中国の造船能力は米国の232倍に達した———ジェム・ギュルデニズ提督(抄訳)
2024/12/23のジェム・ギュルデニズ退役提督の記事の抄訳。少しだけ補足した。元トルコの海軍大将の地政学アナリストが、若し米国が本気で台湾や南シナ海で代理戦争を起こすつもりなら、軍事的に非常に困ったことになるであろうことを説明する。
現在の戦争はハイブリッド戦争で、物理的な交戦はそのほんの一部に過ぎないが、「脱産業化社会」として産業よりも金融を、長期的・全体的な戦略よりも一部の目先の利益を優先して来た米国は、物理的な戦力としてはガタガタの状態に在る。予算ばかり浪費する張子の虎と化した米軍とは対照的に、中国は世界最大の海軍力として着実に台頭しつつある。
CIAが作った日本の与党は台湾危機に於ける鉄砲玉として自ら進んで名乗りを上げているが、日本人はこの売国政党に自分達の血税を使って好き放題させておいて果たして自分達に一体何のメリットが有るのか、真剣に考えた方が良いだろう。
China’s Shipbuilding Capacity Reached 232 Times That of the US. Admiral Cem Gürdeniz
世界の覇権を巡る最終決戦が行われる環境は、これまで同様、海洋となるだろう。
米国に対する最も深刻な台頭勢力は中国なので、戦場となる地域は西太平洋であると簡単に言うことが出来る。
今日最も話題になっているシナリオは、2027年または2028年の中国の台湾介入、または南シナ海の九段線を巡る危機がエスカレートし、最初は間接的に、その後は直接的に、米中間の戦争を引き起こすことだ。
台湾と南シナ海の両方のシナリオに於て、主な前線は海洋、海、島々となる。
従って、両海軍の機動力と潜在的な能力領域が戦争の帰結を決定する。
最初から、米国はウクライナ・モデルを採用し、間接的なISR((Intelligence, Surveillance and Reconnaissance/諜報・監視・偵察)と火力支援、ハイブリッド戦争技術で、台湾やフィリピン等の中国のライヴァルを支援することが出来るが、海洋環境ではこれは容易ではない。
太平洋で代理戦争を仕掛けることの難しさ
太平洋での危機に於ては海上での代理戦争は起こっていないし、起こったとしても「戦争の霧」が非常に深く立ち込めるだろうから、問題となるのは米中両国の艦船や航空機の直接交戦だ。
一方、第2次世界大戦でしか見られなかった様な島への艦船の移動や兵站支援もまた問題となる。この場合、米中の艦船や無人海洋車両が衝突を避けたとしても、空中、水上、水中での衝突は確実に避けられない。
米国は間接的なアプローチを採るだろうが、直接的な交戦を必要とするシナリオが予期せず発生するだろう。
結果として、戦争が海洋に広がった場合、そこで帰結が決まることになる。これは海軍の共同作戦や統合作戦を実行する能力、兵站統合能力(特に燃料と弾薬の補給能力)、損傷した艦船の修理や沈没した船の交換のスピードによって決まる。
陸上での戦争では、武装した戦闘員の数、軍需品、そして戦意が主な決定要因だが、海上では、先ず広大な海域で状況認識を確立し、次に敵が海を輸送手段や陸上への戦力投射手段として利用しないようにすることだ。この目的を達成するには、有人または無人の艦船と、それらに戦術的支援を提供する飛行要素(ヘリコプター、航空機、UCAV/UAV)が不可欠だが、中心は艦船だ。
艦船に不可欠なのは、母国の造船能力だ。
1941〜45年のアメリカの記録
第2次世界大戦で米国が勝利した主な理由は、商船と艦船、両方の船を建造する能力だった。1941〜45年、米国は海軍所属の24の造船所と民間部門の150の造船所で6,000隻の船を建造した。これは当時の世界記録を更新した。7,000tのリバティ級は生産速度の記録も破った(平均で42日)。
終戦時には、2,710隻のリバティ級と510隻のヴィクトリー級貨物船(15,000t)が就航していたが、この2つのクラスの船だけは、約30の民間造船所で建造された。
衰退するアメリカの造船産業
1975年、米国の造船産業は世界一の生産能力を誇り、国内生産用に70隻以上の商用船を発注していた。
それから約50年後、アメリカは世界ランキングで19位に落ち込んでおり、深刻な造船問題に直面している。
