4本目。
「温泉に行こう。01」、「温泉に行こう。02」、「温泉に行こう。03」(クリックしてね)を読んでからお読みになってください。
ごめん、もう、クロが好き。
だから、ちょっとだけ、ヒイキしました。
本当なら、3人同じレベルで並べておこうかな、と思っていたんですが。
ほんのちょびっとだけね。ちょびーっと(笑)
黒尾→月島
黒尾視点。
眠れないツッキー。
クリック→二次創作目次(tns/krbs/HQ/弱ペダ/その他)
温泉に行こう。04 ~third turn. case Kuroo~
夕食を終えて、寝る前にもう一度温泉に入って部屋に戻ると、布団が敷かれていた。5つの布団は、まるで合宿みたいに並んでいた。頭を中心に、2つ並びと、3つ並び。
ツッキーは山口と2人で、2つ並んだ布団を選んだ。俺たち3人は、その反対側、木兎を真ん中に、俺と赤葦が左右を挟む格好だ。
2度目の大浴場で、木兎は倒れこそはしなかったが、暑い! と叫んで露天の大きな岩の上にふらふらになった身体を投げ出していた。全裸で大の字。──男らしすぎる。赤葦がそっとその股間にタオルを乗せ、何事もなかったかのように再び温泉に浸かった。
──敷かれた布団にダイブしたのはもちろん木兎だった。
「俺、もう、寝る」
と、言うのが早いか、木兎は布団にさっきと同様大の字になって、すでにぐおーと眠っていた。
「早」
その場にいた全員が、思わず突っ込む。
「本当に自由な人ですね」
ツッキーがそう言って小さく溜め息をついた。
「それが短所で、長所だから」
赤葦が木兎の下から掛け布団を引っこ抜いて、きちんとかけてやる。……本当に母親みたいだな、と俺は思った。手のかかる子供の世話は、大変そうだ。
「普通、みんなで旅行のときって、布団に入ってお喋りしたりしますよね」
山口も、大口を開けて寝ている木兎を見下ろしながら言った。
「木兎さんは野生児のような人ですから、日が昇ると目を覚まし、日が落ちると眠るんです」
真顔の赤葦の言葉は、冗談なのか本気なのか分からない。
「俺たちも寝ますか?」
「まだ早いよなあ」
時計はまだ、21時を過ぎたばかりだ。だからと言って、別段やることもない。俺たちは布団にもぐり込み、修学旅行よろしく、眠るまで話をすることにした。
「定番だと、ここで好きな子の名前を告白し合ったりしますけど──どうします?」
赤葦の問いかけは、俺に向いているのだと分かった。どうせ、分かり切っていることだから、いまさら聞くまでもないということは、お互いよく知っている。
「──それは、いいんじゃねーの?」
「そうですね」
まあ、ツッキーの好きな子というのには興味がある。けれど、それを問うたところで素直に教えてくれるとは思えない。だから諦めることにした。
「そういえばさあ」
俺は枕を抱え込むようにしてうつぶせになり、頭上に並んだ布団に問いかけた。
「子供の頃のツッキーって、どんな感じだったの?」
山口はそうですねえ、とつぶやいてから、
「今と同じですよ。昔から、かっこいいです」
「山口」
ツッキーがたしなめるように声を上げる。けれど山口がそれにひるむ様子はない。
「いつもまっすぐ自分を持っていて、周りに左右されたりしなくて、本当にかっこいいんです」
「ふうん」
「昔は、ずっとツッキーみたいになりたかったんですよ、俺」
「今は違うの?」
「今も憧れてはいますけど──ツッキーになりたいってわけじゃないです」
ツッキー聞こえないふりをしているのか、布団に包まって山口に背を向けている。
「できたら、俺は、俺自身として、ツッキーと肩を並べて歩けるようになりたいです」
「──そんなの」
ツッキーが、ぽつりとつぶやく。
「もう、なってるでしょ」
「……ツッキー?」
