2009年・アメリカ
ジョディ・ピコーの小説をニック・カサベテスが映画化。
監督は『ジョンQ-最後の決断-』、『きみに読む物語』などのニック・カサベテス。本作は白血病の子供がいる家庭でのドラマ。 カサベテス自身が心臓病の娘を育てた経験から、こうした患者本人だけでなく家族全体の思いを描く作品には並々ならぬものがあったろう。『ジョンQ~』も心臓病の息子のためにものすごい行動を起こす父親の話でしたが、あれが男のドラマならこちらは女のドラマ。
原題は“姉の保安者”って感じか。姉ケイト(ソフィア・ヴァジリーヴァ)を生かすための存在である妹アナ(アビゲイル・ブレスリン)のことだ。と同時に、何もかも犠牲にして白血病の姉を最優先する母親(キャメロン・ディアス)こそが姉の番人なのかもしれない。で、邦題だけど、原作小説の邦題のままにしちゃったからピンとこないことになった!原作と映画のラストは全く違うので、原作にはピッタリでも映画には合ってないよ。
本作で取りあげられたドナー・ベビーは現に作られている、らしい。この原作小説はフィクションだけども、ロサンジェルス在住アヤラ夫妻のケースに着想を得ているとの噂。ドナー・ベビーの実際について詳しくはこちらに日本語資料がありましたのでどうぞ。
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"I bet you'll lose your cookies within three minutes."
(3分以内にそのクッキー吐いちゃうぜ)
化学療法の副作用を身をもって知っている少年テイラー(トーマス・デッカー)が治療中のケイトをからかう。同じ病気だから理解し合い、支え合える素敵な関係。ケイトはAPL(急性前骨髄性白血病)、テイラーはACLって言ってた?覚えてないんだぜ。たぶんALL(急性リンパ性白血病)かな?
どんな映画?
白血病の少女が病と闘うストーリーではなく、その家族がどう闘い葛藤しどんな思いを抱えているのかが丁寧に描かれているよ。前半はドナー・ベビーが両親を法的に訴えるというショッキングさと、さくさくテンポ良く流れるストーリーに釘付け。とにかく淡々と話が転がるので小気味よい。重いテーマなのに湿っぽさがほとんどないの。
後半はより心情に迫り、情感たっぷりなシーンが挟まれる。とりわけケイトとテイラーの小さな恋の物語は丁寧に描かれ、ケイトの心の内を想像させるようになっている。あとは映画を観てくれろ!思ったよりも淡々と語られ、ラストは傷を抱えながらも家族が家族として時間を過ごす大切さが希望を込めて語られる。きわめてリアルな感情が伝わってきて、良い映画だったと心から思った。
ちょっと残念だったのは兄のジェシーの心情が薄くしか描かれていなかったこと。でもやっぱりケイトに対する愛情と煩わしさのアンビバレンツが、表情とちょっとした行動で表現されてはいたんだ。ジェシーの寂しさ、アナの痛々しさ、母親の執念、父親の葛藤…いろいろあるけれどソコに愛はある。愛が脈々と流れているからこその、家族の苦しみであり再生なんだ。
あと、公開を控えたピーター・ジャクソン監督の『ラブリー・ボーン』を思い出した。『ラブリー・ボーン』の原作小説を読んだ感じと、この映画を観た感じが似てたから。『ラブリー・ボーン』の、妹が家族や周囲から死んだ姉の面影を重ねられて生きていく姿とか、何かのきっかけで家族が崩壊するものの時間をかけて再生していく様子とか。あちらの映画も楽しみです。
俳優は誰?