冷戦終結後、グローバル化により商船を建造する国が増加した。一方で、米国国内市場では軍艦の需要が減少した。潜水艦の生産は1980年代の年間3.8隻から、1990年代には0.7隻に減少した。2000年代に再び需要が増加し始めたが、業界は準備が出来ていなかった。
今日、海軍向けの艦船に対する政府の需要は大幅に増加しているが、この目標を達成するには造船所が不足している。2019年以降、海軍は年間3隻の潜水艦を発注しているが(2隻は原子力攻撃型潜水艦、1隻は核弾道ミサイル潜水艦)、実際の生産量はこの半分に過ぎない。
2000年以降の中国の記録
今日、中国は第2次世界大戦時の米国と同等の実績を達成している。現在、中国は世界の新規商船受注の64.7%を占めている。ROKは19.6%、日本は11.2%だが、米国は僅か0.13%。
特に過去10年間で中国からの受注量は170%増加しているが、これは歴史上前例の無い展開だ。2000年には世界シェア10%だったものが、24年間で65%に達したのだ。それに比べて同期間にROKと日本の合計は78%から31%に減少している。
中国人民解放軍海軍
最近、米海軍情報局(Office of Naval Intelligence/ONI)は、中国の商船建造能力は米国の232倍であると発表した。トン数で言うと中国が3,320万tで、米国は約10万t。
中国海軍が30年と云う短期間で防御から攻撃へと戦略転換を遂げた主な要因は、基本的な原材料、技術の蓄積、優秀な人材の利点を活用した造船能力だ。この能力は、海軍、商船、無人海上車両の分野で日々発展している。
中国は軍艦の機械、電子システム、兵器を、外国の供給源に頼らずに製造している。この段階に達するまで、間違い無く国家による広範な補助金が中国の世界的リーダーシップを保証した。
2000年以降、中国政府は、米国政府が第2次世界大戦で行ったように、造船部門が軍民両用機能に移行出来る様にした。
米国の衰退の理由
近代資本主義の父アダム スミスは、造船は国家の支援を受けるに値する数少ない産業のひとつであり、市場原理だけに任せるべきではないと考えていたが、冷戦後、米国は造船を市場原理に委ねた。
デル・トロ海軍長官はその結果をこう指摘している:「中国は1年で、米国が7年掛けて生産するのと同じ数の船舶を生産出来ます。」
冷戦が始まった頃、米海軍は11の軍用造船所を有していた。今日、軍用造船所は残っていない。大型軍艦を建造出来る民間造船所が7つ程有るだけだ。中国ではこの数は数十に上る。
今日、米国には戦争の際に軍艦の建造に専念出来る民間造船所が154有るが、中国は1,100だ。
また米国には有能で熟練した造船所労働者の数も不足している。今日、米国の民間造船所が雇っている造船・修理労働者は15万人、公営造船所は38,000人に過ぎない。しかも米国の若者は造船所の溶接工や配管工等の中間労働者になりたがらない。
生産拠点が海外に移り、資本と労働力がより収益性の高い地域に移動するにつれて、米国の知識と熟練労働者は萎縮している。
2024/12/20のウォール・ストリート・ジャーナルの「労働者不足が米国の安全保障を脅かす」と云う記事はこう指摘する。
「ここの造船所での賃金は時給17ドルから始まり、1年で20ドルを超え、更に勤続年数を重ねると30ドルを超える。これは曾てはこの地域の未熟練労働者にとってかなりの高賃金だった。今は違う。地元のファストフード店は時給最大16ドルを払い、ターゲット社は最低24ドルで倉庫の仕事を募集している。」
一方中国では、中国船舶集団有限公司(CSSC)だけでも、2023年までに推定20万人を雇用する予定だ。残りの1,100の造船所を考えると、中国の造船部門は50万人以上の労働者を雇用することになる。
商船から軍艦へ
周知の様に、海軍艦艇の建造能力を高めるには、先ず商船の建造能力を開発しなければならないが、中国は過去30年間これを行って来た。中国は商船建造に於て第2次世界大戦での米国に近い記録を達成し、これを軍艦建造能力に転化することに成功した。
この展開は冷戦以来米国が世界の海洋で直面した最大の脅威となっている。
2024/08/16に米議会調査センターが発表した「中国の海軍近代化:米国への影響———背景と議会向けの検討事項」はこう指摘する:
「2015〜20年、中国海軍は数に於て米国海軍を上回った。中国海軍は東アジアでずば抜けて最大の海軍である。」
この報告書に拠ると、中国海軍は370隻の戦闘艦を保有する世界最大の海軍であり、2025年までに395隻、2030年までに435隻の戦闘艦を保有すると予想されている。
