バレンタイン小説第一弾。
谷地さんがかわいいので幸せにしたいのですが、BL小説のサイトなので(そうなの?)幸せにしてあげられません。
そして、今回は山口に片思いです。報われないです……ぐすん。
やっちゃんが山口にこっそり片思いしているのを、ツッキーが気付いている、という構図です。
やっちゃん視点です。
谷地→山口×月島
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ハートの気持ち
チョコレートの包みは4つ。半透明のワックスペーパーみたいな袋に詰められた、型抜きの生チョコレートにココアパウダーをまぶしたものだ。四角と丸に抜かれたものが数個、そこに、ひとつずつ、別の形が紛れ込んでいる。
日向には太陽みたいな花形。影山くんには星形。月島くんには名前にちなんだ月の形。
そして、最後のひとつには、ハート形。これは、山口くんの分。
4つの包みには、間違えないようにひとつずつ名前の書かれたシールがついていた。
部活終わりの帰り道、私はそれを、同級生の彼らに渡した。
「うわ、やった。ありがと谷地さん!」
日向が満面の笑みを見せ、その包みを受け取り、軽やかにジャンプしかねない勢いで歩き出す。影山くんにも短くお礼を言われた。じっと包みを見つめていたから、迷惑だったかな、なんて思っていたら、後ろから日向が影山くんの背中に飛びついて、
「あはは、影山、めちゃくちゃ喜んでる!」
一見しただけでは分からなかったが、嬉しいときにはつい怖い顔になるんだ、と日向に言われ、ほっと胸をなでおろした。
「おいしくなかったらごめんなさいっ」
続いて月島くんにもそれを差し出したら、いつもの冷めたような目をして私をしばらく見降ろしていたけれど、隣の山口くんににっこりと笑顔を向けられて、ひょいと肩をすくめて受け取ってくれた。
「どうも」
「手作り、嫌だったら捨ててもいいですからっ」
「そんなことしないよ。もったいないでしょ」
包みをひょいと持ち上げ、月島くんが言った。
「別に、谷地さんの作ったものに、変なのが入ってるなんて、思わないし」
「あああありがとう月島くんー」
「お礼を言うの、こっちだと思うけど」
呆れたように溜め息をつかれてしまった。
私は月島くんの隣の山口くんにも、同じ包みを差し出した。
「山口くん、バレンタインおめでとう」
「ありがとう、谷地さん」
いつもの優しい笑顔を浮かべて、山口くんがそれを受け取る。
「おめでとうって、意味分からない」
月島くんの言葉に、私はでへへと笑った。
「確かに、おめでとうはおかしいねえ」
「そうかな? うん、でも、すごく嬉しいよ。ありがとう」
二回もお礼を言われてしまい、私は恐縮する。
「い、いえ、私みたいな人間の作ったチョコレートなんかを受け取ってくれて本当にありがとうございます」
「そ、そんなこと言ったら、谷地さんがせっかく作ったチョコを、俺なんかがもらっちゃってごめん」
「山口くんみたいな優しくて素敵な人に気軽に渡しちゃってごめんなさい」
「谷地さんみたいなかわいい子から義理とはいえ、手作りなんて本当に申し訳なく──」
山口くんと交互にぺこぺこと頭を下げていたら、こつん、とその頭のてっぺんを小突かれた。
「何を馬鹿なことを言い合ってるの」
月島くんが呆れたように私たちを見下ろしていた。
「うわ、ひまわり? これ、かわいいね」
日向が包みを開けて、すでにチョコを食べ始めていた。影山くんもごそごそと取り出し、丸と四角の中から星形を見つけ出して、おおー、と声を上げた。
「──月島くんのは、月の形だよ」
「それはどうも」
てくてくと歩きながら、少し先を行く月島くんが答える。
「じゃあ、俺のは? 開けてもいい?」
山口くんが包みを開けようとしたのを、私は思わず止めそうになった。この場で開けられたら、山口くんにハート形を入れたことがみんなにもばれてしまう。けれど、どうして止めるのかと言われたら、うまい言い訳が思いつかない。困ってしまい、ぐっと奥歯をかみしめた。
「──山口、食べ歩きなんて行儀悪い」
月島くんの言葉が、山口くんの手を止めた。
「そっか。そうだね、ツッキー」