「山口は、いつまでも卑屈すぎ」
「うん、ごめんね、ツッキー」
確かに、山口は成長したのだろう。初めて会った時はどこか頼りなく、いつでもツッキーのあとをついていくだけの印象だった。けれど、会うたびにその表情は引き締まり、初めの頃に感じていた頼りなさは、いつしか消え去っている。
幼馴染みというのは、不思議だ。子供の頃からしょっちゅう一緒にいて、大概のことは分かっているつもりでいる。弱いところも、情けないところも知っているからこそ、その成長に驚くことも多い。
第一、お互いに認め合っていなければ、こんなに長い間一緒にいることなどない。
俺にも研磨という幼馴染みがいるから、それはよく分かっていた。
んがっ、と木兎が寝返りを打つ。ごろんと俺の方に転がってきたので、その身体を押し返す。今度は赤葦の方まで転がって行った。赤葦も、黙って押し返す。
そのあとは、他愛ない話をしていた。電気の消えた部屋に横になって、まずは赤葦が、そして山口が眠りに落ちた。俺もうとうとと天井を見つめながら揺らいでいた。
さっきから、もう、ツッキーも黙ったままでいる。先に眠った3人の寝息は聞こえるが、ツッキーの布団からはそれらしきものは聞こえない。
話しかけて確認すればいいだけのことだが、もし眠っていたら起こしてしまうかもしれないと考え、気が引けた。
温泉にでも行きたい、と言い出したのは木兎だった。世の中が受験真っ最中の2月の始めである。俺も木兎も進路が決まっていたのでのんびりしたものだが、世の受験生が聞いたらぎろりとにらみを利かされそうな言葉である。
ファストフード店でハンバーガーをかじりながらそんな話をしていたら、どんどんその気になってきた。俺たち2人は時々顔を合わせてはだらだらと時間をつぶしていたが、一度こうと決めてからは早かった。
温泉をダシにしてツッキーに会いに行けるかもしれない、と考えて、東北の方へ行こうかと提案してみた。木兎は簡単に乗ってきた。そして、木兎経由で話が伝わり、赤葦も話に混ざってきた。多分、俺へのけん制もあったのだろうと踏んでいる。
行先は仙台。それは、ものすごいスピードで決定された。
さりげないツッキーへのリサーチで、烏野の練習が休みの日を狙った。赤葦は、自主休練。──と、いうより、木兎に代わり主将となった赤葦が、自分のチームの休みをそこに合わせた。完全なる職権乱用。
──頭の上で、ごそりと動く気配がした。布団から起き上がったらしいツッキーが、襖をあけて部屋を出て行った。俺のぼんやりしていた頭がはっきりと覚醒した。
木兎はまだごろごろと左右に転がっている。俺は身体を起こし、木兎を押し返してから、羽織を引っ掛けた。
部屋を出ると、暗い隣の部屋の窓際に、ツッキーがいた。
「──黒尾さん?」
「眠れないの?」
「苦手なんです、人と一緒」
「じゃあ、合宿は大変だ」
「そうですね。いつも寝不足です」
俺も窓際に近付いた。障子を開けたガラスの向こう、星空が広がっていた。ツッキーの隣に立つと、俺はそれを見上げた。
「さっきの、シリウス、まだ見える?」
「はい。少し西に移動してますね」
ツッキーが指さす方向に、ひときわ明るい星が見えた。思っていたよりも低い位置に、それはあった。
「東京でも、同じように見えるのかな」
「多分。高さもちょっと違うし、仙台よりは、移動も遅いと思いますけど──」
「ああ、経度のせいか」
「はい」
しばらく、2人並んで星を見ていた。
「──ねえ、ツッキー」
「何ですか」
「迷惑だった? いきなり来ちゃって」
「──そう、ですね」
俺は苦笑した。
「でもさ、会いたかったんだ」
「僕に、ですか?」
「そう、ツッキーに」
ツッキーはきょとんとして首をひねる。薄暗い部屋でも、目が慣れていたのでその表情は見て取れた。
