奇妙な世界の片隅で 2015年01月
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物語の作り方の楽しみ方  エンターテインメントとしての創作ガイド
 作家の頭の中はどうなっているの? どうやってアイディアを考えているの? 本好き、物語好きの人なら、一度は考える疑問でしょう。そうした要望に答えてか、世の中には、小説の書き方の本、指南書というものが多く存在します。
 僕は、この手のジャンルの本を見つけると、思わず手にとってしまいます。時には、作品を読んだことがない作家の本も読んでしまうぐらいです。やはり小説好きにとって、作家の頭の中、創作法というのは、非常に興味を惹かれるテーマなのでしょう。
 今回は、このジャンルの中で、エンタテインメントとして面白く読んだ本について、いくつか紹介していきたいと思います。
 

448807068X[最新版]ミステリを書く! 10のステップ (創元ライブラリ)
野崎 六助
東京創元社 2011-10-21

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野崎六助『ミステリを書く! 10のステップ』(創元ライブラリ)
 実践的な小説の書き方の本として、第一に挙げたい本です。
 ステップごとに、具体例(主に自作)を挙げて、小説の書き方を解説しています。理論的でわかりやすいのですが、紹介されている著者の作品があまり読みたくならないあたり、理詰め過ぎるというか、頭でっかちの感がありますね。



4041102529小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-08-01

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大沢在昌『小説講座 売れる作家の全技術』(角川書店)
 実際に生徒に書いてもらった小説を題材に、どこが駄目なのかなど、具体的に添削していくという講義スタイルの本。作品を書く上での技術だけでなく、作家として生きていくための指針や世渡りについてなど、過不足なく書かれた良書だと思います。



4309014984何がなんでも作家になりたい!
鈴木 輝一郎
河出書房新社 2002-09

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鈴木輝一郎『何がなんでも作家になりたい!』(河出書房新社)
 創作法ではなく、作家として生きていくための実務面に軸足を置いて書かれたユニークな本です。職業としての作家がいかに厳しいかがはっきりと書いてあり、これを読んで作家をあきらめた人もいるのでは? と思わせます。未読ですが、続編もあるようです。



4087205487小説家という職業 (集英社新書)
森 博嗣
集英社 2010-06-17

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森博嗣『小説家という職業』(集英社新書)
 職業としての作家を、著者なりの捉え方で論じた本、といっていいのでしょうか。作家を「ビジネス」としてとらえているという点で、「ビジネス書」的な側面の強い本です。斬新ではありますが、独特の考え方が多く、本好きの人には受け入れにくいかもしれません。



4334766943努力しないで作家になる方法 (光文社文庫)
鯨 統一郎
光文社 2014-02-13

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鯨統一郎『努力しないで作家になる方法』(光文社文庫)
 著者が作家になるまでを、読み物風に描いた自伝的作品です。状況は厳しいにもかかわらず、主人公(著者)が楽観的なのに驚きます。良くも悪くもフィクション的な美化が強い感じがしますね。



4828413987小説家になる方法
清水 義範
ビジネス社 2007-11-07

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パスティーシュと透明人間 (新潮文庫)
パスティーシュと透明人間 (新潮文庫)清水 義範

新潮社 1995-09
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清水義範『小説家になる方法』(ビジネス社)
 著者が小説家になるまでを描いた回想録的な作品です。著者はパスティーシュ小説の名手だけに、そうした小説技術的な内容を期待してしまいますが、そうした技術に関する部分はほぼ皆無です。
 かといって、かなり真面目に書かれているのもあって、小説としても微妙な感じになってしまっています。むしろ創作的な内容では、『パスティーシュと透明人間』(新潮文庫)あたりが、面白く参考にもなります。



4022643005物語の体操―みるみる小説が書ける6つのレッスン (朝日文庫)
大塚 英志
朝日新聞社 2003-04

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4048674153ストーリーメーカー 創作のための物語論 (アスキー新書 84)
大塚 英志
アスキー・メディアワークス 2008-10-09

