奇妙な世界の片隅で 2009年02月
FC2ブログ
あり得なかった人生  トニー・デュヴェール『小鳥の園芸師』
小鳥の園芸師
小鳥の園芸師 (1982年)
山田 稔
白水社 1982-12

by G-Tools

フランス短編フランス短篇傑作選 (岩波文庫)
山田 稔
岩波書店 1991-01

by G-Tools

 世の中には様々な職業がありますが、この作品で描かれるほど奇妙な職業は、おそらく世界のどこにもありません…。
 フランスの作家、トニー・デュヴェールの『小鳥の園芸師』(山田稔訳 白水社)は、空想上のさまざまな職業について語った連作掌編集です。
 目次には「尻拭い」「時計読み」「硝子割り」「小鳥の園芸師」「裁き屋」「身代わり」「思索屋」「役立たず」など、奇妙な職業名が並びます。そのどれもが、現実にはありえないような職業ばかり。
 例えば、「裁き屋」を見てみましょう。これはなんと、犯罪を犯したくなった人間を、あらかじめ牢屋に入獄させておき、その時間に見合った犯罪をあっせんするという職業です。

 彼は、これよりもあれを犯したらどうか、とか、もっと軽い罪を二つ一度に犯したら、とか助言を与えてくれる。ある重罪をさらに重く、あるいは軽くするにはどうすればよいかを明確に教えてくれる。それからあなたは、どんな犯罪が好きかを告げる。裁き屋はあなたの申告を記入し、店の陳列窓に公示し、あなたに向かって、成功を祈る、と言う。

 また「身代わり」は、自分の子供の代わりに、その子供の親に叱られる、という職業です。

 こんなわけで、男の子を殴るのは禁じられた(女の子は構わない、当然のことだ)。詳しくいうと、親は自分の男の子を懲らしめる権利を失ったのである。彼らは「当番の子」しか叱ってはならないのである。

 このように、へんてこな職業が並びますが、デュヴェールの描く作品に共通するのは、人間に対する皮肉です。どの掌編でも、描かれる人間たちは貪欲で利己的。その職業も、自らの欲望を満たすためのものなのです。
 空想上の職業と言えば、例えばわが国のクラフト・エヴィング商會『じつは、わたくしこういうものです』(平凡社)が思い浮かびますが、デュヴェールの作品は、それとは全く正反対。ファンタジーを楽しむというよりは、徹底的に、現世的・肉体的なイメージを帯びています。
 ただ、そんな「生臭い」職業たちの中でも、時折、非常に詩的なイメージが立ち現れることがあります。例えば、表題作にもなっている「小鳥の園芸師」から。

 小鳥の園芸師はたくみに罠をこしらえ、恋に狂ったようにさまざまな種類の木を集め、継ぎ木をしたり、種の混交をおこなったりした。そして、それらの木立ち、それらの果実、それらの芳香は、天の高みから無数の小鳥を招き寄せ、その色彩と歌声とで、あたりはまたいちだんと賑わうのだった。

 とても美しいイメージとなっています。もっとも後半、この掌編も前半の美しさをぶちこわしにする展開になってはしまうのですが。
 また、この掌編集の中でもいちばん魅力的だと思われる「夢の肖像画家」を見てみます。これは、本人そのものを描くのではなく、その人間が本来そうありたかった自分の姿を描く、という職業です。

 ある女、あるいは老嬢が、次のように言う。「あたしが欲しいのは小さな鼻と、やさしく生き生きとした大きな眼と、陽気な歯と、男を喜ばせたいとおもうときにはこんな風にめくれ上がる唇と、こんなおなかと、こんなももと、ものを言うような手なの」。すると絵描きは、そのあって欲しいと思う姿に似せて肖像画を描くのだった。

 他の掌編と同様に皮肉にあふれてはいるものの、この作品では、登場人物たちに対する、どこか優しい視線が感じられます。それがはっきりと現れているのが、最後の部分です。

 自分が生まれつき容貌に恵まれていると考えれば考えるほど、また、現物に似せて描くよう要求すればするほど、絵の方は平凡で、うぬぼれが目立ち、やたらにちまちましたものになるのだった。それに反し、ひどく醜い連中は自分の家に、涙が出るほど美しい肖像画を持っていた。彼らには、わかっていたのである。

