2018年12月 : 22インチのフットボール

22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2018年12月

サンティアゴ・ソラーリ監督が準決勝とまったく同じベストの11人を送り込んだレアルは、フレンドリーマッチでプレーしているがごとく無理の少ない堅実なサッカーで優勝を手繰り寄せました。そういう意味では決してスリリングだったと言えるようなファイナルではありませんでした。

前半13分、マルセロのバックパスが致命的なミスとなり、前方が開けた状態でボールを拾ったアル・アインのフセイン・エル・シャハトが先制するかと思われた場面。ティボー・クルトワが前に出てがら空きのゴールのカバーに入った選手のうち、セルヒオ・ラモスが防いだことによって、試合の流れはレアルに傾きました。ここでアル・アインがリードできていれば、レアルもヨーロッパ王者の意地とプライドをかけ、強度を上げて戦わざるを得なかったでしょう。

現実は、ほどなくしてルカ・モドリッチが鮮やかなシュートを決めて先制。リードを奪ったエル・ブランコは以降の3得点を流れの中からではなく、いずれもセットプレーを起点にしてゴールを重ねました。

2点目はコーナーキックからの競り合いでこぼれたセカンドボールに反応したマルコス・ジョレンテのハーフバウンドのボレー、3点目はモドリッチのコーナーにセルヒオ・ラモスが高い打点で合わせたヘッド。最後は自陣からのフリーキックをスペースで受けたビニシウスのクロスがヤヒア・ナデルのオウンゴールを誘いました。

合計13本と果敢にシュートを放ったレアルのスター、ガレス・ベイルと1トップのカリム・ベンゼマの両名に得点はありませんでしたが、トニ・クロースのコーナーキックに直接合わせたモドリッチの一撃も防いだハリド・エイサのファインセーブがなければ、さほど貪欲ではなかったレアルがさらにリードを広げられたかもしれません。

ファイナリストとして恐れることなく勇敢さをもって挑んだアル・アインは、若干レアルの緩い動きに合わせてしまった部分があり、3点ビハインドを背負った後半41分、カイオのフリーキックに対してニアサイドにフリーで走り込んだ塩谷司の1点どまりとなりました。

レアルはこれで大会三連覇を達成。危機的状況のチームを引き受けたソラーリ監督は無事に初タイトルを獲得しました。


スコアは0対4、ボール支配率は鹿島が39%でリーベルが61%、枠内シュート数は鹿島の3に対してリーベルは4倍の12。数字上の差は大きく開きはしましたが、鹿島の90分を通したピッチ上全体での出来は決して悪いものではありませんでした。

ディフェンスリーダーの昌子源が負傷のため控えにまわり、クォン・スンテも試合中に足を痛めて前半23分にピッチを去る苦しい展開ながら、レオ・シルバが犬飼智也のフォローをしつつ前にも出ていくなど、選手たちは最後まであきらめずに戦い抜きました。

攻撃面では惜しいプレーがありました。前半、安部裕葵がペナルティエリアで仕掛けたあとのこぼれ球を安西幸輝が狙ったシュート、終盤の土居聖真のシュート、そして絶好の位置で永木亮太が打ったフリーキック。いずれもクロスバーを叩いた惜しいフィニッシュでした。

さらにそれ以外にも鹿島にチャンスはありましたが、ヘルマン・ルクスとハビエル・ピノラを中心としたリーベル守備陣の魂のこもったプレーに幾度となく阻まれてしまいます。

この試合で悔やまれる点があるとすれば、クォン・スンテの退いたタイミングです。正式に交代するよりも前からすでに負傷のためプレー続行が難しい状況だったので、コーナーキックを与える前にプレーを切るか、相手に止めさせてスローインかゴールキックで再開できたなら、油断とも言うべき前半24分の最初の失点はなかったかもしれません。

勝負強さが強みのアジア王者は嫌な形で試合の流れをリーベルに渡してしまい、その後も得点を奪うことができませんでした。

一方、大会直前に大陸の頂点に立った南米王者は、残り20分少々となったところでピッチに入ったゴンサロ・マルティネスが試合を決定づける働きを見せます。

入って4分後の後半28分に点差を広げる2点目のゴールを奪い、後半48分には西大伍と対峙しながら予想しづらいタイミングで曽ヶ端準をあざわらうかのようなループを決めてみせました。

