2012年09月 Der Klang vom Theater (ドイツ~劇場の音と音楽)
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QUAD ESL 雄弁なジョンブル

ESL-57ともう一週間ほど付き合ってみて、前記事の世評と異なる見解に引き続き今回は「やっぱりそうか」という項目について書いていこう。

世評通りだったこと その1

たぶん、だけれど使い方は難しいと言うのか、要素の変化に過敏な為に自分をしっかり持って取り組まなければふんわりとした音の印象に終始してしまうかも知れない。

先年惜しまれつつ夭逝された評論家の浅沼予史宏先生は編集子時代にこのESL-57をお使いになっていた時期があり、その当時のことを後年振り返って

「ESLを使うという事は、まるでMr.ピーター・ウォーカーとチェスをしているようだった」という名言と共に語られたそうだ。

こうしたら・・・そうくるか・・・おっとこう来やがったな・・・これでどうだ!


ちょっと使っただけなので決して偉そうなことは言えないが、けだし名言だと思う。

現在はマニュアルに沿って一辺2.5mの正三角形の一方の頂点に自分を置き、後の壁からは4mほど離している。(途中にEuropaあり)
そんな「フリースタンディング」丸出しの設置環境なのに1cmの前後で驚異的に印象が変わる。

詳細は後述するが、波形の特質で指向性が悪いので設置角度のわずかなズレが再生音の品位にダイレクトに悪影響を及ぼす。

また、スピーカー自体では響きが少ない(箱無いし)のは当然として、少しでも室内全体に響を行渡らせようと思ってちょっと上げてみたらテキメンに豊かに唄いだした。もう少し何とか成るかな?
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世評通りだったこと、その2

ブレナー型スピーカーはそよそよとスピーカーの奥深くに音像が定位して・・・云々かんぬん・・・まあ、こんなイメージだろうか。
しかし、昔からESL-57は音が前に出るよ!と言われていた。>>これは、全くその通り!!

一説には平面フィルムから放出される音波は「平面波」であり、これは奥行きを表現し難い(出来ない?)んだそうだ。
QUADもその点は気にかけていたようで次期作のESL-63からはなんだか難しいディレイ回路を入れて電気的に球面波を作り出すことに腐心した跡が伺える。

これまでの記事の通り、奥行きを表現する事に狂信的?に取組んできた僕としては、知識はあったけれどさすがにこんな近くでステージを感じる事は稀なので大層面食らった。

こんな性格も、器楽曲や室内楽に向いているという世評の根拠かもしれない。
確かにチェンバロの軽々しく発音する様や、ヴォーカルの唇の内側までの湿度を感じるような表情は評判通りだった。

一方、演者が多く音の重なりが複雑で、かつ発音エリアの広大なオペラは苦手なのではと思っていたが・・・
Europaでは楽しく再生できなかった名演が実によく聴こえる。
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我らがチュートン期待のティーレマンが2009年のバイロイトで振ったリング。
たしかにステージまでの距離は近い事は近いんだけど会場のほの暗さ、ステージ上の明るさの対比までも感じられるよう。

大好きな「ジークフリート」のDisc4まで来た。スピーカーの個性が増えることで愛聴盤が増えたなあ。
ありがいことだ。






QUAD ESL スノビッシュな気分

一言で申して変わったスピーカーである。

まずは見た目が変だ。
イームズだかバウハウスとかの高度成長時代ぽい外見だ。実のところこの機械の持つややスノビッシュな空気感があまり好きではなかった。

がっつりオーディオに向き合わずに「すかしてやんな」って思っていたから。
でも、その成り立ちなどを知る内に、これは充分肉食なスピーカーだと知って気持ちに変化がでてきたわけ。


このESL57はその名前からも伝わるように、まだモノラルレコードが全盛の時代に産み落とされた「異相の木」であり何十年間も時代を先取りした「ぶっ飛んだ」スピーカーだったことと思う。
そのせいだろう、いにしえの時代より数々の逸話を身にまとっている。

風説はそれこそ山のように語られているけれど、他人の話と言うのは実際に見てみないことにはどうにも信用のおけないものだ。
そこで、雑誌などで伝え聞いた逸話が我が家でもその通りだったのか当って見ようと思う。

