この短歌を郵便ポストに入れたのは今年の3月10日。何の因果か、この時期に風邪をひき、ホームドクターへ。
普段は前を開け、胸に聴診器をあてて胸の音を聞くだけで終わっていたものが、背中にも聴診器をあて徹底的に雑音がないかを聞いている様子で、そんなコロナ禍が広がる中での様子を詠んでみたのがこの一首。
=我が家の庭を彩る花たち=
アンジェラ
12月2日にも紹介したアンジェラ。まだ咲き続けており、かなりビックリ。
寒さに強く、寒さを味方に咲き続けているのかな?
≪山口和雄の短歌集≫
似つかわぬ名を戴きし犬ふぐり可愛き花がふぐりは哀れ
梅が散り桜が散って桃が咲く気候狂って花まで狂う
宇宙論読めば読むほど視界ゼロ虚無から生まれ虚無へと消える
広州とスカイプ通し初孫(ういまご)の笑う姿に機上の人に
現金を出して怪訝な顔されるキャッシュ使わぬ中国社会
金ピカの超高層のビルが建つさすが中国わびさび無縁
歯周病一本二本抜けてゆき総入れ歯への悪夢がよぎる
田植機が羽を広げて道占拠のろのろ進みいらいらつのる
(2018年6月24日朝日歌壇掲載)
がむしゃらに昭和平成生きぬけど古希を迎えて迷宮を行く
ボケないで心配そうに妻叫ぶ転がり落ちる老いの坂道 七十の手習いならぬキー操作人差し指が縦横無尽
負け続け疫病神と言われても古希に抗いもがき続ける
幻に8強のゆめ公園にポツンと残るサッカーボール
グーワグワ道にアヒルがお出迎え町の小さなコーヒー処
雨止みて雲の去りゆく青空が豪雨に沈む里にも来たれ
スタンドで声をからして応援歌グランド立てず脱ぐユニホーム
首相との酒宴大事の議員さん警報無視し写真アップす
デパートへ緊急避難この暑さ半端ないって三十九度
広東で生まれし孫の顔見たしスカイプ通しいないいないば
冷奴酒の肴に盛り上がるどこか笑える健康談義
手術します助手を呼びます麻酔です気付けばベッド命を拾う
またゆくぞピーポピーポと救急車熱中症か酷暑が続く
安売りの幟(のぼり)に集う白き髪我も我もと先を争う
盆波の伊良湖岬に砕け散る学舎離れはや半世紀
青みどろ緑が覆う池の底笑顔が祓う心の澱を
夏休み自転車連ねわいわいと横でなく縦一列ですよ
台風の進路ずれろとテレビ見て押し付けるのか人に不幸を
突然の雷雨が襲い吹き込まれ妻の雷鳴響き渡らん
腸破れ緊急手術 麻酔覚め気がつけば集中治療室
草を抜く跡に顔出し這う蚯蚓 土を耕し土壌を育て
抜く草の抜き難き根の土の中 根と根が絡み迷路のごとし
草を抜くどこまで続くこの根っこ どこまで掘れば根はつきるのか
全品を二割引くよの誘惑に財布の紐が思わず緩む
バーベキュー昼から飲めず酔芙蓉眺めつあおるノンアルコール
入院で煙草が吸えずイライラと 逆手にとって禁煙挑む
大風に勘弁してと頭さげ案山子願うは稲たちの無事
脳内に出血あると淡々と 画像を見つつ医師指し示す
だだだだだ音を響かせコンバイン穀粒吐き出し田を坊主刈り
腹水を抜く管付けたスタンドをガラガラ鳴らし不安押し出す
また今日も歯医者の予約を忘れ去る 脳に棚引く忘却の雲
迫りくる横断歩道の白い線 老いる悲しみ噛みしめ起きる
かわいそう泡立草がアレルゲン 誤解が生みし悲劇ここにも
