昨年の記事では、本を保護するために、主に環境面での取り組みを紹介しました。今回は、本そのものの保護について書いていきたいと思います。
●本を保護するためには?
本を保護するためには、やはり本自体にカバーをつけるのが一番でしょう。 まず思い浮かぶのは、書店でかけてくれる紙のカバー。僕も実際、そのカバーをつけっぱなしにしていました。物理的な汚れは、ある程度防げるものの、紫外線は紙を通して入っていってしまうので、背ヤケは防げません。また、後述しますが「酸性紙問題」というものがあります。書店のカバーは基本的に酸性紙なので、紙カバー自体が劣化してしまいます。 本の保護を考える場合に、重要なポイントが3つあります。
1 物理的な保護 2 紫外線からの保護 3 紙自体の劣化からの保護
1の物理的な保護は、コーヒーをこぼしたり、水で濡れたりといったことからの保護ですね。2の紫外線からの保護は、日光や蛍光灯から出る紫外線からの保護。3の紙の劣化の保護は、少し説明が必要かもしれません。 紙も物質的なものなので、時間が経てば劣化します。ただ、紙にも劣化のスピードがあり、和紙に比べれば、洋紙はずっと早く劣化します。そして洋紙で問題になるのが「酸性紙」です。 この「酸性紙」は、紙の劣化のスピードが非常に速いのです。紙に含まれる酸が、時間の経過とともに紙を劣化させてしまうのです。洋紙の場合、製造過程でインクのにじみ止めとして、硫酸アルミニウムが使われていました。これにより、化学的に紙がもろくなってしまうのです。 日本でも 「酸性紙問題」として、1980年代後半あたりから、クローズアップされました。そんなわけで、日本でもだんだんと印刷用紙は中性紙に変わっていきました。逆に言うと、1990年代前半ぐらいまでは、酸性紙を使った出版物が多かったということになります。 酸性紙の寿命は、50年~100年だと言われています。ただ1970年代の文庫本の劣化具合などを見ると、正直、50年も怪しいですね。 すでに印刷されてしまった本はもう仕方がないとして、酸性紙の紙カバーをつけっぱなしにしておくと、本の劣化が早まるようなのです。同じ理屈で、本の刊行時に挟まっていた新刊広告のチラシ、紙のしおり、月報なども抜いておいた方が無難です。実際月報のはさまっていた古本は、その跡が、変色してしまっているものがありますしね。 ちなみに、今回の記事は『ヒラメキ・ノート〈01〉本の手入れ』(コクヨRDIセンター)を参考にさせてもらっています。薄い本ですが、本好きにとっては、ためになる内容ですので、お勧めしておきましょう。
●カバーの材質を考える
1 グラシン紙
さて、本にカバーをつけるとして、材質的には何がいいんでしょうか? まず思いついたのが「グラシン紙」。古書店なんかでつけているあの半透明な紙です。半透明なので背表紙が見えますし。 グラシン紙自体は結構リーズナブルな値段で出回っていますし、本のカバー用のものも売られているようです。これにしようかと思いましたが、念のため、いろいろ調べてみました。すると、グラシン紙は基本的に酸性紙だというのです。それじゃ意味がない。 古書店では、物理的な保護のために割り切ってグラシン紙を使っているところもあれば、そもそも酸性紙であることを知らずに使っているところもあるようですね。 そんなわけで、グラシン紙は却下です。
2 トレーシングペーパー
そもそも、酸性でなく中性の紙であれば保護になるはず、そう考えて、中性紙で薄めの紙はないかと探してみたところ、ヒットしたのが「トレーシングペーパー」です。現在、コクヨなどが作っているトレーシングペーパーは中性紙らしく、これの薄いものであれば使えるのでは? ためしに、中性紙で一番薄いトレーシングペーパーを注文してみました。実際の紙を本に巻いてみると…。確かに透明で薄いのですが、それでもけっこう紙が厚く、本のカバーに巻くと、厚みが出てしまい、本の本体にかぶせることができません。 切り込みを入れて、テープで止めたりすればいいんでしょうが、うちの本の数を考えると、とてもじゃないけど、やっていられません。
3 ニュートラルグラシン紙
ここでもう一度グラシン紙について調べてみます。酸性ではなくて、中性のグラシン紙はないんでしょうか? 日本で作られているグラシン紙はほぼ100%酸性紙らしいのです。ただ、海外では中性のグラシン紙が作られているらしいことを知ります。主に古文書などの保護に使われているようです。 この中性グラシン紙(「ニュートラルグラシン紙」といいます。)、基本的に全て輸入ものになるわけですが、国内では取扱っているところが、ものすごく少ない。ようやく見つけたショップで、値段を見てみると、全紙サイズ(700×1000mm)で、1枚300円近くします。高い! もう少し安いところはないかと探し、1枚あたり136円で売っているところを見つけました。100枚単位なので、13600円。それでもかなりの高値ですが、仕方がない。思い切って注文しました。
●ニュートラルグラシン紙を巻く