ただし、まだ3日目だし、自分自身何も掴んではいないので初見の印象と言うことで(今後手のひらを返すかもしれないが)ご勘弁頂きたい。


まずは違った事・その1

まず始めにESLタイプは、チリチリと繊細な音をたてて小編成やギター、チェンバロの音がきれい。ってやつ。よく見聞きしますね。

今日現在我が家で聴ける音は、ビックリのピラミッドバランス!逞しいマッチョな音なんです。
今はZeissのアンプ(周波数特性はかなりフラット)を使ってCDを聴いているのでこれはスピーカーの性格が強いと考えられる。

しかし、聴き始めた直後は世評通りの印象も無きにしも非ずだった。
その後、簡単にだけどメンテっぽい事をしたり、電源の取り方を考えたりした末にマッチョな感想につながる音になってきた。したがってこの世に存在する全てのESLにはマッチョという印象は当てはまらないかも知れない。


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見事な意匠の前面パネル。ストーブと揶揄される由縁だ。


違った事・その2

駆動するパワーアンプに厳しい!・・・・ちっとも!!

ESL57のマニュアルにある接続図のイラストには、ハッキリそれと分かるQUADⅡ型パワーアンプに繋がっている様子が書かれている。Ⅱ型はKT-66ppで15W 程の出力を持つかわいらしい真空管アンプだ。

現用のZeissも14W(CP)程で、またAD1シングル(4W弱)でも特段問題なく使用できる。

実はこの点が初代ESL-57を特徴付け、ESL-63を始めとして他のメーカーのも含めた後続のコンデンサー型と決定的に異なる点であり、最終的にESL-57を選択した最大の理由。能率が96dB/mwもあるんです。これを知った時には本当にビックリした。

しかもZ=15Ωだから相当数の現行スピーカーよりアンプにとって(スペック上)はイージィな条件なのである。

ちょうど同郷のWestrex.Londonのトランジスタ型があったので凄く期待して繋いでみたが、負荷の変化に敏感なようで磐石な相性とはならなかった。
やはり出力トランスを背負ったアンプの方があきらかにマッチするようだ。
(言葉足らずなのでちょっと追加。QUADの50型や303型で使われている環境は多いと思うがこれは実験していない。できたらその実験もしたいと思っている)

(OPT付きの)Ⅱ型のアンプに繋ぐ前提で96dB が担保できる設計だとすると実に巧妙だし英知を感じると共に、スピーカーとパワーはセットで考えるべき。という持論を支持されたような気がしてうれしくもあった。

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今日はざっとこんなところで。

次回は世評の通り同じだったことなども・・・






「すぴーかー」買ったった。

新しい時代のホンモノに触れたおかげで、まさに「触発」されて新しいスピーカーが欲しくなった。ということを前回の記事に書いてからアチコチと探してみていた。

しかし、色々な条件=当然ながら金額であったり大きさや内容であったり。が、ぴりりとフィットする物件はそんなに簡単に見つかる訳も無く・・・
少し前の記事で「今から新規にセットを組むなら」という文を書いていたから本来的にはそのまま実現させるのがブログ主としての「良心」なんだけれど、QUADの新品は高すぎるし、中古のESLやESL-63は不良続出らしくて流石に腰が引ける。

そんな訳で、Europaの邪魔にならない大きさでEuropaに聴き劣りしないスピーカーを探すなんてミッションは殆ど頓挫して今回は諦めよう。気配が濃厚になったある日、昔なじみの元オーディオ店・今別業種の店舗に顔を出してみた。



そして、それはそこにあった。

これまで見てきたどの個体よりも状態が良く、心配なノイズ不良も現在のところ皆無だそうだ。

ただし、さすがに完動・美品ともなるとしゃれにならない値段が付いてる。
その場は早々に退散して帰宅後、メンテの方法や部品の手配についてググッてみたら何とか成りそうな気配。

次の日に、なじみの看板娘に冗談ぽく聞いて見た。

「これ買うときには、少しは手心加えてくれる?」
「○○○○○○○○○」(ご迷惑がかかるといけないので伏字)

「・・・(なんと)・・・悪いけど今からチャージしておいてくれる?明日また来るからね。問題無ければ買うね」
といって数分で商談成立。
一晩たってノイズの確認に行ったら、大丈夫だったのでお支払いをして持って帰った。

