奇妙な世界の片隅で 2015年12月
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2015年を振り返って
幽霊海賊 (ナイトランド叢書) 失われた者たちの谷〜ハワード怪奇傑作集 (ナイトランド叢書) 七つ星の宝石 (ナイトランド叢書) 異次元を覗く家 (ナイトランド叢書) エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿 (ナイトランド叢書)
 嬉しかったのは、ホラー専門誌『ナイトランド・クォータリー』の新装復刊と、海外ホラーを集めたシリーズ《ナイトランド叢書》の刊行でしょうか。
 『ナイトランド・クォータリー』は、創刊準備号は出ていたものの、本格的に始動したのは春から。基本的には、休刊前と変わらぬテイストが継続されていて、安心しました。また、以前よりも「クトゥルー色」が薄れて、「ホラー全般」的な味わいが強くなっているように感じました。
 一方、《ナイトランド叢書》は、以前のトライデント・ハウス版タイトルよりも、古典作品を中心に構成されたラインナップでした。以下のものが既に刊行されています。

ウィリアム・ホープ・ホジスン『幽霊海賊』(夏来健次訳)
ロバート・E・ハワード『失われた者たちの谷 ハワード怪奇傑作集』(中村融訳)
ブラム・ストーカー『七つ星の宝石』(森沢くみ子訳)
ウィリアム・ホープ・ホジスン『異次元を覗く家』(荒俣宏訳)
アリス&クロード・アスキュー『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』(田村美佐子訳)

 基本的には、20世紀前半までの古典ホラーが中心になっています。ホジスンやストーカーの作品に関しては、本国でも古典として知られる作品で、邦訳が待たれていたものです。『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』に関しては、知られざる名作といった感じで、これまた嬉しい紹介になりました。
 それにしても、刊行のスピードが非常に速いのは、嬉しい驚きでした。第一弾の『幽霊海賊』が出たのが7月、ほぼ月1冊のペースで刊行されています。
 すでに、《ナイトランド叢書》の二期も刊行が決まっているらしく、情報が少しづつですが、出ているようです。

 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』
 マンリー・ウェイド・ウェルマン『ジョン・サンストーンの事件簿』(仮)
 オーガスト・ダーレス『ミスター・ジョージ』(仮)
 M・P・シール『紫の雲』(仮)
 E・F・ベンスン『塔の中の姫君』(仮)
 アルジャーノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』(仮)

 これまた、驚きのラインナップになっています。スミスの『魔術師の帝国』は、昔、創土社から出た作品集の再編のようですが、他は全て本邦初訳、新訳のようです。
 ウェルマン『ジョン・サンストーンの事件簿』は、オカルト探偵物の連作短篇集ですね。ダーレス、ベンスン、ブラックウッドに関しては、傑作集になるようです。
 いちばん衝撃的なのは、やはりM・P・シール『紫の雲』。SF史やホラー史では、必ず取り上げられる有名作です。非常に翻訳が難しいということで、何度も邦訳が取りざたされては、消えていました。実際に刊行されれば、記念すべき作品になりそうですね。
 来年も、本誌ともども、《叢書》の方も応援していきたいと思います。

 あとは、2015年度刊行で面白く読んだものなどを。


ぼぎわんが、来る 二階の王 美しい果実 (幽BOOKS) 誰かの家 (講談社ノベルス) 親しい友人たち (山川方夫ミステリ傑作選) (創元推理文庫)
 日本の作品としては、今年のホラー小説大賞作品の澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川書店)と名梁和泉『二階の王』(角川書店)が良かったです。
 『ぼぎわんが、来る』は、妖怪を扱ったモダンホラーですが、構成の妙と直接的な怪物描写が組み合わさって、エンタテインメントとして秀逸な快作。
 『二階の王』は、現代の社会問題とからめたクトゥルーものという、アイディアの光る逸品でした。
 唐瓜直『美しい果実』 (幽BOOKS) は、食を扱った幻想小説ですが、妙なユーモアと色気があり、読んでいて心地よさを感じた良作でした。
 オーソドックスな怪奇小説を集めた、三津田信三『誰かの家』(講談社ノベルス)、短篇の名手のミステリ作品を集めた、山川方夫『親しい友人たち』(創元推理文庫)も良かったですね。


