2009年・イギリス
英国の辛口ジャーナリスト―リン・バーバーの回想録を元に映画化。
英国でもっとも面白く、且つもっとも恐れられるインタビュアーであるデーモン(悪魔)・バーバーことリン・バーバーの回想禄を元に、ニック・ホーンビーが脚本化したもの。なのでバーバーの書いたものとはアレコレ違うそうです。映画的に修正を施したってことで。
舞台は1961年~62年イギリス、ロンドン郊外。時代はまだシックスティーズの波が押し寄せる前で、保守的な雰囲気に満ちています。英国の高校生ジェニー(キャリー・マリガン)は成績優秀、名門オックスフォード大学進学を目指すフランスかぶれの女の子。ある日出会った大人の男性に惹かれ恋をするけれど…。
原題は“教育、知識、ためになる経験”の意味。学校で受ける教育と、人生で実地に受けるレッスンと、どちらも大切。ジェニーは早く人生に飛び出して教養人としての経験を積みたがり勉学を疎かにし始める。身の丈に合った生活の心地良さに気づくテーマはとても英国的だと思います。
17歳の肖像 [Blu-ray] ドミニク・クーパー キャリー・マリガン |
"Nobody does anything worth doing WITH a degree. No woman anyway."さ(学位があったって価値のあることなんか出来やしないわ!ともかく女性はね。)
退屈な勉強をして大学で学位をとって、それが何になるって言うの?この時代の女性は教師になるか、公務員になるぐらいしかなかった。ジェニーには、退屈を越えた先にまた別の退屈が待っているとしか思えなかった。平凡な専業主婦だって退屈だ。そんな人生はまっぴらだ、と。若い頃はそういうときもあるよね。
どんな映画?
有り体に申せば、バカな小娘の話だ。でも若さってバカさだし、こういう過ちは青春の特権!甘酸っぱいじゃ済まない、ひどく苦い思い出だけど。女子高生ジェニーは本当に鼻持ちならないインテリ気取りのフランスかぶれなリトル・スノッブ。だから共感はできなかった。背伸びしたい気持ち、刺激的な大人の世界に身を置きたい気持ちも私には理解できないものだった。
とはいえ、役者と時代設定と英国の魅力のお陰で素敵な映画に仕上がっているよ。でもって、前知識なしに観た方が絶対楽しめます!だからあまりストーリーには触れないでおく。語り方が巧い!
ジェニー達がクラスで学んでいるのは英文学『ジェイン・エア』(シャーロット・ブロンテ著)。ロチェスター氏の失明とかって言及でわかります。私の愛読書!クラシック文学だからといって敬遠召されるな。要はゴシック・メロドラマなんだから。何度も映画化されているけれど、またもや再映画化で撮影中ですよ。主演は『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカちゃん。わぁ!イメージぴったりですよ!可愛げも美しさも必要ない、凛とした知的な佇まいだけあれば良い。
閑話休題。ジェニーはカミュかぶれでもあります。“殺したのは太陽が眩しかったせい”という適当さが素敵な小説『異邦人 』でお馴染みのアルベール・カミュです。カミュは(本人の意志はどうあれ)実存主義として知られ、実存主義は「神がいようといまいと今ここにいる私は何も変わらない。だから神の存在を問うこと自体無意味だ。」なんていう感じの哲学です(←大雑把w)。ジェーンはそんなカミュかぶれなので、一回り以上年上の彼との「現状」を受け容れ、無意味な質問は一切しません。ここら辺も彼女の教養人ぶりたい心が見える要素です。
とまあ、こんな感じでスノッブ要素満載なのが楽しいっちゃ楽しい。ヨーロッパの文学・美術・音楽が趣味良く盛り合わされてるんですね。絵画ではエドワード・バーン=ジョーンズの『赦免の木』などが映るのも嬉しい。この絵によく似た『フィリスとデモフォン』は男性の裸体を描いた良俗に外れた絵だからと展示からはずされたので、バーン=ジョーンズは水彩画協会を脱会したという曰く付きの作品。比べてみると、『赦免の木』では女性が裸体で男性の陰部が隠れているのに対し、『フィリスとデモフォン』では男性が裸体で女性の体は木の皮に包まれています。どうでも良いけど面白い豆知識でした。
