2011年06月 Der Klang vom Theater (ドイツ~劇場の音と音楽)
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今日は、音の無い「無音」について

運転免許を取立ての頃、走行時のノイズの大きな昔の車のカーステでは、静かな場面の多いクラシックはとても聞けたもので無いと思い知りました。
対して、ロックやポップスのような連続して一定の音量でリズムを刻む曲は車の中でも聞きやすく、まあクラシックが若い人に受けるはずもないということも理解できました。


さて、今日は、絶対的に音のしない「無音」について考えてみます。
というか、それが当たり前なんですけどね。「無音」なんですから。


Hさんのコメントには、
CDの出現によって「これで ドビュッシーのピアノ曲がやっと聴ける」と安堵した。
と、ありました。

以前のロマン派の音楽に比べて、近代フランスの作品は静寂や間を上手く利用して曲想を高める仕掛けが施されているものが多く、静と動の対比をより極めているように感じます。
詳しくは専門家に任せるべきですが、新しい時代の音楽家は、より自由な表現を求めて調性の拡張・簡略化等、伝統的な様式からの開放を進めていったことと無関係ではないように思います。


コメントのやり取りの中でも書いたのですが、CDのような「音のない無音」をベースにアタックが立ち上がったり、消え入る音を表現できる現代のオーディオは、正にドビュッシーのピアノにはピッタリでしょうね。
そして、僕はCDのこの特徴を考えるときはいつも、高額な植物図鑑に載っている「ボタニカルアート」の挿絵を思い出します。

kakuta.jpg

形も色も精密で正確無比ですし、バックグラウンドは常に白バックです。

まさに、空間にポッと花が浮かび上がる感じがCDをはじめとする現代の高性能オーディオの提示する音像に共通したものがあると思います。
その空間こそは、まさしく「無」の空間で、言ってみれば宇宙空間に浮かんだピアノが旋律を謳いだしたり、そこに溶け込んで消えてゆきます。

ラヴェルやドビュッシーの器楽曲にこれ程ふさわしいフィールドがあるでしょうか。
もし、空中に浮くピアノではなくステージの床の上に置いてあるピアノを再現しようとすると、その床にはもしかしたら傷があるかもしれないし、ゴミも落ちているかもしれない。
そんなホールはエアコンも古いから、気にすれば気になる雑音も聞こえてくるでしょう。

19世紀のホールに比べたら現代のホールは色々な意味で良く出来ているはずです。オーディオも劇場も時代の変化と共に進化を続けて行くのです。

Hさんは、静寂を獲得した替わりに失ったものもあるかもしれないと仰っていましたが、僕はそんなことはないと思いますよ。
Hさんは体質的にノイジーな物がNGということでしたが、むしろ進化した現代のものを積極的に嗜好する人の方が圧倒的に多いのですから、それを推し進めてこれまでにない良質なものを作り出して行くべきだと思います。

一方、生活のために、紫煙の立ち込めるカフェや酒場でピアノを弾いていたエリック・サティの曲などは余りにアカデミックに傾きすぎないように聴くべきなのかもしれませんね。
これはオーディオの性能とは別に、聞き手と楽曲との付き合い方の問題だと思います。 いやーー、深い。実に深い。





無音の音という意味ではもう一点、是非挙げておきたい部分があります。

人類史上最も有名な楽曲のひとつでもある ベートーヴェンの交響曲第五番 の冒頭部分です。
俗に運命はかく扉を叩くと言われる、「ダダダ・ダーン」のテーマですが、楽譜を見ると・・・

2010121916090953d.jpg

先頭の八分休符を初めて見たときには大げさに言って、半日は固まっていました。
宇宙の果てや、海の底ですら人類は知らないことが多いけれど、人間の脳の可能性だってまだまだ先が見えないと思いました。それくらい衝撃を受けた八分休符です。



上譜の通り、先頭には八分休符が存在し、「ん!・ダダダ・ダーン」という形になっています。

当然 四分の二拍子ですから、八分音符が3つなら一つ分余るのでその穴埋めに八分休符で埋めておいたとデジタル(計算ずく)な見方も出来るでしょう。

でも、二拍子の振り始めに半拍置いてフォルテシモスタートですよ!!!!お互い登り詰めてバクハツしかないでしょう。

溜めて、ためて爆発させるための八分休符ですから、このタメを作れないオーケストラはまだまだですし、この休符の空気を再生出来ないオーディオセットもまだまだってことになるのでしょうね。

結局は、出る音だけを捉えていーだのわるいだの言っても、何時までも決着は付かないんだよ。ということをベートーヴェンは200年も前に自ら作った曲に乗せて我々現代のオーディオ好きに教えてくれているんだと思う。



悲しいことに最も大切にしている演奏である、1947年、テタニア・パラスト館のライブ録音レコードが今我が家にありません。 このレコードを紹介されているメタボパパさんへのリンク

大戦後、ナチ裁判から晴れて自由を勝ち取ったフルトベングラーが演奏会に復帰した戦後初公演と伝わる名演中の名演です。
余りに緊張が過ぎて、2度目の「ダダダ・ダーン」でクラリネット(だったか?)奏者が堪えきれずに華々しいフライングを飾っている模様が克明に記録されています。

これを「演奏の傷、ミスのある不完全な演奏」とぬかした者がかつて居りました。
取り繕いの録音機材で録られた音を、こもっていて音が悪いといった者もおりました。

壊滅的に破壊されたベルリンにあって、ガレキを掻き分けて会場に通った人々の吸っていた空気がこのレコードには記録されているはずです。
会場内に充満する、戦争が終わったという実感、安堵、目の前のガレキの山、生きることへの不安、でも希望の光が射しているといった空気が感じられて仕方ありません。


上のサティと同じく1枚のレコードとどのように付き合うかは100%聴き手に委ねられているのがオーディオの奥深く、楽しいところですね。





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80’s洋楽を語ろう 1982年

POP'sの広大な海原にあっても黄金の時代と例えられる80年代にあってなお、82年からの3年間は特別な年となったようです。
ワインの世界で言うなら、「例外的に偉大なヴィンテージ」とでもなりましょうか。

ビルボードのチャートを見回しても、煌びやかで、後のちまでスタンダードとして名を残すべき名曲が多数ならんでいます。


一つの特徴として、キレイで爽やか系の曲が急増しています。日本でも杉山清隆とオメガトライブのような曲のヒットとも繋がっていそうですね。
経済成長がハッキリして、世の中の空気が明るく輝いていたことが良く窺われます。
今から考えると誠に羨ましい限りです。