黄金時代 パインズ -美しい地獄- (ハヤカワ文庫NV) 聖ペテロの雪 スウェーデンの騎士 モレル谷の奇蹟
 海外作品、長編では、博物誌的な幻想小説として世界観が魅力だった、ミハル・アイヴァス『黄金時代』(阿部賢一訳 河出書房新社)、エンターテインメントの要素をこれでもかと詰め込んだSFホラー《パインズ三部作》(ブレイク・クラウチ 東野さやか訳 ハヤカワ文庫NV)が面白かったです。
 新刊に再刊と、今年何冊も訳書の刊行されたレオ・ペルッツの印象も強いですね。『スウェーデンの騎士』(垂野創一郎訳 国書刊行会)は、波乱万丈の冒険物語。『聖ペテロの雪』(垂野創一郎訳 国書刊行会)は、モダンな幻想小説でした。
 《ナイトランド叢書》のウィリアム・ホープ・ホジスン『幽霊海賊』(夏来健次訳 アトリエサード)も、本格的な怪奇小説で堪能させてもらいました。
 素朴なイラストとホラ話が渾然一体となったディーノ・ブッツァーティ『モレル谷の奇蹟』(中山エツコ訳 河出書房新社)も忘れられません。

 短篇集は、いくつも素晴らしい作品集を読めた気がします。順不同で並べてみます。


予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖 (扶桑社ミステリー) 動きの悪魔 元気で大きいアメリカの赤ちゃん 薔薇とハナムグリ~シュルレアリスム・風刺短篇集~ (光文社古典新訳文庫) 紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫) 地球の中心までトンネルを掘る (海外文学セレクション) 12人の蒐集家/ティーショップ (海外文学セレクション) コドモノセカイ いま見てはいけない (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)

 ロバート・ブロック『予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖』(井上雅彦編 植草昌実他訳)
 ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』(芝田文乃訳 国書刊行会)
 ジュディ・バドニッツ『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』(岸本佐知子訳 文藝春秋)
 アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ』(関口英子訳 光文社古典新訳文庫)
 ケン・リュウ『紙の動物園』(古沢嘉通訳 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』(創元推理文庫)
 ケヴィン・ウィルソン『地球の中心までトンネルを掘る』(芹澤恵訳 東京創元社)
 ゾラン・ジヴコヴィッチ『12人の蒐集家/ティーショップ』(山田順子訳 東京創元社)
 岸本佐知子編『コドモノセカイ』(河出書房新社)
 ダフネ・デュ・モーリア『いま見てはいけない』(務台夏子訳 創元推理文庫)

 ポーランドの怪奇小説作家、グラビンスキ『動きの悪魔』は鉄道をテーマにした怪談集ですが、怪奇小説ながらテーマに広がりがあり、今読んでも充分に楽しめる本でした。グラビンスキはもっと邦訳を出してほしいですね。
 シュルレアリスム系の短篇を集めた、アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ』も寓話的な作品が多いだけに古びておらず、今読んでも充分に魅力がありました。
 奇妙な味の短篇を集めた、中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』は、アンソロジーというよりは雑誌の〈奇妙な味〉特集を読んでいるような楽しさでした。異色短篇ファンにはたまらない贈り物。
 個人作品集としては、発想は独特ながら身につまされる話が多い、ケヴィン・ウィルソン『地球の中心までトンネルを掘る』、異色短篇の理想形ともいうべき、ゾラン・ジヴコヴィッチ『12人の蒐集家/ティーショップ』、重厚な心理サスペンス集である、ダフネ・デュ・モーリア『いま見てはいけない』が素晴らしかったです。

