インタビュー:東電新支援策で国民負担増は不可避=冨山和彦氏
[東京 28日 ロイター] -ダイエー<8263.T>やカネボウなどの再建を産業再生機構(2007年解散)でCOO(最高執行責任者)として手掛けた冨山和彦氏は、ロイターのインタビューで、東京電力<9501.T>に対する新しい支援策を導入することにより、税金や電気料金を通じた国民負担の増加は不可避との認識を示した。
同氏は「(現状が)東電の財政力、組織力に負荷を掛けるモデルになっているが、それが限界に来ている」と指摘した。
冨山氏は、福島第1原発事故の対応費用の出所として、1)税金=国民、2)料金=東電管内の利用者、3)東電自身と株主・債権者などステークホルダー─の三者に分類。「三者でどう負担していくのかを決めることが問題の根本だ」と述べた。国民の納得を得るためにも、「客観的なデータを持ち寄って正直な議論をして、負担の選択肢を示した上で国民の選択に委ねるべき」と強調した。
冨山氏は現在、コンサルティング会社の経営共創基盤CEO(最高経営責任者)を務める。「企業再建のプロ」として知られ、日本航空<9201.T>の再建計画策定に参加した。経営関連などの著書も多い。
インタビューの主なやり取りは次の通り。
──(電力システム改革議論に参加した)伊藤元重・東大教授との2年前の対談で、東電の全体像が2、3年後に見えたら、処理策についてもう一度見直せばよいと指摘していた。今はその時期にあたる。
「現状のスキームは緊急避難のもので、どこかで本格的なスキームに移行することが必要だ。最終的にはカネがいる。出所は、1)税金(全国民の負担)、2)電気料金(東電管内の利用者の負担)、3)東電・株主・債権者などステークホルダー、この3つしかない。全体でどれくらいの負担であって、三者でどう負担していくのかが、根本的な決めごとになる」
──自民党の有力議員からは福島第1の分社化や廃炉庁などの意見が出ている。破綻処理を主張する識者もいる。
「破綻処理スキームを使うとか使わないとか、『グッド東電、バッド東電』の分離、廃炉庁を作るなどの主張は、(負担を)実行するためのテクニック論だ。どんなやり方をしても国民負担がゼロになることはない。破綻処理で溜飲を下げるといったような、情緒論を持ち出すのも危険。国民、利用者、東電・ステークホルダーの三者でどう分担するのかが、本質的な議論だ」
──東電から福島第1を切り離し、国内全ての原子力発電によるキャッシュフローで福島の事故対応の費用を賄うべきと主張する専門家もいる。電気料金は多少は上がるかもしれないが、税金は不要だという。
「(原発を再稼働させれば)東電にキャッシュ創出力が増える。それにより東電・ステークホルダーの負担が増える。それだけのことだ。税金と料金値上げを減らした方が美しいのだろうが、東電だけで全てが解決するという幻想は持たないほうがいい。現行スキームは東電の財政力、組織力で頑張ってもらうという建前だが、限界に来ている」
「米スリーマイル島原発事故では(1979年の事故発生から)3年後に分担を決めた。当時、ペンシルベニア州知事が主導して、州政府、連邦政府、電力会社自身と地域住民つまり料金で、それぞれ分担した。民主主義に基づいて決めた」
──そうした議論を始めないといけないということか。
「そうだ。旧国鉄の場合も、清算事業団に持っていった債務を実質的には税金で落とした。当時の議論も、国鉄が経営改革すれば、国鉄自身のキャッシュフローで借金を返せるという欺瞞(ぎまん)で引っ張っていたが、中曽根(康弘元首相)さんのところで、『返せないものは返せない』としてある種の破綻処理をやって、返せないものは国民に負担してもらうと、正直にやった。その政治的処方をみんな(今の政治家が)嫌がっている」
──東電の処理策と並行して原子力に関する議論が避けて通れないはずだ。
「その議論は必要だ。原子力政策の議論は、(東電処理と)ちょっと次元が変わってしまうが関係性はある。原発がどれだけ動くかによって、東電が生み出せるキャッシュの幅が変わる。(放射性廃棄物の)処分場などより大きな社会的コストの問題は別だが、東電としては(原発稼働で)より大きなキャッシュフローを生み出すことが出来るので、そこは可変要因だ」
「ただ、原子力を動かすことで税金(の負担)がゼロになるような議論をすべきではないし、逆に東電を破綻させることによって税金が不要だという議論も同様だ。客観的データを持ち寄って正直な議論を国民に対して行って選択肢を提示し、どれを選ぶのがいいのか。日本は国民主権だから、税金を使う議論は最後は国民が決めることだ」(インタビュアー:浜田健太郎、インタビューは23日に実施しました)
浜田 健太郎 編集;田巻 一彦
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