諸々振り返ると最後は個のタレントの差が出てしまったと言えるかもしれません。鹿島にとっては連敗で終わった今シーズンとなりましたが、決め切る力を磨いた先にさらなる成長が待っているはずです。


今シーズンのチーム事情から少なくともこの試合が絶対に落とせない状況にあるからか、あるいはアル・アインが決勝進出したことでアジア勢との2連戦となったことを考慮したのか、サンティアゴ・ソラーリ監督は準決勝の段階からベストメンバーをピッチに送り込みました。

クラブワールドカップでヨーロッパ勢が準決勝を戦うときには、比較的選手を温存して決勝に余力を残す選択をするケースが多い中でのこの決断は、レアルにとっては吉と出ました。

ただ、ソラーリ監督の意図に反してなのかはわかりませんが、選手たちはギアを上げずに戦いを始めます。その隙をついて前半2分にセルジーニョがきわどいシュートを放ってティボー・クルトワを襲い、直後の遠藤康のコーナーキックは昌子源が触れば1点というチャンスになりました。

これを継続して先制したい鹿島でしたが、手ごたえを感じていた様子だったもののクロスやシュートの精度を欠いたために決定機をつくれず、先発起用した安部裕葵を生かすことができないまま時間が経過しました。

前半44分、ここまでのレアルの中で唯一機能していたマルセロとガレス・ベイルのラインから欧州王者がゴールを奪います。悪くないムードだっただけに鹿島としては嫌な時間帯での失点となりました。

後半、大岩剛監督は打って出るために内田篤人を投入し、西大伍を天皇杯準決勝と同じくボランチに配します。

流れが完全にレアルに傾いたのは、山本脩斗がルーカス・バスケスを倒してイエローカードをもらって以降でした。山本を追い込むべく鹿島の左サイドを狙い続けたレアルの術中にはまり、山本のバックパスが乱れ、チョン・スンヒョンの選択もミスとなり、ベイルに追加点を許してしまったのです。こうしたミスを逃さないあたりは、昨シーズンのUEFAチャンピオンズリーグのファイナルを想起させます。

ミスによる失点、そして2点をはね返すことの難しさを感じてナーバスになった鹿島を前に、ディフェンディングチャンピオンはここで一時的に全体のギアを上げます。後半11分、とどめとなる3点目を奪いに鹿島陣内に一気に人数をかけ、最後はベイルがハットトリック達成となるゴールを決めました。

こうなると余裕の出てきたレアルと落ち込んでいる鹿島の差は歴然としたものになります。ソラーリ監督はベイルとルーカス・バスケスを休ませ、マルコ・アセンシオとイスコを投入。アセンシオが筋肉系のトラブルで退くという誤算はあったものの、試合を終わらせる采配をしました。

鹿島はレオ・シルバの絶妙な浮き球のパスを遠藤が頭で落とし、土居聖真が粘って1点を返しはしたものの反撃もここまで。レアルとの再戦は痛い結果となり、リーベル・プレートとの3位決定戦にまわることとなりました。

前半はグアダラハラ、後半は鹿島と、ゲームを始めるキックオフをしたチームが主導権を握る試合となりました。

グアダラハラはキックオフ直後のボールをドリブルで前に持ち運び、戦闘態勢で一気に仕留める姿勢を見せます。そしてその勢いのまま前半3分、昌子源が飛び出していったスペースを埋めようとしたチョン・スンヒョンが判断を迷っている間にイサーク・ブリスエラにクロスを入れられ、内田篤人の頭上を越えたボールをアンヘル・サルディバルに合わされてしまいました。

45分で試合を決めようとした北中米カリブ海王者は、一人一人が目の前にいる相手を確実につぶすべく、激しいプレッシャーで鹿島に隙を与えません。鹿島は普段のペースを取り戻せず、相手ペナルティエリアに攻め込むこともままならない状態で圧倒され、決定機をつくられます。しかし、クォン・スンテの好セーブとクロスバーに救われました。