「顔、見たくって」
「僕なんかの顔を見ても、つまらないですよ」
「そんなことないよ」
俺はそう言ってツッキーに向き直る。
「会いたかったよ、ずっと」
「──何だか」
ツッキーは多分、照れているんだろうな、と思った。少し不機嫌そうな顔を作り、俺をにらむように見た。
「黒尾さんじゃないみたいです」
その目線で、髪のことを言われているのだと分かった。確かに、入浴した俺の髪は落ち、いつもの髪型を成していない。チームメイトにすらお前は誰だと突っ込まれるほど、印象が変わってしまうらしい。
「イケメンすぎて?」
どうせ、馬鹿じゃないの、などといつもの調子で吐き捨てられるのだろうな、と思いながら、そんな軽口をたたいてみた。けれど、返ってきたのは意外な反応だった。
「──そうです、ね」
視線をそらし、目を伏せたその仕草に、暗くてよく分からないが、頬を赤らめているのだろうと想像できてしまった。
「うわ、ツッキー」
だから俺も、そんな態度にどうしていいか分からず、赤面した。
「やばい。キた」
「──はい?」
「今のは、予想してなかった」
俺の理性はギリギリだ。
ずっと会いたいと思っていた相手が俺を褒め、あまつさえ目の前で恥ずかしそうにしているのだから、仕方がない。
「あー、手出すつもりなんてなかったんだけど」
「は、はい?」
「顔見れたらそれでいいって思ってたんだけど」
俺はぐしゃぐしゃと頭をかきむしった。
「今のは、ツッキーのせいだから」
「な、何が、ですか?」
俺は両手を伸ばして、目の前のツッキーを抱き締めた。ツッキーは一瞬驚いたように身体を固くしたが、暴れようとして持ち上げたらしい腕を、それ以上振り回したりはしなかった。
「ああああの、黒尾さん?」
「何、ツッキー」
「どういうことですか、何なんですか、どうなってるんですか、これ」
「うん、ごめん」
「ごめんじゃなくて、いいい意味が分かりません」
わたわたと焦っているツッキーを抱き締めたまま、俺ははは、と笑った。
「そうだよな。──分からないよな」
俺の──俺たちの気持ちなんて全く気付かずに、ツッキーは迷惑そうに俺たちの相手をしている。呆れたように、うんざりしたように。そのたびになんとか笑ってもらおうと必死になる。
俺は少しだけ身体を引いて、ツッキーを見つめた。
「ツッキー」
「は、はい」
「少しは、考えて」
「は、はい?」
「明日になったら、また離れちゃうけど──そしたらさ、たまにでいいから、考えて」
「何を、ですか?」
「うん──」
俺はにこりと笑って、再びツッキーを抱き締め、その耳元でささやいた。
「ツッキーのことを好きな、俺のことを」
「────」
腕をほどくと、茫然としたような顔をしたツッキーがいた。
「そろそろ寝ようか、ツッキー」
窓際に立ち尽くしたツッキーは、返事をしなかった。驚いた顔をしたままで、俺を見ていた。
混乱しているのは容易に見て取れた。けれど、いまさらその言葉を撤回するつもりはなかった。赤葦や木兎を出し抜く格好になってしまったが、仕方ない。
ツッキーが、ゆっくりと口を開きかけた。けれど、言葉は発せない。
多分、どう答えていいのか分からないのだろう、と思った。
──明日、俺たちが東京へ帰っても。
ツッキーは、俺を思い出してくれるだろうか。俺のことを、考えてくれるだろうか。
俺はもう一度笑いかけてみた。
ツッキーの後ろに、シリウスがきらりと光っていた。
了
なんだかんだで、クロ月派な私は(葦月も山月も、その他月も大好きなんですけど、基本はやっぱり!)少しでもクロを優位にすべく……(笑)
健全ですねえ。
ツッキーがこのままぐるぐるして眠れないといいな。
ぐるぐる。
次でラスト。
05は山口。エピローグ。