87.後漢書東夷傳(その5)ー裸國 黑齒國ー
今回も引き続き後漢書の東夷傳について考察していきます。
原文を以下より引用しました。

画像引用元:中國哲學書電子化計劃
https://ctext.org/library.pl?if=gb&file=79582&page=67#%E5%80%AD
自女王國東 度海千餘里 至拘奴國 雖皆倭種 而不屬女王
自女王國 南四千餘里 至朱儒國 人長三四尺
自朱儒 東南行船一年 至裸國 黑齒國 使驛 所傳 極於此矣
これを図に示すと以下となります。

使驛 所傳 極於此矣
翻訳は以下です。
使者の宿場(驛)がある果ての地はここであると、古くから伝えられている。
裸國、黑齒國は、女王國からそれほど遠くなかったと推測します。
この後漢書に近い記述があるのは通典です。通典は杜佑により766-801年に編纂されました。
原文を以下より引用しました。

画像引用元:中國哲學書電子化計劃
https://ctext.org/library.pl?if=gb&file=53530&page=125
又千餘里至侏儒國 人長三四尺
自侏儒東南行 船行一年 至裸國 黑齒國
使驛 所傳 極於此矣
これを図に示すと以下となります。

後漢書との違いは、拘奴國の記述がないことと、南四千餘里が千餘里(方角の記述なし)となっていることで、他は同じです。
一方、三国志の魏志の東夷傳の倭人の条、通称魏志倭人傳の記述は後漢書とはだいぶ異なります。
原文を以下より引用しました。

画像引用元:中國哲學書電子化計劃
https://ctext.org/library.pl?if=gb&file=79597&page=198#%E5%A5%B3%E7%8E%8B
女王國東渡海千餘里 復有國 皆倭種
又有侏儒國在其南 人長三四尺
去女王四千餘里 又有裸國 黑齒國復在其東南 船行一年可至
これを図に示すと以下となります。

魏志倭人傳の特徴は、中國の距離の単位「里」と夷人の距離の単位「日」との換算式が記述されていることです。
* 4000里=1年
これをもとに、水行20日、水行10日、陸行1月の「日」を、「里」に換算することが出来ます。
魏志倭人傳と同様に「里」と「日」の換算式の記述があるのは、梁書、南史、太平御覧です。
梁書は、姚察、姚思廉によって編纂され、629年に成立しました.
原文を以下より引用しました。

画像引用元:中國哲學書電子化計劃
https://ctext.org/library.pl?if=gb&file=68126&page=106#%E5%80%AD
其南有侏儒國 人長三四尺
又南黑齒國 裸國 去倭四千餘里 船行可一年至
南史は、李大師、李延寿によって編纂され、659年に成立しました。
原文を以下より引用しました。

画像引用元:中國哲學書電子化計劃
https://ctext.org/library.pl?if=gb&file=79757&page=118
其南有侏儒國 人長四尺
又南有黑齒國 裸國 去倭四千餘里 船行可一年至
梁書と南史の記述はほぼ同じです。
これらを図に示すと以下となります。

魏志倭人傳との違いは、侏儒國の位置が倭種の國の南ではなく、倭國(女王國)の南になっています。また、黑齒國、裸國と順序が入れ替わっています。
そして、黑齒國、裸國は、倭國(女王國)の南になっています。
太平御覧は、李昉、徐鉉ら14人による奉勅撰で977年から983年に成立しました。
原文を以下より引用しました。

画像引用元:中國哲學書電子化計劃
https://ctext.org/library.pl?if=gb&file=80632&page=78#%E5%80%AD
其倭國之東 渡海千里 復有國 皆倭種也
又有朱中儒國 在其南 人長三四尺
去倭國四千餘里 又有裸國 墨齒国 復在其南 舩行可一年至
これを図に示すと以下となります。

記述は魏志倭人傳とほぼ同じですが、侏儒國が朱中儒國と記述されています。
また裸國、墨齒國が、倭國(女王國)の東南ではなく、南と記述されています。
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以下は私の考察です。
太平御覧の記述が実際だったと推測します。
裸國、墨齒國は倭國(女王國)の東南ではなく、南にあった。
ただし、朱中儒國は侏儒國の誤記と推測します。
梁書、南史はおそらく
其倭國之東 渡海千里 復有國 皆倭種也
の一文を失念したのではないかと推測します。
この一文を加えると記述の内容は太平御覧と同じになります。
其倭國之東 渡海千里 復有國 皆倭種也
其南有侏儒國 人長(三)四尺
又南(有)黑齒國 裸國 去倭四千餘里 船行可一年至
次回は、宋書夷蛮傳に記述されている倭に関しての記述について考察を行う予定です。
つづく
不定期更新予定

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