 コミックもいくつか。


魔物鑑定士バビロ 1 (ジャンプコミックス) 5秒童話 (ジャンプコミックス) 百万畳ラビリンス(上) (ヤングキングコミックス) あもくん (幽COMICS) 異神変奏 時をめぐる旅 (幽ブックス) ダンジョン飯 1巻<ダンジョン飯> (ビームコミックス(ハルタ))
 少年漫画ながら、あまりにダークな、西義之『魔物鑑定士バビロ』(集英社ジャンプコミックス)、落下する5秒間でストーリーを展開させるという第年秒『5秒童話』(集英社ジャンプコミックス)には、驚かされました。
 「迷宮」の魅力をこれでもかと放り込んだ、たかみち『百万畳ラビリンス』(少年画報社ヤングキングコミックス)は、この手のテーマが好きなら見逃せない作品。
 諸星大二郎『あもくん』(角川書店幽COMICS)は、序盤の実話怪談風のテイストが後半になるにしたがって、ファンタジー性を増していくところが魅力的でした。
 近藤ようこ『異神変奏 時をめぐる旅』(幽ブックス)は、一組の男女が輪廻転生を繰り返しながら、いろいろな時代や国で出会うというスケールの大きな物語。
 大分メジャーになってしまいましたが、RPG風ファンタジーにグルメマンガを合わせた、ユニークな作品、九井諒子『ダンジョン飯』(エンターブレイン)も挙げておきたいと思います。

 続きもののコミックは、続刊を読んでみないと、はっきり評価しにくいものも多いのですが、とりあえず、現在刊行中で追いかけていきたい作品をいくつか挙げておきましょう。


ハピネス(1) (週刊少年マガジンコミックス) ワンダーランド 1 (ビッグコミックス) 辺獄のシュヴェスタ(1) (ビッグコミックス) 魔女のやさしい葬列 1 (リュウコミックス) 堕天作戦(1) (裏少年サンデーコミックス)
 押見修造『ハピネス』(講談社コミックス)は、いじめられっ子が吸血鬼になるという異色の青春マンガ。襲っていくる吸血鬼の戦慄度がすごいです。刊行ペースが遅いのが気になりますが、続きが気になる作品。

 石川優吾『ワンダーランド』(小学館ビッグコミックス)は、突然町の人々の体が小さくなり、動物に襲われ始めるというSF作品。小さくなった人々が生き延びるためにサバイバルをしていくと同時に、小さくなった理由を探っていきます。リチャード・マシスンの『縮みゆく人間』を思わせます。

 竹良実『辺獄のシュヴェスタ』(小学館ビッグコミックス)は、魔女狩りで家族を亡くした少女が、修道院に収容されますが、家族を殺される原因となった修道院長を殺すために、緻密な管理体制の間をぬって、仲間を集め復讐計画を練ります。
 少女版『モンテ・クリスト』というべき復讐物語です。主人公の鉄の意志がすさまじく、熱気にあてられたように読んでしまう快作。

 黒釜ナオ『魔女のやさしい葬列』(徳間書店 リュウコミックス)は、19世紀イギリスを舞台に不死の怪物の謎が展開される伝奇ロマン。

 山本章一『堕天作戦』(裏少年サンデーコミックス)は、未来とも異世界ともつかない世界が舞台ですが、なんとも魅力的な題材を扱っています。
 歴史上、わずかしか確認されていないという不死身の能力を持つ男アンダーは、世界に絶望し生きる意志を失っていました。捕らえられた彼は、実験として何度も残虐な処刑にあいますが、ことごとく体が再生して元に戻ってしまいます。
 彼の処刑を暇つぶしにしか考えていない業火卿ピロは、アンダーを気球で空に飛ばすという処刑を科しますが、上空で起こった出来事はアンダーを変えることになります…。
 序盤はほとんど、トム・ゴドウィン『冷たい方程式』を思わせるような衝撃的な展開です。絵柄に多少クセがあり、好き嫌いが分かれそうですが、これは傑作といっていいかと思います。

