ジョージ・R・R・マーティンのノンシリーズの短編集としては、『サンドキングス』(ハヤカワ文庫SF)以来となる、『洋梨型の男』(河出書房新社)。今回は、ホラー寄りの作品が集められています。
ダイエットしようとした男が「猿」にとりつかれる『モンキー療法』や、落ちぶれた友人にまつわるサイコ・スリラー『思い出のメロディー』あたりは、上手いながらもマーティンにしては水準作かな、と思わせます。
諷刺に満ちたショート・ショート『終業時間』も楽しいのですが、残りの3編、『子供たちの肖像』『洋梨型の男』『成立しないバリエーション』は、どれも傑作といえる出来栄え。生理的な気色悪さを前面に出したシュールな奇譚『洋梨型の男』も捨てがたいのですが、『子供たちの肖像』と『成立しないバリエーション』が、群を抜いて素晴らしいです。
『子供たちの肖像』は、次のような物語。一人で暮らす初老の作家のもとに、ある日一枚の肖像画が送られてきます。それは彼の小説の主人公を描いた画でした。夜になると、その主人公が現実の姿をとって、作家の前に現れて…。 前例のある「登場人物が現実に現われる」というアイディアを扱っていますが、その扱い方が、尋常ではないほどの上手さ。親子問題、ひいては「作家」という存在の本来的な「罪深さ」までもを描いた力作です。
『成立しないバリエーション』は打って変わって、タイムトラベルを扱った、わりとSF寄りの作品となっています。かってチェス大会にともに出た仲間たちが、みな零落している中で、ただひとり富を成した男。彼の邸に呼ばれた友人たちは、とんでもない話を聞かされます。みなの人生を狂わせた、過去のチェス勝負に取り憑かれた男。彼の目的とはいったい何なのか…? 失われた人生を取り戻す方法はあるのだろうか? 運命は変えられるのだろうか? 悔恨と希望、過去と現在が交錯します。そして最後に待ち受けるのは、ほろ苦い真実。SF小説であり、チェス小説であり、青春小説でもあるという逸品。圧倒的な筆力で読ませる傑作小説です。
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