エア・サプライ  「スウィート・ドリームス 」  「さよならロンリーラヴ」
シカゴ  「素直になれなくて」   
あまり爽やか系っぽくない TOTOの「ロザーナ」もこの年のヒット曲です。



もう一つ、これは個人的な思い出ですが、映画音楽の名曲も沢山ありました。

サヴァイヴァー  「アイ・オブ・ザ・タイガー」  ロッキーのテーマ
ジョーコッカー&ジェニファー・ワーンズ  「愛と青春の旅立ち」 

そして、女の子と始めて二人だけで見に行った映画が
ヴァンゲリス   「チャリオッツ・オブ・ファイアー」 炎のランナー



この作品は同年のアカデミー作品賞。
僕はハリウッド製のエンターテイメント映画は殆ど見たことが無いのだけれど、嘘っぱさばかりが鼻につくし、終わり方が中途半端というか、食い足りないものが多くてお尻がむず痒くなるんです。

それに比べ、この映画ときたらやり過ぎかもしれないくらいに造りこまれている。
冒頭と終幕に舞台を現代に戻すことでこの長大な物語が決して作り話ではなく、現代の現実の社会に継っていることを分からせてくれていて、何となく「ルパンⅢ世~カリオストロの城」を思わせる終わり方だ。



映画の主役は2人の選手だが、キーとなるアラブ人のコーチの存在が際立っている。

実は、この映画に出資した人物は、モハメド&ドゥディ・アルファイド父子。
プロデューサーのドゥディ氏はダイアナ元妃の恋人でパリの地下道の事故で一緒に亡くなった人物だ。

父のモハメドはエジプト出身の実業家で、英国の象徴とも言える「ハロッズ」を買収した大富豪。パリのリッツホテルや稲本選手の所属したイギリスのフラムFCのオーナーでもあった。

映画の中でも再三、イギリスの旧体制の考え方と異国人との確執が描かれている。
「水辺には近寄らせて貰えるが、水は飲ませてもらえない」(イスラエル系短距離選手、ハロルド・エイブラハムズ:1924年のパリ五輪 100m金メダリストのセリフ)




82年当時僕はまだ長野に住んでいて、週末には友人とよくテニスに行っていた。
長野市営の城山テニスコートで忘れられない思い出がある。

少し休んでいたら、近くに男女4人の若いグループがいて、テニスの後の予定を話していた。

「この後どうする?」
「食事をしたら映画でも見に行くか?炎のランナーって良さそうじゃない?」
「えー!?だってあの映画走るだけでしょ?飽きるじゃん。走るだけって」

おいおい、どこにひたすら走り続けるだけの映画があるものかい!
結果的に彼らがこの映画を見たかどうかは勿論分らない。だから、見ていたとしても感想は分らない。是非聞いてみたいとは思う。


逆に、この映画に影響を受けて服飾デザイナーになった後輩がいる。
ただし、あんなオーセンティックな服を作れる(それで経営の成り立つ)アパレルメーカーはラルフ・ローレン以外には幾つもないだろう。彼の就職したメーカーも今はもうない。

このように提供される映画はひとつでも受け手によって受け取り方は全く異なるものだ。改めて言うまでもないがこれは音楽やオーディオにもそのまま当てはまることだろう。
オーディオは同じ機械を使っても、使う人によって出てくる音は全く異なるものだから、インプレや試聴は何の役にも立たないことの証明になるはずだと思う。 賛同してくれる人は絶望的に少ないけれど。



1920年代の服飾や振る舞いはこの映画にも出演した、当時の「プリンス・オブ・ウエールズ」が今でも僕にとってのお行儀のお手本になっている。
つまり、何時までも時代遅れのカッコをしているということかもしれない。




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80’s洋楽を語ろう 1981年

年が開けて81年は驚くほど多くのヒット曲が生まれています。

恐らくですが、MTV等の新しいメディアが定着してきたことや、世界的に経済が上向いてきたことで売り手もお金をかけられるようになったし、購入側もたくさん買えるようになったのではないでしょうか。

日本国内においても、バブル経済の入口辺りになっていますね。

さて、この年のビルボードで目立ったアーティストは

ホール&オーツ
「キッス・マイ・リスト」
「プライベート・アイズ」

ジャーニー
「クライング・ナウ」
「ドントストップ・ビリーヴィン」

ポリス
「ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ」
「マジック」

エア・サプライ
「シーサイド・ラブ」
「ヒア・アイアム」

それぞれ2曲の大ヒットを送り込んでいます。



自分自身はまだ暗黒の学生時代なんで、個人的な思い出は僅かなのです。

POPSの歴史として今になってこの81年を振り返って見ると、確かにミュージックシーンのマーケットは急速に拡大しつつあるけれど、直後の栄光に向けてキリキリと力を貯めているという感じがします。



その中で、今日は2曲 新しい時代を感じさせる曲をご紹介します。

最初は、クリストファー・クロスの

「アーサーのテーマ」 (Best That You Can Do) 邦題は「ニューヨークシティ・セレナーデ」
始めてFMで聞いたときには Wooowって感じたのを良く覚えています。



その後、改めてクリップを見たときにも、(別の意味で)ワーオって思ったのも良く覚えています。



もう一曲、とても心惹かれたメロディーを持つ曲
キム・カーンズの

「ベティ・デイビスの瞳」



すごいなあーこんな曲があるんだって思った。

今にして思えばだけれど、これから「すごい時代」が始まるぞ!って予感させるような曲に思えて仕方ないのです。

この勢いのまま世界は、「怒涛の83年」に向かって歩を早めて行くのです。




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80’s洋楽を語ろう 1980年

「80’sを語ろう」なんていったって自分の思い出や思い入れを並べるだけの、はた迷惑なコーナーもいよいよ第2回目を迎えました。

実際には今回の1980年篇からがスタートです。

この年は世間で言うところの高3です。
まあ冗談抜きの暗黒の時代でしたよ。

男ばっかりの工業系5年制の学校で、大学受験から逃れられるという小さなメリットを選択したばかりに、正しい思春期を送れなかったという大きなデメリットを抱え込んでいた頃です。