最少失点で凌いでハーフタイムで修正が施された鹿島は、エンドが変わるとまずは自分たちのリズムを取り戻すべく、最終ラインにボールを下げてゆっくりとビルドアップを行いました。一方のグアダラハラは前半ほどの強度では来ません。

後半4分、クォン・スンテの低い弾道のロングフィードから同点に追い付きます。ボールを受けたセルジーニョから土居聖真にボールがわたり、土居はエリア内で2人を引きつけフリーで上がってきた永木亮太にラストパス。永木は落ち着いて合わせてゴールネットを揺らします。

偶然の産物ではなくきっちりとした形で試合を振り出しに戻せたことで、試合は鹿島の方に傾きました。後半24分には土居がマイケル・ぺレスのファウルを受けて得たPKをセルジーニョがインサイドキックで決めて逆転に成功。さらに後半39分には後半から出てきた安部裕葵と安西幸輝の2人で崩し、最後は安部が巻いたシュートを叩き込んで優位に立ちます。

後半アディショナルタイム、VARによるPKの判定からアラン・プリードの得点を許しはしましたが、残り時間はほとんどなく、最後のコーナーキックを凌いで鹿島が勝利を収めました。

終わってみれば落ち着きのある戦いぶりでアジア王者の強さを見せつけました。これで次の準決勝はレアル・マドリーとの2年ぶりの対戦となりました。クリスティアーノ・ロナウドを失い、いまひとつ調子の上がらないエル・ブランコを今度は下し切ることができるでしょうか。


事実上の決勝ともいえる鹿島アントラーズとの準決勝を制した浦和は、完封勝ちで危なげなく仙台を退けて見事に優勝を果たしました。

初めてのタイトルを目指す仙台はキックオフと同時に多くの選手が前に出ていき、大きな展開でゲームを進め、ひとたび守備にまわると泥臭くボールを狩りました。しかしその時間は長くは続きません。

前半13分、コーナーキックを担当する柏木陽介はマウリシオ不在もあってか、準決勝で成功したファーサイドへのキックではなくショートコーナーを選択。長澤和輝が入れたクロスは野津田岳人に弾き返されますが、野津田はクリアというにはあまりにも小さく前方に出してしまいます。それを宇賀神友弥に狙われ、豪快なシュートを叩き込まれました。背番号3には石原直樹が寄せていましたが防ぎ切れません。

リードしてからは事実上ほぼ浦和のペースで時計が進みます。鹿島戦の先制後同様に前からの圧力をやや強めるようになり、自陣では阿部勇樹、槙野智章をはじめとした経験豊かな選手たちが中央を強固にしてかまえます。局面打開のため何度か左サイドから中野嘉大がドリブルをしかけますが、ラストパスは完璧に浦和の守備陣が阻止しました。

仙台にとってはペナルティボックスへの侵入が非常に難しく、手詰まりになってはボールを下げるシーンがたびたび見られました。前半のアディショナルタイムでは浦和に奪われてからのカウンターを必要以上に警戒したのか、ミドルゾーンで弱気なボール回しをしてしまいました。

後半になるとロングボールの処理を誤って宇賀神に追加点を許しかねないピンチを招いた平岡康裕が、委縮してしまって浦和に数回狙われました。ただ、幸いにも失点にはつながらずに済みます。

難を逃れて1点を追いかける仙台はゴール付近でのフリーキックのチャンスが何度かあったものの、エリア内での決定的なシュートは90分を通じても一度しかありませんでした。椎橋慧也が絶妙な浮き球を入れて、それを前線に顔を出した野津田が懸命に頭で合わせたシュートです。このときのボールは無情にもゴールの枠を外れていきます。

後半40分ごろからは浦和は相手陣内の深いところで無理に攻めない戦い方を選び、5分のアディショナルタイムを難なく凌いでウノゼロで締めくくりました。

ホームの環境で戦うことができ、熱狂的なサポーターの後押しも得た浦和は、シーズン途中に就任したオズワルド・オリヴェイラ監督のもとタイトルを獲得。来シーズンは2年ぶりにアジアの頂点を狙う戦いに臨むことになりました。


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