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大塚英志『物語の体操』(朝日文庫)
大塚英志『キャラクター小説の作り方』(角川文庫)
大塚英志『物語の命題 6つのテーマでつくるストーリー講座』 (アスキー新書)
大塚英志『ストーリーメーカー 創作のための物語論』 (アスキー新書)
大塚英志『キャラクター小説の作り方』(星海社新書)ほか
 大塚英志の創作に関する本は、小説の書き方の技術をシステマチックに解説する、といった要素が強いです。何冊かタイトルを挙げましたが、このジャンルに関する著書が多くあります。
 どれもなるほどと思わせる内容なのですが、この方法で書かれた作品が面白くなるかはちょっと疑問に思ってしまうところがあります。



4094026266ミステリを書く! (小学館文庫)
綾辻 行人 法月 綸太郎 山口 雅也 大沢 在昌 笠井 潔 柴田 よしき 馳 星周 井上 夢人 恩田 陸 京極 夏彦 千街 晶之
小学館 2002-02

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4094028366ホラーを書く! (小学館文庫)
朝松 健 瀬名 秀明 森 真沙子 井上 雅彦 菊地 秀行 篠田 節子 皆川 博子 飯田 譲治 小野 不由美 小池 真理子 東 雅夫
小学館 2002-06

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『ミステリを書く!』 (小学館文庫)
『ホラーを書く!』 (小学館文庫)
 タイトルは書き方の本のようですが、創作法ではなく、作家個人に対するインタビュー集です。インタビュー自体は、掘り下げが深く、面白く読むことができます。創作に関する話も出ますが、一般的なものではなく、作家個人のものなので、それぞれの作家に対する興味がないと、読むのが難しいかも。



4344019156ミステリーの書き方
日本推理作家協会
幻冬舎 2010-12

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日本推理作家協会編『ミステリーの書き方』(幻冬舎)
 ミステリジャンルの作家43人が、それぞれ創作法について語った本です。1冊のコンセプトがあって、項目別にそれぞれの作家が担当しているというような作り方ではなく、それぞれの作家が自分の創作法を好き勝手に語るというスタイルです。ひとつひとつがエッセイとしても楽しめるようになっています。ストーリーテラーと目される作家の章は、もっと読みたいと思わせるところが流石ですね。



4150304092スペース・オペラの書き方―宇宙SF冒険大活劇への試み (ハヤカワ文庫JA)
野田 昌宏
早川書房 1994-10

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4150309329スペース・オペラの読み方 (ハヤカワ文庫JA)
野田 昌宏
早川書房 2008-08

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野田昌宏『スペース・オペラの書き方』(ハヤカワ文庫JA)
 SF愛があふれており、読んでいてとても楽しい本。創作に役立つかは別として、エッセイとしても読めます。姉妹編の『スペース・オペラの読み方』(ハヤカワ文庫JA)も併せて読みたいですね。



4022611561ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)
ディーン・R. クーンツ Dean R. Koontz
朝日新聞社 1996-07

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ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』(大出健訳 朝日文庫)
 ベストセラー作家、クーンツの文字通り「ベストセラー」を書くための指南書です。基本的に大衆受けする娯楽作品を書くのが主眼の本なので、読んでいて受け入れにくい人もいるかも。
 小説作品と同じく、ユーモアを交えながら軽く読んでいけるあたりは、やはりプロのエンタテインメント作家ですね。



4562035994ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門
ローレンス ブロック Lawrence Block
原書房 2003-01

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ローレンス・ブロック『ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門』(田口俊樹・加賀山卓朗訳 原書房)
 クーンツと同じく「ベストセラー」の名を冠しているものの、はるかに面白く読める本です。小説技法の紹介の仕方がものすごく洗練されています。他作家の作品を俎上に上げて紹介する際も、その作品が読みたくなるという語り口の上手さ。ウィリアム・トレヴァーを絶賛するなど、ブロックの読み巧者としての一面も窺えます。エンタテインメントとして読める創作本として、いちばんにオススメしたい本です。