温暖化気象狂って東京に 今年木枯一号吹かず
病院の窓から見える青き空 鬱々とした心に沁みる
歩むにも転ばぬように下を向き いつしか背中「く」の字を描く
電線を斜めに裂きて消えてゆく 東の空に流星を見る
木枯や懐までも吹き抜ける 暖房けちり部屋着はダウン
焼酎を一杯飲みて二杯目を妻の顔見て手を引っ込める
蚊をつけし蜘蛛の巣払い物置の隅で見つけし卒業写真
頑張って咲けと励ます冬の薔薇 入試に向かう子の背を見送る
音落とす陸橋塞ぐ空に穴 埋めるがごとく流れ行く雲
蜘蛛の巣のごとく広がる白き網 言魂捕らえ忘却を呼ぶ
あの浜に残しし靴は今いずこ 寂しく今も吾を待ちおるや
好事とは心に隙を生みしもの 魔のせいにして言い訳ばかり
走り去る暖気を見つつ二列になって寒ざむと裸体さらす樹々
ぼうぜんと見送る先に回収車 ゴミぶくろ手に立ち去る男
雪深し十メートルと聞きし谷 テントを後にいざ山頂へ
歯は浮きて心は沈むおしゃべりに 潜む魔物の蠢動やまず
春浅し失敗あるさこれからよ 古希といえども一歩前へ
岩肌をなめるがごとく川流れ 険しき道に小雪舞い散る
四月越え蕾を付けし薔薇の花 早や古希なれど吾も夢咲かせん
赤い芽が一つ二つと枝に付き ス・ス・スと迫る春の足音
入歯する後悔してももう遅いアーモンド食べ「痛いー」と外す
年に負け立ち上がるにも「どっこいしょ」思わず声が和式のトイレ
放し飼いアヒル三匹お出迎え 老いし心もほっとするカフェ
波まかせ首埋めて眠る浮寝鳥 吾は電車に揺られぐっすり
右は山左は谷へ分かれ道 決断付かず年だけ重ね
看護師の下に集いし老いし人やっと口開け御飯を食べる
個人なら守るけれども故人は別 矛盾だらけのデジタル社会
ベランダで目を凝らし見る夜の空 流星ちらり寒さ忘れる
騒がしくガァーガァーと 雀たちチュチュと啼き電線逃げる
春浅し失敗あるさこれからよ 古希といえども一歩前へ
薔薇の枝切っても切っても次々と切る枝あらわれ鋏おく夕
腕の中痙攣続ける愛犬をじっと抱き締め頑張ったねと
じゅくじゅくと腸に溜まりし膿どもが腸を破りて暴れ放題
湯たんぽの火傷のあとを見るたびに父の布団の思い出よぎる
腸の中下へ逃げつつキュルキュキュルまだとばかりに後詰次々
苦しげに畳引掻く愛猫の癌断末魔に涙止まらず
トイレ前こぼさぬように半歩前へ男悲しき泌尿器科通い
発車します昔ばたんきゅー今寝落ち夢の世界へ直行便
華やぎは八重にゆずれど一重に実鳥が運びし庭の山吹
白い灯を木々の枝先点しつつ白木蓮の街灯続く
命「令」に素直に殉じ逆らわず「和」して歩めと命名したの
白梅に鶯来ても鳴きもせずただ一心に花を啄ばむ
令和とは深読みすれば恐ろしき意味を内包しているかもね
草の中土筆あちこち顔を出す春だ春だと我も我もと
中国で商標登録されている「令和」と付けし元号いかに
十連休我は年中連休中庭にて草と戯れようか
街頭に春の嵐が吹き荒れる「令和号外」争奪戦に
あぶらむしびっしり付きて茎隠すよほど美味いか烏野豌豆
畳み掛け新元号に新紙幣煽る政治家はしゃぐマスコミ
洗濯物パタリパタリと叩きおり百足飛び出し吾飛び下がる
手震え書く字ぐちゃぐちゃ上手にと思えばさらに字はぐちゃぐちゃに