 それでは、2016年もよろしくお願いいたします。

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1月の気になる新刊と12月の新刊補遺
発売中 アリス&クロード・アスキュー『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』(アトリエサード 2376円)
12月18日刊 マヌエル・ゴンザレス『ミニチュアの妻』(白水社 予価2808円)
12月25日刊 ロード・ダンセイニ『ウィスキー&ジョーキンズ ダンセイニの幻想法螺話』(国書刊行会 予価2592円)
12月25日刊 ジーン・ウルフ『ウィザード Ⅰ・Ⅱ』(国書刊行会 予価各2592円)
12月25日刊 カレル・チャペック『ある作曲家の生涯』(青土社 予価1728円
1月5日刊 シャーリイ・ジャクスン『日時計』(文遊社 予価2916円)
1月7日刊 サキ『けだものと超けだもの』(白水Uブックス 予価1512円)
1月7日刊 ロバート・エイクマン『奥の部屋』(ちくま文庫 1026円)
1月8日刊 小鷹信光編 ジャック・リッチー『ジャック・リッチーのびっくりパレード』(ハヤカワ・ミステリ 予価1836円)
1月22日刊 東雅夫編『文豪山怪奇譚 山の怪談名作選 明治・大正編』(山と渓谷社 予価972円)
1月22日刊 『Comic M 早川書房創立70周年記念コミックアンソロジー ミステリ篇』(早川書房 予価1620円)
1月22日刊 『Comic S 早川書房創立70周年記念コミックアンソロジー SF篇』(早川書房 予価1620円)
1月22日刊 パーシヴァル・ワイルド『ミステリ・ウィークエンド』(原書房 予価2592円)


 〈ナイトランド叢書〉の新刊は、アリス&クロード・アスキュー『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』です。20世紀初頭に書かれたオカルト探偵ものになります。
 内容紹介については、下記のブログが参考になります。
 → http://borderland.txt-nifty.com/weblog_on_the_borderland/2010/02/post-e7bd.html
 それにしても、本当に刊行ペースが速い。1期が完結するまで、数年はかかると思っていました。これで1期の残りはホジスンの未訳作のみになりましたね。

 マヌエル・ゴンザレス『ミニチュアの妻』は、アメリカの新人作家の短篇集。「妻をマグカップ大に縮めてしまう男の話」とか「ハイジャックされた飛行機が20年間飛び続ける話」とか、面白そうな作品集です。

 ロード・ダンセイニ『ウィスキー&ジョーキンズ ダンセイニの幻想法螺話』は、ダンセイニの〈ジョーキンズもの〉を集めた作品集です。
 〈ジョーキンズもの〉は、ジャンルとしては必ずしもファンタジーの形をとらないこともあり、ミステリだったりSFだったりしますが、共通するのは底抜けに楽しいホラ話だということ。ジャック・リッチーとかジェイムズ・パウエルあたりと似た感じの作風なので、むしろミステリ系の読者にオススメしたいですね。イチオシです。

 シャーリイ・ジャクスン『日時計』は、長編でしょうか。あらすじは「ハロラン家にもたらされた“お告げ”。それは世界が天災に見舞われ、たった一晩のうちに破壊されてしまうというものだった。そして「屋敷」は新世界への方舟となる−。」というもの。これは気になりますね。

 『けだものと超けだもの』は、ゴーリーの挿絵つき作品集が好評だったサキの短篇集の第2弾です。風濤社からも2冊ほど〈サキ・コレクション〉が出ていますが、白水社版は原著に従った収録作品であるところがミソでしょうか。この調子だと、そのうち、ほぼ全作品が読めるようになるのかもしれません。

 『奥の部屋』は、難解なゴーストストーリーで知られるエイクマンの怪奇小説集です。怪奇小説の行き着く先というか、何だかよくわからないが怖い、というのがエイクマン作品の特徴です。
 元本が、幻想小説を集めた叢書《魔法の本棚》(国書刊行会)なのですが、あれだけマニアックな叢書から、3冊も文庫化作品が出るとは驚きです。コッパードやウェイクフィールドはともかく、エイクマンが文庫化されるとは。増補作品もあるようなので、元本を持っている人も買いでしょう。