これに比べて米海軍が2024/08/12時点で保有している戦闘艦は296隻。2030年には294隻になる。米軍の当局者達やその他の観測筋は、中国海軍は西太平洋の公海域に於ける米国の戦時支配に対する最大の障害であると警告している。
米海軍第33代司令官リサ・フランケッティ提督は、「我々は海軍が深刻な財政的・産業的制約に直面していることを理解しなければならない」と述べているが、彼女が開始した「プロジェクト33」行動計画は、2027年に中国と戦うことに備えている。提督はまたこうも述べている:
「中華人民共和国の防衛産業は、海軍が世界最大の造船インフラを自由に使える状態で、今や戦争状態に在る。」
中国海軍の艦艇数は過去23年間で100%増加したのに対し、米海軍は20%減少した。
中国海軍は過去23年間で165隻軍艦を増やしたが、米国は90隻止まり。
中国は過去23年間でトン数が300%増加したが、米海軍は2%。例えば米国は2025年までに3隻の原子力潜水艦と4隻の巡洋艦を含む19隻の軍艦の退役を承認したが、新造船の数はたった6隻。しかも新造船プログラムは各クラスで既に3年遅れている。
台湾シナリオに於ける米海軍最大の優位性は原子力潜水艦だが、米国の計画作成者達に拠ると、66隻の原子力攻撃型潜水艦が必要になる。だが現在保有しているのは49隻に過ぎない。年間2.3〜2.5隻の攻撃型潜水艦を生産しなければならないことになるが、現在、この値は年間1.2。
修理とメンテナンスの不足
1989年以降、米国及び海外の基地で350の修理・メンテナンス施設が閉鎖されたが、これは戦時中に損傷した艦船のメンテナンスと修理能力に大きな打撃を与えた。例えば中国に最も近い米国領土であるグアム島は、2016年以降、米国の軍艦をドックに入れる能力が無い。
米国沿岸全体で、米国海軍省が承認した軍艦修理施設は54しか無い。
米会計検査院(General Accounting Office/GAO)は2021年6月にこの深刻な問題を認め、非常に批判的な報告書を出している。
商船隊、沿岸警備隊、漁師
商船隊に関しては状況は更に悪い。中国は世界最大の商船隊を運用しており、載貨重量トン数は1億200万t。
中国企業は96の外国港で1つ以上のターミナルを所有または運営している。これらの内36は、コンテナ量で世界トップ100の港にランクインしている。
一方、太平洋の米軍基地や同盟諸国への兵站支援に使える船舶の数は約85隻だが、中国は5,500隻。
また中国の沿岸警備隊は500t以上の船舶を225隻保有している。
中国はまた、海上民兵を有する世界でも数少ない国のひとつだ。これは海軍の不可欠な一部であり、危機や緊張が高まった際に使える装備、人員、規律を備えている。
中国にはまた約50万隻の漁船が有るが、この内民兵用に使用出来るのは約25万隻と推定されている。
海上覇権は交代しつつある
米国は長いこと海上での支配権を失っている。米海軍は、地球の2/3を占めるグローバル・コモンズをコントロールすることで、米国政府に米国の利益を守る機会を与えた。これらの地域を戦力投影環境として、また敵の海上貿易を阻止する地域として利用する能力は、米国にとって大きな利点だった。
しかし、この能力は現在問題を抱えている。
海の主要な輸送ルートをコントロールするこそ、国際システムに於ける西洋500年の支配と覇権の原動力だった。ヨーロッパの大西洋システムは、港を押さえ、戦略的な海路をコントロールすることによって確立された。
ロシアと中国は歴史から学んだ。大西洋に依存した大西洋システムとは対照的に、両国は海への接続が遮断された場合の代替として、アジアの輸送ネットワークを発展させた。
今日、アジアではノルウェー海からインドシナ半島までの海岸が大西洋システムのコントロールから外れており、費用対効果が高く時間効率の良い輸送回廊が出現している。
一方、太平洋作戦地域の距離は、ヨーロッパ戦線よりも2~3倍長い。途切れ無い海上輸送と海上橋の確立無しに軍事的成功を収めることは非常に難しい。
従って台湾シナリオでは、中国は直接軍事行動を起こす必要すら無いかも知れない。一定期間後には島の封鎖で十分かも知れない。何しろ台湾は中国からは81マイル、米国からは7,600マイル離れているのだ。
