天国と地獄晴れ渡った秋の空、さわやかに吹き抜ける風、気温は少し低めだが、動いて汗ばんだ体にはそれがまた心地いい。
その日の瀞霊廷は、そんな絶好の運動会日和であった。
「なあ、恋次」
「なんだよ」
ルキアが視線を正面に向けたまま、隣に話しかける。それに答えた方も視線は正面のままだ。
「なんでこんなことになってるんだろうな」
「知るかよ」
「死神としてどうなんだろう、という思いがぬぐいきれないのだが」
「演芸大会があるくらいだ。運動会くらいは普通じゃねえ?」
だらりと足を延ばし面倒くさそうに座っていた恋次だったが、ルキアが期待したような賛同の言葉を吐いてはくれず、ルキアは一人、大きくため息をついた。
そう、まさに運動会日和のこの日、瀞霊廷では護廷十三隊による大運動会が開催されていたのだ。
急きょ作られた瀞霊廷の大グラウンド場では現世の運動会なるものを真似た装飾が施され、頭上には各隊の隊章が織り込まれた隊旗がいくつもはためいている。
グラウンドの周りに並べられた椅子や、本部を兼ねた隊長たちが待機する中央テント、そして現世と同じさまざまな競技に使用される競技用具など、浦原商店の全面協力のもとに運動会は万全に準備されていた。
しかも、いくつかの組に分かれた十三隊の面々はそれぞれの組色の鉢巻きを締め、皆おそろいの体操着まで着ている。
霊力の使用を一切禁止された死神の面々は命の危険のない純粋なスポーツを意外にも心から楽しみ、この時点で中盤に差しかかった運動会は、大変な盛り上がりを見せていた。
赤組に用意されたスペースの最前席、そこに並んで座る副隊長二人を除いて。
「合同演習ならまだしもなのだがなあ」
状況に諦めきれないルキアが、それでも未練がましくぶつぶつと文句を言う。
そんなルキアを見てるのか見てないのか、恋次は正面を向いたままだ.
「合同演習はテメーが断ったらしいじゃねえか」
「私が断ったのは三番隊との演習だけだ!」
「知るかよ。でも運動会の言いだしっぺはテメーの亭主だろ。テメーが文句言うな」
「うっ・・・」
しごくもっともな恋次の言葉にルキアは何も言い返せず、立ち上がりかけた体を再び椅子に沈め、そうして再び本日何度目ともわからぬため息をついた。
*******
それは数週間前のこと。
夕食後の憩いのひと時、ちゃぶ台で鬼道の本を読む勉強熱心なルキアとは対照的に、ギンは縁側でごろごろとしていた。
そして唐突に一つの提案をする。
「ルキアちゃん、今度十三番隊と三番隊で運動会せえへん?」
「運動会? なんだそれは。」
「現世の学校でな、スポーツとか競争でゲームをするお祭りや」
「やらん」
「即答なんて冷たいやん。もうちょっと『嬉しい』とか『よし、やろう』とかそういう言葉は出んの?愛する旦那様を喜ばそうとか思わん?」
予想済みの回答にまったくダメージを感じていないギンは、起き上がってジリジリとルキアににじり寄ってくる。
が、それを無視するかのように、ルキアは本から目も上げなかった。
「そんな戯言は頭の片隅にも浮かばぬし、愛する旦那などという異国の言葉は聞いたこともないな。第一なぜ運動会なのだ。合同演習ならまだわからなくもないが」
「じゃあ合同演習やろ」
「絶対やらぬ」
「だからなんで即答やの?浮竹はんに聞いてもくれんなんて」
「死んでもやらん。 前の合同演習であったことを忘れたか」
肩にかけられたギンの手を、ルキアは躊躇なく振り払う。
が、次のギンの言葉はさすがのルキアも無視しきれなかった。
「前の合同演習?何かあったやろか?」
その言葉とほぼ同時にバンッと本を閉じ、ようやく顔をあげたルキアは吊り上がった目でギンをにらみつけた。
その怒りを含んだ視線に、ギンは一応困ったような顔をするものの、その目は間違いなくこの状態を楽しんでいる。
「それ、本気で言ってるのか?」
「いややー、ルキアちゃん目ぇ怖いわー。僕が何したっていうん」
ガシッといきなり着物の袷をつかまれたギンの言葉は、そこで遮られた。
「前回の演習で!貴様が!うちの六席にしたことを忘れたかっ!!」
とうとうキレたルキア。
が、その対応はますますギンを愉しませる。
「六席・・・て誰やったっけね。ごめんな、僕、他隊の席官とか興味なくて」
「可城丸六席だ!貴様が『うっかり』『手を滑らして』蒼火墜を食らわせた男だ!」
そこまで言われてようやくギンは心底面白そうににやりと笑った。それはまさに凶悪といっていい笑み。
「そういえばそないな人いたなあ。あれやろ、確かルキアちゃんの手え握った男やろ?あんまり腹立たしかったんで、忘れることにしてたんやった」
「だからあれは!私が奴の怪我を治していただけで」
「僕の可愛い奥さんが目の前で他の男と手つないでたんで、あまりのショックに『うっかり』『手滑らして』もうたんやった」
「・・・・・・」
こうなったギンにはもう何を言っても無駄だとルキアは知っていた。
そんな時のギンは無視するにかぎるとわかっていても、やはりその飄々とした態度に腹が立ってつい怒ってしまう。
そして毎回、無駄な労力を使ってしまったとがっかりするのだ。
「とにかく!十三番隊は今後一切、三番隊とはかかわらない! そして仕事中の私も貴様自身とは一切かかわらない! これは決定事項だ」
