D・M・ディヴァイン『三本の緑の小壜』 (山田蘭訳 創元推理文庫) D・M・ディヴァイン『災厄の紳士』 (中村有希訳 創元推理文庫) D・M・ディヴァイン『ウォリス家の殺人』 (中村有希訳 創元推理文庫) D・M・ディヴァイン『悪魔はすぐそこに』 (山田蘭訳訳 創元推理文庫)
D・M・ディヴァインは、かって教養文庫から翻訳が刊行されていた時代から、好きな作家でした。しっかりとしたプロット、丁寧な人物造形、繊細な心理描写など、小説作りが非常に上手いのです。 僕のミステリの読み方はかなり邪道です。ミステリのトリックやギミック部分は、正直そんなにこだわりません。物語として優れているかどうか、そこにミステリ部分が上手く噛み合っているか、という点が評価基準でしょうか。そういう意味で、僕が好きなミステリ作家の理想型に近いのがディヴァインなのです。 上の四作はどれも面白かったのですが、人気作家とその家族の人間関係のねじれを描いた『ウォリス家の殺人』、少女の連続殺人事件をめぐるサスペンス風味の強い『三本の緑の小壜』の二作がベストでしょうか。とくに『三本の緑の小壜』は、各章語り手が変わることによって、それぞれの人間関係が多面的に描き出されるところが面白いです。
怪奇小説の最後の巨匠ウェイクフィールドの怪奇小説集です。この時代のゴースト・ストーリーは、現代人からはテンポが違いすぎて読みにくいことが多いのですが、さすがにウェイクフィールド、読みやすさは抜群です。そしてそれだけでなく、恐怖感の醸成もまた絶品。 有名作『防人』、あるいは本書の表題作『ゴースト・ハント』などもそうですが、『ケルン』などを読むと、ウェイクフィールドのある種直接的なまでの手法がよくわかります。 この『ケルン』は、雪のある時だけに怪物が現れるという山が舞台です。友人がその山を登っていくのを、主人公が望遠鏡で見ている眺めていると…という物語。実際の怪物の姿は定石通り描写されません。ただ、そこに至るまでのシチュエーションの作り方があまりに直截というか大胆なのに驚きます。それでも読ませてしまう、というのがウェイクフィールドの巨匠たるところなのでしょうか。
本邦では『羽根まくら』によって知られていた作家キローガ。30編ほどの短編が集められているので、正直、玉石混交の感はあります。ただ内容はどうあれ、彼の作品はそのどれもが、死のイメージに満ちています。 奇妙な復讐物語『舌』、吸血鬼物語のバリエーション『羽根まくら』、結末まで間然するところのない傑作『頸を切られた雌鶏』、人間に化けた虎の少年を描く民話風の物語『フアン・ダリエン』などが注目作。話す猿を扱った怪作『転生』などという作品も面白いですね。
ショーン・タン『鳥の王さま ショーン・タンのスケッチブック』(岸本佐知子訳 河出書房新社) このところ邦訳が続いている、ショーン・タンのスケッチ・ブックを書籍化したもの。ラフやスケッチなど、作品以前のイメージが並んでいます。やはり、架空の動物や建物などを描いた絵に魅力がありますね。
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