愚痴は置いておいて、80年のビルボードからピックアップしてみましょうか。

ここ2,3年はまだ70’sの大物が元気でヒットチャートを牽引していた感がありますね。

クィーンが2曲
「愛という名の欲望」
「地獄へ道づれ」

ビリー・ジョエルも2曲
「ガラスのニューヨーク」
「ロックンロールが最高さ」

ジョン・レノン 「スターティング・オーバー」
スティーヴィー・ワンダー  、エルトン・ジョンなどもスマッシュヒットを飛ばしています。

また、イーグルス、ピンク・フロイドに混じって
ベット・ミドラー 「ローズ」のヒットは大姉御健在なり。を印象付けたようです。



さて、80年代というある意味での繁栄時代の扉を開く若いアーティストと思えるものは

クリストファー・クロス
「セイリング」 「風立ちぬ」 が何といっても急上昇赤丸つきって感じ。

他にはアイリーン・キャラ 「フェイム」あたりが目新しいのでしょうか?
やはり、全体的にはビックネームの活躍が目立つ「重量打線」の印象が強いです。


というわけで、時代の丁度移り変わる節目です。
その象徴として

ブロンディの 「コール・ミー」を前時代の名残という意味でご紹介します。
1975年結成後、79年にブレイクしましたが、その後メンバーの病気もあって1982年に活動を停止します。

結果的に70年代と80年代の黄金時代を繋ぐという、変革のタイミングにすっぽりハマったバンドだったような感じがします。



この曲は映画「アメリカン・ジゴロ」でも使われ、米英でNo1を獲得するビッグヒットになりました。
同じ頃は「アトミック」も良く聞いてましたね。

前回のボニー・タイラーにしろブロンディにしろ、ヴィジュアルはちょっと「エグ」過ぎでエディ・マーフィーの映画に出てくる○ー○ガールの様でした。


そして、この年の12月に、ジョン・レノンが凶弾に倒れるのです。
まさに、一つの時代の終を告げる事件であったと言えるかもしれません。




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80’s洋楽を語ろう  前哨戦

いつも素敵なブログで楽しませて頂いているambarさんのエントリーに NENAの「99 Luftballons」の紹介があって、思い出に火がついてしまってYouTube巡りをしたり手持ちのCDを引っ張り出して青春時代に想いを寄せておりました。

んでもって、色々とググッて調べているうちに、いっそのこと当時の個人的な思い入れのある曲を整理しておこうと思いつき本シリーズを始めます。
注)思いっきり不定期です((#^.^#)

毎年のビルボードをもとに順を追って語りますが、出典がマチマチであったりすることもあり、不備も多々予想されますが、訂正やご指摘があったらドンドンよせてください。

まずは、洋楽に始めて親しんだ70年代の最後尾からスタートします。



最初に、皆さん! 音楽を聞かれる最大の理由なんですが・・・

僕は、その曲を聞いていた時代の思い出と音楽は一緒に冷凍保存をしてあるので、
時が経ってある曲を耳にしたときに、リアルタイムで聞いていた時の思い出や楽しかった、辛かった出来事を、目の前に総天然色で、触ることの出来そうなくらい細密に再現してくれるからです。

この効能は、例えば音楽以外にも写真や日記などにも同様な力はあると思いますが、生々しさ、リアルさにおいて音楽に勝るものはないような気がしております。

この一点によって、音楽業界は世界共通で長い、長い間ビックビジネスで有り続けているのだと解釈しています。
それだけ、同じ思いの人が多いのだろうと思う。



おかしな話ですが、17,8歳の頃、音楽を聴いてリアルな郷愁を感じた事始めが、ミッシェル・ポルナレフで

「愛の休日」や
「愛の願い」

を聴いて、暗くなるまで遊んでいて「やっべー。怒られるぞ」と焦っていた幼稚園児の自分とその頃住んでいた街の風景が目の前にまざまざと提示されたことです。

自分では子供の頃にこれらの曲を聞いていた記憶はないのですが、いつかTVで耳にしたか、曲想に感化されて強い印象を持っていたのでしょうね。

それまでは、アイドル歌手の歌を聞いて曲としてだけ捉えていたのが、始めて「音楽に出来ること」であったり「音楽が持っている途方もないチカラ」を感じた瞬間だったんでしょうね。




さて、そんな時代の一番の思い出のアーティスト&曲は

Bonnie Tyler の

        「It's A Heartache」 (1978)  

       Total Eclipse of the Heart




前述したような、TVの向こう側にいるアイドルの曲を聞いていた時代から、
人間としての「女性」を意識した対象に移り変わる頃だったのだと思います。

まさに、青春のスタートを飾った曲ですね。
まだまだ個人的な思い出と直接結びついているわけではありません。

単に、バイト先の年上のお姉さんに憧れていた自分がいるだけで、なんの「シーン」も作り出せなかった、不器用で世間知らずな、赤面をしてしまう思い出ばかりです。


アハハハ・・・まだ、ルネッサンス以前の「暗黒の中世」ってな訳ですね。




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「無音」という音についての出来っこない考察

先般の記事の中で、Hさんとおっしゃる方からコメントを頂き「無音」について考えさせられるキッカケをいただいた。

実はオーディオと付き合って来た間で、「無音」について考えるのは今回が始めてではない。
では何回目かと問われると記憶力の崩壊している僕の場合、ハタハタ困るのだけれど、初回が何時だったかはハッキリと覚えている。今日はまず、その話から始めよう。

この本の中に下の文章を見つけた時だ。

PICT0011.jpg


五味 康祐 「オーディオ遍歴」新潮社 より  「音と沈黙」 (1971)

エッセイの概略、
大切な仕事を後回しにしてさえ、私は10年間オーディオに血道を挙げてきた。もう、こうなったらとことんやるしかないだろう。
その当時話題になりつつあった「4ch」を、「本当に部屋がコンサートホールの感じになるなら女房を質に入れても」の決意で取り組んだ。

以下に紹介するのはその後日談です。


前文略

こころみに、再びオートグラフだけに戻して私はいきをのんだ。その音声の清澄さ、かがやき、音そのものが持つ気品。陰影の深さ。まるで比較にならない。なんというオートグラフ(2チャンネルの)素晴らしさだろう。

私は一瞬、茫然とし、あらためてピアノやオーケストラを2チャンネルで聴き直し、私は悟ったのである。
4チャンネルの騒々しさや音の厚みとは、ふと音がやんだ時の静寂の深さが違うことを。
言うなら、無音の清澄感にそれは勝っているし、音の鳴らない静けさに気品がある。