さて、また映画に戻って。ジェニーの周りの大人達がそれぞれ個性的で良かった。ジェニーの大人のお友達ダニー(ドミニク・クーパー)とヘレン(ロザムンド・パイク)のカップルは魅力的で、ジェニーとのそれぞれの関係が一筋縄じゃいかない感じも面白かった。ジェニーの父親がまた泣かせる!紅茶とクッキーを持ったお父さんのシーンは涙なくしては見られない。それに、ジェニーを見込んでいた女教師もあまりに素敵過ぎた。
私は子供の頃から大人にならなきゃいけなかったので、子供でいられるうちは素直に子供でいる心地よさを知っていた。だからジェニーの背伸びっぷりにまるで共感できず。加えて、勉強ソノモノが大好きだったので「勉強は退屈だ」と言い切るジェニーを理解できなかったりもした。役に立つから勉強するんじゃなくて、知識欲を満たすために学んでいたからな、私。ジェニーと私じゃ生きてる時代が違うから、私の場合は自由を享受しているが故だよな。ジェニーに選択肢は少なかった。
結局、自分で賄えないような生活はしないこと、という点をジェーンは理解できていなかったんだと思う。身の丈に合った生活こそ、必要充分で落ち着くスタイル。彼女が得た教訓はソレだ。そして彼女の経験はジェイン・エアのそれと奇妙に重なってもいた。
俳優は誰?
ジェーンにキャリー・マリガン。高校生スタイルのときはあどけない子供の顔、メイクアップ&ドレスアップするとグっと女っぽくなる。本当の彼女は当時22歳ぐらい。女は化けるなぁを体現する彼女、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のハリウッド・リメイク版(フィンチャー監督)で主役の無愛想な凄腕ハッカー役を演じるかもしれない。実現したら、今度はどれだけ変わるのかが楽しみです。
ちらりと2シーンだけ登場するのは校長先生役のエマ・トンプソン。貫禄ある!決して内心を見せない堅い人物を存在感たっぷりに演じていました。
友人カップルのヘレンはロザムンド・パイクで、最近だと『サロゲート』の妻役。今回は本当に良かった!イキイキしてた!美しくて頭はカラッポで、ちょっとおどけた表情も見せてくれる。ダニー役のドミニク・クーパーもどこかつかみ所がない危うさと、優しくて洗練された雰囲気が素敵でした。
お父さんはアルフレッド・モリーナ。複雑な親心を時にコミカルに時に切なく表現!『フリーダ』の画家ディエゴ・リベラ役が一番好きです。
年上のおっさん彼氏デヴィッド役にピーター・サースガード。『ニュースの天才』の編集長チャックですよ!あれは素晴らしかった!目の表情が豊かで、背中で演じたりもしてた。さて、本作では。デヴィッドの“ミニー”、“見せて”、“バナナ”、“踊るジェニーを見つめていてもたってもいられない様子”あたりにキモさを感じた!素敵な男でありつつキモくもあるデヴィッドをよく演じたな!さすが、サースガード!
関連作品のようなもの
原作となったバーバーの回想禄。英語200㌻。 An Education Lynn Barber |
ニック・ホーンビーが書いた脚本の方。英語208㌻。 An Education Nick Hornby |
何度か引用される古典小説。何度読んでも泣く! ジェーン・エア (上) (新潮文庫) C・ブロンテ |
大学教授であるルイスと親交があると言うデヴィッド。 ライオンと魔女―ナルニア国ものがたり〈1〉 (岩波少年文庫) C.S.ルイス |
ジェーンの好きなグレコは18歳で歌手デビューした。 詩人の魂~ベスト・オブ・ジュリエット・グレコ ジュリエット・グレコ |
毛玉内関連記事: