先日、ブノワ・ペータース/フランソワ・スクイテンによる、バンドデシネ作品『闇の国々2』が発売され、早速眼を通しました。1巻に劣らず、素晴らしい出来です。 なかでも気に入ったのが、シリーズの第1作である、『サマリスの壁』です。
足を踏みいれた者が戻ってこないという噂の立つ、謎の都市サマリス。議会から調査を命じられた主人公フランツは、はるか彼方のサマリスへ旅立ちます。ようやく到着したサマリスは、まるで迷宮のような都市でした。都市に対する不審の念を拭えないフランツでしたが…。
都市の幻影に踊らされる主人公を描く幻想的な作品なのですが、訳者の解説を読むと、アドルフォ・ビオイ=カサレスの『モレルの発明』の影響が見られる、とのこと。 それならば、と積読していた『モレルの発明』を引っ張り出してきて、読んでみました。確かに通低するものがあります。 『モレルの発明』は、こんな話です。
罪を犯し、警察に追われる語り手の≪私≫は、放置された建築物があるという無人島の話を聞きます。その島では、奇妙な病が流行っているといいます。隠れ場所を求める語り手は、あえてその島に上陸し、ひっそりと生活を始めます。 ある日、無人島であるはずの島で、複数の男女に出会った≪私≫は驚きます。中でもフォスティーヌという名前であるらしい、美しい女性に≪私≫は惹かれます。見つかる危険を顧みず、フォスティーヌの前に姿を現す≪私≫でしたが、彼女は≪私≫がまるでいないかのように振舞うのです…。
なんとも魅力的な作品です。中心となる謎はSF的なものなのですが、全体にミステリのかたちで話は進みます。かなり早い時点で、謎の正体はわかってしまうのですが、そこからの主人公の行動がまた興味深い。 恋とは何なのか? 他者とは何なのか? ≪私≫のとった行動の意味とは? 再読、三読に耐える、哲学的な深みを持った作品です。
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