中略


私は知った、これまで音を良くするために金をかけたつもりでいたが、なんのことはない、音のやんだ沈黙をより大事にするために、音の出る機械を私はせっせと買っていたのである。

一千万円をかけて私がもとめたのは結局この沈黙の方だった

後文略、原文のまま


この本を買った当時、僕はLUXMANのトランジスタ式セパレートアンプでドイツグルンディッヒの密閉型スピーカーを鳴らしていた。
直後に、ヴィンテージを教えてもらい、WEのスピーカーやALTECの真空管アンプ、EMTを使うようになった。

するとどうだろう、それまでの新型アンプやスピーカーに比べると・・・
スピーカーの能率はバカ高くなったし、アンプのノイズレヴェルも高いから、スピーカーの傍に耳を近づけるとアンプのハム音やノイズはびっくりするほど大きく聞こえた。

しかし、定められた聴取位置に着座すると、それらハム音やノイズは不思議と気にならなくなり、
更にレコードに針を降ろすと、有るはずがないのに降ろす前よりも、引き込まれるような静寂感を覚えた。

アンプの電源を入れたり、針を下ろしたり。
ノイズの原因を作れば作るほど、静寂を感じるなんて。不思議で仕方がなかった。

そんな時に、上のエッセイを読み返して、当時は小僧なりの理解で合点がいったように思う。
あれから30年近く経つけれど、今でも毎日レコードに針を降ろす際にはその時と全く同じ気持ちになるし、五味さんの文に何度も膝を叩いたのを昨日の事の様に思い出す。

針を降ろした瞬間に部屋の空気が静まり返るのを感じるのが好きで、それ以来僕は、いかなる時も装置の音量を下げるということをしなくなった。


PICT0009.jpg
もう30年近く昔の写真だ。懐かしいなあ。プリはC-20に WE351を整流管に使っている!贅沢だなああ。


このような「ノイズのある無音」を僕は「無音という音」を聴いているのだと思っていた。
はからずも、Hさんも「静けさが聴こえてくる」とおっしゃった。

つまり、S/N比というのは、ノイズの少なさを表す数値ではなくて、装置の持つ「無音」という音質の質の部分を表すもので・・・
例えば、画家はどれ程真っ白なキャンパスを手に入れても、雪や光の白さ、まぶしさを表すためには白の絵の具に「冷たさ」や「きらめき」といったニュアンス・想いを込めて描いているのでしょう。

同様にオーディオでは、同じ装置を聴いていても、上手く鳴っているときには静寂の深さが勝り、調子の悪いときには「無音」さえも浮き足立って聴こえる。
その感じを、「計測されたS/N比」ではなく「ダイナミックなS/N比」と呼んで区別している。


時々、僕がCDやSACDを重用しないことを叱責するようなコメントを貰うこともあるけれど、
一例として、アナログテープレコーダーに刻まれている、RECスタート後に演奏が始まるまでの、わずかなタイムラグの間にホールの「空気の気配」というべき無音の音を感じる事ができないなら、又はそんな経験が無ければ僕の気持ちも分かってもらえないと思う。

技術的には元より、僕には全く説明は出来ないが、アナログのテープやレコードには、その空気を震わせてヴァイオリンの音が伝わって来るんだという納得があるんだよね。
音の善し悪しではない「納得」が。

しかし、技術革新により、より生々しい「無音」が聴ける事を僕は誰よりも期待しているつもりだ。
ただ、現状のCDやSACDではこの一点を比べてみてもまだまだ満足できる段階で無いことは悔しい限りだ。奮起を期待したい。




以上が、30年ほど前に、始めて「無音」について考えたことでした。
今回のHさんの言われる、ドビッシーのピアノ曲と無音に関しては次回にお話しできればと思います。

最後に、五味さんのエッセイの結びの部分を転記します。


・・・・一千万円をかけて私がもとめたのは結局この沈黙の方だった。

お恥ずかしい話だが、そう悟ったとき突然、涙がこぼれた。私は間違っていないだろう。終尾楽章のトリルで次第に音が消えた跡の、すぐれた装置のもつ沈黙の気高さよ、沈黙は余韻を曳き、いつまでも私のまわりに残っている。レコードを鳴らさずとも生活の周りに、残っている。
そういう沈黙だけがヴァイオリンを悪魔的にひびかせるので、楽器から悪魔の音が出るのではない。きこえてくるのは楽器ではなく沈黙からだ。家庭における音楽鑑賞は、そして、ここから始まるだろう。


原文のまま 





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低音と高音のはなし

若い頃は販売店へ出向いてメーカーのカタログを集めてくるのを趣味にしていました。皆さん一緒ですよね。

最近は分かりませんが、その当時は技術的な売り文句が多くて、周波数特性のグラフがほとんどのカタログに載っていました。
そのグラフを見ていると、1kHzが中心点で何となく中音の一番真ん中辺りかなあとイメージしてました。

その当時の周波数ごとの勝手な思い込みを整理してみると

最低音(重低音とか)   50Hz以下

低音・・・・・・   60-800Hz

中音・・・・・・  900-9kHz

高音・・・・・・   10kHz以上

超高音・・・・・   18kHz以上


まあ、子供の思い込みですから許してください。


この勝手な思い込みのもう一つの根拠は、1980年頃に沢山販売されていた、国産3Wayスピーカーの標準的なクロスオーバー周波数にも影響を受けています。

一例として79年にパイオニアさんが発売した S-955という機種は

36cmコーンウーハー
6.5cm ベリリウムスコーカー
リボンツィーター

の構成で  950Hzと8000Hzにクロスオーバーを採っています。
s0128b.jpg

この機種はリボンツィーターの為か全体に高めですが、概ね下は500-800Hz 上は5kHzから8kHz近辺が多かったように記憶しています。
3Wayの各ユニットがそれぞれ低音用、中音用、高音用と分けられているのだと思い込んでいたのです。


さて、実際の音の聞こえ方は随分違うのだなあと気づいたのは長じて後ピアノ教室で理論を教えて貰った時です。

改めて書く必要も無いのでしょうが、NHKの7時の時報を知らせるピッピッピッ・ポーンの電子音は
最初から3つのピが440Hzで、ポーンが880Hzです。あの音を聞くと880Hzなんて激しく高音ですよねえ。

