2013年01月 Der Klang vom Theater (ドイツ~劇場の音と音楽)
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コンデンサーの音質比較 前篇・・・

改めて言うまでもないが、コンデンサーはDCに対しては絶縁、ACには導通と考えて存在する。
しかし、すべてのコンデンサーが1Hzから超音波までフラットに通す訳ではなく周波数によっては見逃せない程の抵抗と成り得ることもあえて特筆する要もないだろう。

一部オーディオの世界で不当に扱われているアルミ電解は高域でのインダクタンスが比較的低い周波数から増加し、可聴域ですら影響を与えると考えられている。
そのためオーディオ用電解が出来たり、電解を避けて大容量のフィルムが使われることもある。(高価だが)

一方、同じ形式のコンデンサでも高域の特性には違いがあり、容量は勿論リードの長さまで効いてくるそうだ。
今回のアンプでは「広帯域化」と「ノイズ撲滅」という2つの命題をクリアーする為、私が普段扱っているアンプからすると相当な大容量コンデンサーを投入している。ということを前回の記事で示した。

組上げ後、一聴して「これはアカン」と思った。
その原因をコンデンサ容量の頑張りすぎと仮定して、現在は前項の写真中赤文字の「がんばりすぎた」全てをオリジナルの値にして何とかまっとうな音に近付きつつある。



今回のアンプのベースに使った「KL-V401」アンプは戦後直後の製造だ(デカップリングは32μF)。
もう一台のメインアンプである「Kl-32611」はさらに古い戦前の設計で、デカップリングには「1μF」しか使われていない。

ちょっとアンプをいじった事のある人なら、そんなので大丈夫か?ハムはひかないか?とびっくりする値。
でもアンプに詳しい人ならデカップリングは前後段の減結合の為のものだからノイズには関係ないと知っている。
さらに、32611はフィルターコンデンサーですら6μFx2個しかなく、ハム対策の際にさすがに心配して100μFを足してハムの変化を観察したがまったく変化なしだった。

そんな32611だけれど私の知る限りでは「会場の空気にむせぶ感」や「ライブ録音で隣に人が座ってそうで気持ち悪い感」に突出した能力を持つこのアンプの、その因子の一つはコンデンサーの容量が少ない為だと思うようになった。
この項は、「フィルターとの決別」の続編といえると思う。

きっとこの件に気付いた人は昔から沢山いて、DCアンプの実現を夢見てついに成し遂げたのだろう。大したものだ。
でも、そんなアンプのフィルターについては何万μFと容量を競っていたりするのは如何なる訳か???


さあ、あまり根拠のない感想(前段)はこのくらいにして本題に移ろう。

今回はフィルターコンデンサ以外にもカップリングコンデンサにもメスをいれた(爆)

もちろん私のスタンスは、コンデンサに固有の音があると考えるのではなくある回路の中でコンデンサを変えるとアウトプットが変化するのも一つの事実として認識しているだけで、こうした記事はこれまで書かなかったのです。

おそらくアンプを組むのも人生最後だから、こうした記事を書くのも最初で最後でいいのかな、と。

でも今日はもう長くなりましたので本編は次回です。
以下は登場予定の方々です。
PICT1994.jpg







AD-1ppアンプ 聴いてみたら絶望の淵へ落とされた

さて、世の中のクリスマス気分や年末年始の喧騒には目もくれず、12月の後半を当アンプの製作に邁進し大晦日に一通りは完成した。
少し配線の手直しがあって元旦の午前いっぱい作業は残したが、新年を迎え幸先良く音だしと行きたいところであった、しかし最初の一音を聴いただけでがっくりしすぎて死ぬかと思った。

一言で低音の塊が被っていて高い方に向けて全く抜けが無い。
兎に角ゆるい低音だけは勘弁してもらいたいと思って30年もバフルのスピーカーを使い続けてきた自分にとっては辛過ぎる結果になった。

まあそれでも新品の部品も使っているし、直熱の出力管もヒートアップに4日ほど掛けたけれど音を出すのは始めてだからと自分を落ち着かせて1日半ほど聴いていた。
もちろんそれで何とかなる訳もなく、対策の要を回避できないことがいよいよ明白になるだけだった。