4152034173ミステリの書き方
H.R.F.キーティング H.R.F. Keating 長野 きよみ
早川書房 1989-11

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H・R・F・キーティング『ミステリの書き方』(長野きよみ訳 早川書房)
 ミステリのジャンルについて、広く俯瞰した本です。範囲が広いだけに、それぞれの項目の掘り下げが浅いのが玉に瑕ですね。基本図書として読むべき本でしょう。



4062638576ミステリーの書き方 (講談社文庫)
アメリカ探偵作家クラブ 池上 冬樹
講談社 1998-07-15

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ローレンス・トリート編『ミステリーの書き方』(大出健訳 講談社文庫)
 名だたるアメリカのミステリ作家たちが、それぞれの創作法について語った本。上述の日本版『ミステリーの書き方』と同じような方針でまとめられています(というか日本版の方が、この本を参考にしているのではないでしょうか。)
 どの作家の章も、それだけでまるで短篇を読んでいるかのような面白さ。プロ作家の面目躍如ここにあり、といった感じの本です。フレドリック・ブラウン、スタンリイ・エリン、ヘレン・マクロイなど、ミステリ短篇の名手の章は圧倒されます。



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アメリカSF作家協会編『SFの書き方』(小隅黎訳 講談社)
 上の『ミステリーの書き方』のSF版といった感じの本です。面白く読めますが、ミステリ版ほどではないでしょうか。ケイト・ウィルヘルム、ポール・アンダースン、ガードナー・ドゾア、ジョージ・R・R・マーティンなどの名前が見えます。



sfsahou.jpg
ベン・ボーヴァ『SF作法覚え書―あなたもSF作家になれる』(酒井昭伸訳 東京創元社)
 かなり実用的に書かれた本ですが、SFへの興味がないと、ちょっとつらいかもしれません。

 日本のものでは、日本推理作家協会編『ミステリーの書き方』、海外のものでは、ローレンス・トリート編『ミステリーの書き方』、ローレンス・ブロック『ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門』がオススメでしょうか。この3冊はまだ在庫があるようです。


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最近読んだ本

4150409897黒蝶 (ハヤカワ文庫NV)
グレアム マスタートン Graham Masterton
早川書房 2001-09

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グレアム・マスタートン『黒蝶』(務台夏子訳 早川文庫NV)
 主婦のボニーが仕事にしていたのは、人が死んだ後の部屋を清掃するという業務でした。そんなある日、仕事の現場で耳にしたのは、愛する家族を殺したという凄惨な事件。そこでボニーが見つけたのは、見慣れない虫でした。
 家族のために必死で働くボニーでしたが、やがて夫と息子が姿を消してしまいます…。
 短めの中篇ホラー作品です。作中で起こる現象が、超自然的ともそうでないとも取れるようになっています。序盤にして、主人公が置かれた状況が既に絶望的なのですが、その中で気丈に振舞う主人公に、読者は感情移入してしまいます。それを踏まえた後半の展開が読みどころでしょう。
 後味は非常に悪いのですが、適度な長さといい、モダンホラーとしては佳作かと思います。



4594070450予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖 (扶桑社ミステリー)
ロバート ブロック 井上 雅彦
扶桑社 2014-05-31

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ロバート・ブロック『予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖』(井上雅彦編 植草昌実他訳)
 異色作家の短篇を集めた《予期せぬ結末》シリーズの3弾目は、ロバート・ブロックです。悪趣味すれすれのユーモア、皮肉のきいたオチと、娯楽に徹したその作風はまさにエンタテインメントの鑑というべきでしょうか。
 自作の登場人物である殺人鬼が現実に現れるという作家に対し、陰謀を企む妻を描いた『殺人演技理論』。冒頭のこの作品からして、ブロック節が炸裂です。
 身に着けた人間が吸血鬼になってしまうという『マント』、アーサー・マッケン風の幻想小説『牧神の護符』、ノスタルジアあふれる叙情的なファンタジー『ムーヴィー・ピープル』など、バラエティ豊かで楽しませてくれます。