しかも、これを五線譜に置き換えると、440Hzは基準音=音叉の出す音で真ん中の「A」
ドレミファソラシドの「ラ」の音なんですって。
普通の男性が歌うとしたら、結構声の出しにくい、これは高音ということになります。

その上、880Hzときたらオクターブ上の「ラ」(女声のハイA)ですから、ほとんど音楽の楽譜には存在しないと言って良いような高さということになります。
因みに、ソプラノの限界と言われる「ハイB」(3点変ロ音)で約1000Hz・・・ほとんどガラスの割れる音だよ((#^.^#)。

今お話している周波数は、サインカーヴの単音で「基音」(音程と言ってもよい)ですから、実際の楽器では例えば同じ「ラ」の音を出していてもピアノとヴァイオリンでは音色に違いがあります。
この音色の違いを決めているのは、基音の上に2倍、3倍・・・と発生している「倍音」の分布に寄ることはご存知の通りですね。

改めて考えると、音楽の音程というのは周波数特性グラフに当てて見ると、随分と下の方で成り立っているのだと気がつきます。



以上の事から、昔のケータイの着信メロディーのような音程を聞き分けるだけならば、250Hz~1000Hzもあればカヴァーできるといえましょう。

倍音を4倍まで、低音側を1/2まで再生しようと考えると100Hz~4000Hzの帯域幅があれば、殆どの楽曲は楽器の音色を持って聴くことが出来そうです。

蓄音器のクレデンザは、100Hz~4000Hzを再生できると言われており、そこから出てくる音は蓄音器のイメージに反して特別モゴモゴせず、また鼻を摘んだような様にも聴こえないどころか、スカっと抜けた音を出してくれます。


これには昔から言われている秘伝?の秘訣があって、「低音限界」x「高音限界」=40万
になったときに人間はその音をバランスが良いと感じる法則があります。

これが名高い 「40万の法則」ですね。そのままやないかーーい

下に、池田圭氏の「盤塵集」に記載されたグラフを載せておきますが、なんと上手く出来ているのだろうと何度見返しても感服させられます。
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以前から僕は、日本で聞かれるオーディオの音であれ、街に流れているBGMやインフォメーションの類も相当に高音寄りだとお話ししていますが、この数字を出せば直ぐに納得ができると思います。

実測してみると、90万や下手をすると120万といった数字が出てきます。

かなりキンキンした音のはずですが、一旦これに慣れてしまうとハッキリと聞こえるからとこれを良しとしてしまう傾向があり、パッと聞きは大変よろしいのですが時間が立つと徐々に違和感を覚える人もあります。



まだ計測をされた経験の無い方は、是非一度ご自宅の周波数特性を測って掛け算をしてみてください。

スピーカーから出る音の周波数特性を測った場合・・・
例えば、低音側が-10dBで50Hz出る装置は、高音側も-10dBで8kHzで落ち込んでいて始めて「バランスの良い音」になるのです。
しょっと信じられないでしょう?


これが-3dBということになると、-3dBで50Hzを出せる装置というのは、いくらもないんですよ。
ユニット正面の特性を測れば「計測」はできるでしょうが、50Hzの音を物理的に一波発生するには部屋の寸法が7mほど必要なわけで、振動板が動いて電気的に記録できる。ということと音として存在するということはまた別次元の問題であるのです。


オーディオの再生音について、色々とお悩みをお持ちの方もおられると思いますが「40万」に近づけることでかなりの部分の問題点の解決になると思います。

最も簡単な実験方法は、高音を落として聞いてみることですが、それだけでも何か感じることはあると思います。


但し、一つ問題もあります。
現代の広大な帯域を持って録音されたソフトを使って高音だけを落とすと、やはり鼻つまみの音になるでしょう。

これを本格的に再生するには、当然のこと20Hzを叩き出すことが出来る装置にするしかありませんが、それには膨大な、本当に膨大なコストが掛かります。
そんな、ウーハーやアンプを揃えることも大変ですが、何よりも20Hzは半波長でも8.5mですからね。
一波長を動かすとしたら17mの部屋を作らなければいけない・・・

新しい録音やオーディオ機器は、潜在的には勿論私たちが聞いている古い録音を圧倒的に凌駕する能力を持っています。
それは疑いようのない事実ですが、これを十全な状態で再生するには、以前に比べて突拍子もないほど大きな覚悟が必要だと感じます。

お金があれば、マジコの新しいスピーカーは使ってみたいけど、部屋は問題だなあ。





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直熱三極管の魅力を探る・・・だあ?

先般、いつもお世話になっているYさんから連絡があって、ちょっと相談したいことがあると。

で、お伺いするとこれも先日記事中でご紹介した、JBLの初期型ユニットに使うアンプを考えていたのだけれど「250」という球が肢体も良さげなので入手した。
ついては、アンプを組んで貰えないか? ということでした。


それは楽しそうですねーー、僕なんかがどんなものを作れるか分かりませんが・・・・て、素直に言えなかったんですね。
何となく、頭の中の「警笛」がやかましく鳴り響いて警告音を発していたのです。

その理由は、250(いわゆる50)の規格表を見てはっきりとしました。
DSC03572.jpg
こりゃダメだわ。
こんな規格を見たら、鬼でも裸足で逃げ出しますわね。


まず何よりも、グリッドリークを10kΩ以下で使えと、厳しく注意書きがされている。
警笛の理由はこれだった、随分と昔に50は恐ろしい球だと聞いていてその記憶があったようだ。

なのにですよ、わずか3.4Wの出力を発生させるためにはカソードには-70vを落とさないといけない。
ちゅうことは、50v以上の励磁電圧を5kΩ近辺の負荷で取り出せるエキサイターが要るってことですよ。

しかも、B電源がむっちゃ高い。450vクラスのブロックコンは使えなーい。2階建てか?

ここまで見てドイツ的な頭で考えられることは、ほとんど送信管を使ったブースターアンプの世界ですやん!