有無を言わさず宣言するルキアに、ギンは残念とか寂しいとか全く心のこもってない言葉を吐いていた。
そして数日後、隊主会において三番隊隊長・市丸ギンより「護廷十三隊大運動会」の提案がなされ、賛成だ反対だチーム分けをどうするんだとか、すったもんだのすえに大運動会は本日の開催となったのである。
******
「理由はどうあれ、みんな楽しんでるだからいいじゃねえか。テメーは何をそんなにこだわってんだよ」
目の前で繰り広げられるパン食い競争を見ながら、同じ赤組の競技者に適度に応援を送りながら、恋次は眉間のしわを隠そうともしない仲間の副隊長をなだめる。
「演芸大会よりまだ死神らしいぞ?」
「貴様そればかりだな。」
そしてまたため息を一つ。
「・・・・・まあ、なんというか・・・ヤツの場合、私が断るとわかっている話を振っておきながら、断った後にそれを別口から成し遂げてくるんだ。これ以上ないってほどの嫌がらせだと思わんか!? 自分の妻にすることか!」
再度ギンの態度を思い出したのか、ルキアはギリギリと歯ぎしりまでして悔しがった。そんなルキアにも恋次は淡々としたままだったが。
「まあお前の言いたいことはわかる。でもそれも『ギンならではの他愛のないコミュニケーション』なんだろ?」
「ま、まあ確かにそうなんだが・・・」
その言葉で軽く頬を染めるルキアに、結局ノロケじゃねーかよ、とツッコみたい気持ちをすんでのところで抑えた恋次。
そして衝撃の一言。
「言わせてもらえば、今まさに、俺もその『他愛のないコミュニケーション』とやらを味わっている」
「は?」
「隊長たちのいるテントから、市丸隊長がすげー俺に霊圧かけて来てる。朝から。多分競技で一緒になったら、俺、殺られる」
「殺られるって・・・・」
実のとこ、運動会開催にこぎつけるまではうまいことやったギンだったが、最後までは目論見通りにはいかなかった。
十三番隊は六番隊、八番隊と組んで赤組、三番隊は五番隊、十番隊と一緒の白組になったのだ。
当然抗議したものの、なんとなく仲の良い隊長・副隊長同士で固まるというギンからしたらとんでもない談合の結果はひっくり返せる状態にはならず、ギンは一人涙をのんでいた。
組が違えば待機・応援場所と決められた所はもちろん違うし、そもそも隊長たちは基本テントに詰め、副隊長達が隊士たちの取りまとめとして、各スペースに詰めている。
結果、ギンは遠くからルキアと恋次が隣どうしに座っているのをただ見ていることになったのだ。
そんな背景を考えれば、確かに恋次の『殺る殺られる』も、冗談ではすまされない雰囲気だ。
「すまぬな、恋次」
再びしょぼんとするルキアを反対に元気づけるように、恋次は明るい口調で言う。
「冗談だよ。朽木隊長もいるし、まさか本当に手だしてきたりしねーって。本気で心配すんなよ」
「恋次・・・」
「そんなことより、そろそろテメーの出番だろ。一緒に出る奴に声かけて準備しろ」
このあとルキアは女子団体競技の騎馬戦にでることになっていた。
そうだった、と言いながらルキアは立ち上がり準備を始める。
そして振り向きざまに一言。
「恋次、さっきの話な」
「さっき?」
「ギンは本気で来るやもしれん。なにしろうちの六席を1ヵ月も四番隊送りにするような男だ。すまぬが、心してくれ」
「はあ? えっ何? 俺そんな話聞いてねーけど!? 四番隊送りって・・・え?どういうことだよ!」
「どういうこともなにも、そういうことだ。ギンに狙われた時は自分の身は自分で守ってくれ。」
「六席って、そんな話今まで一言も・・・」
「あまりの身内の恥に公にしてないのだ。本当にすまぬな」
じゃあ、私はもう行くから、と赤い鉢巻を締め直しルキアが集合場所に駆けていく。
恋次はそんなルキアを呆然と見送るしかなかった。
「ウソだろ・・・・」
朝からルキアの隣に陣取り、散々ふざけあって楽しく過ごしてきたのに、まさかこういうオチが来るとは。
青い空を見上げつつ、次の競技まで恋次の心中が大嵐だったのはいうまでもなかった。
実際演芸大会があるんだから、運動会やっててもおかしくないよね?
と思った私は、体操服+ハチマキ+ブルマーのルキアさんを想像してニマニマしました。
すみません。本当にすみません。でも。
女性死神の体操服はブルマ―です!!(←一番大事)
せめて莓かシスコンで……。
アタシ、ギンには乱で行きたい派なんですが。
でも、ギンのルキちゃん弄りにニンマリしてしまったり。
いや、でも浮気は出来ない! ルキには恋で! 文字通り一途な恋で!
ってえ、七不思議とか言ってる場合じゃなくて!( ̄○ ̄;)
姐様、大丈夫?!
無理が祟ったんじゃない?!
身体を大事にして~!
ってか、うち総受けですから!
もうあらゆる可能性のルキア受けに萌えるブログですから!!
なので、んん?と思うものは、申し訳ないのですが自力で回避してください。
で、こっちはちゃんと案内出すように気を付けます~
よろしくお願いします<(_ _)>
そんで、七不思議に匹敵する謎は、謎のまま継続中ですorz
でもそうと知りつつ、恋ルキを求めてしまうんです~!
ギンルキと知った上で読んでしまうんです~!
解った上で、でも「恋ルキぃいい!」と叫んでしまうんです~!
ああ恋ルキ。今日も明日も恋ルキ。