2012年08月 Der Klang vom Theater (ドイツ~劇場の音と音楽)
FC2ブログ

ふたたび歩み始めた UESUGI研究所 

1971年創業なので、今年は創業41年になるそうだ。

堅実な部品の選定、高信頼の設計、極めて実質的な価格設定と充実したアフターサービスをもって、正に日本を代表する真空管アンプメーカーのひとつである。

その名門の領主たる創業者の上杉佳朗氏は40周年を目前にした2010年12月9日に逝去された。
たくさんの関係者やユーザー、ファンの方の惜念の想いと共に今後の事も心配された方も多かっただろう。

そして翌2011年に、上杉氏が生前から後継者と請うておられた藤原伸夫氏が正式に開発の責任を受け継ぎ事業の継続が決まった。
こうして多くのUESUGIユーザー、ファンの方々は修理体制が再構築されたことと、新たな商品への期待と合いまりほっと胸を撫で下ろされたことだろうと思う。



さて、先頃のある日その藤原氏から突然ご連絡を頂き近々に長野で仕事の折に・・・との事で我があばら家に起こし頂いたのが昨日のことである。

私の方は雑誌の記事などで当然存じ上げていたし、その記事から以前務めていた会社の先輩である事も知っていたが在籍中は仕事上の繋がりが無かったから少々驚きつつ、こちらこそ是非にとお出で頂くことをお願いしたのです。

いよいよお見えになってそんな事をお伝えするとお互いに懐かしさもあり昔話に花が咲き、またオーディオ全般の造詣の深さと情熱をお持ちの方で貴重なお話を沢山聞かせて頂いた。

PICT1509.jpg
上記の詳細は「ステレオ・サウンド誌 No180」に詳しい。写真は抜粋した冊子より。



実の処、在職中は評論家の高名な先生たちと仕事をさせていただく機会があっても「仕事」だからと特に緊張も感じずにご一緒していたけれど、今回のように自宅に起こし頂いたら当然音もお聞き頂いて・・・と思うとこの一週間ほどは柄に無く部屋の掃除を何時もより念入りにしたりコネクタの接点を拭ったりと緊張した日々を過ごした。

まあ、皆さんご期待の通り大変に気さくな方であったばかりでなく、時に踏み込んだお話になった際にも寛大にご意見を述べて頂けたように思い感謝に絶えません。

残念ながら、技術的な面や事業的な面の内容の全てをブログ上で詳らかにする事は出来ないが、これからも折につけその主旨や想いをここでお伝えできれば良いと思っています。今日は備忘も兼ねて箇条書きに書き留めて置きたい。


・UESUGI研究所については、いちオーディオ好きとして長年伺いたかった質問をして丁寧にお答え頂いた。
オーディオ雑誌の記事を書くライターとしては上出来な仕事かもしれないが、私の立場では過ぎるほどお伺いすることができたし、生意気にも私の想いというか願いのようなものも聞いて頂き幸せでした。


・UESUGI製品は創業以来1万台以上の商品を販売されているが、その殆どが現存しており更に大変丁寧に扱われていてキレイな状態で使われているそうです。
確かにアンプ群の外見からもそうした付き合い方をしたくなる品であると思えるし、ユーザーとなる方たちに共通な性格の細やかさがあるのではないかと思った次第。


・全く別の海外メーカーだが、ある機器の可変要素の詳細なデータを頂いた。これは全く貴重なもので20年以上も前にこのような方法が存在することだけをウワサで聞いた事があったけれど現物が目の前に現れるとは夢にも思っていなかったものだ。感謝。感謝です。


・その他オーディオ全般に渡ってご教授頂いたが、
演奏者が二人、三人・・・と増えて行くときに音量の変化ではなくエントロピーが増していく。だからフルオーケストラやオペラといった演者の多い楽曲の再生はオーディオ機器にとって厳しい条件になっていくんだ。

この点は私たち二人の意見が正にシンクロした点で、前回の記事に書いた「音響の総エネルギー」という単語をお使いになったのでビックリした。
しかも私は面積でと表現したのに対して、特にスピーカーでは立方体の「体積で」と表現されていたのが印象的だった。ファクターを一つ多く捉えているようで参考にさせて頂こうと思った。


・藤原氏の全身から醸し出される雰囲気はとても「技術者」とは思えなかった。増して、使いこなしとか音の変化の理屈のようなマニアックな話も主体的には皆無だったように思う。

昔にBMWのテレビ広告で「当社の最高経営者は全て技術畑出身です」というのがあったが、そんなフレーズを思い出したことを告白したい。
秘めたヴァイタリティ、渉外能力に長けた趣味人。故上杉氏はそんな方に船頭を渡したかったのだろうなあ?などと出しゃばったことを考えた一日となりました。


まま、このようには全て書ききれないので、少しづつでも書き綴って行こうと思う。

次回は横浜にお邪魔させて頂くように予定いたします。今後ともよろしくお願いします。








プッシュプル・アンプを作ろうと思ったわけ

当たり前の話で恐縮だが電話線を何千キロもケーブルだけで引き回すと、ケーブルの抵抗分や容量の影響を受けて長くなるほど通話を聞き取り難くなるのはご想像の通り。
そこでケーブルの途中にアンプを設けて減衰した分を増幅して繋ぐ目的の所謂「中継器」を挟むことになる。
その為にWE100シリーズのような高効率、長寿命の真空管を使ったアンプ(中継器)が作られて、時には海底に何年も沈められたまま粛々と私たちの通話を縁の下から支えてくれている。ドイツでの「ポスト・チューブ」というのも同じ目的だろうか。その親分が有名な「ED管」だ。

即ち、音響エネルギーを活性化する為には電源装置からエネルギーを受け取る必要があることが分かるお話。


・プリアンプか?パッシブ・フェーダーが良いか?
・プリメインアンプよりセパレートアンプは優れているか?
・同じくモノアンプは?
こうした話は沢山あるが、いずれも閉回路中の電源ユニットの個数が増えていく=グレードアップと見られている。
(しかし、システム全体のゲインや効率を含めて検討しなければ単純に優劣は語れないと思う。念のため。)

最近あるサイトを見ていて発見したが(プロケーブルさんというその筋では有名なサイトらしく、下のHさんから教えてもらった)
PCからデジタル信号を出してエアーマックEXをDAC替わりに使う際に、接続するLANケーブルの途中に電源付きのハブを入れると良いと書いてあった。
不思議だというむきもあったが、冒頭の話を見れば80-90年も前から実施されていた手法と何も変わりは無い。
扱う信号がデジタルになろうと、電話が空中を飛ぼうと音声信号を扱う根っこの理論は些かの変わりもないということだ。



実はこんなことを書き出しにもってきたのには少し前にキッカケがあった。
Hさんのお宅にお邪魔して何気ない会話をしていたときのこと

DSC01508.jpg


「オーケストラが大音量でワーッと鳴っている時に、チェロバスが入ってくるような局面ではそのアンプやスピーカーの底力が見えるよね」
と言うようなことを仰った。

これにはまいった
CDやレコードに入っている「ある瞬間の音響エネルギーの総和」よりもアンプの増幅能力やスピーカーの出力能力が下回っていると「こじんまり」した音楽になっちゃうよね。ってことだと思う。

特に低音域ではより大きな音響エネルギーが必要とされるから、正弦波で測定した時の特性やピンクノイズでのアンプの挙動よりも厳しい動作状況が容易に想像できるし、室内のエアーヴォリュームの影響も受ける。

アンプの出力が完全に息切れを起こしたときにはクリップしてしまうから逆に不具合は判りやすいが、オーケストラのトゥッティで「なんとなく吹き上がらない」なんて不満に感じる場合もあるだろう。
また、わが家のような小音量再生(ffで85dBくらい、ピークで90dB程)の環境ならこの問題は表れ難いのかと言うと、それほど簡単ではないほどに音響エネルギーは強大のようだ。



現在AD-1シングルアンプの出力管のアノード電流はA級動作のインスペクション通りであるから、これを2階建てにしたA級プッシュプルでは単純に2倍になる。
これで、エネルギーの総和を倍近くにできるのなら、折り重なりあうオーケストラの各楽器をより緻密に描けるのではないかと言う目論見だ。
そうは言っても、実出力はシングルだろうとプッシュだろうと変わりは無いのだが・・・  
と割り切らずに電流の増加がエネルギーの増加と信じたい気持ちもある。