4488748015時が新しかったころ (創元SF文庫)
ロバート・F・ヤング 中村 融
東京創元社 2014-03-22

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ロバート・F・ヤング『時が新しかったころ』( 中村融訳 創元SF文庫)
 白亜紀に調査のために赴いたカーペンターは、恐竜の闊歩する土地で、なんと人間の女の子と男の子を見つけます。二人は、この時代の火星の王国の王女と王子だというのです。やがて二人の境遇に同情したカーペンターは、拉致しようとする連中から逃げ出そうとしますが…。
 知的興奮とか目新しさは皆無ですが、読んでいてとにかく楽しい。高慢でカーペンターを鼻にもかけない王女ディードレが、やがてカーペンターに惹かれていく過程が読みどころです。アクション場面も多く、古き良き冒険SFとして楽しめますね。



4488748023宰相の二番目の娘 (創元SF文庫)
ロバート・F・ヤング 山田 順子
東京創元社 2014-10-31

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ロバート・F・ヤング『宰相の二番目の娘』( 山田順子訳 創元SF文庫)
 歴史上の人物を展示する催し物のため、タイムマシンで過去に飛び、実在の人物を拉致する。それが主人公の仕事でした。《千夜一夜物語》の場面を再現するため、9世紀へ行き、本物のシェヘラザードを連れ帰ろうとした主人公は、間違えて妹のドニヤザードをさらってしまいますが…。
 アラビアンナイトの世界を舞台にしたSFロマンスです。ヤング作品にはよくあるのですが、魔術や魔神など、作中で起こる超自然的な現象に、いちおう科学的な説明が与えられるところがミソです。「科学的」といっても、たいした説得力がないので、正直、ファンタジーとして描いてもよかったのではないかと思います。
 SF的な解釈部分が非常に古いタイプのSFなのですが、そうした部分を含めて楽しむべき作品なのでしょう。ヤングのロマンスが好きな読者には、無条件で楽しめます。



4047301531ダンジョン飯 1巻 (ビームコミックス)
九井 諒子
KADOKAWA/エンターブレイン 2015-01-15

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九井諒子『ダンジョン飯』(エンターブレイン)
 地下に眠る謎の王国の遺産を求め、ダンジョンに挑んでいたライオス一行でしたが、ドラゴンに襲われ全滅の危機に襲われます。妹のファリンの魔法によって辛くも地上へ脱出した一行でしたが、ドラゴンに食われてしまった妹のみが帰還できません。
 ドラゴンに消化される前に助ければ、生き返る可能性があることに賭け、ライオスは再び助けに向かおうとします。しかし仲間も減り、食料の備蓄もなくなってしまったのです。そこでライオスが思いついたのは、とんでもない手段でした。なんと、ダンジョンの途中で魔物を倒し、それを食料にしようというのです…。
 RPGゲームを題材にしたファンタジー漫画、のように見えますが、これは非常に斬新な作品ですね。パーティーを組む冒険者、ダンジョンに出没する魔物と、いわゆるRPGのステレオタイプを逆手にとった異色の漫画になっています。
 架空のモンスターに対し、実在の生物のように生態や特徴を解剖したり、料理の仕方を事細かに考えたりと、よほどの想像力がないと発想できるものではありません。白眉は、魔法で操られていると思われていた「動く鎧」が、群生した軟体動物だったと判明するエピソード。
 また、ダンジョンの罠を利用して肉を切ったり、揚げ物をしたりするシーンなどは笑いが止まりません。RPG的な世界観が苦手な人でも楽しめる作品だと思うので、オススメしておきたいと思います。