リタイヤでラッシュは無縁すかすかの列車軽やか気分は重し
パソコンで打つわけいかず投票を震える手で書く 読めますように
駐車場所在無げに妻を待つ 優しいのかな恐妻家なの
また一枚賀状を交わす手間が減るもうこれ以上減るのは待って
ケアフリーワンダー嘘でしょケアせねば黒星病が薔薇の葉散らす
足摺に大波寄せて砕け散る我が身飲み込み連れ去るごとく
紫陽花は額が変種と思いきが手まりが変種思い込み知る
右折車の動きに目凝らしクラクション歯剥き睨むもにっこり笑う
家の隅そっと忍びし蝙蝠に退去促し玄関開ける
お笑いのテレビを見つつ涙する涙腺崩壊故障中なり
止むとやり降ると止めるの繰り返し薔薇の手入れも儘ならぬ梅雨
夏の蝶二匹仲良くふわりふわり葉には気付けば毛虫うようよ
杭一本土地境界を決める杭 打ち間違えし人生の杭
救急車家に近づき止まりをり右も左も老人世帯
下を向き悪態ついて唾飛ばす じっと空見て一歩踏み出す
梅雨寒の震えしことの懐かしさ猛暑襲いて汗ダラダラと
パン選ぶ手がフト止まり値段みる年金暮らしじっと財布みる
呆けたのかくるま間違え開けんとす外見に騙され惑わされ
醜さに毛虫毛虫と嫌われて蝶に変身手のひら返し
開かずの間掃除するぞと決心す行く手を阻むカビアレルギー
日本だけ平和平和と喜びて世界の平和目つぶる吾ら
ゴロゴロと雷の音響きおり慌てふためき野球中断
夕焼けに追われ公園みな帰る一人愚図る子母困り顔
男でも料理簡単味付けの手間のかからぬ汁のもとあり
砲火飛ぶホルムズ海峡 会談の当日狙い仲介むなし
蟋蟀や網戸をはさみにらめっこ秋の夜長を鳴こうともせず
抜かぬともいい歯を抜いて勧めたるインプラントが化けるドイツ車
九月です今年最高各地にてこれで残暑は異常の二文字
報告書つごう悪きはなしとする庶民の暮らし知らぬ人たち
薔薇の葉にぽつんとできる黒き染みあっという間に枯れて落ちる葉
子供たちノート片手にスーパーに勉強なれど遠足気分
住まいしは大きな揺れも襲い来ず空白の地に不安がよぎる
パンダ見てパンダといえる孫一歳と二ヵ月に覚え速そう
突然のざんざん降りにびちょびちょで思わず駆け込む軒下に猫
全身を痒さが襲いボリボリと毒蛾の毛虫眠りを奪う
虫が喰い根本穴空き枝も枯れ片側一枝青々繁る
青になり歩き始めて分離帯点滅始め老婆しゃがみこむ
ギギーググちょっと不気味な音響く風吹き抜ける建築現場
かび臭い土の匂いにうんざりと雨雲見上げ日の光請う
渡り前眠り貪る浮寝鳥 英気を養う昼寝タイム
がぁーがぁーとミキサー回る音響く野菜ジュースで元気復活
久しぶりランチを食べて舌つづみ 暑さ逃れて冷房求め
日本にもエボラ出血熱侵入か杞憂に終わるも警戒続く
ゴムホース暑さに負けて蛇口から抜け落ち外れ散水できず
クリスマス祝いてすぐに初詣お盆は寺と融通無下に
棚経の和尚来るぞと炎天下水飲みまくり励む草刈り
店内でカメラ構えて撮しおりチラシに化けて美味しさアップ
地下街を我が物顔で歩きをり高速道の煽りのごとく
遠雷や眠りの中に住みつきし稲妻落ちて飛び起きる吾
威銃次々響く轟音に胸のつかえも吹き飛び消える
生きるとは死を待つだけの日常が静かに流る老人ホーム