2日程経って冷静になったところで現状の整理から始めた。
●周波数特性は文句が無いのに、高音で抜けない。 (この電気的特性と聴感との関係は改めて記事にしたい)

原因の仮説
1.50Hz以下の音はこれまで出したことが無く、室内の挙動も把握できていない。とんでもない定在波が発生しているのか?
2.電解コンデンサの特性(周波数対インダクタンス特性)

1.に関してはSPの復刻盤など低音成分の含まれていない音源を聴いてすぐに否定できた。
2.少なからぬ心当たりがあるのでまずはこの点の対策を行う。この現象は以前にも経験があり製作中から心配していた点である。



アンプの設計や製作に当って大変に参考にさせていただいているサイトがあります。非常に信頼できる内容でいつも助かっています。
(本サイトは今でも変わらずとても信頼している。
今回の個別の事案はこのアンプに固有の話であるが、何かと短絡的に結びつけ馬鹿げた解釈をされてご迷惑をかけるのを嫌って本稿では当該サイトの紹介は避ける。)

そのなかで
「カソードのバイパスコンデンサーは現在の標準的な値(50μF~100μF程度か)より2~4倍の容量の方が良いと思う」
「デカップリングの容量を高めて電源回路上のインピーダンスを下げると低域の特性に寄与する」(要約は私)
という提案を参考にさせて頂き今回のアンプで実施してみたいと思っていた。

それは、構想当初からの「広帯域化」という命題にあって実現の難しい低域方向へ希望の持てる対策であり、またハムノイズを撲滅したいという思いにも沿う方法論だと考えたからです。

実際に用いたコンデンサーの値を示します。
PICT2004.jpg
カッコ内がKlangfilmのオリジナルアンプの値。

めんどくさいのですが、一つずつ元の値に戻してヒアリングを繰り返し、どこがどれだけ影響を与えているのか、いないのか?確認作業に入ろう。

続きは次回。






AD-1ppアンプ 取り敢えずできました

回路構成はシンプル。
シャーシは既存のものを使うから穴開けもほとんど無し。
アースライン始め主要なコードの引きまわしも随分と検討したけれど、変更の余地がないほど合理的に思えた。

そうした結果、予想したよりも随分あっさりと組み上げは完成した。

PICT1971.jpg
黒光りする2台の直立二足歩行型アンプが並び立つとたいした迫力だ。

前述したように、電源トランスの出力が320vx2だったので少し高いのではないかと案じていて、ドロッパー用にと低抵抗の巻線を幾つか用意していたが電源投入後手早くプレート(302v)とカソードに出るバイアス(49v)を測ってみるとオニのようにピッタリだったので少々面食らってしまった。

何故理論値を下回る電圧が掛かったを考えても、根拠の無い想像に過ぎないので虚しいが気持ち悪いので仮説を立てた。
恐らくOUTトランスのDCRが現代の常識より高いのだろう。
整流後に無闇に抵抗をかますのを良としない自分にとってはここも時代の神様に助けられた形になった。(感謝、感謝)

PICT1976.jpg
使用管のラインナップ
一番左の四角い箱は、オリジナルのKL-Z402というフィルター(またはイコライザー)で、装置を設置する劇場毎に
アコースティックコンディションが異なるので、それにフィットさせる為のもの。勿論いまは使ってない。

次の銀色のが入力トランス(多分Marotoki製造)トンでもない高性能ぶりで後々困ったトラブルを引き起こす。

黒くて背の低い「くらげ」な奴がエキサイターの「EF-12」
古典的な五極電圧増幅管だが、ここでは三結で使っている。

出力管は勿論「AD-1」のプッシュプル。
右端の整流管は「RGN-2004」ベースで。現在は動作確認中の為Valvoの「G-2004」を挿している。

DC,ACバランサーとも完備なので可変抵抗のシャフトが林立している。



さて、アンプ単体での周波数特性は既報の通りだが、入力トランスが無理やり広帯域にしているようで60kHzを超えてピークを作っている。

しかし、2個のトランスでピークの尖頭値に少々の差があったので「これは遺憾」となった。
帯域を伸ばすためのピークなんて、言ってみれば「共振」だもんであまり褒められたものじゃないでしょ。