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2月の気になる新刊と1月の新刊補遺
1月24日刊 ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ『女吸血鬼カーミラ』(亜紀書房 予価1944円)
2月3日発売 『MOE 3月号』 〈特集=エドワード・ゴーリー〉(白泉社 860円)
2月7日刊 ジュディ・バドニッツ『元気で大きなアメリカの赤ちゃん』(文藝春秋 予価2700円)
2月10日刊 紀田順一郎『幻島はるかなり 推理・幻想文学の七十年』(松籟社 予価2592円)
2月10日刊 プーシキン『スペードの女王/ベールキン物語』(光文社古典新訳文庫)
2月15日刊 ハリ・クンズル『民のいない神』(白水社 予価3132円)
2月21日刊 ラヴィ・ティドハー『完璧な夏の日 上・下』(創元SF文庫 予価各1080円)
2月27日刊 ヘレン・マクロイ『歌うダイアモンド』(創元推理文庫 予価1253円)
2月28日刊 エドガー・アラン・ポー『ポー短編集 SF編』(新潮文庫 予価497円)

 突然の『カーミラ』の新訳にビックリです。収録は『カーミラ』のみのようです。未訳の短篇でも併録してくれると良かったんですが。
 絵本やメルヘンの専門誌である『MOE』がゴーリーの特集です。一時期、購読していたことがありますが、この雑誌のカラーからすると斬新な特集だと思います。
 『幻島はるかなり 推理・幻想文学の七十年』は、ミステリ・幻想文学の先達である紀田順一郎の回想記。既に出ている『幻想と怪奇の時代』(松籟社)と併読すると、興趣が増すかと思います。
 光文社古典新訳文庫の新刊は、プーシキンの『スペードの女王/ベールキン物語』です。幻想小説の古典的作品『スペードの女王』はもちろん『ベールキン物語』も面白く読める短編集ですので、未読の方にはお勧めしておきます。
 2月の新刊でのイチオシは、これでしょうか、ヘレン・マクロイ『歌うダイアモンド』。かって《晶文社ミステリ》で出版された単行本の文庫化になります。ミステリ作家に分類される作者ですが、短篇ではSFや幻想小説の領域にまで接近する作品が多く、斬新な短編集です。個人的には、かって日本版アンソロジー『クイーンの定員』(光文社文庫)にも収録された『Q通り十番地』が印象深いですね。

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本の保護について考える その2 本体編
4903443019ヒラメキ・ノート〈01〉本の手入れ
コクヨRDIセンター 2006-11

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 昨年の記事では、本を保護するために、主に環境面での取り組みを紹介しました。今回は、本そのものの保護について書いていきたいと思います。


●本を保護するためには?

 本を保護するためには、やはり本自体にカバーをつけるのが一番でしょう。
 まず思い浮かぶのは、書店でかけてくれる紙のカバー。僕も実際、そのカバーをつけっぱなしにしていました。物理的な汚れは、ある程度防げるものの、紫外線は紙を通して入っていってしまうので、背ヤケは防げません。また、後述しますが「酸性紙問題」というものがあります。書店のカバーは基本的に酸性紙なので、紙カバー自体が劣化してしまいます。
 本の保護を考える場合に、重要なポイントが3つあります。

 1 物理的な保護
 2 紫外線からの保護
 3 紙自体の劣化からの保護

 1の物理的な保護は、コーヒーをこぼしたり、水で濡れたりといったことからの保護ですね。2の紫外線からの保護は、日光や蛍光灯から出る紫外線からの保護。3の紙の劣化の保護は、少し説明が必要かもしれません。
 紙も物質的なものなので、時間が経てば劣化します。ただ、紙にも劣化のスピードがあり、和紙に比べれば、洋紙はずっと早く劣化します。そして洋紙で問題になるのが「酸性紙」です。
 この「酸性紙」は、紙の劣化のスピードが非常に速いのです。紙に含まれる酸が、時間の経過とともに紙を劣化させてしまうのです。洋紙の場合、製造過程でインクのにじみ止めとして、硫酸アルミニウムが使われていました。これにより、化学的に紙がもろくなってしまうのです。
 日本でも 「酸性紙問題」として、1980年代後半あたりから、クローズアップされました。そんなわけで、日本でもだんだんと印刷用紙は中性紙に変わっていきました。逆に言うと、1990年代前半ぐらいまでは、酸性紙を使った出版物が多かったということになります。
 酸性紙の寿命は、50年~100年だと言われています。ただ1970年代の文庫本の劣化具合などを見ると、正直、50年も怪しいですね。
 すでに印刷されてしまった本はもう仕方がないとして、酸性紙の紙カバーをつけっぱなしにしておくと、本の劣化が早まるようなのです。同じ理屈で、本の刊行時に挟まっていた新刊広告のチラシ、紙のしおり、月報なども抜いておいた方が無難です。実際月報のはさまっていた古本は、その跡が、変色してしまっているものがありますしね。
 ちなみに、今回の記事は『ヒラメキ・ノート〈01〉本の手入れ』(コクヨRDIセンター)を参考にさせてもらっています。薄い本ですが、本好きにとっては、ためになる内容ですので、お勧めしておきましょう。