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と言うことで、現在我が家でチャージ続行中。
今日の夜には、音出しができそうだ。

そんなわけでまだ音は聴いていない。

だから、次回に続く。




ヴィンテージ・オーディオの醍醐味 完結編

さて、Westrexのトランジスタ・アンプはどうやら正しい道を歩み出したようで、ようやく音楽を語り始めた。

当初は部品の耐圧を気にしながら(これも今から考えると20v程度なので「高圧」ってこともなかった)自分が起きている昼間だけ通電していた、
この頃の音の印象は「ややうるさい」気がしたが、実際に組み合わせるスピーカーの性格が分からないので今出ている音なんでのは完璧スルー。

その後信頼を勝ち得てから昼夜を問わず通電したところ、3日くらいで活き活きとした表情に変わった。
これで本当の「やれやれ」である。

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ちょっと見え難いが、2700μFが3本と1500μFが1本。現代の常識からすると大して大容量ではないのだろうが。



実は、このアンプのメンテの途中で、人さまの手に渡るかも?と言う話が持ち上がった事がある。

600Ωのプリアウトを持つ前段をたまたま入手したがそれを受けるパワーアンプが無く。
1970年代のスピーカーを使っているが十全に鳴らしきるアンプも模索すべき条件が重なって、こうした2つの要素に合致するアンプとしてこのWestrexのアンプがジャスト・フィットする事は疑問の余地無く確信できた。

このカップリングは結局まとまらずに終わったが、2セットとも手元に残すというオーナーの判断には大賛成だけれど再生音の面だけで考えれば惜しい別れだったと思っている。


でも・・・
このアンプを手にして普通に8Ωや15Ωのスピーカーを繋いだ時点での音の悪さを耳にしただけなら、どれ程の人がこれを使い続けようと思うだろうか?

気の強い人なら「音が悪い」と言って付き返すだろうし(それなら幾らでもやり様があるが)、気の弱い人なら我慢して手元に残しても、結局使わずにほとぼりの冷めたころ「ヤフオク」に出してしまうかもしれない。
そうして一人歩きを始めたアンプは今後二度と正しい使われ方をすることなく多くの人の手を渡り歩いて「名前だけ立派でも音は最低」だとか「やっぱりトランジスタはゴミ」といったトンチンカンな評価を身に付けて消えていくという顛末を迎えただろう。
世の中にはそうした運命を辿って破棄されたヴィンテージ機器が星の数ほどあると思う。


現行の民生機であればこんな心配もなく、どの組み合わせで、どんな使い方をしても一定の成果を発揮できるように作られている。
しかし、ヴィンテージ、加えて業務用途の機械は正しい使い方を発見できなければ悲惨な結果が待っている。
それでも本当のホンモノは条件さえ揃えば他の追随を許さぬ突き抜けたポテンシャルを発揮することもまた、紛れも無い事実だと思う。

その失敗の危うさと、成功時に得る物の偉大さこそが「ヴィンテージ・オーディオの醍醐味」だと僕は思うのです。

いつも試聴をしてモノを買ったことが無い。と書いていますがヴィンテージオーディオでは上記の通りメンテナンス前の音なんてのは全く摂るに足らないものですし、その機械のポテンシャルが大きければ大きいほど引き出すのに何年も掛かるのが当然だと思っているからです。

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基準の1kHz。これだけ見ても素直さは充分伝わると思う。正に「Westrex」なんですね。新しくても。


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10kHz これをどう見るか?トランス入りなので少しナマルことは確か。しかしトランス無しの音は・・・



さて、こうして結果的には大団円をむかえることになったのだが、一つ想定外の大きな問題を個人的に抱え込んでしまった。

試運転の為に使っている日本Victor製の10cmくらいのフルレンジから出てくる音が「とんでもなく」魅力的なのだ。
まさに現代のレンジとレスポンスを見せており、Europaで幾ら「広帯域」を力んでも全く別世界の魅力がある。

どうしよう!!
小さくても良いから新しい時代のスピーカーが欲しくなってしまった。

ぐぐったり、ヤフッたりする日々を過ごしています。





ヴィンテージ・オーディオの醍醐味か?