 上に見てきたように、基本的にはブラック・ユーモアにあふれたシニカルな作品集といえます。ただ、そんな中にも感じられる一抹の詩情。この相反する要素がまた、この作品集の魅力とも言えそうです。
 なお、この作品集の抄録が『さまざまな生業(抄)』 として、山田稔編『フランス短篇傑作選』(岩波文庫)に収録されていますので、こちらでそのエッセンスを味わうのもいいかもしれません。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

3月の気になる新刊と2月の新刊補遺
2月25日刊 フィリップ・K・ディック『髑髏』(論創社 予価2100円)
3月9日刊 小川洋子編『小川洋子の偏愛短篇箱』(河出書房新社 予価1995円)
3月10日刊 ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』(ハヤカワ・ミステリ 予価1365円)
3月12日刊 E・T・A・ホフマン『黄金の壺/マドモアゼル・ド・スキュデリ』(光文社古典新訳文庫)
3月12日刊 ジャック・ロンドン『白い牙』(光文社古典新訳文庫)
3月中旬刊 パーシヴァル・ワイルド『検死審問ふたたび』(創元推理文庫 予価1029円)
3月中旬予定 小山内薫『お岩 小山内薫怪談集』(メディアファクトリー)
3月25日刊 マリー・フィリップス『お行儀の悪い神々』(早川書房 予価1785円)
3月下旬刊 柴田元幸編『昨日のように遠い日』(文藝春秋 予価2400円)
3月下旬刊 ロバート・E・ハワード『真紅の城砦』〈新訂版コナン全集5〉 (創元推理文庫 予価840円)

 ディック『髑髏』で、 とうとう論創社の〈ダーク・ファンタジー・コレクション〉も完結。この最終巻は、本邦初訳の作品が収録されるんでしょうか。初回配本のディック短編集はただの再刊(しかも抄録!)だったので、期待したいところです。
 『小川洋子の偏愛短篇箱』は、小川洋子を編者としたアンソロジー。基本的に日本作家中心のようですが、ちょっと気になりますね。
 来月の新刊でいちばんの要注目作はこれ、ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』ですね。探偵リンリー氏が登場する作品を含む傑作集だとのこと。どうやら、ダンセイニのミステリ方面の作品を集めたもののようです。創元社でも、随分前から近刊予定に入っていましたが、早川に先を越された形です。
 《光文社古典新訳文庫》の新刊は、ホフマンとロンドン。とくにホフマンの方は、鴎外の訳でも有名な『マドモアゼル・ド・スキュデリ』を持ってきたところが渋いですね。そういえば、岩波文庫版の吉田六郎訳『スキュデリー嬢』も復刊されたようです。
 あらすじで気になるのは、マリー・フィリップス『お行儀の悪い神々』です。「ロンドンに住むオリンポスの神々は神通力が弱まり、ドッグシッターなどの仕事で何とか生計を立てていた。ある時、粗暴な太陽神アポロンが人間に恋をするが……。」というファンタジー小説。似たようなテーマでは、ジャン・レイの『マルペルチュイ』なんかが思い浮かびますが、こちらはわりと明るめの作品のようですね。
 〈新訂版コナン全集〉は、しばらく間が空いていましたが、5巻が登場。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

手堅い恐怖小説集  オスカー・クック『魔の配剤』
魔の配剤
魔の配剤―イギリス恐怖小説傑作選 (ソノラマ文庫―海外シリーズ)
熱田 遼子 松宮三知子
朝日ソノラマ 1985-03

by G-Tools

 ソノラマ文庫海外シリーズの一冊、『魔の配剤』(オスカー・クック 熱田遼子・松宮三知子訳)は、作者名がオスカー・クックになっているので勘違いしやすいのですが、アンソロジーであり、クックは収録作家のひとりに過ぎません。編者は、この手のアンソロジーでおなじみのイギリスのアンソロジスト、ハーバート・ヴァン・サールです。飛び抜けた傑作はないものの、ヴァラエティに富んだ作品を集めており、安心して楽しめるアンソロジーに仕上がっています。
 以下、いくつか作品を紹介していきましょう。