 『ジャック・リッチーのびっくりパレード』は、先ほど亡くなった小鷹信光氏の最後の編著。ジャック・リッチーの未訳作品を中心に編まれた作品集です。これは楽しみですね。

 パーシヴァル・ワイルド『ミステリ・ウィークエンド』は、本格ミステリ長編だそうですが、ちょっと気になります。
 ワイルドの作品って、ユーモアもあり、小説として滋味があるんですよね。『探偵術教えます』とか『検死審問』とか、楽しく読みました。
 『探偵術教えます』の〈P・モーランもの〉短篇も収録されるようです。

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新トワイライトゾーン開幕とその思い出
ミステリー・ゾーンDVDコレクション(57) 2015年 11/11 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(58) 2015年 11/25 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(59) 2015年 12/9 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(60) 2015年 12/23 号 [雑誌]
 アシェット社から刊行中のDVDマガジン『ミステリーゾーン』。57巻より『新トワイライトゾーン』が収録されています。
 この『新トワイライトゾーン』は、旧『トワイライトゾーン』『ミステリーゾーン』)のリメイクとなる、カラーシリーズです。1980年代の半ばから後半にかけて放映されました。
 もともと、初めて観た「トワイライトゾーン」は、オリジナル版『ミステリーゾーン』ではなく、この『新トワイライトゾーン』だったため、個人的にはこの「新」のシリーズの方に思い入れがあります。

 小学生の頃に、ちょうどビデオソフトのレンタルが始まり、ビデオ店で出会ったのが、このシリーズでした。正直に言うと、当時は、ちゃんと話を理解していたのかどうかも怪しいです。
 考えないと話の結末がわからない「考えオチ」であったり、余韻を残したまま終わる作品があったりと、丁寧に説明をしてくれないストーリーが多く含まれているからです。

 例えば、このシリーズの一エピソード、レイ・ブラッドベリ原作の『バーニング・マン』(原作は『灼ける男』(小笠原豊樹訳『とうに夜半を過ぎて』集英社文庫収録)です)。
 おばとピクニックに出かけた少年が、行きの道でヒッチハイクをしていた老人を車に乗せることになります。ぼろぼろのスーツの薄汚れた老人は、奇妙な話を始めます。セミと同じように、何十年も地中で暮らし、地上に出てくる人間がいるというのです。しかもその人間は純粋な悪を体現する存在であり、やがて脱皮し若くなるのだと。
 気味悪がったおばは、老人を無理やり車から降ろします。そして、ピクニックを終えた二人が帰りの道で出会ったのは、スーツを着た少年でした…。

 これ、15分ぐらいの短いエピソードなのですが「考えないと」オチがよくわからないんですよね。実際、当時一緒にビデオを観ていた父親も、良く分からないと言っていた記憶があります。
 前半の伏線をちゃんと理解していないと、後半で出てくる少年の存在が唐突に感じられ、意味がわからなくなります。
 このシリーズ、そうした話が結構多かった印象がありますが、それでも充分に面白く、自分はこういう話が好きなんだ! と認識させてくれました。

 あまり本を読まない子どもだったのですが、ちょうどこの頃から、小説でもこういう(新トワイライトゾーンみたいな)話が読んでみたいと思い始め、本屋や古本屋で本を探し始めました。「恐怖」や「怪奇」みたいなタイトルがついている本をかたっぱしから買っていき、その中でよく出会う作家名を覚えていき、その作家の作品を集める、という流れでしょうか。
 これで出会ったのが、ロバート・ブロック、リチャード・マシスン、チャールズ・ボーモント、レイ・ブラッドベリ、ジョン・コリアなどの異色作家たち。
 こうした自分の読書嗜好のもとを形作ってくれたのが、この『新トワイライトゾーン』だったといえます。

 さて、現在発売中の第一シーズン、とりあえずDVD四枚分を視聴し終わりました。旧シリーズの熱狂的なファンからは、この新シリーズ、散々な評価をされていることもあるようですが、今でもそれなりに楽しく観れます。
 面白く観たエピソードをいくつか紹介しておきましょう。

『静かなひととき』
 騒がしい夫と子供との生活に疲れきっていた主婦が、庭で見つけたのは不思議なペンダントでした。そのペンダントを身につけていると、時を止めることができるのです。ペンダントの能力を使い、落ち着きを取り戻した矢先、敵国の核ミサイルが発射されたというニュースが…。
 前半のコメディ調の雰囲気が、後半になって暗転します。結末の余韻が素晴らしいですね。