届いたニュートラルグラシン紙を、実際に本に巻いてみます。全紙サイズなので、何分割かにして切っていきます。画集などの大型本は2分割にして、A4サイズぐらいまでの単行本は4分割にすると、ちょうど良くなります。 本体からカバーを取り外し、ニュートラルグラシン紙をカバーに巻きつけます。それを再び本体に取り付けて完了です。ハードカバーだと問題ないのですが、ソフトカバーの場合、ニュートラルグラシンを巻きつけた後、厚みが出てしまい、カバーがしなってしまうことがあります。もともとカバーと本体の間に多少の遊びがないと、巻きにくいようですね。巻いた感じもなかなか良く、これで決まりのようです。 しかし、とここで考えます。100枚セットだったので、4分割にすると、400枚。単行本に巻くとして、たった400冊です。蔵書すべてに巻くとすると、これの10倍は必要になります。グラシンだけで10万円はさすがにきつい。 全てに巻くのではなく、貴重な本、大事にしている本に優先的に巻いていくことにしました。
●透明カバーの購入を検討
ニュートラルグラシン紙は高すぎるので、酸性紙でなくて、もう少しリーズナブルな値段で本の保護ができるもの、という観点でいろいろ考えました。耐光性という面では落ちますが、透明なビニールカバーでいいんじゃないだろうか。 とりあえず、市販のビニール製ブックカバーなどを見てみます。有名なものでは「ミエミエ」とか「ブッカー君」なんてものがありますね。ただこれらの商品にはいくつか問題があって、主にコミックを前提としていること、枚数が少な目であること、サイズの種類が少ないこと、などが挙げられます。 蔵書すべてにかぶせるとすると、これまた結構なお値段になります。もっと大量に、まとめて安価に購入できる、いわゆる「卸価格」のお店はないだろうか、と調べてみます。すると、ありました。
●透明カバーを大量注文
ビニールカバーや袋を、大量にネット通販してくれる「ワークアップ」というお店です。文庫本や新書、単行本サイズなど、いろいろなサイズがあります。また、数千枚単位で注文が可能で、その場合1枚あたりの値段もずいぶんと安くなります。 例えば文庫本サイズのカバーであれば、100枚だと612円、1000枚だと3150円と、枚数が多いほどお得です。最低注文単位が100枚なので、蔵書が多い人向けでしょうが、使い切らなくても、保管しておいて、後から購入した本にも使えます。 嬉しいのは、ハヤカワ文庫の少し大きめのサイズ、いわゆる「トールサイズ用」も別に売っていること。とりえあず、このお店で、普通の文庫本サイズ、ハヤカワトールサイズ、単行本サイズのビニールカバーを注文してみました。 到着して、実際に着けてみると、おお!これは完成度が高いですね。かなりぴったりです。表紙をビニールに通して、テープで止めるのですが、このテープはビニールカバーの部分に止めるので、本は汚れません。そもそも粘着部分がそんなにべったりしていないので、失敗してもやり直すことができます。 ある程度の余裕があるので、本の厚さに応じてテープ部分がスライドして、本に密着させることができます。極端に厚い本は入らないこともありますが、だいたいのサイズには対応しているようです。
「ワークアップ」さんのページのURLを載せておきます。 http://www.fukuro.in/page/237
●カバー装着完了
書店の紙カバーを全て外し、貴重な本には「ニュートラルグラシン紙」、それ以外の本には「ビニールカバー」をつけてみました。これで全ての本の背表紙が見えるようになりました。まだ変形版のコミックや新書サイズのものには、カバーをつけていませんが、これらにもいずれ付ける予定です。 背表紙の見える本棚が、こんなに気持ちの良いものだとは思いませんでした。ニュートラルグラシン紙はちょっと敷居が高いかもしれませんが、ビニールカバーの方は気軽に購入できるので、オススメしておきたいと思います。
●ついでに掃除用具をご紹介
今回本のカバーをつけるために、数年ぶり、下手すると10年ぶりぐらいに本棚から出した本もあります。当然ホコリをかぶっていたりするわけで、ついでに掃除も行いました。その際役に立ってくれたのが、 ユニチャームの「ウェーブ」と、レデッカーの「ブックブラシ」。 「ウェーブ」の方は有名なのでご存知の人もいるかと思いますが、ホコリをからめて取る道具ですね。本棚自体やスキマのホコリはこれで取ると、非常に楽です。 そして、ドイツのレデッカー社の「ブックブラシ」。これ、本専用のブラシです。本を傷めないように、やわらかい山羊毛と豚毛で出来ています。本の天にたまったホコリなどを、これで綺麗にかきだすことができます。4000~5000円と、それなりのお値段のブラシなのですが、本の愛好家なら、ぜひ一つ持っておきたいアイテムです。 ブックブラシの紹介ページ http://hokuohkurashi.com/?pid=34129626
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