引っ張ると、再び姿がマックスの姿が現れます。どうやらランプをつけると、その人間が見えなくなってしまうらしいのです。レフティや友人たちは面白がって鏡で透明になりますが、長時間透明でいると、気分が悪くなってくることにマックスは気がつきます。嫌な予感を感じたマックスは鏡を使うのを止めるよう皆に話しますが、レフティや友人たちは取り合わず、透明になっている最長時間を競おうとしていました…。]
透明になる(姿を消せる)能力を持つ鏡をテーマにした、<鏡怪談>作品です。姿を消している時間が長いほど、本に戻るまでの時間も長いようで、なかなか姿が戻らないことに対して、子どもたちがパニックになったりもします。 長時間姿を消していると、身体にも負担が来て気分も悪くなってしまうことに気付く主人公ですが、面白い遊び道具を見つけた気分の仲間たちは、気にせず鏡で遊ぼうとします。最長記録を競って遊ぶ仲間たちを尻目に、時間が経つごとに元に戻れなくなるんじゃないかと心配する主人公マックスの心理が描かれる部分は、ハラハラドキドキ感がすごいですね。 姿を消すことに対する代償があることに、やがて子どもたちも気付くことになるのですが、それが分かるまでの、未知の鏡の性質のルールを探っていく過程が抜群に面白いです。 主人公の弟レフティはあだ名で、左利きであることからその名が付いています。また友人の一人ザックの個性的な髪型もその形の方向が強調して描写されます。このあたり、テーマが鏡であることとも合わせて、伏線にもなっているところは上手いですね。 ホラー小説のシリーズではあり、当然のごとく恐怖体験が主人公の子どもたちを襲うことになるのですが、鏡自身の得体の知れなさもあり、かなり怖い作品に仕上がっています。鏡自体の由来なども明確に明かされないあたりも、その雰囲気を高めています。 鏡や影などをテーマにした、いわゆる<鏡怪談>作品なのですが、ここまで鏡そのものの性質や魅力などを描き込んだ作品は読んだことがありません。このテーマの傑作といってもいいのではないでしょうか。
グースバンプス (7) 地下室にねむれ (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2007/1/22 R・L・スタイン『地下室にねむれ』(津森優子訳 岩崎書店)
マーガレットとケイシーの姉弟は、父親のブルワー博士が以前ほど自分たちに関心を持ってくれないことを心配していました。研究のことが原因で大学を解雇されてしまったブルワー博士は、家の地下室に閉じこもり、植物についての何らかの研究を進めていたのです。 父親に禁止されていた地下室に入り込んだマーガレットとケイシーは、そこで奇怪な植物を目撃すると同時に、父親の様子もおかしくなっていることに気付きます。折悪しく、おばの看護のために母親が家を空けることになり、父親と取り残されることになった姉弟でしたが…。
大学を解雇された大学教授が地下室で謎の実験を行っており、その子どもたちが地下で謎の植物に遭遇する…という、いわゆる<マッドサイエンティストもの>作品です。 研究が進むにつれ、父親の様子がおかしくなり始め、そんな父親と家に取り残されてしまった姉弟が無事にやり過ごすことができるのか? というのが読みどころでしょうか。 肥料を食べたり、血が緑色になっていたりと、明らかに父親が怪物化しており、人間ではなくなってしまった父親に何をされるかわからない…という子供たちの恐怖感が描かれていきます。 地下室に入り込んだ姉弟が、部屋に忘れ物をしてしまい、父親が家に入ってくるまでに取りに戻らないといけなくなるというシーンなどには、サスペンスがあふれていますね。 <グースバンプス>シリーズの他作品と同様、結末ではバッドエンドかも…という匂わせ方がされるのですが、その取り返しのつかなさはシリーズ中でも強烈で、印象に残る作品になっています。
グースバンプス (8) ゴースト・ゴースト (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2007/1/22 R・L・スタイン『ゴースト・ゴースト』(津森優子訳 岩崎書店)
ハリーとアレックスの兄弟は、森の中で行われているサマー・キャンプ<スピリットムーン・キャンプ>に途中参加することになります。怪しげなバスの運転手に連れていかれた場所には誰もおらず二人は困惑します。ようやく現れた青年クリスと、指導者だというアンクル・マーブに連れられて、ようやくキャンプ地に辿り尽きます。 兄弟は参加者の子供たちと友人になり、イベントを楽しみ始めます。美しい少女ルーシーと友人になったハリーでしたが、彼がキャンプファイアーで焼いていたソーセージを炎の中で落としてしまったところ、平然と炎の中に手をつっこんでソーセージを取り出したルーシーの姿に驚愕することになります。その直後ルーシーは、ハリーに助けてほしいと言い出しますが…。
怪しげなキャンプに参加することになってしまった兄弟を描くホラー作品です。ところどころで起こる不思議な事実を、兄弟たちは、キャンプのしきたりであるとか、からかいであると理由をつけて納得しようとします。しかし常識では不可能なことが続けて起こるにいたり、この場所がまともな場所ではないことを認識することになるのです。 タイトルからも分かるように、いわゆる幽霊もの作品なのですが、この幽霊たちの描かれ方が独特なのですよね。幻と実体の中間のような存在で、物理的にほかの人間や物体にも触ることができます。衝撃を受ければ、肉体は一見破損するものの、すぐに直ってしまうところなども独特です。作中に登場する幽霊たちが、そうした状態になった経緯もユニークで、そのあたり、SF味も強いですね。 主人公の弟アレックスが、音楽の才能豊かで歌が上手いという設定なのですが、それが物語のところどころで言及され、結末の伏線にもなっているあたりも上手いです。 怖さというよりは、ブラック・ユーモアが主調となっていて、B級ホラー感が強いのですが、これはこれで楽しいですね。