『夢売ります』
 夫と双子の娘とともにピクニックを楽しんでいる女性。ところが、突然同じシーンが何度も繰り返されるのです…。
 仮想現実ものです。年代を考えると、映像作品としては、けっこう先駆的なのでは。

『カメレオン』
 故障した宇宙船のカメラを修理中、突然技師が消えてしまいます。封鎖された実験室内で調べていたところ、消えたはずの男が再び現れます。男は本物なのか、それとも人間に化けた未知の生物なのか。周りの人間は調査を続けますが…。
 物質にも生物にも化けられる謎の宇宙生物を扱ったサスペンスSF。フィリップ・K・ディックを思わせます。

『ドライバーへの警告』
 パーティの帰り道、事故を起こしたボブは、負傷してしまいます。近くのバーに入って気がつくと傷が消えていることに驚きますが、客たちとのやり取りで楽しい気分になったボブは気にならなくなっていました。話の流れから、店主はボブに店を譲りたいと話します。チャンスだと考えたボブは、即金で話をまとめようとしますが…。
 オチはよくあるものなのですが、そこに至るまでの演出がなかなか上手く、飽きさせずに観させます。

『帰還兵』
 嵐の晩、ダイナーへとやってきた警官は、ベトナムからの帰還兵と顔を合わせます。嵐なのだから泊まっていけという警官に対し、帰還兵は頑なにそれを拒みます。念じただけで、物を作り出せる能力があるという帰還兵の話を警官は信じませんが、男が意識を失った瞬間に、店が突然銃撃を受け始めます…。
 原作は、ロバート・R・マキャモン『夜襲部隊』(山田順子訳 J・N・ウィリアムスン編『ナイト・ソウルズ』新潮文庫収録)。緊張感のある作品です。大作のプロローグのような趣がありますね。

『試験日』
 遠い未来の世界が舞台。その世界では、子供は必ず政府の試験に通らなければならないのです。聡明な少年ディッキーは、心配する両親に、自分はかならず合格すると請合いますが…。
 原作は、ヘンリー・スレッサー『受験日』(伊藤典夫訳 小鷹信光編『夫と妻に捧げる犯罪』ハヤカワ文庫NV収録)です。短いアイデア・ストーリーですが、結末の残酷さが印象に残ります。

『時を越えたメッセージ』
 熱病にかかった18世紀の少女と現代の少年の意識がつながり、二人は友達になります。少女は、未来の情報を話しますが、友人の密告により、魔女裁判にかけられることになります。少年は少女を救おうと、歴史書を必死に調べますが…。
 原作は、ウィリアム・M・リー『チャリティのことづて』(安野玲訳 中村融編『時の娘 -ロマンティック時間SF傑作選』創元SF文庫収録)。ロマンティックなタイムトラベル・ストーリーです。

 ビデオ発売されたのは第一シーズンのみで、第二・第三シーズンはビデオ化されませんでした。地域によっては第二・第三シーズンを放映したところもあるようですが、ビデオ発売された分で完結したと思っていました。
 そもそも、第二・第三シーズンが存在したという情報を知ったのも、J・M・ストラジンスキー『新トワイライトゾーン』(尾之上浩司訳 扶桑社ミステリー 1991年刊)という本のおかげです。
 この本は、第三シーズンのメイン脚本家だったストラジンスキーが、自らの脚本を小説化したものです。この短篇集もめっぽう面白く、ストラジンスキーの脚本作品もぜひ見たいものだと思っていました。未見だった第二・第三シーズンももうすぐ観れると思うと、非常に楽しみです。

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小鷹信光さん逝去
 翻訳家・作家の小鷹信光さんが亡くなりました。主にハードボイルド関係の翻訳や紹介で知られていますが、その守備範囲は広く、ミステリ全般に亘っていました。
 近年でも、ジャック・リッチーのオリジナル短篇集を編纂するなど、高齢になってからも現役で活躍しつづけたバイタリティには驚かされます。
 なお、来年1月にリッチーの未訳短篇集『ジャック・リッチーのびっくりパレード』がハヤカワ・ミステリから刊行されるそうです。最後の仕事がリッチーとは、小鷹さんらしいと言えるかもしれませんね。