「そっちの二人は、行儀だの礼儀だの、多分知らないんだろうけどね」
そんな嫌味も、二人には届いていないようだった。日向と影山くんは、欠食児童みたいにチョコをむさぼり食べながら歩いている。
「家に帰ったら、大事に食べるね」
山口くんがにこりと笑って、私はこくりとうなずいた。そっと月島くんを見たら、一瞬だけ目が合った。目をそらしたのは月島くんの方からで、その視線で、私は月島くんに助けられたのだと分かった。
山口くんには、人前でその包みを開けてほしくない、という私の気持ちに、気付いてくれたのだろう。
忍ばせたハート形には、ちゃんと意味があった。
みんなと同じ包み、同じ量のチョコ。
本当は特別なものを用意したかったけれど、それができなかった私の、なけなしの勇気が、その小さなハート形だった。
「ツッキー、あとで家に行っていい?」
「別にいいけど」
「すごくおいしいチョコ、買ってきたんだ。一緒に食べようよ」
月島くんに話しかける山口くんの背中を見つめながら、私はそっと、胸を押さえた。
小さなハート形のチョコレートは、私の気持ちそのものだった。
淡く芽生えた、山口くんへの恋心が詰まっている。
月島くんは左手に大きな紙袋をぶら下げていた。今日一日で、学校の女子生徒から渡されたチョコレートが沢山入っていた。袋はもうひとつ、それは山口くんの手にあった。
月島くんに渡して! とクラスメイトに押し付けられたチョコレートを持って、昼休みに彼のクラスに行った。
山口くんが教室の入り口で女子生徒にチョコレートをもらっていた。すれ違おうとしたら目が合ってしまい、しまった、と思った次の瞬間山口くんは笑顔で私を呼んだ。
モテるね、と言ったら、頼まれたんだよ、と言われた。
朝からずっと、山口くんは月島くんにチョコレートを渡してほしいとお願いされているらしい。
「見てよ、ツッキーの不機嫌そうな顔」
おかしそうに笑いながら教室の、自分の席に座った月島くんを指さすと、眉間にしわを寄せ、怒ったような表情の彼が、頬杖をついている。
「もう、直接相手するの嫌だって、あんな調子」
「モテるんだねえ、月島くん」
「ツッキーは、かっこいいからね」
すねるでも、嫌味でもなくそう言った山口くんの声はどこか誇らしげにも聞こえた。
「あー、じゃあ、これも、怒られちゃうかなあ」
「谷地さんから?」
「ううん、クラスの子に頼まれたの。同じ部なんだし、お願いって」
「そっか。じゃあ、一緒に渡しに行こう」
山口くんは私の腕をつかんで一緒に教室に入った。教室の一番後ろの席の月島くんの元へたどり着くと、いつもの調子でツッキー、と呼びかける。
「これ、頼まれたよ」
「──いらない」
「そんなこと言わないで。市販のだって言ってたから」
「…………」
月島くんはじろりと私の方に視線を向けた。
「谷地さんが、どうしてここにいるの?」
さっと、ほんの一瞬、月島くんが私の腕をつかんだ山口くんの手を見たのに、私は気付いた。私は慌ててその手を外す。
「あ、あのね、クラスの友達に、月島くんに渡してって頼まれちゃって」
「──そういうの、迷惑」
「ででで、でも、受け取ってくれるだけでいいからって」
「いらない」
「でもでも」
「ツッキー」
私があたふたしていると、山口くんがたしなめるように言った。
「谷地さんを責めちゃ駄目でしょ。──受け取ってあげなよ」
月島くんは不機嫌そうなまま溜め息をついた。
机の横には大きな紙袋。そこはもういっぱいだった。
「袋、もうひとつもらってきたからね」
山口くんが新しい袋を開いて、たった今受け取ったチョコレートを入れた。私も頼まれたチョコをそこに収める。
「──山口」
「何、ツッキー」
「お前がもらった分も、そこに入れたら? カバンに入りきらないでしょ」
えっと思って山口くんを見上げると、驚いたようにぶんぶん首を振って、
「違うよ、多分みんな義理だよ!」
山口くんの席をよく見たら、机の横にひっかけたカバンが膨らんでいて、机の中にもピンクや赤の包みがちらほらと見えている。
「いいから入れれば。──帰り、そっち、山口が持ってよ」
「……うん、ツッキー」