台湾への軍事介入が議題に上る場合、現在の両国の相対的な戦力比較と造船能力を考慮すると、米国と米国が形成する連合軍が中国を抑止し阻止することは極めて困難となるだろう。
現在の戦争はハイブリッド戦争で、物理的な交戦はそのほんの一部に過ぎないが、「脱産業化社会」として産業よりも金融を、長期的・全体的な戦略よりも一部の目先の利益を優先して来た米国は、物理的な戦力としてはガタガタの状態に在る。予算ばかり浪費する張子の虎と化した米軍とは対照的に、中国は世界最大の海軍力として着実に台頭しつつある。
CIAが作った日本の与党は台湾危機に於ける鉄砲玉として自ら進んで名乗りを上げているが、日本人はこの売国政党に自分達の血税を使って好き放題させておいて果たして自分達に一体何のメリットが有るのか、真剣に考えた方が良いだろう。
China’s Shipbuilding Capacity Reached 232 Times That of the US. Admiral Cem Gürdeniz
世界の覇権を巡る最終決戦が行われる環境は、これまで同様、海洋となるだろう。
米国に対する最も深刻な台頭勢力は中国なので、戦場となる地域は西太平洋であると簡単に言うことが出来る。
今日最も話題になっているシナリオは、2027年または2028年の中国の台湾介入、または南シナ海の九段線を巡る危機がエスカレートし、最初は間接的に、その後は直接的に、米中間の戦争を引き起こすことだ。
台湾と南シナ海の両方のシナリオに於て、主な前線は海洋、海、島々となる。
従って、両海軍の機動力と潜在的な能力領域が戦争の帰結を決定する。
最初から、米国はウクライナ・モデルを採用し、間接的なISR((Intelligence, Surveillance and Reconnaissance/諜報・監視・偵察)と火力支援、ハイブリッド戦争技術で、台湾やフィリピン等の中国のライヴァルを支援することが出来るが、海洋環境ではこれは容易ではない。
太平洋で代理戦争を仕掛けることの難しさ
太平洋での危機に於ては海上での代理戦争は起こっていないし、起こったとしても「戦争の霧」が非常に深く立ち込めるだろうから、問題となるのは米中両国の艦船や航空機の直接交戦だ。
一方、第2次世界大戦でしか見られなかった様な島への艦船の移動や兵站支援もまた問題となる。この場合、米中の艦船や無人海洋車両が衝突を避けたとしても、空中、水上、水中での衝突は確実に避けられない。
米国は間接的なアプローチを採るだろうが、直接的な交戦を必要とするシナリオが予期せず発生するだろう。
結果として、戦争が海洋に広がった場合、そこで帰結が決まることになる。これは海軍の共同作戦や統合作戦を実行する能力、兵站統合能力(特に燃料と弾薬の補給能力)、損傷した艦船の修理や沈没した船の交換のスピードによって決まる。
陸上での戦争では、武装した戦闘員の数、軍需品、そして戦意が主な決定要因だが、海上では、先ず広大な海域で状況認識を確立し、次に敵が海を輸送手段や陸上への戦力投射手段として利用しないようにすることだ。この目的を達成するには、有人または無人の艦船と、それらに戦術的支援を提供する飛行要素(ヘリコプター、航空機、UCAV/UAV)が不可欠だが、中心は艦船だ。
艦船に不可欠なのは、母国の造船能力だ。
1941〜45年のアメリカの記録
第2次世界大戦で米国が勝利した主な理由は、商船と艦船、両方の船を建造する能力だった。1941〜45年、米国は海軍所属の24の造船所と民間部門の150の造船所で6,000隻の船を建造した。これは当時の世界記録を更新した。7,000tのリバティ級は生産速度の記録も破った(平均で42日)。
終戦時には、2,710隻のリバティ級と510隻のヴィクトリー級貨物船(15,000t)が就航していたが、この2つのクラスの船だけは、約30の民間造船所で建造された。
衰退するアメリカの造船産業
1975年、米国の造船産業は世界一の生産能力を誇り、国内生産用に70隻以上の商用船を発注していた。
それから約50年後、アメリカは世界ランキングで19位に落ち込んでおり、深刻な造船問題に直面している。
冷戦終結後、グローバル化により商船を建造する国が増加した。一方で、米国国内市場では軍艦の需要が減少した。潜水艦の生産は1980年代の年間3.8隻から、1990年代には0.7隻に減少した。2000年代に再び需要が増加し始めたが、業界は準備が出来ていなかった。