 オスカー・クック『魔の配剤』 エキゾチックな女理髪師に入れあげたバイオリニストは、彼女から手のマッサージを受けます。やがて彼の手は腐り始めますが、彼女に執着する男は、彼女のもとへ通い続けます…。
 美貌の女理髪師の目的とは…。情熱と妄執の復讐奇談。

 C・S・フォレスター『戦慄の生理学』 ナチスの強制収容所へ配属されたシュミット医師は、自らの仕事と倫理観の軋轢に苦しんでいました。しかし仕事を拒否すれば、即死が待っている。そんな彼の喜びは、生理学者として名声を増しつつある甥のハインツ青年でした。久しぶりに会ったハインツは、嬉々として自分の研究をシュミットに見せます。しかしその研究とは、人間を実験台にした「恐怖」の測定実験だったのです…。
 「戦慄」の実験によって明らかになった真実とは…。狂っているのは青年なのか、それとも時代なのか? 人間心理をするどく抉るサイコ・ホラー作品です。

 フィールデン・ヒューズ『錯誤』 ごく平凡な教区牧師の悩みは、ことあるごとに彼に敵対する男、ビルパートの存在でした。ビルパートの危篤の報を聞いた牧師は、喜びを隠せません。しかし葬儀中、棺の中から音が聞こえるのに気づいた牧師は戦慄します。まさかこの男はまだ生きているのではないか? 疑念に囚われながらも、牧師はそのまま葬儀を続けてしまいます…。
 自分は男を見殺しにしたのか? それとも単なる「錯誤」なのか? 牧師が知った恐るべき真実とは…。
 いわゆる「早過ぎた埋葬」をテーマにした作品です。

 ハミルトン・マカリスター『神の使徒』 列車の車両内で出会った女は、話しかけてもまともな返答をしません。神についてのことしか話さないのです。男は、女を無視することに決めますが、彼女は突如男のそばに近付いてきます…。
 女はいったい何者なのか? 彼女の目的も行動の理由も、まったく明かされません。もやもやした気分の残る、不条理な恐怖小説。

 ヘスター・ホーランド『開かずの間』 恋人と別れ、人生の目的をなくしたマーガレットは、田舎の資産家の夫人に仕えることになります。一族最後の生き残りである女主人は、邸を守るためにだけ生きていると言います。充実した図書室の話を聞いたマーガレットは部屋に入りたいと望みますが、女主人はなかなか許そうとしません。主人の留守中に、望みの部屋に入ったマーガレットでしたが…。
 主人の明かさない図書室の秘密とは…? 「幽霊屋敷」の変種的な作品です。

 ジョージ・フィールディング・エリオット『銅の器』 中国人の大尉に捕らえられた、フランス人のフォルネ中尉は、自らの軍の情報を明かすように迫られます。持ち前の正義感から、それを拒否するフォルネに対し、相手は彼の恋人リリーを拷問にかけると脅します。やがて「銅の器」を使った拷問が始まりますが…。
 残酷な「銅の器」の拷問を扱った恐怖小説。ストーリー的にはステレオタイプで、基本的にただそれだけの作品です。

 フレイヴィア・リチャードスン『黄色いドアの向こうで』 体の不自由な娘の話し相手として雇われたマーシャは、娘の体を見て驚きます。もう大人といっていい年齢ながら、下半身の委縮によりまともに歩けない状態だったのです。有能な外科医として知られる、母親のメリル夫人は、マーシャに対し奇妙な打ち明け話を続けますが…。
 盲目的な愛情に囚われた母親がとった究極の手段とは…。江戸川乱歩にも通じるところのある、猟奇的なスリラー作品。

 ミュリエル・スパーク『ポートベロ通り』 友人ジョージの重婚の事実を知るニードルは、その事実を新妻に告げようとします。それを知ったジョージはニードルを殺してしまいます。しかし昼日中、ポートベロ通りでジョージは死んだはずのニードルの姿を目撃します…。
 愛情のもつれから起こる殺人事件と、その後出現する幽霊。題材的にはオーソドックスなゴースト・ストーリーながら、非常にユニークな作品に仕上がっています。結末寸前まで、ゴースト・ストーリーであることがわからないという、手の込んだ技巧が使われています。また、結末までの登場人物たちの人生の物語も、それぞれ興味深いストーリーになっていて飽きさせません。
 題材にもかかわらず、飄々としたユーモアと軽みにあふれた異色の幽霊物語です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