そこで、トランスを一度バラして、コア・アースを付けたり、リードの引き出しなどを整理整頓して組み直したらピークの山が小さくなって2個が揃ってくれた。(ほっ)

改めて裸特性とトランスを含めた特性を測ってみた。
PICT2000.jpg

30Hzで-0.6dB、70kHzで+0.5dBと言う非常識な直熱三極管アンプが出来てしまった。

上記の通り現代電気回路の常識ではちょっとしたズルも入っているけれど、逆に現代アンプでは出来ない高性能な理由も沢山あるのです。

取り敢えずプレート・ロスも規格内に収まったし、各部電圧もまず設計通りだし、ノイズや特性の面でも予定を超える成果があった。

次回は、いよいよ・・・待望の・・・音だしです。






AD-1ppアンプ ハム対策

古典管を使用したアンプはその魅力とともに、古いディバイス故に数々の問題が起きる可能性もある。
代表的問題点の一つである「電源ハム」について今回は事前に対策を施しておきたいと考えていた。

現用のKlangfilmのオリジナルアンプは70年以上も前にひと様が作ったものなので、努力の甲斐も空しく現状は24mV程度の残留雑音に甘んじている。さすがにステージ用スピーカーをウサギ小屋で使う環境では明らかにハムを感じている。

今回はシャーシや主要部品こそオールドだが組上げは最初から自身の手になるので、できるだけの対策を図り、
残留ノイズの目標値を3mV(200Ω)に設定して検討を加えてみた。


1)トランスの電磁シールドと磁気シールド
さて、素晴らしいトランス類を使っていることは間違いないがいつもの通りコア剥き出しの形態であるから何らかのシールドが必要になるだろう。
PICT1965.jpg
オリジナル状態の配置。
右上の立っているのがOUTトランス、その真下が320vx2の高圧トランス、その左にヒータートランスとチョーク。
いかにもノイズを引きそうだ。

このシャーシを利用するのでトランスの配置は変えられない。そこで、静止状態で電源のみ投入し出力トランスの二次側に現れる誘導電圧をミリボルで監視しながらトランスの向きやシールドの効果を確認していった。

すると、高圧を扱う+Bのトランスより低圧・大電流のヒータートランスの方がノイズを盛大にまき散らしている事が分かった。なるほど。
全体的には十分な検討を加え、中々に効果的な対策をとれたように思う。

PICT1968.jpg


2)ヒーター・ノイズの対策

AD-1シングルの時やプリアンプで行った「ヒーターDC化作戦=見事な敗北」を受けてなんとかAC点火のまま目標値を達成したいというのが大命題になっていた。となると、当然ヒーター・ノイズが大きな壁となって立ちはだかることだろう。


オリジナルのKlangfilmアンプではヒーター回路に元からCTがあって調整の範囲が限られていた。
今回はどのような対策が有効か検討していたのだけれど、バランサーを3つも4つも使う方式が多くて場所もコスト的にも触手が動かずにいた。

ある時TelefunkenのAD-1ppのブースターアンプにコロンブスの卵みたいなシンプルな回路を発見して「ままよ」とばかりにこれを採用してみた。
やってみて、もしうまくいかなければ日本式のバランサー連立に変えるだけさ。と。


さて、組み上げた後、ミリボルとオシロでハムを確認。(写真を撮っておけばよかった!)

電圧はやはり20mVを超えていたが、見事に60Hzのきれいな波形があるだけで整流によるリプルの影響は無視できたのが何よりで、いざ、簡易型バランサー、発進!!

その後当該ヒーターハム撲滅のために行ったことを列挙しておこう。

◇前段の傍熱管でも個体差がある。
  プッシュプルの上下の球を入れ替えると変化あり。

◇上記PPでのヒーター配線を上下でクロスさせたり戻したりすると打ち消しの効果が出たりでなかったり。
  球の個体差も含めて一概には決められず、球の組み合わせとリンクして最良点を探す必要あり。

◇出力管はヒーター・ノイズ自体の波形に個体差が大きい。
  AD-1は優秀な球でプレート電流の個体差は小さいがハムの波形はペアチューブが欲しい!

