土木学会100周年 | 土木学会創立100周年宣言

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土木学会創立100周年宣言

土木学会創立100周年宣言
-あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く-
JSCE Centennial Declaration
- Transcending the Boundaries of Civil Engineering to Construct the Foundation for a Sustainable Society -

 

【前文】

 我が国の近代土木技術は、明治初期に御雇外国人の指導を受けたことで産声を上げ、土木学会初代会長の古市公威をはじめとする欧米留学から帰国した者達の先導によって開花期を迎えた。このことを宣言本文の冒頭に記したが、それは本宣言が学会という法人の宣言である前に、個々の人間として原点回帰を志すための宣言であることを強調するためである。今から100年前の1914年に土木学会が創立され、その半世紀後、1964年の東京オリンピック開催に至るまで、我が国の土木は、実に輝かしい実績を積み重ねてきた。黒部ダムの完成、東海道新幹線や名神高速道路の開通等、この時期に完成し今日でも我が国を支える土木事業は少なくない。このような歴史を造り上げた先人たちを土木は誇りとしている。

 

 確かに、その後の半世紀に土木を取り巻く環境は激しく変わった。オリンピック後も高度成長を支え、土木は活況を呈したが、同時期に進行した環境破壊により、創立60周年の土木学会は早くも環境問題に直面した。そして創立80周年の土木学会は、バブル経済崩壊後の様々な経済問題への対処を迫られた。それから既に20年。創立100周年の土木学会は、2011年に発生した東日本大震災を経験し、社会の安全問題に改めて直面している。土木学会は100年の歴史の後半で、安全、環境、経済(活力)、社会(生活)のすべてを揺るがす困難な国家の問題に直面してきた。それでも土木はその克服に努め、今日に至るまで我が国の産業と国民生活を支え、豊かな国土の形成に貢献してきたと自負している。

 

 しかし、近年の土木に対する社会からの評価は芳しくなく、土木学会は前世紀末頃より、幾つかの宣言や規定を社会に向けて発出してきた。そのうち、仙台宣言は国民の批判を受けた社会資本整備について、透明性があり計画的で効率的な整備のあり方を宣言したものであり、公益社団法人への移行にあたっての宣言は学会のあり方を再度見つめ直したものであった。これらに対して、100周年宣言は、改めて過去100年を振り返り、これからの長い未来を展望し、土木が人々と共にあって働く様々な組織や人間として、如何にあるべきかを強調するものである。本宣言はそのような視点から、学会が策定した「社会と土木の100年ビジョン」より、土木の人としてあるべき理念を中心に抜き出し構成したものである。

 

 この100年で我が国の経済や生活は大いに豊かになったが、自然災害や地球環境の問題に留まらず、少子化や人口減少、高齢者の不安やコミュニティの崩壊など、土木を取り巻く社会の課題はむしろ増しており、世界に目を向ければ、未だ貧しい国々が多数残る。土木が最も大切と考えることは、このような幾多の困難にも、責任を持って立ち向かえる人材を育てることにある。未来に亘る課題を人々と共有しつつ、人々の生活を豊かなものにするという、土木の根源的な目標を達成するために全力で貢献すること、そうすることにより何時の時代も若い人々が誇りと感動を得る魅力的な「社会と土木」の関係を構築できる。土木学会はそのように考えている。

 

 

土木学会創立100周年宣言 本文

 

(過去100年に対する理解)

1.我が国の近代土木技術は、明治初期に御雇外国人の指導と欧米留学帰国者の先導で幕を開け、治水、砂防、港湾、鉄道を中心に発展し、それらの社会基盤施設が今日の我が国の産業と国民生活を支え、特に昭和中期以降は、高度な土木技術による高水準の社会基盤施設を全国に広げ、多くの国民がその恩恵を受けてきた。土木はこの100年の歴史を誇りとする。

 

2.土木事業の進展による経済の発展や利便性の向上と同時に、社会では環境問題などが顕在化し、公害問題、特に大気汚染や水質汚濁が生じ、近年は気候変動など地球規模の環境問題が深刻視された。また、東日本大震災に至る度重なる災害が社会の安全確保を喫緊の問題とした。土木は、これらを解決し、経済活動と生活水準を将来に亘って維持することが、現代の社会に課せられた課題と認識する。