一面を朱に染めあげる曼珠沙華この世の光届けとばかり
(2019年11月9日、日本経済新聞掲載)
悪なすび悪の名がつく悪い奴抜けば抜くほどのさばりやがる
小さくて可愛く咲きし薔薇の花大輪のはずが暑い秋に負け
小さき花も薔薇の魅力を引き出しているかのような真紅の深さ
闘球に日本列島沸きに沸く 台風被災地奈落の底へ
校庭に亡骸を寄せ荼毘に付す六十年前の悪夢がよぎる
養老の滝のごとくに降り注ぐ雨粒の音ど・どっと響く
次々と離陸着陸われ無縁 沖には船が満載の荷を
舌鈍く料理に手をだす能はなし皿を洗いて勘弁願う
ロック飲みたきゃ水入れろ「ないない」と製氷室が泣き声あげる
洗濯ものバッタバッタとはたき干す 「しわがとれぬ」とダメを出す妻
テリトリー雀はチュチュと鳴き声で議員は贈るカニに香典
蜜蜂の喜びつどう石蕗の花冬に備える蜜を見つけて
真っ昼間ギャギーンドボと気分落ちパソコン閉じてエイと逆立
植木鉢蛙が跳びだし心臓もバクバク打ちて飛び出しそうに
ゆっくりとゆっくりと歩こ焦ってもますますダメに なるようになるさ
糸垂らし蜘蛛がゆらゆら 仰け反る吾蛍光灯の紐に怯える
宮に住む狸が庭にひょっこりと神の使いか化かしに来たか
柚子風呂を今年諦めがっくりと手入れさぼった天罰くだる
スマホって分からん判らん解らん翌朝すぐに購入店へ
熱高しインフルエンザ入り込む食事さえも喉を通らず
マイナンバー「持つ持たないは自由でしょ」公務員なら家族も入れ?
突っ張ってエリカさまとか呼ばれても薬に逃げる弱さ顕わに
忘れたと慌てて車引き返す降りたらシートにあ~ぼけさくが
肥溜めにはまりし畑は今はなしビルビルビルの林になりぬ
生きる道積もる枯葉を蹴飛ばして登るがごとく行けぬが定め
蜜蜂が集まり群れる庭になり冬日浴びつつ剪定励む
枯葉舞うフロントガラス張り付きし慌てず騒がず左へ寄せる
鴉鳴くここは我らの縄張りよ雀くるなとガアーガアーと
お賽銭五円でなくて五百円金儲けへと走るか神社
バンパーの前に後ろに傷を負う運転するは老人ばかり
冬なのか山百合さえも咲きだして狂う気候に迫るリミット
気候よしでっかく育ち味もよしでっか過ぎると売れぬ白菜
五輪までいちゃもん付けて得意顔貶せば貶すほど哀れさ募る
米中が5G巡りドンパチを取り残される日本うろちょろ
スーパーで商品パチリ写してる微妙に角度変えチラシ用
元旦の中国からの子の帰任肺炎はやる前の幸運
里帰り夫は帰任妻残り新型肺炎夫婦を別つ
暖冬といくら言おうとぶるぶると震え止めんとラーメンすする
肺炎で入院と聞く香港を経由し帰国心配募る
後手後手に回って遂に死者をだす武漢縛りが招きし悲劇
医師からの感染例に病院もおちおち行けぬ慢性患者 ベルト持つ手にもウイルス付くという持たず踏ん張るエスカレーター
卒業も式をせぬまま済ましをりコロナウイルスどこまで祟る
薔薇の枝冬剪定で切るのなら割箸の太さちょきちょきバサリ
燃え盛る新型コロナ謎多く動物由来疑義が噴出
くどいほど雑音ないか聴診器背中に当てて「ただの風邪です」
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