恐らく250が開発された頃の時代背景を考えると(ラジオや電蓄は別にして)

1.電源ユニット
2.ラインアンプユニット
3.パワーアンプユニット
4.ブースターユニット  

といった構成が当たり前で、一つのアンプで3,4個の筐体が必要だった。
今ならステレオ2チャンネル分を1シャーシに組み込むくらいのモノをだ、時代の変遷はありがたいねえ。

自分用に作るなら小出力のシングルアンプをまず作ってから、別筐体で250ブースターを作ると思うけれど、まさか人様のアンプではそんなこと言えないですね。



その後手持ちの本や、NETであらゆる製作実績を調べてまわった。
さすがに皆さん、扱いにくさに閉口しながらもモノにしているようだ。

どちらの製作者さんもそれぞれの考え方で克服し、他の球では得にくい豪快さ、図太さなど音質面では絶賛の声が沢山聞こえる。  ちょっと楽しくなってきたな。

大まかにこの球の料理法を整理すると

1.インターステージトランス・・・スタンダードね。昇圧比考えると前段に無理をしなくてよいが、高いぞ!!
2.グリッドチョーク・・・・・ちょっとは昇圧もできる。イントラよりは安く済みそうだし、癖は少なそう。
3.カソード出し・・・・多分普通のカソードだと電圧不足なので、SRPPだっけ?とかが必要になるようだ。
4.出力管によるドライブ・・・・これもトランスの扱い方が色々ありそうかな。
5.ロフチン・ホワイト・・・・そして禁じ手! これはナシだなあ。

このあたりが一般的ですね。

そりゃ、TriadのHS型やUTCのLSシリーズが入手出来るならイントラが無難でしょうけれど、オーナーにも経済的な思いもあるでしょうしね。

実は、その後自分の中でひょんなことから決定版を探し当てたのではありますが、
全てはYさんがスタートの合図を出してからのことですから、私が一人で力んでもどうしようもありません。
その時までに考えを熟成させておきましょう。


で・・・この記事の何処が「三極管の魅力」なんだ?と、突っ込まれそうですが。

古典三極管を使うということは、こうした多々の不条理を克服し、最少効率でもって最大のコストをかけて雀の涙のような出力を取り出すことだと思うんですよ。

だから、計画の段階で七転八倒して「ヒーヒー」言いながら課題解決をした人だけが、そよ風のような音を聞けると。
こんな高尚?な趣味は、他じゃあ中々味わえません。

手軽で扱いやすい機械にはない、その「ドM」の精神こそが古典直熱三極管の魅力でしょう?   でしょう?


賛同者無し!  閉店ガラガラ・・・






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続) GWに遭った人々 「未来ある若者達へ」

あまり当たり前のコトばかりを記事にしていると、そろそろお叱りを頂きそうなので今日はGW中に出会った人達の続きの話をします。

我が家では珍しくずいぶんと若い人が二人来てくれました。

まあ、まだ考え方が揺れることもありますが、それは決して悪いことではなく、むしろその動くことのできる若さゆえのエネルギーを羨ましいと感じるべきでしょう。

色々とお話をさせて頂きました。
その中で、ちょっと気になった事を、許しを得て記事にします。
アンプ作りの参考になればと思いますが、思いっきり初級者向けですから、ベテランの方は覚悟して読んでください。



彼らの、その行動力もまた大物を予感するもので・・・

自身で作った真空管アンプを持ち込んでくれました。
出力管は 6BQ5ppでしょうか、MT管が4本立ったステレオ1ボディのラヴリィなアンプです。

これは僕の持論ですが、「何の球でもいいから、規格表通りに真空管アンプを組んで聞いてみると、結構な市販アンプより鮮度の高い真摯な音がするものだ」と思っています。(何百万もするアンプのが色気があるぞってのはその通りだと思うけど、それはなしで)

A君(仮)も初めて真空管アンプを組んでビックリしたのでしょう。
そこそこの価格の有名なアンプよりずーーーーといいじゃないか!

それで、「もしかしたらこのアンプは世の中でもソートーいい音なんじゃないか」って、思ったんでしょうね。
オーディオ界は年寄りばっかりだから古いものを有難がるけど、三極管なんて老人の寝息みたいに「はーふー」言うだけじゃないのか?俺の近代多極管の方がシャープでフラットないい音じゃないのか!って。


わが家のAD-1と聴き比べて(本音では)どのように感じたかは窺い様もありません。

「ベースの締りが・・・」とか「サックスの抜けが・・・」とかどこかで聞いたことのあるセリフを使って感想を述べてくれたけれど、それはみんな高低のバランスのことの表現を変えただけだね。

僕はしないけど、その気になれば音は好みで調整出来るし、バランスは揃えることもできるかもしれない、しかし
そこから先に何を感じるかは、もう少し音楽を聞き込むと変わってくるんじゃないかな。




まあしかし、音はどうでも良いのです。

音に対する感じ方や、求めるものは経験によって変化しなければならないものです。
今の内に偉そうな事、分かった様なことを言っていても構わないんです。
それは自身の中から出た言葉ではないし、僕だって身に覚えが無いわけじゃない。

経験を積んだところで、わかる奴もいるし、わからない奴もいる。続くか止めるかだってこれからのことですから。
それは当人の人生だから、もっと魅力のある、あるいは向いている趣味が出来たって他人が善悪を付けたりするもんじゃない。

桜の古木が多いことで有名になった、高山村一帯
PICT0018.jpg桜はいい、盆栽もいいが、芽吹きどきは良い。

黄色い菜の花が 信州名産「野沢菜」になるんだって、今年に入ってから知った (~_~;)



問題はそれ以前にあったのです。

そのアンプは電源トランスが「チンチン」に熱くなるというのですね。小さい扇風機を買って冷やしていると。


聞くところによると、そのアンプはある雑誌に載っていた記事を忠実に再現して組んだアンプだというのです。
穴開けの寸法や部品の銘柄に至るまで。(よって、今回は残念ながら写真他詳細なしです)

もう少し詳しく話を聞くと、
使用している6本の真空管の動作電流の合計と電源トランスの定格電流が同じ!!!!だと。
執筆者の解説では、B級動作だから通常の音量ならば大丈夫だとあった。



まあ、普通の常識から行くと・・「ハイ、ご苦労さん \_(^◇^)_/  当たり前じゃん」って感じでした。

力だって、液体だって、電気だって、人間関係だって、何かを通過するとロスが発生するとは思い至らなかったんだろうか?
彼らの頭の中では、ロスも摩擦もない「永久機関」が今日もコンコンと回り続けているのだろうか?

オーディオじゃなくたって設計値の1.何倍かのマージンは取るでしょう。
いくらB級動作だからって、組み合わせるスピーカーの能率はそれぞれだし、部屋の大きさだって・・・


これを教訓として部品の余裕度(ヘッドマージン)について勉強することだね。

でも、彼が偉かったのは、執筆者や出版社を責めず、そこに思い至らなかった自分を責めたことだ。

本当にそのような記事を執筆して市販する雑誌に載せたなら、中々チャレンジャーな著者だけれど、その著者を責めたって自分たちには一つのメリットもないのだ!