●カバーの材質を考える

1 グラシン紙

 さて、本にカバーをつけるとして、材質的には何がいいんでしょうか? まず思いついたのが「グラシン紙」。古書店なんかでつけているあの半透明な紙です。半透明なので背表紙が見えますし。
 グラシン紙自体は結構リーズナブルな値段で出回っていますし、本のカバー用のものも売られているようです。これにしようかと思いましたが、念のため、いろいろ調べてみました。すると、グラシン紙は基本的に酸性紙だというのです。それじゃ意味がない。
 古書店では、物理的な保護のために割り切ってグラシン紙を使っているところもあれば、そもそも酸性紙であることを知らずに使っているところもあるようですね。
 そんなわけで、グラシン紙は却下です。

2 トレーシングペーパー

 そもそも、酸性でなく中性の紙であれば保護になるはず、そう考えて、中性紙で薄めの紙はないかと探してみたところ、ヒットしたのが「トレーシングペーパー」です。現在、コクヨなどが作っているトレーシングペーパーは中性紙らしく、これの薄いものであれば使えるのでは?
 ためしに、中性紙で一番薄いトレーシングペーパーを注文してみました。実際の紙を本に巻いてみると…。確かに透明で薄いのですが、それでもけっこう紙が厚く、本のカバーに巻くと、厚みが出てしまい、本の本体にかぶせることができません。
 切り込みを入れて、テープで止めたりすればいいんでしょうが、うちの本の数を考えると、とてもじゃないけど、やっていられません。

3 ニュートラルグラシン紙

 ここでもう一度グラシン紙について調べてみます。酸性ではなくて、中性のグラシン紙はないんでしょうか? 日本で作られているグラシン紙はほぼ100%酸性紙らしいのです。ただ、海外では中性のグラシン紙が作られているらしいことを知ります。主に古文書などの保護に使われているようです。
 この中性グラシン紙(「ニュートラルグラシン紙」といいます。)、基本的に全て輸入ものになるわけですが、国内では取扱っているところが、ものすごく少ない。ようやく見つけたショップで、値段を見てみると、全紙サイズ(700×1000mm)で、1枚300円近くします。高い!
 もう少し安いところはないかと探し、1枚あたり136円で売っているところを見つけました。100枚単位なので、13600円。それでもかなりの高値ですが、仕方がない。思い切って注文しました。


●ニュートラルグラシン紙を巻く

 届いたニュートラルグラシン紙を、実際に本に巻いてみます。全紙サイズなので、何分割かにして切っていきます。画集などの大型本は2分割にして、A4サイズぐらいまでの単行本は4分割にすると、ちょうど良くなります。
 本体からカバーを取り外し、ニュートラルグラシン紙をカバーに巻きつけます。それを再び本体に取り付けて完了です。ハードカバーだと問題ないのですが、ソフトカバーの場合、ニュートラルグラシンを巻きつけた後、厚みが出てしまい、カバーがしなってしまうことがあります。もともとカバーと本体の間に多少の遊びがないと、巻きにくいようですね。巻いた感じもなかなか良く、これで決まりのようです。
 しかし、とここで考えます。100枚セットだったので、4分割にすると、400枚。単行本に巻くとして、たった400冊です。蔵書すべてに巻くとすると、これの10倍は必要になります。グラシンだけで10万円はさすがにきつい。
 全てに巻くのではなく、貴重な本、大事にしている本に優先的に巻いていくことにしました。
 