◇バランサー位置を少しずらした位置で波形を観察し、整った正弦波になっていればバランサーを使ってほとんど打ち消しが出来ることが分かった(^-^)/

◇この方式の欠点は、オシロが無ければ最良点を探すのが難しいことと、どれかの球が切れたら最初からやり直しってことと。電源の状態でノイズの出方にムラがあるってことかな。

まあ、こんなクリティカルな面を嫌うならDC点火すればいいだけ。
「フィルターとの決別」を宣言した身だからやせ我慢しているだけだ。でも、ノイズに関しては我慢の必要が全く無くなったので大変ありがたい。

全体の結果を申し上げると2.4mV(200Ω)まで追い込むことができ、スピーカーに繋いでからウーハーに耳を近づけても「無音」では無いがとても静かで、聴取位置では全く問題がない。

まだまだ調子いいぞ、このまま行ってくれ、お願い。




AD-1pp アンプ 高低両端の設計

これで回路と部品、使用真空管が全て決まった。これまでストックしてきたパーツを総動員すれば追加購入する部品も少なくて済むだろう。


さて、ここまで「広帯域化」を標榜して進めて来たので高低音両端の確認をしてから最終的な各部品の定数を決めてゆきたい。

まず、低域端のカットオフを計算すると・・・
PICT1986.jpg

汚い走り書きで申し訳なし。
結論から言うと、カップリングCを0.1μFとしたときに

-3dBの周波数が7.68Hz
-0.5dBでは同じく 30.7Hz

となった。キャパシタンスを0.2μF以上にすれば当然計算上の数値は下辺へ押しやれるがそれでよろずOKかというとそうとばかりは言い切れないのが人間の感性の微妙なところだと思う。

合わせて高域端の確認もして、バランスが大切になる。
こんな時、「40万の法則」というのはつくづく良くできた理屈だなあと毎度のことながら感心してしまう。

その高域の設計はミラー効果の確認として -3dBが約65kHzほどになる。
-0.5dBでは16.5kHz辺りになるのでまあ良しとできると思う。

以前のシングルアンプの時は21kHzで-3dBという時代を濃密に感じる特性であったが、今回は前段にEF-12の三結を採用した効果で回路上のインピーダンスを抑えることが出来てこの結果に繋がったのだろう。


その後、実際に組み立てた後に測定した結果と比較してみた。
PICT1987.jpg

20Hz-30kHzを-1dBでカバーできているのでほぼ設計通りになったかと思う。
このような作業をする度にいつも思うのだけれど、全く「算数」というのは良く出来ていて、正しいレールに乗っている時にはきっちりと予想通りの結果になる。
逆に言うと、迷宮に迷い込んだ時にはいかようにモガいた処で決して抜けることができないという意味でもある。


ただし、ここから先は音という物理現象と人間の感覚が相手になるので理屈通りになるのかどうか?
まだまだ予断は許されない。






AD-1pp 回路選定と使用球の決定

欧州古典管のアンプを組むにあたっては、ヒーター回路の解決が大きな山であろうが何とかこの難題はクリアできた。

早速、回路のシュミレーションに移っていこう。
回路そのものは30年前に一度取り組んで依頼、大変有効と信頼を寄せつつもこれまで実現できなかった形をついに採用した。

このブログの最初の頃に「AD-1x5本」を幸運にも「ゴルフ代(さすがに穂高カントリーだったけれど)1回分」と物物交換したという記事を上げた。
実はこの取引には第二回目があって、W.E.の「VT-52x4本」も同じ条件で入手していた。

その後「AD-1」はシングルに。「VT-52」はppのアンプに仕立てていて、その回路は入力トランスでインバートしてエキサイターをppのままCR結合して出力管のppに受け渡すという形でTELEFUNKEN V-69型という有名なモニターアンプの方式を踏襲した。

PICT1980.jpg

結合一段の単純な構成で、エキサイター&出力管による歪み打ち消しに加えて、ppによる歪みの打ち消し効果も合わせ二重のメリットがあり極めて高品位なOUTPUTを非常にシンプルな回路で実現できる。