グースバンプス (9) となりにいるのは、だれ? (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2007/3/27 R・L・スタイン『となりにいるのは、だれ?』(津森優子訳 岩崎書店)
小さな町グリーンウッド・フォールズに家族と共に住む少女ハンナは、家が火事になる悪夢を見て目を覚ましますが、それが夢だったことに安堵します。家の近くで知り合った男の子ダニーは、となりに以前から住んでいるといいますが、引っ越してきた気配もないことをハンナは不審に思います。 またダニーは同じ学校の同学年だというのに、共通の友人は皆知らない子ばかりなのです。友人付き合いをするようになりながらも、ハンナはダニーを疑い始めます。 一方、ハンナの元にはたびたび黒い影のような存在が現れ、彼女を追い回しますが…。
平和な町に暮らす幸せな少女の日常に影が忍び寄る…という、サスペンス・ホラー作品です。 同い年の男の子ダニーと友人になったハンナでしたが、彼の言動のつじつまが合わないことから、ダニーが本物の人間であるのかどうかを疑うようになってしまいます。 しかし、疑いながらも、ダニーが不良の友人とつきあい、犯罪めいたことを繰り返しているのを知ったハンナは、ダニーの身の安全を心配するようにもなります。 後半、ダニーの正体が明らかになり、ハンナ本人の世界にも変化が訪れることになります。ハンナの思い込みが解けると同時に、世界が反転するようなショックが描かれています。 某ホラー映画で有名になったオチが使われているため、読んでいくと、途中で物語の真相に気付いてしまう読者もいるかと思います。ただその真相が割れた後も、新たな物語の展開がされていくので、オチだけの作品になっていないことも申し添えておくべきでしょうか。 このシリーズには珍しく、結末でのバッド・エンド風味が薄いのも、読み味の良さにつながっていますね。
グースバンプス (10) 鳩時計が鳴く夜 (グースバンプス 世界がふるえた恐い話) 単行本 – 2007/3/27 R・L・スタイン『鳩時計が鳴く夜』(津森優子訳 岩崎書店)
12歳の少年マイケルは、ことあるごとに自分に意地悪をして困らせる妹のタラに手を焼いていました。両親に訴えても、妹には優しくしろとたしなめられてしまいます。せっかくの誕生日プレゼントを傷をつけ、友達の前でも恥をかかせたタラに憤懣やるかたないマイケルは、父親が以前から欲しがっており、ようやく買ってきた鳩時計の細工にいたずらをして、タラのせいにしてやろうと考えつきます。 鳩時計にいたずらをした翌日、気がつくと周囲が昨日と同じことをしていることに気付きます。昨日終わったはずの誕生日を皆が祝っているのです。 マイケルは、なんと一日前に遡っていたのです。しかもそれからも過去への逆流は続きます。段々と遡るスピードは速くなり、自分の体もどんどん幼くなっていくことに気付くマイケルでしたが…。
時間を操る力を持つ鳩時計によって、過去を遡ってしまう少年の苦難を描いた作品です。過去に遡っていることに気付いた主人公が、時間の逆流を止めようと鳩時計を元に戻そうとしますが果たせません。そのうち過去に遡るスピードが速くなり、父親が鳩時計を購入する以前にまで戻ってしまうのです。 時計が骨董屋に何年も置きっぱなしだったという話を、父親から聞いていたマイケルは、店に行って時計を直そうと考えますが、そのうちにも時間を遡るスピードは速くなった結果、マイケルの体は幼くなり、一人で外出もままならなくなってしまうのです。 しかも、過去に戻るとはいえ、過去の出来事は基本的に変えられないようで、失敗をやり直そうとしても、結局災難が再現されてしまうのです。数日前の記憶はともかく、数年単位で遡ってしまった過去の記憶はマイケルにも残っていません。 小学生の低学年になってしまったマイケルの困惑を描く部分は本当に悪夢のようですね。加えて、妹タラの悪意といたずらは強烈で、本当に性悪な少女として描かれています。 だんだんと過去に遡ったマイケルが、当時の幼いタラに再会しますが、赤ん坊の段階から性格が悪く、この手の作品にありがちな、一見意地悪な家族の愛情を再確認する…という流れにはならないところが面白いですね。 時間を遡っているうちに、いずれ自分が消滅してしまう可能性があることに気付いたマイケルが、体が赤ん坊になる前に、骨董屋の鳩時計をいじって時間の流れを元に戻そうとするものの、様々な障害によって邪魔されてしまう…という流れは、悪夢じみたサスペンスとして、読み応えがあります。 妹タラの妨害を始めとして、主人公のなすことがことごとく上手くいかず、泥沼に落ち込んでしまうというホラーサスペンス作品になっています。本当に最後の最後まで事態が好転しないだけに、結末での逆転には非常に爽快感がありますね。
基本的にハズレがないシリーズだと思いますが、一番面白いのは、時間もの作品の『鳩時計が鳴く夜』でしょうか。あと、不幸を司る怪物との戦いを描く『人喰いグルール』、呪いの人形に姉妹が支配されてしまう『わらう腹話術人形』、異世界へつながる鏡を扱った『鏡のむこう側』なども面白いですね。 1990年代に出たソニー・マガジンズ版にしか収録されていない作品もあるようで、そちらも読んでみたいところなのですが、プレミアがついてしまっている巻も多いようなのが残念です。 未邦訳の作品が相当数あるので、こちらの新規邦訳も期待したいところですね。
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