 小鷹さんの仕事の柱の一つにアンソロジーがあります。大和書房から出た、5冊のテーマ別ミステリ傑作集(3冊が河出文庫で再刊)や、リチャード・マシスンの短篇集『激突』(ハヤカワ文庫NV)、ヘンリー・スレッサーの傑作集『夫と妻に捧げる犯罪』(ハヤカワ文庫NV)など、短篇ファンにとっては忘れられない本を、何冊も編纂しています。
 驚かされるのは、インターネットもない時代に、おそろしく詳しい作品リストや参考書リストが、どの本にもついていたことです。自分で読んだうえで、しっかりとした評価をしていることがわかる、本当に丁寧な仕事ぶりでした。

 小鷹さんの仕事で、僕がいちばん影響を受けたのは『ミステリマガジン』に連載されていた、テーマ別のオリジナルアンソロジーをめぐるエッセイ『新パパイラスの舟』(論創社)です。この連載で、僕は海外短篇の魅力を教えてもらいました。バックナンバーを何度も読み返しただけに、2008年に単行本化されたときは、嬉しかったですね。

 短篇といえば、思い出すのは、評論集『パパイラスの舟』。この本、基本的にはハードボイルドに関する本なのですが、いくつかの章が海外の短篇小説に割かれています。
 マージェリイ・フィン・ブラウンのニューロティックなミステリ短篇『リガの森では、けものはひときわ荒々しい』(深町眞理子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫収録)を分析した『バルティック海の幻想の船旅 -短篇小説のたのしみかた-』、中篇『激突!』を俎上にリチャード・マシスンの作家性について語った『中古帆船暴走中! -マシスン『激突!』私見-』なども興味深く読めますが、いちばん面白く読んだのは、巻末に置かれた最終章『娘たちのための最後の航海 -新しい短篇小説の魅力-』でした。
 これは、デイヴィッド・イーリイやワーナー・ローなど、当時売り出し中だった短編作家たちの作品の魅力について語った章です。その部分も面白く読んだのですが、著者と娘たちとのプライベートなひとこまが、ユーモラスに描かれている部分があり、とても楽しく読みました。

「お仕事だから、集めてるの?」
 女人立入禁制の、私の仕事部屋にズカズカと入ってきた上の娘がペイパーバック本と洋雑誌の山に顔をしかめ、鼻をおさえながら(異臭が漂っているらしいのだ)、二十八歳年上の父親に向かっていつもの質問をなげかけます。

 父親もリッパな文学者であることを証明するために、私は娘たちにせがまれて〈お話〉をきかせてやることがあります。リッパな児童文学者ではないとしても、どうやら私は語部(かたりべ)としては合格らしく、五つになる下の娘も一緒になって、じっと私の話に耳を傾けます。多分私がネタを借りてくるもとの小説のデキがよいからなのでしょう。娘たちのお気に入りは、ダールやマシスンの短篇小説なのです。


 子どものころから、異色作家の短篇を聞いて育つとは、なんという素晴らしい環境でしょうか。ちなみにここに登場する「上の娘」は、作家のほしおさなえさんですね。

 最後にもう一箇所、引用しておきましょう。上記に引用した「上の娘」の質問の続きです。
 
「たのしいからさ。たのしいから集めているんだ」父親は防戦一方です。
「じゃあ、パパは、趣味でお仕事をやってるのね?」娘は眉根にしわをよせます。
 処世訓を垂れる絶好のチャンスなのだ!
「そうとも。だから、たのしくなくなったらすぐにもやめるかもしれない」
「いつまでもたのしければいいわね。やめないでよ、パパ。お願い」


 言葉通り、最後まで自らの仕事に誇りを持ちつづけた、まさにプロ中のプロでした。
 ご冥福をお祈りいたします。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