今日、海軍向けの艦船に対する政府の需要は大幅に増加しているが、この目標を達成するには造船所が不足している。2019年以降、海軍は年間3隻の潜水艦を発注しているが(2隻は原子力攻撃型潜水艦、1隻は核弾道ミサイル潜水艦)、実際の生産量はこの半分に過ぎない。
2000年以降の中国の記録
今日、中国は第2次世界大戦時の米国と同等の実績を達成している。現在、中国は世界の新規商船受注の64.7%を占めている。ROKは19.6%、日本は11.2%だが、米国は僅か0.13%。
特に過去10年間で中国からの受注量は170%増加しているが、これは歴史上前例の無い展開だ。2000年には世界シェア10%だったものが、24年間で65%に達したのだ。それに比べて同期間にROKと日本の合計は78%から31%に減少している。
中国人民解放軍海軍
最近、米海軍情報局(Office of Naval Intelligence/ONI)は、中国の商船建造能力は米国の232倍であると発表した。トン数で言うと中国が3,320万tで、米国は約10万t。
中国海軍が30年と云う短期間で防御から攻撃へと戦略転換を遂げた主な要因は、基本的な原材料、技術の蓄積、優秀な人材の利点を活用した造船能力だ。この能力は、海軍、商船、無人海上車両の分野で日々発展している。
中国は軍艦の機械、電子システム、兵器を、外国の供給源に頼らずに製造している。この段階に達するまで、間違い無く国家による広範な補助金が中国の世界的リーダーシップを保証した。
2000年以降、中国政府は、米国政府が第2次世界大戦で行ったように、造船部門が軍民両用機能に移行出来る様にした。
米国の衰退の理由
近代資本主義の父アダム スミスは、造船は国家の支援を受けるに値する数少ない産業のひとつであり、市場原理だけに任せるべきではないと考えていたが、冷戦後、米国は造船を市場原理に委ねた。
デル・トロ海軍長官はその結果をこう指摘している:「中国は1年で、米国が7年掛けて生産するのと同じ数の船舶を生産出来ます。」
冷戦が始まった頃、米海軍は11の軍用造船所を有していた。今日、軍用造船所は残っていない。大型軍艦を建造出来る民間造船所が7つ程有るだけだ。中国ではこの数は数十に上る。
今日、米国には戦争の際に軍艦の建造に専念出来る民間造船所が154有るが、中国は1,100だ。
また米国には有能で熟練した造船所労働者の数も不足している。今日、米国の民間造船所が雇っている造船・修理労働者は15万人、公営造船所は38,000人に過ぎない。しかも米国の若者は造船所の溶接工や配管工等の中間労働者になりたがらない。
生産拠点が海外に移り、資本と労働力がより収益性の高い地域に移動するにつれて、米国の知識と熟練労働者は萎縮している。
2024/12/20のウォール・ストリート・ジャーナルの「労働者不足が米国の安全保障を脅かす」と云う記事はこう指摘する。
「ここの造船所での賃金は時給17ドルから始まり、1年で20ドルを超え、更に勤続年数を重ねると30ドルを超える。これは曾てはこの地域の未熟練労働者にとってかなりの高賃金だった。今は違う。地元のファストフード店は時給最大16ドルを払い、ターゲット社は最低24ドルで倉庫の仕事を募集している。」
一方中国では、中国船舶集団有限公司(CSSC)だけでも、2023年までに推定20万人を雇用する予定だ。残りの1,100の造船所を考えると、中国の造船部門は50万人以上の労働者を雇用することになる。
商船から軍艦へ
周知の様に、海軍艦艇の建造能力を高めるには、先ず商船の建造能力を開発しなければならないが、中国は過去30年間これを行って来た。中国は商船建造に於て第2次世界大戦での米国に近い記録を達成し、これを軍艦建造能力に転化することに成功した。
この展開は冷戦以来米国が世界の海洋で直面した最大の脅威となっている。
2024/08/16に米議会調査センターが発表した「中国の海軍近代化:米国への影響———背景と議会向けの検討事項」はこう指摘する:
「2015〜20年、中国海軍は数に於て米国海軍を上回った。中国海軍は東アジアでずば抜けて最大の海軍である。」
この報告書に拠ると、中国海軍は370隻の戦闘艦を保有する世界最大の海軍であり、2025年までに395隻、2030年までに435隻の戦闘艦を保有すると予想されている。
これに比べて米海軍が2024/08/12時点で保有している戦闘艦は296隻。2030年には294隻になる。米軍の当局者達やその他の観測筋は、中国海軍は西太平洋の公海域に於ける米国の戦時支配に対する最大の障害であると警告している。