中々お目にかかれない経験をして勉強させてもらったんだから感謝するくらいの余裕でいいよね。



さて、ここでお笑いを一席。

その昔、浜松で働いていた時の会社の先輩がお金を貯めてステレオを買うことにした。
カタログを舐めまわすように見て、販売店で相談を繰り返し、いよいよ所望の機材を発注した。


お取り寄せに数日かかるとのことで、アンプやらチューナー、CDプレーヤーを入れるラックは自分でつくる計画を立てた。

フリーハンドで設計図を書いて板取の寸法を決定し、ホームセンターで板を購入して早速黙々と組み立てていた。
ラックもなんとか形になり、晴れて納品の日を迎えた。

その日、彼の部屋から「ぎゃあああああ」という忘れられない悲鳴を聞いた。

彼は、カタログに記載してあったコンポの寸法をそのまま棚板のクリアランスの寸法としたのだった。

「ハイルワケナイジャン」




さて、A君よ、この先輩を笑うことなかれ。
君は同じことをしたのだぞ。

でも、一作目から記事を参考にして自作した根性は見上げたものじゃないか。
果敢に挑戦したその精神は、今後のオーディオ人生(を続けるとして)に大きな助けになるんじゃないかな。



今回の教訓は

自分の頭で考えることの重要性を解いているのだと思う。

「考えて、行動する能力」は「色々知っている」ことより、余程重要だよ。

オーディオは沢山のパーツがあるから、それらを取り替えて組み合わせを楽しむことも大きな喜びだけれど、それだけでは分らないこともきっと分かるようになると思う。

それは、モノ作りに携わった人々の想いや苦労、考え方を分かるようになるというとても大切なことだ。

それと、部屋中の壁面をアンプで埋め尽くすまで作らないで、音楽を聞く為のアンプだってことを忘れないで頂戴ね。




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金のかかる大人は不幸か?

あれは、まだ20歳前のことでした、なんの事情があったかは失念しましたが、一人で上野駅傍のホテルに宿泊したことがありました。

午後早々に着いたので、周辺を一回り散歩に出かけたのです。
(途中、古い喫茶店に立ち寄って、サンドウィッチとコーヒーを頼んで900円ほど取られたのには心底ビビッた。東京は恐ろしいところだーーー)

現在でも続いていると思いますが、丁度その時に上野公園で盆栽の品評会が開かれていたのです。
もちろん、そんなものに興味は無い若者の私でしたが、路上から見えた一鉢の盆栽に釘付けになってしまったのです。

余りに長い時間動かないコゾウが居るというので、それを見ていた係員のオジイサンが会場内に招き入れてくれました。
「おにいちゃん、何か気に入ったのがあるの?」

後年、盆栽好きな人から聞いたのですが、その品評会は日本で最高峰の権威で、そこに出されるトショウやシンパクといった名品は「億」の価値があるものだそうです。

私が惹かれたのは、もう少し解りやすい「雑木」のなかで多分「ケヤキ」の一本物だったと思います。w17_ca021a_B1457.jpg

そこに何を見たかというと、皆さん、「日立」さんのTV-CFで(♫このー木なんの木、気になる木ーー)っての知ってますよね。草原に巨木が一本立っている絵です。


目の前のわずか50cm程の盆栽が見上げるほどの巨木がになって、そこで遊ぶ身長3cmの自分が居たのです。
見上げると、葉の間の空は抜けるような真っ青で、体調3mmくらいの小鳥が翔んできては、また飛び去って行きました。
(多分、鉄道模型の趣味の方なども同じ感覚かなと思います)


完全に盆栽の世界に入り込んでいたのです。
そして、それを係員の方に、こう感じた。と話をしました。

その時のオジイサンの顔は中々忘れることができません。ちょっと困ったような、はにかんだような表情になり

「おにいちゃん、今のうちにちゃんと勉強しときなよ。将来きっと金の掛かる大人になるから、いいとこへ務めてしっかり稼ぎなよ。」

と言われました。

しかし、そんな言葉の意味を分かろうはずのない若輩の私は、学校を出ても定職につかずにいたくせにオジイサンの予言がキッチリあたって金の掛かる大人に成っていったのでした。




これも後から教わったのですが、良い盆栽というのは小さな鉢の中で大自然に育っているままに生えているかのようであり。
その盆栽を見ると、大草原であったり断崖絶壁に逞しく育つ木の自然の持つ強さ優しさを想起できなければいけない。そうです。
70365.jpg
大自然のそのままを切り取ると、その背景には見えないはずの情景を想像出来るって訳だね。レコードの理屈そのものじゃん。



これって、「天使の音」が出た時と全く一緒なんですね。

その時は、オペラハウスかコンサートホールの中にポツーンと一人放り込まれたような気分になります。
訳も分からず、焦ってキョロキョロ見渡している自分を尻目に、音楽はドンドン進んでいくという寸法です。



さて、このような体験は他の様々な分野でも沢山起こっています。

首都圏では5月24日に放送されたテレビ東京「お宝鑑定団」に長野県出身の日本画家 池上秀畝先生の「初雪」という六曲一双の大きな(幅10m近くあった)屏風が出されていたので、ご覧になった方も多いかもしれない。

その品のテレ東のHPはこちら


その屏風が出された瞬間、観客席が「おおーー」とざわめいた。

評価額も発表され、一通り講評を終えた鑑定士の田中 大さんに司会の紳助さんがこう聞いた。

「やっぱり本物は違いますね、これが出た瞬間客席から声があがりましたね」

答えて

「たしかに、この屏風はそれだけの力があると言えましょう。見る人をその世界に引き込みますね」


この番組をご覧になってない方は、上にリンクしたテレ東のHPに行ってみてください。
屏風の評価金額を自分の手で開けるようになっています。

この絵の中に遊べない人にとっては巨大なゴミですが、それが分かると・・今度はお金が要るんですね。トホホ


この世の神羅万象すべては同じことだと思います。

オーディオだって自分の知っている世界の中だけで「究極」だとか「至高」だとか力んでも仕様がない。
オーディオだけではなく広く多くのカテゴリーを知った上で、これが「自分の音だ」ってことにならないと、井の中の蛙になってしまうだけだ。

目利きになるには、とことん本物を見続けるしかない。そこには、現代の最高峰もあるし、歴史的名品もある。
その中にポッと「マガイモノ」が混じると立ちどころに分かるという仕組みだ。って中島誠之助さんの本にあった。


着る服や身につける物も含めて、たとえ高額でなくとも時代を超えて評価されるような普遍の価値のあるものを愛でていきたいと思っている。


オーディオに関して言えば、いつも書いていることだけれど

今後、技術革新があって現在の我が家の装置より良いものが出来たら、その時は躊躇なく取り替えたい。

この気持ちだけは何時までも持ち続けていたい。



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いくつの「いい音」を持っていますか?