人の好きずきではあるが古いもの、懐かしい物にある種の郷愁を感じる方もおられる。
しかし、その古さの認識は些か曖昧なものでオーディオの世界でも最近随分と新しい機械もヴィンテージの仲間入りをするようになり、3~40年ほど前に作られた物も「古い機械」として扱われているらしい。

前回から取り上げている「Westrex London LTD」の劇場用アンプも正にこの時代、1970年前後に作られたものと思う。
これを縁あってメンテする機会に恵まれ、不動状態から何とか音の出るように修理をし、第一声を聴くまでにたどり着いた辺りが前回の記事だが、その音たるや世にも恐ろしげなものでモコモコ言っているだけで音楽にならない。
簡単に音出し前の状況を取り上げておくと・・・

・周波数特性を測ると高域は充分実用。しかし低域が薄くてこれでは使えない。(下図中上側のグラフ参照)
・そこで入力側にネットワークを入れて低域上昇⇒フラット・レスポンスを確保。
こうして静特性上ではフラットにしたのだが、全く音に成らないとは、如何なる訳ぞや??

原因1

上述したように、1970年代のアンプであるので、如何にWestrexであろうと如何に劇場用途であろうとも負荷インピーダンスは8Ω程度だろうと踏んで、とりあえずお試しのスピーカーは実家でカラオケ用に使っている6Ωの10cmくらいのフルレンジを使用してみた。8Ωのスピーカーは手元になかったのだけれど自分の知る限りトランジスタアンプは6Ωでも8Ωでも、よしんば16Ωだって音の変化は無いとの認識だったから良かろうとの判断。その結果が上記のモコモコ音。

特性上は問題が無いのに・・・何故?と途方にくれていたとき
以前に使っていた「Vitavox」社の可搬用モニターはスピーカーシステムとしては15Ωだが、トランスを使って100Ωの受けにされていたのを思い出した。
DCP_0407_convert_20090630094106.jpg

マッチング・トランスを引っ張り出してきて100Ω相当の負荷を無理やり作ってみた。
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未だトランジスタアンプなら負荷インピーダンスで特性が変わるなんて考えてなかったので、実は少し訝しげな気持ちのまま再度音出し。

おやまあ!というほどあっさりフラット・レスポンス。(下側のグラフ参照。これは200Ωの固定抵抗を負荷)
苦労して設定した低域増強用のネットワークはもちろん全て外しての測定。
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これでホッと安堵の胸を撫で下ろした訳だが、改めて思い返せばただ幸運に守られて薄氷を渡るような結果であり、随分お待たせして申し訳ない上にギプアップ寸前だったわけで冷や汗ものだった。


とりあえず。
これでやっと音楽を聴く事ができるぞ。  で、以下も続く。







ヴィンテージ・オーディオの醍醐味

以前の記事で、「Westrex.London LTD」のアンプ群のメンテをお受けしたことを書いているが、暑い夏を乗り越えてお盆の頃から火入れを始めて3週間ほど経過したので中間報告を上げておきたいと思う。

動作電圧は240vなので、スタートは100vから・・・150v、200v、220v、240vと上げて来たが、よくよく考えるとDC電圧はもともと20v前後なのであまり意味は無かったかもしれない。DC400v近辺で動かす真空管アンプの癖と思って勘弁願いたい。

まあ、電解Cの容量が桁違いに大きい為に面食らってしまってチャージにはとても気を使っていたということ。

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入出力端子を付けて各種特性の測定も行っていよいよ音出しになる。

入力はトランスの600Ω受け。ナリは小さくてもトランジスタに移ってもWESTREXはやっぱりWESTREXということ。

さて、これは庭先の水道でゴシゴシ洗ってサビ取り&サビ止め処理を行っていた頃の写真。
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すっかりお化粧も済んで「WESTREX」のバッジも光っている。
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さて、実際にスピーカーを繋げて音出しを始めたのは9月に少し入ってから・・・
本来は8時間通電で1ヶ月ほど後に各部の監査をしたいところだが、時間が許されるかどうか?



第一声が出たときには・・・

オーナーさんに「某国よりミサイルが飛来して爆破された」と報告しようと思ったくらい。なんじゃこりゃあ~!!だった。

その後数日でどうにかなったのか?
以下は次回ということで・・・