もちろん、現在もKl-32611(出力管のKL-72406は 直熱三極管AD-1を業務用に規格を上げてソケットを変更したモデルでプッシュプル駆動)というEuropa専用のアンプで文句の無い成果を得てはいるが、これは戦前のアンプであって周波数帯域はそれなりに狭い。
このところ追いかけている70年代以降の録音を対象とした「広帯域システム」のプランの中にはより広い帯域を持ったアンプを是非欲しいと思っている。

AD1-sアンプの帯域や繊細さを持ったままKl-32611アンプと同等の描写が出きるなら夢のアンプが出来てしまうが、そんなことは本当に可能なのだろうか?


つづく




シングルか?プッシュプルか?

ことに真空管、それも直熱三極管アンプにおいては長いこと論争の的になっている問題ですね。

前々回の記事で、
これまで新しい録音の再生時に主力としていたAD-1シングルアンプだったが、ひょんなことからプッシュのアンプに切り替えてみて望外の好結果を得た事を報告しました。

改めて考えるとそんな行動に出たそもそもの発端は名古屋のマニアのお宅で聴いた音が頭に残っていた為だと思う。

恐ろしいまでの解像度とエッジの利いた音像が広大なステージの中に点在する様は、最近はすっかり日和な音を聞いている自分の脳に強烈なキックが入るような素晴らしい音だったので我が家の音に刺激が欲しかったのだと思う。



それから時間を掛けて双方を腰を落ち着けて聞いた、この辺りで一旦自分の中の「シングル&プッシュ問題」を纏めておこうと思う。
ただし、ホンの僅かな周波数レスポンスの差異で音の印象は真逆にも感じるので、自分の頭の中でその点を補完して出音の傾向だけを抽出して考えてみた。
(注笑)我が家の手持ちのアンプとその他のシステムによる印象であって、世界標準を確立したいと狙っているわけではない事をお断りしておく。

まずは慣れ親しんだシングルの印象を少し。

・音像はエッジーで辛口な音かな?(シングルが辛口という表現は良く聞くけれど、低音の押しが弱い。と同意語なので注意深く捉えたい)
・ステージは比較的手前からスタートする。
・ステージが明るくて清潔感がある。(この表現はステレオ・サウンド誌の受け売りだけれど、秀逸だと思う)

全体的には精々としたステージに鮮度の高いキリリとした音像が点在するって感じかしら。


対してプッシュの印象も

・ステージの前縁自体が奥から始まるので深々とした印象
・ステージ上に存在する楽器と楽器の間の空間は、透明と言うよりもある筈の空気があるという感じ
・内声部もあやふやにしないで力があるおかげで、全体の構成を立体的に表現できる?

音像(楽器の音)そのものを云々するよりも演奏の場全体の環境を込みで聞かせてくれるから、トータルで「深み」とか「悠々」と言った表現が似つかわしいと思うが、その辺りの根拠が世間で言われるように
・2個(以上の)素子で増幅した信号を最後に合成することによる「ニジミ」なのか?故にシングルはすっきり聞こえるのか?など、自分にははっきりと言い切る事ができない。

05+401_convert_20120802153822.jpg


さて、御託を並べていてもしようが無いので今後の方針を決めてみた。

もう何年も前から構想していたアンプを実際に着手してみよう。
2台のA級シングルアンプを上下反転して最後に合成させるプッシュアンプだ。

20年ほど昔にWE VT-52を使って組んでみてとても惚れていたアンプだが直ぐに人手に渡って以来この方式からはご無沙汰している。
確かに、大変な電源の規模になるのに僅かな出力しか望めないわけで賢い企業ならば最初にお蔵入りにする案だろう。無駄すら贅沢と曲解できる素人ならではの逸品ではないか?

今ならこれまでに取り溜めたパーツでなんとか2台分を作れそうな気がするし、今後30年の老後の楽しみに取組むには相手にして不足なしという代物だ。



おおまかなラインナップは随分前に決めている。
シャーシになる原型のアンプも手元にある。
ゆっくりと形にしてゆきたい。