今年のGWは沢山の方にお越しいただいたのですが、5月中は他のテーマについて書いており手を付けていませんでした、しかし色々と勉強になることもあったので遅れましたが記事にしたいと思います。


休みも後半(私自身はずーと休みなんですが)になり、ブウウーーっと低いエンジン音が聞こえてくると我が家ではついぞ見たことのないシルバーの「どら焼きの親玉」のような薄い物体が駐車場へ滑り込んできました。

110508_143713.jpg
ポルシェの「なんとかー」という2シーターミッドシップのスポーツカーでした。
400kmの遠来のお客様です。仮にAさんとお呼びしましょう。

Aさんは、私の使っていたEurodynを買って頂いたご縁でそれ以降何度か行き来させていただいています。

確か音楽を聞いている部屋は我が家と同じ位の広さでしたが、職住近接の職のスペースにも何台もスピーカーを持ち込んでいて、現状で10セット以上音が出るようになっているはずです。
最近はWE4181を4台買ったので(594は既にある)ツインでやってみるとか、訳の分からんことを言っていた。


さて、今回は一泊の予定だし、我が家だけでは物足りないと思ったのか、同好の士を紹介してとの要望で、一緒にYさん宅へお邪魔した。
僕とYさんはオーディオだけでも30年来のお付き合いで、機材の変遷も聞いている音楽も熟知しているといっていい。

きっちりと育ちの良いYさんは、遠来の客人のためと色々な組み合わせで音を出してくださった。
Yさんの御宅には、3つのスピーカーがある。

1.WE555を中心としたフィールドコイルの3Way

2.Sentorian の7インチフルレンジ

3.最近導入された JBL D130と175DLHの2Wayモノラル (型名は不詳、グレー塗装のフラットバックのやつだ)

各々、ステレオソフト、SP復刻など古い録音、JBLはLPモノラル時代の再生をそれぞれメインに担当させている。


僕自身も過去は似たような経歴を持っていて

SPレコード    蓄音器

SPレコードの電気再生用とSP復刻LP(~1946年頃)  WE555+カールホーンなど

LPモノラル (1946年~1957年)  WE728+WE713+WE31 や Klangfilm KL-L305など

LPステレオ (1957年以降)  Eurodyn   ALTEC A-5  Lowther PW-2 など


詰まるところ、あれもこれもと種類の異なる機械を「不本意ながら←ここ強調」揃える必要に迫られる理由は
レコードの形状の違いや周波数帯域が拡大する歴史を追いかけ、それぞれのレコードをまあノーマルな状態で再生するためには、同じく機械側の歴史を追体験するしか他に道が無いからです。

DSC03275.jpg
準備は出来たのに、グズグズしてちっとも実験の出来ていない、クレデンザ再生用のドライバー。

DSC03267.jpg
計画通りならこんな感じに付くはずだ!  これを作ってからもう何年たったのやら・・・・



Yさん宅でたっぷりと音楽を聞かせて頂いた私たちは、夕刻には辞して食事に向かいました。

そこで、AさんはYさん宅の状況について、かなり「怪訝」に感じたという旨の感想を述べられました。
始めのうち、私にはその主旨が掴みきれずにおりました。しかし、或ことに気付いて「Aさんの戸惑い」を理解できたのです。

これはちょっと言葉にはしにくく、誤解を恐れずに言ってしまうと

Aさんが追い求める「良い音」には絶対無二の頂点があって、自身の信じるオーディオの目標は一点ではないか?と感じました。
それならば、常に最新の技術を信じても良さそうだが、古い機械を使っているから余計話がややこしくなるのだ。

対して、Yさんの御宅の3つのスピーカーはそれぞれ別のアプローチで音楽を表現していた。
音の要素のプライオリティがひとつではないという意味だ。


Aさん程のキャリアと使用機材をもってしても、求める音は一つだけ。というのはある意味素晴らしいことかもしれません。
オーディオの持つ本来的な使命、「フォノグラフ=音の記憶」からすると本道だと思います。長らく日本のオーディオ界を覆ってきた「原音再生」の精神ですね。

これに対して、私のように異なる複数のスタンダードを持つのは、130年という長い歴史を刻んだレコードをどうやって再生するか?という意識だろうと思います。
よって、私は人生で一度も自分がオーディオマニアであると考えたこともなく、「これが自分の音だ」という嗜好もありません。
多くの機械と遊んできましたが、それぞれを聞いた友人が「お前の音だなあ」と言ってくれるので、そうなのか。と思うだけなのです。



Aさんからはご帰宅後直ぐに、丁寧な書状と極上の「浜茹しらす」を送って頂きました。
その中には、こう記されていました。

「目指す方向は私とは違いますが、再生音の一つの方向を示していただき、大いに勉強になりました」

いえいえ、こちらこそ普段は「当たり前」と思っていた事を改めて考える機会を頂きました。
Aさんも「何か」を気付かれていたのでしょうね。



いつもの通り、SP、モノLP、ステレオLPと各カテゴリーでスーパーなレコードを聴いていただきました。
ステレオで選んだのが以前にご紹介した、「ファリャの三角帽子」です。

聴き終えたあと頬を赤くしたAさんから思いも寄らない言葉が発せられました。

A 「確かにすごい音だってのは分かるけど、でもこのレコードは例の高いやつでしょ?」

私 「まあ、バブル頃は随分高かったと思いますが、今頃は当時の半額になってますよ。」

A 「・・・ レコードにそんな金額は出せっこない!!!!!!」

私 「はあ?? あんた先日 WE300Aを4本買って ○○○万円払ったって言ってたでしょう!」



あなたは幾つの「良い音」を持っていますか?





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