米海軍第33代司令官リサ・フランケッティ提督は、「我々は海軍が深刻な財政的・産業的制約に直面していることを理解しなければならない」と述べているが、彼女が開始した「プロジェクト33」行動計画は、2027年に中国と戦うことに備えている。提督はまたこうも述べている:
「中華人民共和国の防衛産業は、海軍が世界最大の造船インフラを自由に使える状態で、今や戦争状態に在る。」
中国海軍の艦艇数は過去23年間で100%増加したのに対し、米海軍は20%減少した。
中国海軍は過去23年間で165隻軍艦を増やしたが、米国は90隻止まり。
中国は過去23年間でトン数が300%増加したが、米海軍は2%。例えば米国は2025年までに3隻の原子力潜水艦と4隻の巡洋艦を含む19隻の軍艦の退役を承認したが、新造船の数はたった6隻。しかも新造船プログラムは各クラスで既に3年遅れている。
台湾シナリオに於ける米海軍最大の優位性は原子力潜水艦だが、米国の計画作成者達に拠ると、66隻の原子力攻撃型潜水艦が必要になる。だが現在保有しているのは49隻に過ぎない。年間2.3〜2.5隻の攻撃型潜水艦を生産しなければならないことになるが、現在、この値は年間1.2。
修理とメンテナンスの不足
1989年以降、米国及び海外の基地で350の修理・メンテナンス施設が閉鎖されたが、これは戦時中に損傷した艦船のメンテナンスと修理能力に大きな打撃を与えた。例えば中国に最も近い米国領土であるグアム島は、2016年以降、米国の軍艦をドックに入れる能力が無い。
米国沿岸全体で、米国海軍省が承認した軍艦修理施設は54しか無い。
米会計検査院(General Accounting Office/GAO)は2021年6月にこの深刻な問題を認め、非常に批判的な報告書を出している。
商船隊、沿岸警備隊、漁師
商船隊に関しては状況は更に悪い。中国は世界最大の商船隊を運用しており、載貨重量トン数は1億200万t。
中国企業は96の外国港で1つ以上のターミナルを所有または運営している。これらの内36は、コンテナ量で世界トップ100の港にランクインしている。
一方、太平洋の米軍基地や同盟諸国への兵站支援に使える船舶の数は約85隻だが、中国は5,500隻。
また中国の沿岸警備隊は500t以上の船舶を225隻保有している。
中国はまた、海上民兵を有する世界でも数少ない国のひとつだ。これは海軍の不可欠な一部であり、危機や緊張が高まった際に使える装備、人員、規律を備えている。
中国にはまた約50万隻の漁船が有るが、この内民兵用に使用出来るのは約25万隻と推定されている。
海上覇権は交代しつつある
米国は長いこと海上での支配権を失っている。米海軍は、地球の2/3を占めるグローバル・コモンズをコントロールすることで、米国政府に米国の利益を守る機会を与えた。これらの地域を戦力投影環境として、また敵の海上貿易を阻止する地域として利用する能力は、米国にとって大きな利点だった。
しかし、この能力は現在問題を抱えている。
海の主要な輸送ルートをコントロールするこそ、国際システムに於ける西洋500年の支配と覇権の原動力だった。ヨーロッパの大西洋システムは、港を押さえ、戦略的な海路をコントロールすることによって確立された。
ロシアと中国は歴史から学んだ。大西洋に依存した大西洋システムとは対照的に、両国は海への接続が遮断された場合の代替として、アジアの輸送ネットワークを発展させた。
今日、アジアではノルウェー海からインドシナ半島までの海岸が大西洋システムのコントロールから外れており、費用対効果が高く時間効率の良い輸送回廊が出現している。
一方、太平洋作戦地域の距離は、ヨーロッパ戦線よりも2~3倍長い。途切れ無い海上輸送と海上橋の確立無しに軍事的成功を収めることは非常に難しい。
従って台湾シナリオでは、中国は直接軍事行動を起こす必要すら無いかも知れない。一定期間後には島の封鎖で十分かも知れない。何しろ台湾は中国からは81マイル、米国からは7,600マイル離れているのだ。
台湾への軍事介入が議題に上る場合、現在の両国の相対的な戦力比較と造船能力を考慮すると、米国と米国が形成する連合軍が中国を抑止し阻止することは極めて困難となるだろう。
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