主役である家族のみんなが素晴らしいのですが、私は脇役3人についてだけ書きますよ。
ケイトのボーイフレンド、同じく白血病の少年テイラーにトーマス・デッカー。デッカ―といえば、TVドラマ『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』のジョン・コナー役です。なんとなくモッサリしててぬぼぅ~とした感じなのよね。それがこの映画では良いふうに働いた!しかも坊主頭&眉ソリが超似合っていてカッコイイ!なんだ、カッコ良かったんだ!という新鮮な驚きがありました。でもまつげは長かった。
デ・サルヴォ判事にジョン・キューザックの姉さんジョーン・キューザック。判事が娘の死を思って思わず涙が滲むシーンでは私もつられて泣いちゃったよ。キューザック姉はコメディが多いけど、威厳のある役も素敵だ。『隣人は静かに笑う』の謎めいた奥さん、『スクール・オブ・ロック』の校長先生なんかが好きです。
最後に辣腕弁護士アレック・ボールドウィン。昔の甘い二枚目な面影も残りつつ、メタボ。持病があるので介助犬(ジャッジ)といつも一緒な弁護士なんだけれど、出番は少ないながら存在感があって良かった!何でもケイト中心で“ケイトが何歳のときの出来事”としか表現しない母親に向かって、法廷で「アナが○歳の時」と言い張った姿に素敵さを覚えた。
HLAタイピングあれこれ
私、昔、HLAタイピングのアシスタントやってたことがありまして。毎日全国から検体が送られてきてました。なのでHLAタイピングについてちょっと書いておきます。
普段私達が使っている血液型(ABO型)は赤血球の血液型のこと。対してHLA(Human Leukocyte Antigen)というのは簡単に言うと白血球の血液型のことで、かなり複雑で多種多様(厳密には白血球だけの型ではないが略)。
臓器・骨髄・皮膚移植の際は6つのHLA抗原(A、B、DR各2つで計6つ)が同じ型でないと激しい拒絶反応が起きてしまいます(臍帯血移植の場合は4つがマッチしていれば可能とされたり、HLA-C抗原やHLA-DQ抗原の一致も関係してきたりその辺りは複雑)。つまり移植されてきた臓器などを異物と認識して攻撃しちゃうんだよな。
HLA-A抗原で27種類以上、Bが59種類以上、DRで20種類以上もの型が確認されていて、そこから2つずつなんだから、その組み合わせはまさに天文学的数になるさ!でもこれ遺伝子だから両親から半分ずつ同じ型を受け取っているので、兄弟姉妹なら4人に一人の確率でマッチするよ。他人なら…数千~数万人に一人とか言われてます。
とはいえ、現在では免疫抑制剤というすごい薬のパワーで、HLA型が適合していなくても移植手術が成功しているそうです。皮膚や角膜の移植手術の場合、HLAタイピングを省略するのがもはや普通、とのこと。ヽ(´ー`)ノ医学の進歩すげー。そのかし副作用もすげーらしいけど。
そんなわけで、映画に描かれるドナー・ベビーの問題は今や少し古いものかもしれません。けれどずっと長い間このHLA型の適合は移植の常識でしたし、白血病に関してはまだまだHLA適合を重視せねばならんデリケートなものがあるでしょう。それでも最近では白血病治療にも新薬の導入で、HLAがピッタリマッチしなくても骨髄移植が行えるようになったそうです。アレムツズマブ!
HLAタイピングは、この映画で取りあげられた臓器・骨髄移植の適合検査の他、血小板輸血の適合検査や不妊原因の検査、親子確認等にも使われています。検査には血液が必要なだけ!簡単な手順を説明すると、血液を遠心分離して白血球を取り出して試薬と反応させ、顕微鏡で反応パターンを確認して型を特定しますよ。
関連作品のようなもの
2004年出版の原作小説。映画版のラストとはまったく違う物語。 わたしのなかのあなた (Hayakawa Novels) ジョディ ピコー |
同監督のこちらも病気の子供のために必死の行動を起こす親の物語。 ジョンQ-最後の決断- [DVD] デンゼル・ワシントン; ロバート・デュヴァル |
未来はあなたの中に 瀬戸内 寂聴 ;Robert Mintzer |
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