山口くんが諦めたように苦笑した。開いたばかりの袋を持って、自分の席に向かい、チョコレートをそこに移し始めた。確かに、月島くんにはかなわないけれど、片手では全然足りないくらいのチョコレートが詰まっていた。
「──山口はね」
月島くんの声に、私ははっと振り返る。
「自覚ないだけで、モテるよ。山口のことをよく知ってる人なら、分かると思うけどね」
私は、目を見開いて月島くんを見つめた。
「──どうして、そんなこと、私に?」
「別に」
月島くんは、すっと視線を外し、また頬杖をついた。
私はきゅっと唇を噛み締め、教室を出ようとした。
「谷地さん」
再び、声をかけられた。
「山口は僕のものだけど──渡すだけなら、責めたりしないよ」
その言葉が、痛いほど辛かった。
月島くんは、私の気持ちを、知っていたのだ。
私はそのまま教室を出て、自分のクラスへ戻った。待っていたクラスメイトが、受け取ってくれた? と期待に目を輝かせて訊ねてきて、私は小さくうなずいた。
そして、放課後。
部活終わり、5人で連れ立って歩いている。
日向と影山くんはチョコレート食べ終えてしまい、何かバレーの話をしていた。
「谷地さん」
山口くんの声に、私は足を止めた。少し先で、月島くんと二人、立ち止まって振り返っていた。
「また明日ね。気を付けてね」
そう言われて、駅へ向かうための分かれ道まで来ていたことに気付いた。山口くんたちは駅とは違う方向に帰っていくのだ。月島くんが私の後ろを歩いている二人に声をかけた。
「そこの馬鹿二人、ちゃんと送っていきなよ」
「分かってるよ、うるせーな」
「心配すんな、任せろ!」
冬の間は、雪道が危ないので自転車通学を休んでいる影山くんと日向が、順番にそう言って請け負ってくれた。
「チョコレート、ありがとう。ばいばい」
山口くんが手を振る。私も同じように手を振った。
──ねえ、月島くん。
山口くんより先に、月島くんが踵を返し、歩き出した。その背中を追うように、山口くんも続いた。
──このくらいは、許してね。
渡すだけなら責めたりしない、という月島くんの気持ちに、甘えてしまった。
丸と四角に抜いたチョコレート。その中にひとつだけ紛れ込ませたハート形。
二人の関係を知っている私の、必死の勇気を、許してね。
ツッキー、と山口くんの声が聞こえた。二人は笑顔で何か楽しそうに話していた。遠くなっていくその背中を、私は見つめる。
「谷地さん、帰ろ」
日向に呼びかけられたけれど、私はうなずくことができなかった。
去っていく二人の手にぶら下がった紙袋。そこに詰まった沢山のチョコレート。
私の思いの詰まった小さなハート形は、きっと、気付かれずに溶けてしまうのだろう。
「──谷地さん?」
胸がきゅんと痛くなって、私は急に、泣きたくなった。
日向が不安そうに私の顔を覗き込み、影山くんが慌てた様子で、どうした、と声をかけてくれる。
私は両手で顔を覆って、何でもない、と小さくつぶやくのが精一杯だった。
了
本当にごめん、やっちゃん……。
泣くがいい。泣くがいいよ。
山口とツッキーは、付き合っているような、いないような、微妙なラインですが、双方好きだということは自覚してます。
やっちゃんは、そんな二人の思いに気付いているので、実は二人が両思いだと分かってます。
ツッキー的にはいつでも受け入れ態勢整ってますけど、山口が「ツッキーかわいいなー、かっこいいなー。好きだなー」って感じで満足してるので、なかなか付き合うまでいかないという(笑)
ツッキーは、山口から言ってくれるの待ってます。ちなみに。
一緒にしちゃったチョコは、二人で食べるので、混ざっていても問題ありません。
山口は、沢山チョコをもらったツッキーを「すごいなー。やっぱりかっこいいもんなー」って感じで見ているので、嫉妬しません。だって、結局俺と一緒にバレンタインを過ごしてくれてるもんね、って思ってる。
ツッキーは、結構モテてる山口がもらったチョコばかりを集中的に食べてしまうくらい、嫉妬します。
「ツッキー、それ、俺がもらったやつだよ」って言いながらも、にこにこ許しちゃうんだろうな、山口は。
……だから、さっさと付き合っちゃえよ!
このもだもだ感が何とも好きです(笑)