●透明カバーの購入を検討

 ニュートラルグラシン紙は高すぎるので、酸性紙でなくて、もう少しリーズナブルな値段で本の保護ができるもの、という観点でいろいろ考えました。耐光性という面では落ちますが、透明なビニールカバーでいいんじゃないだろうか。
 とりあえず、市販のビニール製ブックカバーなどを見てみます。有名なものでは「ミエミエ」とか「ブッカー君」なんてものがありますね。ただこれらの商品にはいくつか問題があって、主にコミックを前提としていること、枚数が少な目であること、サイズの種類が少ないこと、などが挙げられます。
 蔵書すべてにかぶせるとすると、これまた結構なお値段になります。もっと大量に、まとめて安価に購入できる、いわゆる「卸価格」のお店はないだろうか、と調べてみます。すると、ありました。


●透明カバーを大量注文

 ビニールカバーや袋を、大量にネット通販してくれる「ワークアップ」というお店です。文庫本や新書、単行本サイズなど、いろいろなサイズがあります。また、数千枚単位で注文が可能で、その場合1枚あたりの値段もずいぶんと安くなります。
 例えば文庫本サイズのカバーであれば、100枚だと612円、1000枚だと3150円と、枚数が多いほどお得です。最低注文単位が100枚なので、蔵書が多い人向けでしょうが、使い切らなくても、保管しておいて、後から購入した本にも使えます。
 嬉しいのは、ハヤカワ文庫の少し大きめのサイズ、いわゆる「トールサイズ用」も別に売っていること。とりえあず、このお店で、普通の文庫本サイズ、ハヤカワトールサイズ、単行本サイズのビニールカバーを注文してみました。
 到着して、実際に着けてみると、おお!これは完成度が高いですね。かなりぴったりです。表紙をビニールに通して、テープで止めるのですが、このテープはビニールカバーの部分に止めるので、本は汚れません。そもそも粘着部分がそんなにべったりしていないので、失敗してもやり直すことができます。
 ある程度の余裕があるので、本の厚さに応じてテープ部分がスライドして、本に密着させることができます。極端に厚い本は入らないこともありますが、だいたいのサイズには対応しているようです。

 「ワークアップ」さんのページのURLを載せておきます。
 http://www.fukuro.in/page/237


●カバー装着完了

 書店の紙カバーを全て外し、貴重な本には「ニュートラルグラシン紙」、それ以外の本には「ビニールカバー」をつけてみました。これで全ての本の背表紙が見えるようになりました。まだ変形版のコミックや新書サイズのものには、カバーをつけていませんが、これらにもいずれ付ける予定です。
 背表紙の見える本棚が、こんなに気持ちの良いものだとは思いませんでした。ニュートラルグラシン紙はちょっと敷居が高いかもしれませんが、ビニールカバーの方は気軽に購入できるので、オススメしておきたいと思います。


●ついでに掃除用具をご紹介

 今回本のカバーをつけるために、数年ぶり、下手すると10年ぶりぐらいに本棚から出した本もあります。当然ホコリをかぶっていたりするわけで、ついでに掃除も行いました。その際役に立ってくれたのが、
ユニチャームの「ウェーブ」と、レデッカーの「ブックブラシ」。
 「ウェーブ」の方は有名なのでご存知の人もいるかと思いますが、ホコリをからめて取る道具ですね。本棚自体やスキマのホコリはこれで取ると、非常に楽です。
 そして、ドイツのレデッカー社の「ブックブラシ」。これ、本専用のブラシです。本を傷めないように、やわらかい山羊毛と豚毛で出来ています。本の天にたまったホコリなどを、これで綺麗にかきだすことができます。4000~5000円と、それなりのお値段のブラシなのですが、本の愛好家なら、ぜひ一つ持っておきたいアイテムです。