最近読んだ本

448801659612人の蒐集家/ティーショップ (海外文学セレクション)
ゾラン・ジヴコヴィッチ 山田 順子
東京創元社 2015-11-28

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ゾラン・ジヴコヴィッチ『12人の蒐集家/ティーショップ』(山田順子訳 東京創元社)
 セルビアの幻想小説家ジヴコヴィッチの作品集です。

 『12人の蒐集家』は、様々なコレクターたちの奇妙な生態を描いた連作短篇集です。彼らが集めるのは、単なる物にとどまらず、記憶や夢など摩訶不思議なものばかり。それらを集めるコレクターたちもまた、エキセントリックな人物ばかりなのです。コレクションに執着する人間たちの人生が、ブラックユーモアたっぷりに描かれます。

 併録の『ティーショップ』は、メタフィクション的な趣向を持つ物語です。鉄道の待ち時間にティーショップに入った女性がメニューに見つけたのは「物語のお茶」でした。一口お茶を飲むと、目の前のウエイターは物語を語り始めます。その後もお茶を飲むたびに、別の人間が物語の続きを始める…という、魅惑的な物語です。それぞれの物語の中の登場人物が、微妙に関連していたり再登場したりするところも魅力的。

 東欧の作家というと、敬遠されてしまう向きもありそうですが、これは強くオススメしたい一品。それぞれの短篇は短いのですが、そのなかで物語に没入させる手つきは実に鮮やかです。
 作者には「東欧のボルヘス」の異名もあるようですが、無国籍風の人物や舞台、文章の読みやすさなど、個人的に共通点を感じたのは、日本の星新一ですね。



4864911924神さまがぼやく夜 (ヴィレッジブックス)
マイクル・Z・リューイン 田口俊樹
ヴィレッジブックス 2015-01-20

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マイクル・Z・リューイン『神さまがぼやく夜』(田口俊樹訳 ヴィレッジブックス)
 私立探偵小説で知られるリューインの、ユーモア小説です。天界の生活に飽きた「神」が下界に降り立ち、様々な騒動を惹き起こすという、楽しい作品です。
 相手を「神」だとは思っていない人間たちとの会話や、眷属である天使や聖人とのやり取りが笑いをそそります。人間を知り、それに伴い「神」が自分のことも改めて再認識していくという、意外と深いテーマもあったりします。いい感じに肩の力が抜けた良作だと思います。



4150413568黙示〔上〕 (ハヤカワ文庫NV)
サラ・ロッツ 府川 由美恵
早川書房 2015-08-21

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サラ・ロッツ『黙示』(府川由美恵訳 ハヤカワ文庫NV)
 世界各地で、四件の航空機墜落事故がほぼ同時に発生します。乗客だけでなく、墜落現場にいた人も含め多数の犠牲者が出ますが、それぞれの事故現場から3人の子どもだけが生き残っていました。彼らの生存は奇跡だと話題を呼びますが、3人ともが事故前とは人格が変わっていました。家族や遺族の人間は不気味さを感じつつも、事故の後遺症だと考えるようにしていました。
 一方、子どもたちの生存は神の裁きの予兆だと考えるグループが現れます。子どもたちを「黙示録の四騎士」だと考えるグループは、4番目の子どもの捜索を開始しますが…

 インタビューや、本の内容、メールやチャットなど、さまざまな媒体や人の独白を積み重ねるという、ドキュメンタリータッチの作品です。子どもたちの様子やそれを観察する大人たちの違和感をじっくり描きこんでいく重厚な作品です。
 日本が主要な舞台になっており、ネット掲示板など、現代の日本文化が描かれるところも、なかなか興味深く読ませますね。
 後半まで作品のテーマがはっきりせず、それどころか読み終わっても、これがホラーなのかSFなのかがわからないという、曖昧な話ではあるのですが、不気味さは比類がありません。似た雰囲気の作品を探すと、黒沢清監督の映画『回路』あたりでしょうか。
 ものすごく読者を選ぶ作品だとは思いますが、一読の価値はあるかと思います。続編があるそうですが、気になりますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
ブックガイド系同人誌もいろいろ作成しています。



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