さて、前段となるエキサイターは前述の通り「6.3v管」から選ぶ必要がある。
AD-1時代のTelefunkenの推奨回路ではHi-μの三極管(AC-2など、その後のREN-904系)がこれに当てられていた。
確かに歪率がAD-1に近いので効率よく打ち消しを行うことができるし、そもそも三極管なのでNFの要も無く低歪なアンプが完成する。さすがにオリジナル回路の面目躍如といったところ。
ところがそうした古典的電圧管はことごとく4vであるのは言を待たない。

主要部品も決まり回路も決定したのにここで進捗が滞ってしまった。
不本意ながらドロッパーで落とすか、WE-91のように五極管をトライしてみるか・・・?

いくつか候補を上げては消去したが、どれも今ひとつ腑に落ちない。「腑」とは「五臓六腑」なんていう内蔵のことでいかにも「腹に収まらない」という表現がピッタリな苛立たしさを感じていた。

少しは気分転換でもしようと
今回は新しいアンプに古い出力管を組み込む形だから、新しい球「EL-12」の動作も勉強してみようかと、湯船に浸かりながら規格表(各国各社から出されているのでヴァージョンはいくつもある)をのんびりと眺めていた。

するとどうだ。えらいものを見つけてしまった。

PICT1985.jpg

この表はEL-12をドライブする推奨される前段の例なのだけれど、これを見ていたら「EF-12の三結」で行けそうな匂いがプンプン漂ってきたではないか。その後EF-12の規格表で改めて動作条件、諸元を絞り込んで見るとあらゆる点で合点が行くことが分かった。

何といっても、「EF-12」ならば元々このアンプに使われていた球だからソケットなどそのまま使えて正に願ったり、叶ったりである。

捨てる神あれば拾う神ありで、諦めずに追いかければ何時か想いは叶うということか?
でもね、ダメな時はどうしたってダメな場合だって多い。今回はまだ幸運に守られているということだろう。


いつまで続くか、この幸運??










AD-1pp シャーシと部品の発掘?

過去に、ドイツの工業界は成熟しており、ある部品がディスコンになってもきちんと互換が保たれた後継機が用意されていることも多い。という記事を書いた。(まあ、逆の意味ではブレイクスルーが少なく、製品にイノベーションが少ないのは確かだけれど、目新しさを追いかけて頻繁に使い捨てる社会構造とどちらが本当のユーザーベネフィットだろうか?と思うことも多い・・・職業病的な話で失礼)

代表的な例では、
ライカ(Leica)カメラなどで、今日買ってきたデジタル式のボディに80年前のスクリュー・レンズが何食わぬ顔で使えるといった具合だ。


長いあいだ気になっていたのだが、戦争直後の主力出力管は「EL-12(ヒーター6.3v)」なのだけれどこれは戦前開発の「AL-4(ヒーター4v)」の進化系と言えるように思える。
そして、この「AL-4」は戦前の主力である三極管の「AD-1」の代替えと言って差し支えないほどこちらも動作条件が近しい。
(ヒーターが4vでソケットがサイドコンタクト。+Bと推奨負荷が同一、外見までそっくりだ)

後継機の球が先代のシャーシや部品のまま差し替え可能なら
その逆・・・つまり時代を遡って古い球を新しいアンプに差し替えも可能じゃないかとずっと考えていた。

今回AD-1が使えるのでは?とその候補に上げたのが、僕が初めて手にしたKlangfilm製のアンプ「KL-V401(1949年製造)」だ。

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「EL-12」のPPで出力トランスはA-A間4.5k。AD-1のA級時の負荷が2.3kだからPPでピッタリ

電源トランスは320vX2のタップが有りこれは295vのAD-1にはちょい高いようだが、実はオリジナルのTelefunken製AD-1アンプでも320vのトランスを使い、75Ωのドロッパー抵抗で調整しているのでこれも同じ流れを汲んでいるようだ。
さすが規格統一に厳しいドイツ製だ。助かる。(ちなみに日本のトランスも260-280-320vと言う伝統的な系列を踏襲している。抵抗の値が240kとか470kとか歯切れの悪い数字なのに似ている)

