続・童話の宝石箱

続・童話の宝石箱について

童話の宝石箱」の続編です。この続編は、主人公が少年少女に設定されている童話集です。
箱から飛び出したような元気で明るい子供たちが繰り広げるファンタジックで愉快な内容ですので、お楽しみくださいますように。粗雑な執筆ではありますが、最後まで読み通されますように、と願っております。

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子供さんから大人の方々まで、幅広くお読みいただけるような童話です。童心に返るひと時をお過ごしください。親子で一緒にお読みくだされば、また、読後の語り合いも出来るかも知れません。

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童話「雨の日の画家 タッちゃん」

記憶を一日しか保てないタッちゃんですが、いつでもどこでも明るく楽しく日々を送ります。辛抱強いお母さんのお陰で、やがて絵心が芽生えてきて、それが特技となります。そして、大人になったタッちゃんの職業は?なんと・・・。

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雨の日の画家 タッちゃん

童話の宝石箱の画家

何でも、
その日の内に忘れることの出来る
小学生のタッちゃんの生活は、
とても楽しい毎日です。
だって学校のテストで10点を取っても、
いじめられても次の日は忘れられるのですから。
先生やお母さんに叱られても、その日限り・・
だから毎日幸せなのです。

学校の帰り道、
昨日みつけて感動した白いマーガレット畑を
今日も眺めて、初めてのように喜びます。
そして一本・・お母さんのためにお家へ持ち帰ります。
マーガレットが枯れるまで
毎日続くのです。
タッちゃんのお母さんは毎日続く
マーガレットの白いプレゼント攻めは嬉しいのですが、
花瓶に飾るのが大変です。

でもお母さんにとってそんなタッちゃんだから、
とても助かることもあるのです。
お父さんがお仕事で留守の時、
1週間続けてカレーライスの夕食でも
タッちゃんは毎回喜んで食べてくれるのです。
「今日はカレーだ!やった~!」
となるのですから。
タッちゃんは昨日の食事を忘れることが出来るので
幸せなのです。

そして今朝は雨、
庭のアジサイの蕾が喜んでいます。
お母さんには心配の雨の時期です。
今日もタッちゃんは青い長靴を履き、
黄色い傘をさして元気に学校へ行きます。
通り道に水溜りがあって、
うっかり足を滑らせ泥んこの中に転びました。
すぐお家に戻りました。
するとお母さんがちゃんと玄関で着替えを揃えて
待っています。
タッちゃんは小学校へ通い始めてから二年間、
毎年この雨の季節になると泥んこになって
一度はお家に帰るのでした。

お母さんが梅雨の時期にタッちゃんを心配するのは
三年目です。
泥んこになって戻ってくるタッちゃんを待つのです。
「アジサイの花を見てたら・・滑っちゃったんだ!」
雨の日のタッちゃんのセリフです。
「学校から帰ったら今日のうちに絵日記に
しておこうね」
お母さんです。
お母さんは幾度も
「危なかった事はタッちゃんの頭の中に入れておいてね」
と頼んだのですが、
「頭の箱の中が一杯になっちゃったので
隙間がないんだよ・・」
タッちゃんは両手で頭を抑えて答えるのです。
それで次の日になって忘れ、泥んこが繰り返されるので
昨年からその日の内に絵日記に記すことにしたのです。

タッちゃんは絵日記を開いて、
かわいい四角を何個もまとめて描きました。
『アジサイの花』の出来上がりです。
「あっ!そうだ」とアジサイの下のほうに
『水溜り』も描きます。
そしてアジサイの咲く門の前の道に
「水溜りがあるぞー!」と、
下の欄にしっかり書きます。

雨の朝、起きたらお母さんに声がけして貰い、
タッちゃんは昨日描いた自分の絵日記を
大きな声で読んでから学校へ行きます。
これが雨の日のタッちゃんの
大切な儀式(ぎしき)なのです。
何でも忘れるタッちゃんにとって
身の守りになるからです。

今日も雨、
元気なタッちゃんは絵日記を大声で読んで
学校へ出発です。
「行ってきます」
元気に出かけます。

アジサイの花咲く家の門のところにきました。
「水タマリ・・水タマリ・・」
タッちゃんはつぶやきながら用心するつもりでした。
でも、
アジサイの葉っぱの上にカタツムリの親子がチョコン!
といるではありませんか。
「あっ!カタツムリだ~!」
喜んだらズルッ!
足が滑って泥んこです。
すぐお家へ帰ります。
着替えが済んで出発する前にお母さんが言います
「今日の内にカタツムリも絵日記に書こうね。」

何でも忘れる明日になる前の今夜、
寝る前にタッちゃんは『アジサイの花』を
描いた絵日記に、今度は『葉っぱ』をくっつけて
その上に細長い楕円形と渦巻きを乗せたものを、
大きいのと小さいのと二つ描き足しました。
カタツムリの親子の完成です。

そして、2日後の雨の朝、
学校へ行きますが雨ガエルを眺めているうちに泥んこに
なって戻ってきました。
絵日記には
アジサイの枝に抱きついた楕円形に
マッチ棒の手足がついて『雨ガエル』が
描き足されました。

翌日の雨の日は水溜りの上に
花火の形をしたアメンボウがいて泥んこになりました。
絵日記には花火のような細い線で出来た
『アメンボウ』が描き足されました。

こうして雨の日のタッちゃんは
「お絵描きさん」なのです。
タッちゃんの絵日記は学校で金賞を貰い、
その絵はパリ帰りの画家さんの目に留まりました。

月日は流れ・・やがて10年が過ぎました。
タッちゃんは今どうしてるでしょうか?
有能な若手の画家として世界の注目を浴びています
いつも変わらない新鮮な筆使いが高く評価されました。
お弟子さんまでついているのです。

でも、昨日を忘れる事の出来るタッちゃんは、
毎朝・・自分が画家なのだ!
と、新たに分るので「万年新人画家」なのです。
初めての気持ちで絵筆を持ってわくわくと
キャンパスに向います。
だから毎日がとても幸せなのです。
特に雨の日は。