 ブックブラシの紹介ページ
 http://hokuohkurashi.com/?pid=34129626

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新年のご挨拶と本棚の整理について

4478029393本棚にもルールがある---ズバ抜けて頭がいい人はなぜ本棚にこだわるのか
成毛眞
ダイヤモンド社 2014-12-05

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 あけましておめでとうございます。2015年初の更新になります。

 今年の目標は、ずばり蔵書整理です。先日の記事にも書いたのですが、昨年後半から、読書環境の改善に取り組んでいます。照明や紫外線対策が終わり、今は本自体の対策の作業中です。
 これを機に、いらない本を処分したり、棚を使いやすく分けたりしたいと考えているのですが、長年のつけか、大量に積まれた本の整理が全然終わりません。

 整理について、いろいろ考えていたなか、ふと本屋で目に付いた『本棚にもルールがある』(成毛眞 ダイヤモンド社)という本に、今ちょっと衝撃を受けています。
 普段なら、こうしたビジネス系整理術の類いの本は読まないのですが、著者は読書家として有名な人なので、関心を引かれて読んでみました。面白いと思ったのは「本棚はテーマ別に分ける」「本棚は関心に応じて常に更新し続ける」「未読本と既読本とで本棚を分ける」など。
 実用性ということに重きを置いた視点は、なかなか参考になります。実用性といっても、ビジネス書や実用書といった意味の「実用」ではありません。科学や歴史など、ジャンル的にはいろいろ目配りしていて、あくまでそれらの本をどのように使っていくか、といった観点から本棚を考えています。
 ただ、この著者、小説とかフィクションをあまり読まない人らしく、そのあたりのジャンルについては、扱いが小さいです。というか、著者が提唱する本棚には、ほとんどのジャンルが含まれますが、小説(だけ?)が含まれていないのが、気になりますね。

 とはいえ、参考になりそうな考え方が、多く含まれていて、自分の本棚整理にも応用できそうです。
 科学とか歴史とかのジャンルであれば、内容別にまとめるのも、わりと簡単でしょうが、文学・小説は、複数のテーマを含んでいることが多いので、分類するのが難しい。SFとかホラーとかのサブジャンルで分けてしまうのは分かりやすいと思いますが、内容的なテーマで分けた方が面白くなりますよね。例えば「記憶」をテーマにした小説の棚とか、「夢」をテーマにした小説の棚とか。このあたり、人によって関心のあり方が違うので、人それぞれの個性が出た棚が出来そうです。

 最後に、昨年のイベント「読んでいいともガイブンの輪」での、出版社の2015年度の「隠し玉」のレジュメが、ネット上で公開されていました。その中から、個人的に気になる本を挙げておきたいと思います。

●河出書房新社
ディーノ・ブッツァーティ『モレル谷の奇跡』
岸本佐知子編訳『コドモノセカイ』
アンナ・スタロビネツ『むずかしい年ごろ』
ミハイル・エリザーロフ『図書館司書』

●国書刊行会
レオ・ペルッツ『スウェーデンの騎士』
レオ・ペルッツ『聖ペテロの雪』
ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』
中野善夫訳『ヴァーノン・リー幻想作品集』
ファーガス・ヒューム『質屋のヘイガー』
『マルセル・シュオッブ全集』

●白水社
アルフレート・クビーン『裏面』
レオ・ペルッツ『第三の魔弾』
サキ『クローヴィス物語』

●作品社
リディア・デイヴィス『サミュエル・ジョンソンが怒っている』

●東京創元社
ヘレン・マクロイ『歌うダイヤモンド』
ガイ・バート『ダンデライオン・クロック』
フェルディナント・フォン・シーラッハ『禁忌』
ケヴィン・ウィルソン『Tunneling to the Center of the Earth』


 レオ・ペルッツ3冊がすごいですね。『第三の魔弾』は復刊になりますが、他の2冊は本邦初訳。国書刊行会では、グラビンスキ、ヴァーノン・リー作品集が気になります。シュオッブは随分前から予告されていますが…。
 あとはサキの新訳とブッツァーティ(遺作の画文集だそうですが)が楽しみですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
ブックガイド系同人誌もいろいろ作成しています。



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