『SFが読みたい!2009年度版』と今年度の新刊
SFが読みたい
SFが読みたい! 2009年版―発表!ベストSF2008国内篇・海外篇 (2009)
SFマガジン編集部
早川書房 2009-02

by G-Tools

 早川書房から毎年刊行されている、SFマガジン編集部編『SFが読みたい!2009年度版』を読みました。このシリーズのウリである「ベスト作品」の方は、はっきり言ってどうでもよくて、いちばん気になるのは、今年度の出版社別新刊予定のコーナーです。
 まず早川書房では、飛浩隆の《廃園の天使》シリーズの三作目『空の園丁』が要注目ですね。
 あと同じJコレクションから刊行予定のもので見ると、上田早夕里『華竜の宮』、新城カズマ『.49ers Point-Forty-Niners』、長谷敏司『君のための物語』あたりが、気になるタイトルです。
 河出書房は、おなじみ《奇想コレクション》からジョージ・R・R・マーティン『洋梨型の男』、フリッツ・ライバー『跳躍者の時空』、そして河出文庫からは、マイクル・コーニイの『ハローサマー、グッドバイ』の続編刊行が決定したようです。
 国書刊行会の《未来の文学》からは、ジャック・ヴァンスの傑作集『奇跡なす者たち』、ジョン・クロウリーの短編集『古代の遺物』が登場です。
 東京創元社は、文庫創刊50周年だそうで、復刊企画の方が気になりますね。新刊としては、記念として、ネヴィル・シュートの『渚にて』の新訳版を刊行するそうです。悪くない作品だと思いますが、もうちょっとレアなタイトルにできなかったんでしょうか。

 この『SFが読みたい!』シリーズ、ベスト企画はともかく、ブックガイドとしても面白いので、毎年購入しています。毎年度ついているものとしては、巻末のSF関連のDVD&ビデオガイドが重宝しますね。それぞれのコメントは短いものですが、つまらないものは、はっきりとつまらないと書いてくれているので助かります。ホラーやファンタジー関連の映画にも眼を配っているのも好感触です。
 今年度の企画としては、牧眞司による『世界文学注目作30』と過去9年分のベストをまとめた『ベストSF回顧』が掲載されています。『世界文学注目作30』の方は、SFの周辺領域にある文学を集めたブックガイドです。『ベストSF回顧』の方は、個人的にベストにあんまり関心がないとはいえ、さすがにまとめて見ると興味深いですね。
 定価の方も700円とお手ごろなので、購入しても損のないガイドだと思います。少なくとも本誌の『SFマガジン』よりも実用性は高いですし。
3周年と、なかなか読めない長編の話
 本日2月7日で、このブログも開設3周年になりました。ひとまず御礼申し上げます。
 もうそんなになるのか、と自分でも驚きです。ようやく一区切りという感じですね。この先、5年、10年続けよう、なんて大げさなことは言いませんが、力の続く限り続けていきたいと思っています。みなさま、これからもよろしくお願いいたします。

 さて、今年の課題として「本の整理」を挙げていました。正月からこっち、本棚や押し入れの奥をごそごそやっております。積読本が多いのは相変わらずなのですが、困ったのが長編作品です。これは読んでいる暇がないなあ、という本が意外とたくさんあったことにびっくりしました。
 好みの問題で、基本的に短編集・アンソロジー優先の読書になってしまうんですよね。短編集は、話に入り込んですぐ終わってしまうので、長編よりも読むのに時間がかかる、とよく言われますが、個人的には長編よりも短編集の方がずっと速く読めます。これって変わってるんでしょうか?
 というわけで、今回は、読みたいと思って買ったものの、なかなか手をつけられずにいる長編作品リスト、ということでお届けしたいと思います。

J・R・R・トールキン《指輪物語》3部作(評論社)
 いわずと知れた大作ファンタジー。以前から読もうと思って購入してはあったのですが、なかなか手をつける暇がありませんでした。そのうち、映画化でベストセラーになってしまい、ますます読むタイミングを失ってしまった、という感じです。
 ファンタジーの里程標的な作品ですし、必ず読むとは思います。ちなみに蔵書は、豪華愛蔵版。装釘も挿絵もとても美しい本です。ただこの本、かなり重いので、寝転がって読めるような本ではありません。それがまだ読めない原因のひとつかも(笑)。