 

(今日の土木の置かれた立場)

3.現在の土木は、東日本大震災の津波被害と福島第一原子力発電所事故の惨禍による衝撃を未だ拭い去れない。それでも、社会における重責を理解し、成し遂げた役割と技術の限界とを自覚し、社会における信頼を一層高め、社会に貢献することに、例外なく取り組む覚悟を持つ。

 

(今後目指すべき社会と土木)

4.土木は地球の有限性を鮮明に意識し、人類の重大な岐路における重い責務を自覚し、あらゆる境界をひらき、社会と土木の関係を見直すことで、持続可能な社会の礎を構築することが目指すべき究極の目標と定め、無数にある課題の一つ一つに具体的に取り組み、持続可能な社会の実現に向けて全力を挙げて前進することを宣言する。

 

(持続可能な社会実現に向け土木が取り組む方向性)

5.(安全) 社会基盤システムの計画的な利活用と人々の生活上の工夫で、自然災害等の被害を減らし、安全な都市・社会の構築に貢献するとともに、社会基盤システムの安全保障を継続的に強化して、社会基盤施設が原因の事故で犠牲者を出さないことにあらゆる境界をひらき取り組む。

 

6.(環境) 自然を尊重し、生物多様性の保全と循環型社会の構築、炭素中立社会の実現を早めることに貢献するとともに、社会基盤システムに起因する環境問題を解消し、新たな環境の創造にあらゆる境界をひらき取り組む。

 

7.(活力) 社会基盤システムの利活用によって交流・交易を促進し、我が国が世界経済の発展に継続的に役割を果たすことに貢献するとともに、土木から新しい産業を創造して社会に役立てることにあらゆる境界をひらき取り組む。

 

8.(生活) 百年単位で近代化を回顧し、先人が培ってきた地域の風土、文化、伝統を継承し、我が国やアジア固有の価値を十分踏まえた風格ある都市や地域の再興と発展に貢献するとともに、地域の個性が発揮され各世代が生きがいを持てる社会の礎を構築することにあらゆる境界をひらき取り組む。

 

(目標とする社会の実現化方策)

9.土木は目標とする社会の実現のため、総合性を発揮しつつ、「社会と土木の100年ビジョン」に明記された社会安全、環境、交通、エネルギー、水供給・水処理、景観、情報、食糧、国土利用・保全、まちづくり、国際、技術者教育、制度の各分野の短期的施策、特に国や地域における政策、計画、事業等の速やかな実行を先導し、長期的施策の実現に向けた取り組みを継続する。

 

(土木技術者の役割)

10.土木技術者は、社会の安全と発展のため、技術の限界を人々と共有しつつ、幅広い分野連携のもとに総合的見地から公共の諸課題を解決し社会貢献を果たすとともに、持続可能な社会の礎を築くため、未来への想像力を一層高め、そのことの大切さを多くの人々に伝え広げる責任を全うする。

 

(土木学会の役割)

11.土木学会は、社会に多様な価値が存在することを理解しつつ社会の価値選択に関心を持ち、技術者や専門家が尊重され、様々な人々が協働して活躍する将来の持続可能な社会の実現に向けて、学術・技術の発展、多様な人材の育成、社会の制度設計に継続的に取り組む。

 

【後文】

 本宣言は、土木学会の創立100周年にあたり、東日本大震災を経験した我が国の土木のこれからの役割と責任とを根本的に問い直すため、あらゆる境界をひらき、社会と土木の関係を見直すことで、現代の土木の置かれた立場からどのように踏み出すかを改めて示したものである。土木学会は本宣言の趣旨を踏まえ、すべての会員、委員会の総力を結集し、地球、人類、社会への貢献に全力を挙げて取り組むことを誓う。

 

 ○ 土木学会創立100周年宣言および解説 (PDF/765KB)
 ○ 社会と土木の100年ビジョン-あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く-