さて、いよいよ最大の問題であるヒーター4vをどうやって取るか!になる。

ここでも、上で立てた仮説を裏付けるような見事な解決策が用意されていた。
DCP_0050_convert_20090527121340.jpg

数年前のメンテ前のバッチイ写真で恐縮だが
ここに3個並んだトランスの左端はチョークコイル、右端が上で述べた320vの高圧電源トランスだ。

そして、今回のハイライトと言えるのが真ん中のやつで、独立したヒータートランスである。昭和24年の同じ敗戦国の製造だというのに随分と金の掛かった機械じゃわい。

さっそくタップの電圧を調べてみたところ・・・
6.3vCTが2系統
そしてなんと 4vが3系統ある!!

このアンプは整流管(RGN-2504)以外は全て6.3v管なのに何故こんなにも沢山の4vタップがあったのだろうか。

異なるソケットを付け替えできる沢山のネジ穴や、トッププレートのキャップを出すための穴が空いている事を見てもある程度の汎用性を持たせたシャーシであり、少数注文生産だったであろう1949年という時代の事情を反映しているに違いあるまい。

結局、そうした時代の後押しもあって 2本の出力管は独立したバイアス回路を与えることができた。
もう一つの4vは当然整流管に使う。

そうなると、エキサイターは6.3v管で決まりだ。実にすっきりした気分で次へ進める。








改めて AD-1pp アンプのスタート

広帯域アンプを作るに当たって使う出力管だけは決まっていた。
理由は簡単。
ストックが5本有ったから・・・

あとは回路だが、制作の主旨である「広帯域化」を果たすために力を注ぎたいし、同じ球(プロング違い)を使っているKlangfilmの純正Europaアンプとは差別化を図りたい。
ということで、これも昔むかしから実現したかった回路にあっさり決定した。


30年間穴が空くほど眺めて来たTelefunkenのタッシェンブックにはAD-1の使用法としてA級シングル動作とプッシュプルはAB級が載っている。
この球のpp使用例は数種類あるけれど何れもAB級であってどうもその様に使われていたらしい。

ここでアマチュア根性丸出しで純A級のppとしても良いのかもしれないが、「そうはしないのが俺のいいところ」などと一人言をいって90%のAB級を想定してロードラインを引いてみた。

PICT1970.jpg

実はこのラインは「無」からひねり出した訳ではない。
カソード抵抗に使えそうなドイツ製の巻線抵抗やA-A間4.5kΩの出力トランスなど手持ちの部品の中から使えそうな物のデータを当てはめて必然的に出現したラインなんだ。
すなわち死蔵品の有効利用ってことです。

でもこのラインを見ると95%以上A級で動きそうだ(120dBと言われている家のスピーカー相手だから死ぬまでA級領域しか”使えない”だろう)し、電源トランスも利用できるのがありそうだ。

ということで、実に都合の良い、辻褄の合った幸先の良いスタートを切ったわけです。






お久しぶりの「広帯域化計画」  着々

恐らく、最初に新しいアンプの構想に言及した記事はこれだと思う。
日付をみると昨年の8月。
その続報が今日だから我ながら随分とのんびりした人生だと感心してしまう。

おかげ様で昨年の後半はずっとご依頼のメンテをしてきて、自分の時間が取れなかったのは勿論ありがたいことなのだが、その反動で12月からは(一応)頑張って作業を進めて来た。

自分の為のアンプを作るのは、もう20年振りになるのだけれど時間をかけて色々と頭を悩ませて検討した結果、笑っちゃう事に前に作った「AD-1シングル」を2階建てにして「AD-1pp」になっただけという・・・

DSC01664.jpg
このアンプの一番昔の写真で思い出を留めておこう。(ただし解体した訳ではないので、いつでも使える)


昨晩、1台目を上げて簡単に一通りの測定を行った。ありがたくも当初の見込みに近いものができたと思う。
少しづつその様子を記事に挙げて行きたい。

今回のプロジェクト(笑)は始めから幸運というか、理屈通りに進んでくれて予想以上に順調に楽しく組み立てることができたから、ちょっとウキウキしている。

でも「好事摩多し」でこんな時の心のスキマが危険なんだよねえ。気を付けよ。