マーヴィン・ピーク《ゴーメンガースト》3部作(創元推理文庫)
 これも英国ファンタジーの一大金字塔作品といっていいでしょう。ファンタジーの概説書やガイドなどで、あらすじだけは知っているのですが、まだ原作にはとりかかっていません。ピークの短編集『死の舞踏』(創元推理文庫)を読む限りでは、肌に合いそうな作品ではあります。

M・G・ルイス『マンク』上下(国書刊行会)
 ゴシック・ロマンスの代表作というべき作品です。あのサドにも影響を与えたといわれています。これもあらすじだけは頭に入ってるんですよね。かなりダークで重い作品のようなので、なかなか手を付けられません。

梶尾真治《エマノン》シリーズ4巻(徳間デュアル文庫)
 地球に生命が発生してから現在までのことを総て記憶しているという少女「エマノン」を主人公にしたSFシリーズ。もともと連作短編だったシリーズですが、近年書き下ろしの長編作品として続編が出ていて、大河小説の趣に。
 2冊目の途中までは読んでいます。これ最初の頃は素晴らしいんですが、2冊目からかなりダレてくるような気はします。もっともその後の作品を読んでいないので、なんとも言えないのですが。

ミカ・ワルタリ『エジプト人』3巻(角川文庫)
 フィンランドの作家ワルタリによる、古代エジプトを舞台にした歴史ロマン作品です。小学館から『ミイラ医師シヌへ 』(地球人ライブラリー)というタイトルで抄訳版も出ています。

マーク・トウェイン『地中海遊覧記』上下(彩流社)
 トウェインによる地中海旅行記です。この人の作品は、小説・エッセイ問わずみな面白いです。退屈になりがちな紀行文でさえ、トウェインにかかると、ユーモア小説みたいになってしまいますから。ちなみに、同じような系統の『ヨーロッパ放浪記』は面白かったです。

チャールズ・ディケンズ『リトル・ドリット』(集英社)
 エンタテインメント系の作品を優先的に読んでるので、ディケンズの作品は後回しになりがちです。

フォルチュネ・デュ・ボアゴベ『鉄仮面』3巻(講談社→講談社文芸文庫)
 19世紀フランスの連載もの長編、いわゆる「フィユトン」の代表作として挙げられる歴史ロマン小説です。有名な「鉄仮面」の伝説を扱った作品ですね。数年前まで入手困難で、ようやく手に入れたものの、それで安心して積読になっていました(笑)。まさか文庫化されるとは。
 とっかかりの数章だけ読んでるんですが、序盤に関する限り、これかなり面白いです。

ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ『墓地に建つ館』(河出書房)
 怪奇小説の巨匠レ・ファニュによる三大傑作のひとつです。ちなみに他の二つは『アンクル・サイラス』(創土社)と『ワイルダーの手』(国書刊行会)で、既読。短編では近代的な構成やテーマを持つレ・ファニュですが、長編では趣が違って、大時代的。ゴシック・ロマンスに近い作風になっています。超自然がかったスリラー作品、という印象でしょうか。
 文学史ではあまりふれられませんが、『アンクル・サイラス』が、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』に、短編『タイローン州のある名家の物語』(小池滋訳『レ・ファニュ傑作集』国書刊行会 収録)が、シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』に影響を与えている、というのも有名な話ですね。実際読んでみると、確かに影響関係があるように思えます。

ジュール・ヴェルヌ『ミステリアス・アイランド』(集英社文庫)
 ヴェルヌの冒険小説です。いちおう『海底二万里』の続編ということになっています。ヴェルヌの作品には、当時の科学知識や蘊蓄がやたらと出てきて、そのあたり今だと冗長な部分があります。現代でいうところの「情報小説」的な側面が強いんですね。
 その点「蘊蓄」の少ない純粋な冒険小説的な作品の方が、個人的には面白いと思っています。そうした面で言うと『皇帝の密使』とか『チャンセラー号の筏』『アドリア海の復讐』あたりがオススメです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

ロボットの冒険  風見潤・安田均編『ロボット貯金箱』
ロボット貯金箱
ロボット貯金箱―海外ロボットSF傑作選 (1982年) (集英社文庫―コバルトシリーズ)
集英社 1982-06

by G-Tools

 かって、集英社文庫コバルトシリーズから出ていた、一連のオリジナルSFアンソロジー。その一冊『ロボット貯金箱』(風見潤・安田均編 集英社文庫コバルトシリーズ)は、題名どおり、ロボットに関わるSF短編を集めた作品集です。

ヘンリー・カットナー『ロボット貯金箱』
 ダイヤモンド製造機を持つ大富豪バラードは、次々とダイヤを生み出しますが、それらのダイヤはあっという間に盗まれてしまいます。業を煮やしたバラードは、技術者ガンサーに、誰にも捕まらないロボットの製作を命じます。ロボットの内部にダイヤを入れ、金庫代わりにしようというのです。無事完成したロボットは期待通りの性能を発揮しますが、ガンサーが暗殺されてしまったことから、制御が利かなくなってしまいます…。
 金庫代わりのロボットが暴走する、というテーマの物語です。設定はコメディ風なのですが、話自体がやけにシリアスに描かれているので、いまいち盛り上がらないところはちょっと残念。

ケイト・ウィルヘルム『アンドーヴァーの犯罪』
 女嫌いの独身主義者ロジャー・アンドーヴァーは、妻帯しないことでビジネスチャンスを逃しているのではないかと考えます。しかし、自分の生活を邪魔するような女には興味がない。彼は『アンドロイド株式会社』に、ひそかに女性型ロボットを作らせます。リディアと名付けられたロボットは、ロジャーの妻として友人たちに紹介されますが、彼女をロボットだと見破る人間はいません。完璧な妻を演じるリディアに、ロジャーは満足しますが…。
 女嫌いの男のもとにやって来た女性アンドロイド。センチメンタルな話になるのかと思いきや、彼女に執着するようになった男のサイコ・スリラー的な展開に。毛色の変わった作品です。
 
テリー・カー『ロボットはここに』
 いつの間にか手にしていた紙切れに書かれた電話番号。いつどこでこんな番号を書いたのだろうか? 疑問に思った「わたし」は、ひょんなことからある建物を訪れます。そこで「わたし」を出迎えたのは、一体のロボット。彼は、歴史を修正し、改善するために未来からやってきたというのです。しかも「わたし」は、歴史に影響を及ぼす存在であり、しばらくの間、拘束をする必要があるのだと…。
 世界は未来のロボットによって改変されていた、という一種のディストピアSFです。現在の一つの世界だけでなく、枝分かれするパラレルワールドまでをも改変するという発想が、なかなかユニーク。

キース・ローマー『《BOLO》』
 かっての戦争で使われ、地中に埋もれていた戦争用の兵器《BOLO》。人工知能を持つそれは、ふとしたきっかけで目覚め、敵を排除するために前進を始めます。制御の利かない機械に対して、協力を申し出たのは、かっての老兵でしたが…。
 戦争用に作られた兵器に対して呼びかける老兵の叫び。彼の思いは通じるのか…。オーソドックスながら「いい話」に仕上がっています。 

クリフォード・D・シマック『地球のすべての罠』
 600年もの間、バーリントン家の家族として暮らしてきた家庭用ロボット、リチャード・ダニエル。一族の最後の生き残りが死んだ後、彼もまた遺産のひとつとして処分されようとしていました。やがて自分の記憶が消去されてしまうことを知ったリチャードは、自らの記憶を守るために、地球から逃げ出す決心をします。宇宙船に密航した彼は、ハイパースペースの影響により、特殊な能力を身につけたことを知りますが…。
 記憶を失うことは、自らを失うことだ。自らのアイデンティティーを守るため、放浪の旅に出たロボットは、やがて自分の存在意義を見つけることになります。少々感傷的ながらも、希望に満ちた結末には心うたれるものがあります。集中一の力作といえるでしょう。

 全体にかなりオーソドックスなSF作品が集められており、安心して読めるアンソロジーになっています。この本だけでしか読めない短篇が多く収録されており、ラインナップ的にも貴重ですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
ブックガイド系同人誌もいろいろ作成しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する